- 著者
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増田 卓
佐藤 清貴
和泉 徹
- 出版者
- 公益財団法人 日本心臓財団
- 雑誌
- 心臓 (ISSN:05864488)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.1, pp.21-34, 1998-01-15 (Released:2013-05-24)
- 参考文献数
- 45
破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血では,急死例を含むさまざまな心肺合併症が出現する.我々は,くも膜下出血の715例を対象に,その臨床像から心肺合併症の成因について検討した.くも膜下出血急性期の9.4%(67例/715例)に一過性の左室壁運動異常が出現し,同時に機械的心筋不全と心筋壊死を認めた.このような症例では,左室壁運動異常のない症例と比較して血漿カテコールアミン濃度が高値であることから,この一過性の心筋収縮異常,カテコールアミンのバースト状過剰放出によってパニックに陥った心筋の状態と考え,"驚愕心筋(panicmyocardium)"と名づけて理解しようと試みた.次に,くも膜下出血の不整脈を,心室性不整脈とその他の不整脈に分けて比較すると,心室頻拍や心室細動などの重症不整脈を有する症例では,血漿カテコールアミン濃度が高値を示し,血清CK-MB,ミオシン軽鎖,トロポニンT濃度も上昇していた.これは,くも膜下出血に合併する致死的不整脈がカテコールアミンの心筋障害によって生じることを示している.さらに,くも膜下出血発症直後の交感神経系活動と心筋障害との関係を明確にするため,新しいくも膜下出血の実験動物モデルを考案した.この実験モデルでは,くも膜下出血発症直後に交感神経系活動と心機能は一時的に亢進した後,心機能低下が出現した.また,血清CK-MBは,くも膜下出血発症後から上昇を続け,実験期間を通じて高値であった.以上から,くも膜下出血急性期には,交感神経系活動の一過性過剰亢進から心筋障害が出現し,心筋がパニックに陥った状態と思われる.