著者
渡辺 優 上田 正仁
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.372-376, 2016-06-05 (Released:2016-08-10)
参考文献数
25

不確定性関係は量子力学の本質を端的に表現する関係式として知られているが,その意味するところは見かけほど単純ではない.不確定性関係の研究はハイゼンベルクがガンマ線顕微鏡で電子の位置と運動量の測定精度に関する思考実験を行ったことにはじまる.ガンマ線で電子の位置をΔxの精度で測定すると,測定の反作用を受けて運動量がΔpだけ不確定になり,両者が不確定性関係ΔxΔp≳ħ/2を満足するという主張である.この不確定性関係は,測定器の役割が物理量の測定結果に本質的な役割を果たすというボーアの相補性を端的に表現したものであると解釈できる.一方,標準的な量子力学の教科書で議論される,物理量の標準偏差の間に成立する不確定性関係は「互いに非可換な物理量が同時に定まった値を持つことはできない」という量子状態の非決定性を表している.これは,測定の相補性の数学的な証明であると間違って紹介されることもある.しかし,相補性と非決定性は全く異なった概念である.実際,後者は任意の波動関数に対して数学的に不等式が証明できる概念であるが,前者は誤差とは何か,擾乱とは何かを指定してはじめて具体的な意味を獲得する.不確定性関係が今なお最先端の研究対象として議論されているのは,誤差と擾乱に関して万人に共通する認識が未だ確立されていないからである.ハイゼンベルクのガンマ線顕微鏡の議論は,粒子を古典的に扱った半古典論であるため,現代的な量子測定理論の枠内で考えた場合に,誤差と擾乱の間にどのような不確定性関係が成立するのだろうかという自然な疑問が沸き起こる.しかしながら,量子測定理論では測定される対象系だけでなく測定器も量子力学にしたがうため,対象系の量子揺らぎだけでなく測定器の量子揺らぎも測定結果に影響し,その解析は単純ではない.一般の測定過程について,測定器の出力と対象となる物理量の間の関係を明らかにし,対象について有意な情報を取り出す合理的な方法は何か,という問題が生じる.このような問題に対して解答を与えるのが量子推定理論である.量子推定理論の観点からは,測定誤差は測定によって得られたフィッシャー情報量の逆数として与えられる.フィッシャー情報量は統計学における最も重要な量の一つであり,測定データから推定された物理量の推定精度を与える.すなわち,物理量の変化に対応して,測定値がどれだけ変化するかという感度を与える量である.測定の反作用の影響で,測定過程はユニタリではなくなり,非可逆な過程となる.そのような非可逆な過程では情報量は単調減少するため,測定過程の非可逆性を失われた情報量として特徴付けられる.したがって,擾乱は対象系の持つフィッシャー情報量の損失として定式化できる.我々は,このように定式化された誤差と擾乱の積の下限が交換関係で与えられるというトレードオフ関係を見出した.こうして,ハイゼンベルクが思考実験で指摘した測定誤差と擾乱の間の不確定性関係が量子推定理論の観点から定量的に示された.
著者
上田 正仁
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:07272997)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.634-663, 2007-02-20

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。
著者
關口 奈緒子 池永 雅一 池上 真理子 家出 清継 上田 正射 津田 雄二郎 中島 慎介 谷田 司 松山 仁 山田 晃正
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.830-835, 2020 (Released:2021-12-31)
参考文献数
21

症例は68歳,男性.自慰目的で肛門から瓜を挿入し,排出困難となり当院を受診した.腹部単純CTで16×7cm大の瓜を直腸RS付近に認め,腸管穿孔所見は認めなかった.摘出の際に腸管損傷の可能性を考え,全身麻酔下での摘出を試みた.全身麻酔下,砕石位で手術を開始した.肛門括約筋の弛緩は得られたが肛門内に異物は確認できず,下腹部圧排で瓜の頂部をわずかに確認できた.ミュゾー鉗子で把持を試みるも困難であり,子宮筋腫用のミオームボーラーを瓜に挿入し,下腹部の圧排と牽引で摘出を試みた.しかし,瓜は脆弱でミオームボーラー挿入部が砕けるため,別角度からもう1本挿入することで力を分散し脆弱性を補うことで腹部圧迫を併用し摘出に成功した.直腸異物は多種多様の異物が報告されており,摘出方法の工夫が必要である.今回直腸異物(瓜)に対して,異物の大きさと摘出器具の特徴を術前に綿密に確認することで安全に摘出しえた症例を経験した.
著者
上田 正行
出版者
金沢大学
雑誌
金沢大学文学部論集. 文学科篇 (ISSN:02856530)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-37, 1988-02-18
著者
小川 哲生 上田 正仁 井元 信之
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.781-788, 1993-10-05

量子力学の観測問題のなかでもマクロ系での波束の収縮に関する問題は,「シュレーディンガーの猫のパラドックス」でも知られるように積年の論争の対象である.『量子力学はマクロ系にも適用可能か?』この問いに答えるべく実験が始まっている.本稿では,この問題の意義を振り返りながら最近の状況を報告し,「シュレーディンガーの猫状態」(マクロな量子力学的重ね合わせ状態)を実際に作り出すフォトンカウンティング法を紹介する.この議論を通して,時間的に連続な量子力学的測定,すなわち波束の連続的収縮を概説し,波束が時々刻々収縮することと観測によって得られた情報との関連を,「番犬効果」を例にとり具体的に説明する.
著者
上田正昭[ほか]監修
出版者
講談社
巻号頁・発行日
2001
著者
中川 大也 辻 直人 川上 則雄 上田 正仁
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.88-92, 2022-02-05 (Released:2022-02-05)
参考文献数
28

外部環境と相互作用し,エネルギーや粒子をやり取りする量子系を開放量子系という.環境との結合はデコヒーレンスなどの散逸を引き起こすため,開放量子系の物理は量子論の基礎的な問題に留まらず,環境との結合から望みの量子状態を保護しながら量子操作や量子情報処理をいかに行うかという実際的な問題にも深く関わっている.このような開放量子系においては,多くの場合,系と環境との結合は複雑で一般に制御不可能なものだと考えられる.しかし,冷却原子気体をはじめとした大規模量子シミュレーターの発展に伴い,開放量子系に対する新たなアプローチが可能になった.これらの系は非常に制御性の高い量子多体系であり,原子は超高真空中にトラップされているため通常は環境との結合が無視できるほど小さい.このことを逆手に取り,原子にレーザーを照射することなどによって人工的に散逸過程を引き起こすことで,量子多体系に制御された散逸を導入することができる.これらは「制御可能な開放量子系」という新しいクラスの物理系であり,量子系への散逸の効果を系統的に調べる理想的な舞台となる.さらに,散逸による非ユニタリな時間発展によって量子多体系の状態を制御し,熱平衡系では実現不可能な興味深い状態を作り出すことにも繋がる.我々は,冷却原子気体で実現されるHubbard模型や近藤模型に代表される強相関量子多体系について,散逸による非ユニタリ性が多体物理にいかに影響を及ぼすかを理論的に調べた.その結果,通常の熱平衡系や孤立系では現れない秩序や転移が起こることが明らかとなった.例えば,開放系の定常状態は熱平衡系のようにエネルギーの大小ではなく状態の寿命によって特徴づけられる.そのため,非弾性衝突による粒子の散逸があるようなHubbard模型において,その磁性が散逸によって反強磁性から強磁性に反転するという特異な現象が起こる.さらに,近藤模型においては,量子多体物理からユニタリ性という制約が外れることにより,ユニタリな量子系では禁止されていたタイプのくりこみ群フローが出現する.散逸はデコヒーレンスや緩和を引き起こすため,従来は多くの場合避けられるべきものとして扱われてきた.しかし,これらの系では,散逸による非ユニタリ性が熱平衡系・孤立系では現れない新たな量子多体効果の源泉となる.開放量子系の時間発展は非ユニタリであるため,ハミルトニアンとは異なる非エルミートな演算子で生成される.このことは,熱平衡系・孤立系の多体物理がエルミート演算子であるハミルトニアンの性質に基づいていることに対し,開放量子系では非エルミートな多体演算子の性質が重要な役割を果たすことを意味している.我々は,Hubbard模型や近藤模型について,Bethe仮設法を非エルミート領域に拡張することにより開放量子多体系に対する厳密解を得た.冷却原子気体をはじめとした量子シミュレーターによる開放量子多体系の研究を契機として,従来の量子多体物理の枠組みを超え,非エルミート演算子を中心に据えた多体理論の発展が期待される.
著者
杉原 辰哉 萩原 文香 門永 陽子 鳥谷 悟 松浦 佑哉 井原 伸弥 黒崎 智之 森山 修治 上田 正樹 森脇 陽子 広江 貴美子 古志野 海人 山口 直人 大嶋 丈史 岡田 清治 太田 哲郎
出版者
松江市立病院
雑誌
松江市立病院医学雑誌 (ISSN:13430866)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.53-56, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
10

【目的】心肺運動負荷試験(CPX)のAT レベルの心拍数(THRAT)での運動処方が困難な場合はKarvonen の式から得られる心拍数(THRkarvonen)を参考に実施するが, 心不全やβ遮断薬投与例では必ずしも適切な決定ができない.本研究はβ遮断薬投与中の急性心筋梗塞患者を対象にATHRとKarvonen 式の関係を検討し,適切な心拍数を求めることを目的とした.【方法】対象はβ遮断薬投与中の急性心筋梗塞患者20 例,年齢62.7±8.2 歳.a(220-年齢)を最大HR とし,係数a は実際にCPX で得られた実測最大HR からa =実測最大HR/(220-年齢)を求め,また,Karvonen の式から運動強度の係数k =(THRAT-安静時HR)/(最大HR-安静時HR)として求め,係数k と臨床的指標の関係について検討した.【結果】CPX から求めた係数a は0.72±0.09,係数k は0.42±0.13,THRmodified Karvonen = 0.42[0.72(220-年齢)-安静時HR]+安静時HR で,THRAT とTHRmodifiedKarvonen の相関関係はr=0.84(p < 0.01)であった.係数k と臨床的指標の関係は心リハ開始日数とLVEF に関連性が認められTHRclinical =(0.005×LVEF-0.015×心リハ開始まで+0.312)[0.72(220-年齢)-安静時HR]+安静時HR とすると,THRAT との相関関係はr=0.88(p < 0.01)であった.【結語】β遮断薬投与中の急性心筋梗塞患者はTHRmodified Karvonen = 0.42[0.72(220-年齢)-安静時HR]+安静時HR で求められ,係数k はLVEF と心リハ開始日数と関連して変化する可能性が示された.
著者
上田 正人 高橋 智幸 鶴田 浩章 徳重 英信
出版者
関西大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

骨とサンゴにおける骨格形成メカニズムは,ほぼ同じである。既に確立されている骨形成・再生手法をサンゴに転用し,新規なサンゴ骨格形成促進手法を確立することを目的とする。具体的には,チタン製のスキャフォールド(足場)に骨形成の促進効果が認められている酸化チタンなどを成膜し,サンゴと連結する。水槽中,海底でサンゴを飼育し,スキャフォールド表面におけるサンゴ骨格形成を観察する。ここにおいても,医療材料開発で利用されているテクニックを駆使する。高効率なサンゴ骨格形成手法を探索すると共に,骨関連分野へも新たな切り口を提案し,協奏的に研究を発展させる。
著者
沙川 貴大 上田 正仁
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.828-831, 2011-11-05 (Released:2019-10-22)
参考文献数
11

「デーモンのパラドックス」がマクスウェルにより提起されて以来,情報処理を含む物理過程に熱力学第二法則をそのままの形では適用できないことが知られてきた.我々は,情報処理を含む形に一般化された熱力学第二法則や非平衡関係式を導き,それらは実験で検証された.我々の結果は,熱力学量と情報量を対等に扱う「情報熱力学」の基本原理を提供する.
著者
上田正一著
出版者
泰文館
巻号頁・発行日
1980