著者
徳田 誠 吉朝 朗 上原 誠一郎 宮脇 律郎 門馬 綱一 杉山 和正
雑誌
一般社団法人日本鉱物科学会2019年年会・総会
巻号頁・発行日
2019-08-13

フェルグソン石 (Fergusonite) はメタミクト状態で産出することで代表的な鉱物の一つである。我々はメタミクト状態のフェルグソン石は加熱されることで、本来の構造に本当に回復しているのか、疑問に感じていた。宮崎県大崩山から産した軽度のメタミクト状態であるフェルグソン石を Rigaku SuperNova X線回折装置に搭載し、回折データを測定し、その構造精密化に成功した。メタミクト化によるブロードな粉末回折図形からでは T 相であると誤解しかねない単斜晶 (M 相)であると結論した。明らかに熱処理前後で回折図形は異なることが分かり、フェルグソン石は熱処理により、メタミクト化の情報が失われることが分かる。
著者
福元喜啓
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-05-08

骨格筋量は筋力発揮のための主要な要因であることから,臨床において筋萎縮の評価や筋肥大に向けたトレーニングは重要である。特に高齢期における筋量減少(サルコペニア)は,転倒・骨折や総死亡リスクの因子ともなるため,その早期発見や予防は極めて重要である。筋萎縮の評価手段としては従来,高価で大がかりなCTやMRIを用いた筋断面積が推奨されてきたが,近年の安価で非侵襲的な超音波画像診断装置の普及により,臨床でも簡便に評価できるようになった。超音波画像で計測される筋厚は,CTやMRIなどとも高い相関があるなど,筋量指標のひとつとしての妥当性・信頼性も示されている。 しかし問題点として,筋量だけの評価では筋力や身体機能との関連性は中等度に過ぎないことが報告されている。この理由のひとつとして,筋萎縮に伴い筋内の脂肪浸潤といった非収縮組織の増加も生じることが挙げられる。そのため筋断面積や筋厚による筋量評価では,そのような筋内脂肪も含めて筋量として過大評価してしまい,筋力や身体機能との関連を減弱させてしまうと考えられる。このことから,筋萎縮の程度を正確に把握するためには,筋量のみでなく併せて筋内脂肪量も評価する必要性がある。 近年,超音波診断装置を用いた筋内脂肪増加の評価方法として,筋エコー輝度(以下,筋輝度)が注目されている。超音波画像上では萎縮筋は,筋厚が減少するだけでなく白っぽく映る(すなわち筋輝度が高くなる)が,この筋輝度の上昇が筋内脂肪の増加を反映することが明らかとなっている。筋輝度の定量的評価手段としては,256階調(0~255)で数値化される8bit gray scaleが用いられ,数値が高くなるほど筋輝度が高い,つまり筋内脂肪量が多いということを示す。このように超音波画像診断装置は簡便に筋量・筋内脂肪量の双方を評価できることから,理学療法学分野における臨床応用も期待されている。本講演では,筋内脂肪量の指標としてこの筋輝度を用いた我々の研究結果を紹介する。1)筋内脂肪量と筋力との関連 筋輝度の有用性を示すには,筋輝度が筋力に影響するかどうかを調べる必要がある。そこで我々は,地域在住の中高齢者を対象とし,大腿四頭筋の筋厚・筋輝度と筋力との関連性を調べた。その結果,筋力の影響因子として筋厚と筋輝度がともに抽出されたことから,筋量だけでなく筋内脂肪量も筋力に影響を及ぼすことが明らかとなった。また,筋輝度は体脂肪率やBMI,皮下脂肪厚とは相関がなかったことから,個々の筋の筋内脂肪量は体脂肪率やBMIなどからは予測できないことが明らかとなった。(Fukumoto et al. Eur J Appl Physiol 2012)2)四肢・体幹筋における筋厚と筋内脂肪量の加齢変化 加齢に伴う筋萎縮と筋内脂肪増加の程度が四肢・体幹筋によって異なるかを調べる目的で,若年者および地域在住の中高齢者を対象として,上腕二頭筋,大腿四頭筋と腹直筋の筋厚と筋輝度を計測した。若年者との比較の結果,上腕二頭筋と大腿四頭筋の筋厚減少は中年期では生じておらず前期高齢期から始まっていたが,筋輝度の上昇は中年期からすでに始まっていた。一方,腹直筋においては筋厚の減少・筋輝度の上昇ともに,中年期から生じていた。このことから,四肢筋では加齢に伴う筋内脂肪増加は筋萎縮よりも早期に生じること,体幹筋では中年期から筋萎縮・筋内脂肪増加の双方が生じることが明らかとなった。3)変形性股関節症(股OA)患者における下肢・体幹筋の筋萎縮・筋内脂肪増加の特徴 股OA患者の筋力低下は多くの研究で報告されており,運動能力低下の因子となることが明らかとなっている。しかしいくつかの研究で,股OA患者は健常者と比較しても有意な筋萎縮はしていないとの報告がなされている。そこで我々は,股OA患者の筋力低下には筋萎縮ではなく筋内脂肪の増加が関連しているとの仮説を立て,股OA患者と健常者の下肢・体幹筋の筋厚・筋輝度を比較した。結果,健常者と比べ股OA患者の筋厚は股関節周囲筋ではなく大腿四頭筋で減少していた。また股OA患者の筋輝度は,中殿筋,大腿四頭筋,腹直筋で上昇していた。以上のことから,股OAでは中殿筋と腹直筋は筋萎縮をしていないが筋内脂肪増加が生じていること,大腿四頭筋では筋萎縮・筋内脂肪増加の双方が生じていることが明らかとなった。(Fukumoto et al. Ultrasound Med Biol 2012)4)筋力トレーニングによる筋内脂肪量の変化 筋力トレーニングによって,筋量の増加だけでなく,筋内脂肪減少も生じることが報告されている。しかし,どのようなトレーニング方法がより効果的かは明らかではない。近年,高齢者に対する高速度での筋力トレーニング(パワートレーニング)の効果が報告されている。我々は股OA患者を対象とし,高速度および低速度での筋力トレーニングを8週間実施し,運動速度により筋厚および筋内脂肪量の変化に違いがあるかどうかを調べた。結果,筋厚の増加は両トレーニングで同程度であったが,筋内脂肪減少は低速度と比べ高速度筋力トレーニングで大きかった。また,一部の運動能力の改善においても高速度トレーニングの方が大きいという結果が得られた。このことより,高速度での筋力トレーニングは筋内脂肪減少に有効であることが示唆された。(Fukumoto et al. Clin Rehabil 2014) 本講演ではこれらの研究結果を紹介するとともに,筋輝度研究の今後の展望や課題についても述べる。
著者
井藤 克美 滑川 初枝 岩崎 ひろ子 鶴木 次郎
雑誌
一般社団法人日本老年歯科医学会 第29回学術大会
巻号頁・発行日
2018-05-16

【目的】 近年,かねてより続く社会全体の高齢化に対応すべく,訪問診療,在宅医療のさらなる充実が図られているが,その中で歯科医療の果たす役割は小さくない。一方,その学術的データの基礎となる症例報告の数はいまだ十分とはいえないのが現状である。今回,脳梗塞の発症により口唇閉鎖力に障害を持つ患者に対し,訪問診療にて多職種が連携し,摂食嚥下訓練を行い,口唇閉鎖力および摂食嚥下機能の向上と審美的回復がなされた症例について報告する。【対象と方法】 患者は脳梗塞を再発し,リハビリ病院より施設へ転所した79歳女性であり,全身に左麻痺が残り,要介護1の認定を受けていた。歯科診療については,上顎部分床義歯の調整および下顎右側部の急性歯周炎の治療を要する状況であり,施設からの依頼を受け治療を開始した。一連の歯科治療により咀嚼機能および審美性の改善が認められたが,本人,周囲の要望により,さらに満足度の高い機能回復のための嚥下訓練を行った。まず,摂食嚥下評価と内視鏡による機能検査を行い,その結果から,筋力向上を図る顔面マッサージ,電動ブラシを改良した嚥下補助器具の使用,口唇閉鎖力の向上を目的としフェイシャルエクササイズ機器を毎日行った。施設職員に対して,使用方法を指導,管理を依頼した。【結果と考察】 日々の摂食嚥下訓練により,口唇閉鎖力・摂食嚥下機能の向上および左顔面の麻痺は軽減が認められ,家族や友人と外食に行くことも可能になった。本症例により身体機能と心が密接な関連性を持つこと,とりわけ自分の口を用いて食事を摂ることの重要性をあらためて認識した。今後も,これら症例に積極的に取り組み,引き続きどのように歯科医療が寄与できるのかを考えていきたい。