- 著者
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中野 修
- 出版者
- 神戸大学
- 雑誌
- 神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.3, pp.121-130, 1991-07
epidermal growth factor (EGF)が胃粘膜において,如何なる機序で損傷粘膜の修復機転あるいはその恒常性保持に関与するのかを胃粘膜細胞を用いたin vitroの系で検討した。静止期に同期させたモルモット培養胃粘液細胞を10%血清存在下でEGFと共に刺激すると,細胞数及びDNA合成は対照に比し刺激時間及びEGFの濃度に依存して増加し,その最大効果はlOng/ml EGF刺激24時間で観察された。細胞を0.5%血清下で[3^H]-アラキドン酸で標識しつつEGFを加え上清を薄層クロマトグラフィー(TLC) 法で分析すると,上清中にプロスタグランジン(PG)E_2を主とするアラキドン酸(AA)代謝産物の産生が認められた。ラジオイムノアッセイ(RIA)法によりPGE_2量を定量すると,10%血清下でEGF刺激によりPGE_2分泌は刺激後6時間まで時間及びEGFの濃度に依存して増加し,その最大濃度は4.18X10^<-7>Mであった。又,シクロオキシゲナーゼ(COX) 阻害剤であるインドメタシン(IND)をEGFと同時添加すると,EGFにより刺激されたPGE_2分泌はほぼ対照レベルまで抑制された。INDは又,EGFの細胞増殖刺激効果をも抑制したが,さらにPGE_2を同時添加することによりINDにより惹起された増殖抑制はPGE_2の濃度に依存して有意に解除された。従って,EGF刺激により分泌されたPGE_2がEGFの増殖刺激作用に関与する可能性が考えられた。次に,どのような機序でEGFがPGE_2分泌を刺激するかを検討した。EGFは0.5%血清下で,添加したAAの濃度に依存してPGE_2分泌を刺激した。又,EGFは刺激後の細胞の破砕液を酵素源として[14^C]-AAからの[<14>^C]PGE_2への転換率より評価したCOX活性を亢進させ,かつウエスタンプロット法によりEGF刺激細胞においてはCOX酵素蛋白質の誘導が認められた。これらはEGF刺激により,COX蛋白質誘導,その活性冗進及びPGE_2分泌の順序で認められ,これら3者間に明確な時間的相関性が認められた。一方, EGFはCOX刺激を認める同条件下で評価した細胞のホスホリバーゼA_2活性には影響を与えなかった。以上より胃粘液細胞においては, EGFはCOX蛋白質合成過程を刺激し,かつ外液中のAAを利用することによりPGE_2分泌を刺 激するものと考えられ,このようなPGE_2を介した増殖刺激機序がin vivoで認められるEGFの胃粘膜保護作用の一部を担う可能性が示唆された。