- 著者
-
石川 由美
- 出版者
- 田園調布学園大学
- 雑誌
- 田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
- 巻号頁・発行日
- no.14, pp.125-143, 2020-03
1987 年に介護福祉士国家資格が創設されて30 年以上経過した今日,介護福祉現場は深刻な人材不足と,従事者の専門職としての質が問われている状況にある。本稿は,介護福祉士資格創設時の経緯と,関係者による専門性に関わる議論を振り返り,今日まで続く状況の引き金となった問題について整理・考察を行った。当時の実践現場の関係者からは,寮母の資質についての問題意識,専門職としての社会的地位の向上,老人保健施設創設に関わる危機感などから資格制度を望む声が聞かれていた。厚生省は、高まる介護需要に対するマンパワー不足を補うため,シルバーサービスを容認し,それを規制するために資格制度創設を推し進めた。社会福祉関係団体は,長年の悲願であった社会福祉専門職資格の創設に向けて,政府とともに「資格制度創設ありき」で動いた。さらに,隣接職種である家政婦団体と日本看護協会から,介護福祉士資格制度創設についての猛然とした反対があったことや,それにまつわる関係者の軋轢などが,介護福祉の専門性の明確化を阻んだ。その結果、介護福祉の専門性についての十分な議論や立証は置き去りにされ,資格創設当初の躓きは今日まで繋がり,介護実践の関係者が望んだ資格制度とは異なるものとなった。