著者
吉本 尚
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.943-945, 2013-11-15

はじめに アルコール問題に対する対応をプライマリ・ケア医が行うことで,問題の早期発見が可能となる.これは,アルコール依存症(以下,依存症)の予防や早期回復のみならず,アルコールに関連する身体的・心理的・社会的問題を減らす意味でも,医療者・医療機関の疲弊の軽減,医療費の増大を軽減させるという視点からも,非常に重要な取り組みである. 近年,特に依存症になる以前の,「危険な飲酒」の段階から介入を行うことが効果的と言われており,各国で対策が進められている.本稿ではアルコール問題のスクリーニング,介入,適切な紹介・連携を効果的に行う枠組みであるSBIRT(Screening, Brief Intervention, Referral to Treatment,略称:エスバート)に関して述べる.
著者
鯉沼 広治 冨樫 一智 小西 文雄 岡田 真樹 永井 秀雄 斉藤 建 柴崎 淳
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.356-360, 2004-03-25

要旨 患者は51歳,男性.便潜血反応陽性.大腸内視鏡検査にて,S状結腸に深い陥凹を有する約10mmのIIa+IIc型病変が認められた.拡大観察では,陥凹面はIIILおよびIIIs型pitで占められ,生検部位でVI pitが認められた.粘膜内病変と判断し内視鏡的粘膜切除を施行した.病理学的には高度異型腺腫を伴う高分化型腺癌で,陥凹部で粘膜下層側へ深く侵入する像が認められた.腫瘍腺管は粘膜筋板を押し下げるように発育し,先進部においても部分的に粘膜筋板が認められた.先進部周囲の間質は粘膜内のものと同様であり,desmoplastic reactionを伴っていなかった.以上より,本病変はinverted growthにより深い陥凹を示したが,本質的にはそのほとんどが粘膜内の病変と考えられた.
著者
屋形 稔
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1108-1110, 1980-07-10

アンドロジェンの分泌・調節 血中のアンドロジェンには,主として副腎皮質から分泌されるアンドロステロン(An),デハイドロエピアンドロステロン(DHEA),DHEA sulfate(S),エチオコラノロン(Et)などと,睾丸から産生されるテストステロン(TS)が存在する.前者はコルチゾールと同様に,ACTHの調節をうけるが,フィードバック機構図(本誌16巻10号)に示したようにネガティブフィードバック作用はなく,いわゆるopen loopの形をとっている.この生合成は副腎網状層で行われ,図1のごとくプレグネノロンから17-OHプレグネノロン,DHEAを経てアンドロステンジオン(A-dione)にいたる経路であるが,量的にもかなりの量で,副腎産生TSも含めて女性の主要アンドロジェンの分泌源となる. TSはLHによって生成維持されるもので,LHはLeidig細胞でc-AMPの生成増大,蛋白合成増加をきたし,これが刺激となってTSを産生すると考えられる,TSはまたLH,FSHの分泌を抑制するネガティブフィードバック作用を有し,末梢組織でデハイドロテストステロン(DHT)という強い抑制力をもつ活性型に転換される(本誌17巻1号).
著者
岩田 健太郎
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.249-253, 2021-03-01

反ワクチンの歴史はワクチンの歴史とほぼ同じ長さだけある。ワクチンは衛生的理由から,宗教的理由から,政治的理由から,あるいは科学的見解の誤解釈から非難されてきた。しかし,科学的な検証と理性的な対応によってそういうムーブメントはその都度克服され,反ワクチン主義(anti-vaxxers)はマイナーなアウトライアーなままであった。この世界的な趨勢に合致しないのが日本である。日本では反ワクチン主義がなぜかメジャーなメディアに伝播し,そして政治家,官僚にまで影響し,国の政策にそのまま反映されてしまう。科学や理性よりも情緒や空気や皆の納得が優先される同調圧力が強い国の独特な現象だ。なぜ,このようなエートスが生じたのか。そしてどうすればそれを克服できるのか,本稿で論じてみたい。
著者
小黒 一正 川原 丈貴
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.805-810, 2020-11-01

人口構造の変化や高額薬剤の登場などが医療財政に大きな影響を与えると想定される.環境の変化に応じて規制や制度は修正すべきだが,守るべき価値のあるものを見誤ってはならない.経済学の視点から,今後の医療制度改革を探る.
著者
神前 あい
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.72-74, 2020-10-30

治療法の概要 甲状腺眼症は,甲状腺自己抗体による自己免疫性炎症性疾患で,外眼筋,涙腺,脂肪織に炎症性の腫大が起こる。そのために,複視,眼瞼腫脹,眼球突出などの眼症状が出現する。主に甲状腺機能亢進症のBasedow病に併発するが,甲状腺機能が正常のBasedow病(euthyroid Graves' disease)や橋本病でも甲状腺自己抗体が陽性であれば,眼症状が出現することがある。Basedow病などの甲状腺疾患の発症前後3か月〜1年以内に眼症状が発症することが多いが,アイソトープ治療後や甲状腺全摘出後であっても自己抗体が上昇する症例では眼症状が出現する可能性があり,眼科での精査加療が必要になる。眼症状が軽症の場合は経過観察となるが,中等症以上の眼症状が出現した場合は,基礎疾患の治療と並行して,眼症状の治療が必要になる。 球後に炎症のある活動期の治療としてステロイドパルス治療があり,投与方法としてはソル・メドロール® 500mg×3日を3クール投与するdaily法と,週に1回500mg×6回+250mg×6回投与するweekly法が行われている。甲状腺自己抗体のうち,甲状腺刺激抗体(TSAb)が最も眼症状と相関するので1),TSAbの推移に留意しながら経過をみる必要がある。球後病変の精査はMRIにて行うことが望ましい(図1)。T1強調画像による外眼筋肥大や脂肪織の腫大と併せて,脂肪抑制のT2強調画像を撮影することで外眼筋の炎症を評価できるため,活動期や治療効果の判定が容易となる。
著者
諸橋 勇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.835-843, 2015-09-15

はじめに 近年,理学療法士が行っている研究はまだ課題はあるにしても,統計学的な手法を用いて質,量ともに以前より向上していることは誰もが認めるところである.国内外の理学療法専門誌には症例報告の投稿欄も設けられ,そしてケーススタディの特集が企画され,その重要性は認められているといえる. しかし,学術大会や研究論文のなかで症例報告,症例研究の割合はまだ少なく,あまり積極的に行われているとはいい難い.例えば臨床のなかで困難な症例や稀少な症例を担当すると,場合によってはそれらの症例と類似した過去の症例報告の文献を検索することがあるが,検索目的に合致した症例がみつからないことが少なくない. また,患者の理学療法プログラム作成時には基本的に「患者の個別性」を重視し,その患者に合った個別的プログラムを作成することが理想とされている.しかし,理学療法士が言葉で「重要視している」といっているほど,現場では個別性を考慮したアプローチが行われてきているだろうか. また,「患者の経過は順調です」という言葉をよく聞くが,この順調とは何と比較して,どのような根拠で判断しているのだろうか. 本稿では,ケースレポート,そしてシングルケースデザインを中心に臨床の理学療法の現状も踏まえて,症例研究のあり方を概説し,症例研究に取り組むにあたり,はじめの一歩が踏み出せるような具体的な方法を呈示したい.
著者
猪狩 龍佑 伊関 憲 阿部 さち 東海林 正邦 佐藤 恵 下村 慶子 林田 昌子 杉浦 明日美 岩下 義明 緑川 新一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.273-277, 2010-03-01

はじめに マムシ咬傷では,重症化した場合に眼瞼下垂や眼球運動障害などの眼症状をきたす1,2)。今回われわれは,受傷後早期から眼瞼下垂および眼球運動障害を合併したマムシ咬傷の1例を経験したので報告する。
著者
佐藤 由貴子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.696-699, 2007-08-25

はじめに 清潔の援助には生理的・精神的・社会的意義があり,身体を清潔に保ち身だしなみを整えることは,人の基本的ニーズの一つである。 私は看護学実習において,統合失調症慢性期患者のAさんを受け持った。精神症状が強く無為状態で,自発的に清潔行動がとれないため,不潔な状態でいることが多く,気にしている様子もみられなかった。そこで清潔援助を行い,清潔でいることの心地よさを知ることで,快の感情に働きかけ,健康時の清潔レベルに少しでも回復するように図った。 最初は無表情だったAさんが言葉を発し,笑顔を見せるようになり,介助により自発的な清潔行動をとるようになった。無為状態の患者に対しての清潔援助には,清潔観念や快の感覚を呼び覚ます心理的な意義があることを学んだ。ここにその学びを報告する。事例から得たすべての情報は,個人が特定できないように配慮した。
著者
鈴木 秀鷹 江川 悟史
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.763-775, 2019-12-01

[要点]●てんかん重積状態はできるかぎり早く停止させる。●第1段階治療薬はベンゾジアゼピン系薬物を使用する。●第2段階治療薬はホスフェニトイン以外にも,近年,レベチラセタムの有用性が報告されている。●発作の臨床徴候が改善しない場合や意識が改善しない場合は,持続脳波モニタリングを検討する。●発作の停止もさることながら,迅速な原因精査が重要である。
著者
藤関 能婦子 小泉 屹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1358-1361, 1981-08-15

21歳と32歳の男子,眼痛を訴えた2症例で,涙腺排出管切開にて,数個の結石様物質を認めた。結石は0.5×0.5×1.0mmから,1.5×1.5×3.5mmにわたり,円形からカシューナッツ形を示し,黄白色の,比較的柔かい白墨様外観を呈する物質であった。真菌や細菌の菌塊は認められず結晶成分も析出されず,H-E染色にて均一に染まる無構造物質であった。
著者
岸本歩 宮地修平 西村真美 中村友美
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.857-861, 2019-03-01

吃逆(しゃっくり)は横隔膜の不随意のけいれん性収縮によって生じ,吸気が閉鎖している声門を急激に通過するために特有の音が発生する。通常反復して発生するが,一過性のことが多い。しかし長時間持続し,食物摂取困難,不眠,精神的疲労をきたすこともあるため,その治療法を十分に知っておく必要があると言われている。薬物治療においては,クロルプロマジンを除き適応外使用であるため,エビデンスに乏しい。独立行政法人国立病院機構姫路医療センターでは,吃逆の治療薬として院内製剤の柿蔕(シテイ)の煎じ薬が使用されている。我々は薬剤師として,とりわけがん化学療法中の患者に使われる事例を多く経験したので,それらの事例解析をとおして,柿蔕の位置づけを考察した。
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.286, 2005-03-10

大正4年に発表された『硝子戸の中』には,若い頃の漱石に「不思議の国のアリス症候群」を思わせる症状があったことをうかがわせる記述がある. 『硝子戸の中』の38で,漱石は自らの思春期を振り返って,「その頃の私は昼寝をすると,よく変なものに襲われがちであった」として,次のような不思議な体験を語っている.「私の親指が見る間に大きくなって,いつまで経っても留まらなかったり,或いは仰向けに眺めている天井が段々上から下りてきて,私の胸をおさえつけたり,又は眼を開いて普段と変わらない周囲を現に見ているのに,身体だけが睡魔の虜となって,いくらもがいても,手足を動かす事が出来なかったり,後で考えてさえ,夢だか正気だか訳の分からない場合が多かった」.
著者
高橋 剛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.52-54, 2008-04-05

1 診療の概要 亀頭包皮炎は,亀頭の包皮内板・外板に挟まれたスペースに起こる限局性の感染症である。このスペースには幼児期に恥垢がよく貯まるので,それが原因と思われがちであるが,これは誤りである。恥垢は閉鎖スペースに皮膚が脱落して発生するものであって,外部からの感染は防護されている状態といえる。恥垢そのものは表皮角化の脱落によるケラチン質の集塊であって,これ自体が感染の基になることはない(図1)。ときには恥垢が小豆大になって外から透見できることがあり,小児科医から脂肪腫の疑いとして紹介されてくることもある。年長になるに従って包皮外板と内板の癒着が取れてスペースが外界と通じるようになると,雑菌の繁殖を許すようになる。また排尿後に尿が流入して尿中成分が沈着するようにもなる。 このようなときにバルーニングがあると(図2),増悪因子とされて小児科医から包茎手術の要請をしばしば受けるが,後述するように重大に取る必要はない。また包皮を無理にめくったりすると内外板の癒着が外力によってはがされ,発赤,浮腫をきたし感染を受けやすくなる。いずれにしても外界と接するような状態になったとき,包皮内外の衛生状態が悪く清潔が保たれなかったり抵抗力が弱まっていると,容易に炎症の母地となり菌が繁殖し,包皮,亀頭のびらんをきたし,膿を排出するようになる。このとき恥垢は液状化し,膿の一部となって排出される。炎症が強い場合は陰茎全体が赤く腫れ,ソーセージ様になることもあるが,これはあくまでも反応性の皮膚発赤であって病巣は先端部のみである。
著者
山本 晃士
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1158-1159, 2020-11-01

術中の出血量増加時には凝固障害の程度を評価するため,一般的にプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)検査が行われる。しかしPT,APTT値は,必ずしも患者の凝固能を反映しているとはいえない。そもそもPT,APTT検査は,凝固障害の原因がどこにあるか(内因系凝固経路か外因系凝固経路か両方か)を知るために有用な質的検査であり,定量的な意味合いで用いられるのは,ワルファリンやヘパリン投与時の効果判定および投与量の調節の際くらいである。端的にいえば,「PT,APTT値30%」がすなわち「凝固因子量30%」ということではなく,いったいどの程度の凝固能が維持されているのか,PT,APTT値から見当をつけることは難しい1,2)。治療に際しても,「新鮮凍結血漿(FFP)をどのくらい投与すればどの程度PT,APTT値がよくなるか」がわからないのである3)。つまりPT,APTT値には,「治療による達成目標値を決められない」という致命的な欠点がある。また,PT,APTT検査は凝固反応(=トロンビン生成反応)の初期相のわずか5%程度の良し悪しを反映する検査であり4),トータルとしての凝固能を表す指標とはなり得ない。そして最も重要なのは,高度な低フィブリノゲン血症(<100mg/dL)に陥ってもPT,APTT値はそれほど延長せず,大量出血をまねく危機的状況を察知できないことである(表1)。したがって,FFP投与のトリガー値をPT,APTT値とするのは不適切であると言える5,6)。 最近,ベッドサイドで全血を用いて迅速に検査できる「point-of-care(POC)テスト」が注目されている7)。中でもさまざまな観点から血液粘弾性を評価できるトロンボエラストメトリーrotation thromboelastometry(ROTEM)およびトロンボエラストグラフィthromboelastography(TEG)の有用性が期待されている。しかし,大量出血の主要因となる凝固障害の本態は「高度な低フィブリノゲン血症」であることがわかってきており8),リアルタイムに評価すべきなのは患者の血中フィブリノゲン値である。そして「高度な低フィブリノゲン血症」の改善のためには,乾燥人フィブリノゲンもしくはクリオプレシピテートなどの濃縮フィブリノゲン製剤の投与が必須である9,10)。こう考えると,術中大量出血時にPOCテストを使っていち早く知るべきはフィブリノゲン濃度であり,そのためには血液凝固分析装置Fib Careなど,フィブリノゲンに特化した検査機器で十分である。なぜなら,フィブリノゲン値から他の凝固因子の低下度もおよそ把握できるからである。仮にPT,APTT値がすぐにわかったとしても,その値に応じた治療(すでにFFPは十分投与しているはず)を選択できるわけではない。つまり,「治療につながらない検査をPOCテストで行う必要はない」ということであり,標的を絞った迅速検査と,その検査結果に応じた実効性のある治療が最も重要なのである(表2)。
著者
藤沢 烈
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.855-859, 2018-11-01

●少子高齢化,財源不足,ライフスタイルの変化が進む中で,自助を前提に真に困っている方を助ける医療を目指して,医師自身の働き方改革に注目が集まっている.●医師の働き方改革として「テクノロジーの活用」「女性の働き方改革」「多様なキャリア形成」の3つのポイントがある.●医師の働き方改革により,医師の役割はコミュニケーション重視となり,他業種と連携した医療業界への関わりなどが進むと考えられる.
著者
三河内 薫丸 村瀬 活郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.331-335, 1967-03-20

はじめに 頭部開放創は,頭皮より脳実質までの種々の組織の複雑な損傷の組合せであり,処置もまた種々の要素を含んでいる.不適当な処置を行なつた場合は死の転帰をとる場合もあり,運よく死をまぬがれえたとしても後日,頭骨骨髄炎,化膿性髄膜炎,脳膿瘍,脳海綿腫,外傷性てんかんなどの悲惨な合併症の原因となる. 頭部開放創はこれを治療面より見た場合,その深さに応じ,次のごとく分類して考えるのが便利と思う.
著者
木村 弘 御園生 義良
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.855-859, 1974-12-10

開腹手術後の患者の健康管理は医師として常に気を配つているところである。特に体力回復については補助的に注射して栄養補給を行なつているとはいえ,その主力は食物の経口摂取に頼つているのが現状である。1959〜1962年にLavenstein1,2)らが枯草熱の治療にペリアクチンを投与していたところ,偶然に食欲が増進し,体重が増加することに気づき,さらに喘息患者にこれを用いてその両効果を確認して発表以来Bergen3)など多くの人たちがペリアクチンの食欲増進,体重増加の効果を認めている。 わが国においてはペリアクチンは昭和36年3月より抗アレルギー剤として市販され,広く一般に使用されてきたが,昭和44年頃より小児科や結核科領域において抗アレルギー剤としてのみでなくさらに食欲増進,体重増加効果をも認める発表がなされはじめ,昭和46年1月からは食欲増進剤としても市販されるようになり今日におよんでいる。
著者
水野 肇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.53, 1965-04-10

許可基準内なのだが… アンプル入りカゼ薬「強力パブロン」(大正製薬)「強力テルミックス」(大正製薬)「エスピレチン」(エスエス製薬)が,2月27日からいっせいに販売中止となった。厚生省の要請を受け入れて業者側が自シュクしたものである. アンプル入りカゼ薬が販売中止となったいきさつは,新聞紙上に報道されたとおりで,わずか10日間に5人がこの薬を飲んで死に,重大な関係があるとみられたためである.目下,その原因を調査中のため,かるがるしく言うべきではないが,死亡した5人の状態をみると,過敏体質,くすりののみすぎ,体力の衰え,他の薬との併用が,表面的には問題になってくるようだ.そして,昨年はアンプルのカゼ薬で死んだ人は3人,34年から38年の4年間で,ピリン剤で死んだのは11件ある.
著者
原田 隆之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.277-283, 2019-03-15

抄録 ICD-11で新たに追加されることになった「強迫的性行動症」は,かつての「過剰性欲」を行動や衝動の制御に焦点を移してとらえ直したものである。強烈で反復的な性的衝動の制御の失敗によって,望ましくない結果が生じているにもかかわらず,性行動が継続されている状態を指し,重大な苦悩や社会的問題を引き起こしているものをいう。その病因や態様は嗜癖性障害(アディクション)との類似が指摘されているが,エビデンスが不十分であるとして,嗜癖性障害のカテゴリーではなく,衝動制御の障害にリストアップされた。まだ研究が十分ではない部分が多いが,治療を求める人々にとっては,治療へのアクセスが高まり,社会的な偏見を是正する契機となる。