著者
保木 邦仁
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.884-889, 2006-08-15

5月に行われたコンピュータ将棋選手権において,拙作の Bonanza が接戦のリーグ戦をすり抜け,幸運に助けられながらも優勝することができた.Bonanza の思考アルゴリズムは,チェスで広く用いられている全幅探索の手法に基づく.将棋においても,全幅探索が有効な手法の一つになり得ることが示された.本原稿では,このプログラムの仕組みを,探索アルゴリズムの概要と,特に将棋ドメインにおける futility pruning の応用に的を絞り,解説する.Futility pruning を行うことによるプログラムの棋力上昇が,次の一手問題の正答率に基づいて示された.
著者
森勢 将雅
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2022-MUS-134, no.6, pp.1-6, 2022-06-10

現在の音声合成研究者が論文に Vocoder と記載するとき,その多くは Deep neural network (DNN) を用いて何らかのパラメータから高品質な音声波形を生成する Neural vocoder を指すのではないだろうか.もしそうであれば,音声符号化という役割ではなく,高品質な音声を合成したいという高品質 Vocoder が持つ『黄金の精神』が,Neural vocoder 世代に受け継がれたことを意味する.本稿では,恐らく今後失われていくであろう伝統的な Vocoder の波形生成部のアルゴリズム,および一連の知識がまだ音声研究において役立つかという将来展望について紹介する.

1 0 0 0 OA 「きっと」考

著者
山西 正子
雑誌
目白大学人文学研究 = Mejiro journal of humanities (ISSN:13495186)
巻号頁・発行日
vol.(6), pp.127-140, 2010
著者
セリック ケナン 麻生 玲子 中澤 光平
出版者
言語記述研究会
雑誌
言語記述論集 = JOURNAL OF KIJUTSUKEN(Descriptive Linguistics Study Group) (ISSN:2432244X)
巻号頁・発行日
no.13, pp.139-177, 2021-04-30

本稿では、明治期の八重山語(石垣島方言)の語彙資料の手書き原稿の翻刻を提示する。『海南諸島單語篇』(副題『沖縄懸下八重山島單語』)と題する本資料は植物学者の田代安定が1880年代に実施した実地調査に基づいて作成したもので、現在、東京大学理学図書館で保管されている。この資料は収録語数が800語を超えており、また、表記が八重山語の重要な音韻的対立を反映している。このように、八重山語の纏まった正確な語彙資料として最古のものであると考えられる。このため、八重山語の研究および研究史にとって極めて重要な価値がある。
著者
柴田 昌児
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.149, pp.197-231, 2009-03-31

西部瀬戸内の松山平野で展開した弥生社会の復元に向けて,本稿では弥生集落の動態を検討したうえでその様相と特質を抽出する。そして密集型大規模拠点集落である文京遺跡や首長居館を擁する樽味四反地遺跡を中心とした久米遺跡群の形成過程を検討することで,松山平野における弥生社会の集団関係,そして古墳時代社会に移ろう首長層の動態について検討する。まず人間が社会生活を営む空間そのものを表している概念として「集落」をとらえたうえで,その一部である弥生時代遺跡を抽出した。そして河川・扇状地などの地形的完結性のなかで遺跡が分布する一定の範囲を「遺跡群」と呼称する。松山平野では8個の遺跡群を設定することができる。弥生集落は,まず前期前葉に海岸部に出現し,前期末から中期前葉にかけて遺跡数が増加,一部に環壕を伴う集落が現れる。そして中期後葉になると全ての遺跡群で集落の展開が認められ,道後城北遺跡群では文京遺跡が出現する。機能分節した居住空間構成を実現した文京遺跡は,出自の異なる集団が共存することで成立した密集型大規模拠点集落である。そして集落内に居住した首長層は,北部九州を主とした西方社会との交渉を実現させ,威信財や生産財を獲得し,集落内部で金属器やガラス製品生産などを行い,そして平形銅剣を中心とした共同体祭祀を共有することで東方の瀬戸内社会との交流・交渉を実現させたと考えられる。後期に入ると文京遺跡は突如,解体し,集団は再編成され,後期後半には独立した首長居館を擁する久米遺跡群が新たに階層分化を遂げた突出した地域共同体として台頭する。こうした解体・再編成された後期弥生社会の弥生集落は,久米遺跡群に代表されるいくつかの地域共同体である「紐帯領域」を生成し,松山平野における特定首長を頂点とした地域社会の基盤を形づくり,古墳時代前半期の首長墓形成に関わる地域集団の単位を形成したのである。
著者
高岡 素子 京藤 智子 Motoko TAKAOKA Satoko KYODO
雑誌
女性学評論 = Women's Studies Forum
巻号頁・発行日
no.35, pp.21-37, 2021-03-20

月経前に現れる心身の不調は月経前症候群(premenstrual syndrome:以下PMS)と呼ばれている。PMS の特徴は月経前の黄体期後期に感情的症状や身体的症状の変化が出現し、月経開始とともにそれらの症状が減退、消失することである。PMS が重度の場合、生活の質を著しく低下させ、本人だけではなく彼女らの家族や仕事などの生活環境にも影響を及ぼすため社会的にも大きな問題であると考えられている。PMS の原因は過剰なエストロゲン、黄体ホルモンの欠乏またはエストロゲンと黄体ホルモンの比率の変化の関与が示唆されているが、PMSと性ホルモン濃度との関係については未だ解明されていない。よって本研究では、健常な女子大学生を対象にアンケートによりPMS 症状の程度を測定し、対象者の唾液から性ホルモンおよびストレス誘導ホルモンを解析し、PMS の程度と各種ホルモンとの関係について調べた。その結果、PMS 症状の強群は弱群と比較し、性周期を通して性ホルモンが高い値で推移し、とりわけ排卵期のテストステロンは強群で有意に高い値を示した。またストレス誘導ホルモンについては排卵期および黄体期で高い傾向を示した。これらのホルモンの動態が PMS 症状を重症化させる要因であると考えられた。
著者
寺尾 健太郎 川勝 真喜
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2022-MUS-134, no.40, pp.1-4, 2022-06-10

高周波音が豊富に含まれる音源がヒトにポジティブな影響を与えるハイパーソニック・エフェクトの発現する機構を調べるために,耳元以外に到達する高周波音の音圧レベルを変化させた場合の生理的影響を脳波 (α波) の測定から検討した.また,可聴音を知覚できない状態で音源を呈示した際の生理的影響を脳波 (α波) の増加の有無によって検討した.その結果,耳元の音圧レベルは変えずに耳元以外の音圧レベルを変化させることでα波パワーに違いが有意に見られた.また,ノイズキャンセリングイヤホンと音のマスキング効果を用いて,音を知覚できない状態で実験を行ったところ,α波パワーの増加が見られた.
著者
笠谷 和比古
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.73-88, 1995-06-30

本稿は、拙著『士(サムライ)の思想』において論述した日本型組織の源流と、同組織の機能特性をめぐる諸問題について、平山朝治氏から提示された再批判に対する再度の応答である。今回の論争の争点は、一、日本型組織を分析、研究するに際しての方法論上の問題。ここでは平山氏の解釈学的方法に対して実証主義歴史学の立場から、学の認識における「客観性」の性格を論じている。二、イエなる社会単位の発生の経緯とその組織的成長の特質をめぐる問題。ここではイエの擬制的拡大という、本来のイエの組織的成長の意味内容が争点をなしている。三、拙著で論述した近世の大名家(藩)なる組織と、イエモト型組織との組織原理をめぐる問題。ここでは西山松之助氏のイエモト観が取り上げられ、家元が流派の全体に対して絶大な権威をもって臨むイエモト型組織と、藩主が組織の末端の足軽・小者にいたるまで直接的支配を行う大名家(藩)の組織との、組織原理上の移動をめぐる問題が論じられる。そして付論として、日本の在地領主制と西欧の封建領主制との比較検討、特に日本の家と西欧の「全く家」との異同をめぐるやや専門的な問題を取り上げている。