著者
山本 涼子 埴淵 知哉 山内 昌和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.197-209, 2022 (Released:2022-07-09)
参考文献数
27
被引用文献数
2

本研究では,近年の国勢調査の回答状況における地域差とその推移を俯瞰する.具体的には,各種の回答率と都市化度との関連を都道府県単位で分析した.その結果,(1)聞き取り率は2005年以降上昇しつつ地域差も拡大してきた一方,2020年調査(推計値)では都市–農村間の地域差は維持ないしは縮小する可能性があること,(2)コロナ禍によって減少した調査員回収はインターネット回答よりも郵送回答によって代替されており,農村部でその影響が相対的に大きかったこと,(3)外国人の不詳率は概して日本人よりも高い水準にあり,地域差も大きく拡大傾向にあることが示された.ここから,回答状況とその地域差の水準は指標や調査年,国籍(日本人/外国人)によって異なる一方,都市–農村間の地域差そのものは一貫してみられることも示された.これらがもたらす疑似的な地域差の影響に留意しつつ,国勢調査のデータを実証研究に活用していくことが期待される.
著者
村中 亮夫 中谷 友樹 埴淵 知哉
出版者
一般社団法人 地理情報システム学会
雑誌
GIS-理論と応用 (ISSN:13405381)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.127-137, 2011-12-31 (Released:2019-02-28)
参考文献数
35

The aim of this paper is to examine regional differences in the prevalence of pollinosis by social area type in a geodemographics dataset by carrying out binomial logistic regression analysis on the 2002-2006 Japanese General Social Surveys (JGSS) data. The results indicate that people living in rural areas and working in the agriculture and forestry industries are less prone to contracting pollinosis, and people with a higher household income have a higher risk of contracting the disease compared to those with a lower household income. These findings are consistent with the hygiene hypothesis that sanitary environments impair normal development of immunity and increase the risk of contracting allergic diseases. This study also exemplifies the usefulness of geodemographics as a concise indicator of the local environment for explanatory analysis of environmental health risks of pollinosis.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 花岡 和聖 村中 亮夫
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.71-84, 2012-07-28 (Released:2017-04-14)
参考文献数
28
被引用文献数
3

This paper is aimed at examining the association between the degree of urbanization/suburbanization and the levels of social capital in quantitative terms. We performed a multilevel analysis for the data from JGSS (Japanese General Social Surveys) conducted in 2000-2003. The results showed that the respondents who resided in rural municipalities (i.e., the least urbanized areas) were more likely to belong to groups, for both vertical and horizontal types of organizations, compared to those who lived in the center of large metropolitan areas. However, no differences were seen between urban centers and suburbs within these metropolitan areas studied. In addition, the indicators of general trust and attachment to place did not exhibit significant associations with the index of urbanization! suburbanization. On the contrary, many individual attributes were related to social capital indices; suggesting that the individual/compositional factors may determine the levels of social capital more clearly than the regional/contextual factors. Since our study used the indicators of "global social capital", which do not refer to geographical aspects of social networks or trust, analyzing "local social capital" is necessary in future studies.
著者
矢部 直人 埴淵 知哉 永田 彰平 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の日本における広まりを受けて,日本政府や新型コロナウイルス感染症対策専門家会議,自治体は2月中旬頃より,さまざまな要請を行った。2月下旬から3月上旬にかけて,密閉された空間,人が高密度に集まる空間,人と密接に接触する機会といった,3密を避けることが要請された。3月下旬には,東京都知事が自宅での就業や,不要不急の外出を控えるように要請。さらに4月7日に日本政府は7都府県を対象として緊急事態宣言を行い,人と人との接触を最低で7割から8割減らすことを目標として外出自粛を要請した。4月16日には,緊急事態宣言の対象が全国に拡大された。ただし,西ヨーロッパや北米と比較すると,日本における外出自粛要請は罰則がないことなど,ゆるやかな外出制限にとどまっている。</p><p></p><p>外出自粛に当たっては,オンライン会議システムを用いた在宅勤務など,インターネットの利用により外出行動を代替することが注目を集めた。インターネットの利用による外出の代替については,Andreev et al. (2010)が既存研究をレビューしており,在宅勤務は外出を代替する効果が明らかなこと,オンラインショッピングでは代替よりも補完の効果が優勢なこと,ネットの余暇・娯楽利用については研究が少なく効果が定かではないことが示されている。</p><p></p><p>本研究では,5月に外出行動の把握を目的としたインターネット調査を行い,外出行動やネットの利用などについてのデータを収集した。回答数は1,200名である。</p><p></p><p>最初に,ネット利用と行くことを控えている外出先の関係をみるため,コレスポンデンス分析を行った。その結果,仕事でのネット利用と職場への外出を控えることとの関係,余暇・娯楽でのネット利用と飲食店やショッピングモールへの外出を控えることとの関係,などの対応が明らかになった。</p><p></p><p>次に,2月中旬から5月中旬にかけての外出時間の推移とネット利用の関係について,マルチレベルモデルを使って分析した。その結果,ネット利用に関しては日常の買い物,社交,運動,余暇・娯楽といった利用が有意な変数となり,いずれも外出時間の減少率を大きくする方向に影響していた。一方,職場がネットを使った勤務に対応していないことは,外出時間の減少がゆるやかになる方向に影響していた。特に従来の研究が少ない,ネットの社交,運動,余暇・娯楽利用について外出を代替する関係が目立つ。一方,日常の買い物でのネット利用は,上記の社交などでのネット利用に比べると,外出を代替する関係は弱いことが分かった。</p><p></p><p>Andreev, P., Salomon, I. and Pliskin, N. 2010. Review: State of teleactivities. <i>Transportation Research Part C: Emerging Technologies</i> 18: 3-20.</p><p></p><p>本研究はJSPS科研費(17H00947)の助成を受けたものです。</p>
著者
埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の流行下では、人混みを避けて人との距離を保つこと(Social distancing)が必要とされ、移動や外出の自粛も求められる。この状況が長期化する中で、人との対面接触を基本とする従来型の社会調査あるいは地域調査は、事実上、実施不可能な状態が続いている。国が実施する統計調査にも影響は及んでおり、2020年国民生活基礎調査は中止となった。その一方、Covid-19をめぐる人々の外出状況や予防行動の把握に対しては、スマートフォンの位置情報やLINEアプリを利用したサーベイ(「新型コロナ対策のための全国調査」)など、新たな技術・方法も活用されている。</p><p></p><p>このようなCovid-19の社会/地域調査に対する影響は、良くも悪くも、インターネット調査の学術利用に関する議論を活発化させる方向に働く。これが距離を保ちながら人々から情報を得ることができる、数少ない有用な調査法だからである。インターネット調査の強みはその迅速性と廉価性にあり、紙の調査票では不可能であった画像データなどの収集も可能である。標本の代表性や測定の精度に課題を抱えつつも、総調査誤差の観点から従来型調査を補完することが期待されている(埴淵・村中 2018)。</p><p></p><p>本発表では、Covid-19流行下で実施されたインターネット調査の事例を紹介するとともに、量的調査だけでなく、フィールドワークやインタビュー調査のオンラインでの実施可能性についても若干の考察を行うこととしたい。</p><p></p><p>一つ目の事例は、緊急事態宣言下における外出行動の把握を目的としたインターネット調査である(2020年5月実施、n=1,200、東北大学)。同調査では、過去三カ月の外出状況について、レトロスペクティブな自己申告データと、iPhoneに自動記録されている歩数の画像データが同時に収集された。注目すべきイベント(この場合は緊急事態宣言)の発生後、短期間のうちにイベント前に遡及したデータ収集を行うこの方法は、従来型調査では不可能なインターネット調査の迅速性を生かしたものといえる。</p><p></p><p>二つ目の事例は、Covid-19流行下における地域住民の予防行動に関するインターネット調査である(Machida et al. 2020、ベースライン調査:n=2,400、東京医科大学)。ここでは2020年2月から7月の間に4回のインターネット調査が実施されており、短期間で繰り返し追跡調査(同一の参加者による回答)を行っている点に特徴がある。刻々と変化する流行状況とそれに対する人々の行動変化(例えば手洗い実施率の推移など)を詳細に把握しうるこの方法も、インターネット調査の迅速性を有効に活用したものといえる。</p><p></p><p>とはいえ、すべての社会/地域調査がオンライン化できるわけではなく、調査手法間には差がみられるであろう。インタビュー調査に代表される質的調査や、現地を訪問して行うフィールドワークがどの程度オンライン環境で実施可能なのか、また翻って考えると、従来型の調査にはどういった方法上の価値があったのかなど、議論すべき課題は多い。「現場の雰囲気」を掴みにくいオンライン調査では、思いがけない偶発的な発見が生じにくいことなどは当然予想される。これらを実証的に探ることが、今後の社会/地域調査法において重要な検討課題になると考えられる。</p><p></p><p> </p><p></p><p>埴淵知哉・村中亮夫 2018. 地域と統計—「調査困難時代」のインターネット調査. ナカニシヤ出版.</p><p></p><p>Machida M, Nakamura I, Saito R, et al. 2020. Adoption of personal protective measures by ordinary citizens during the COVID-19 outbreak in Japan. <i>Int J Infect Dis</i>. 94: 139-144.</p><p></p><p>*本研究はJSPS科研費(17H00947)の助成を受けたものです。</p>
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 竹上 未紗
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.6, pp.591-606, 2015-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
51
被引用文献数
1

健康を左右する一つの因子として,近隣環境への研究関心が高まっている.しかし,これまで日本を対象とした事例研究の蓄積は不十分であり,国際的にも全国的範囲を対象とした分析は限られていた.本研究では,人々が暮らす場所の近隣環境によって,健康に由来する生活の質(HRQOL)が異なるのかどうかを統計的に分析した.認知的および客観的に測定された近隣環境指標と,HRQOLの包括的尺度(SF-12)との関連性を,日本版総合的社会調査2010年版を用いたマルチレベル分析によって検討した.分析の結果,近隣環境を肯定的に評価・認知している人ほど,健康に由来する生活の質が高いという関係が明らかになった.他方で,客観的に測定された近隣環境指標はHRQOLとの独立した関連を示さず,場所と健康の間を取り結ぶ多様な作用経路が示唆された.
著者
村中 亮夫 中谷 友樹 埴淵 知哉
出版者
一般社団法人 地理情報システム学会
雑誌
GIS : 理論と応用 = Theory and applications of GIS (ISSN:13405381)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.127-137, 2011-12-31
参考文献数
36

<p>The aim of this paper is to examine regional differences in the prevalence of pollinosis by social area type in a geodemographics dataset by carrying out binomial logistic regression analysis on the 2002-2006 Japanese General Social Surveys (JGSS) data. The results indicate that people living in rural areas and working in the agriculture and forestry industries are less prone to contracting pollinosis, and people with a higher household income have a higher risk of contracting the disease compared to those with a lower household income. These findings are consistent with the hygiene hypothesis that sanitary environments impair normal development of immunity and increase the risk of contracting allergic diseases. This study also exemplifies the usefulness of geodemographics as a concise indicator of the local environment for explanatory analysis of environmental health risks of pollinosis.</p>
著者
村中 亮夫 埴淵 知哉 竹森 雅泰
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.1-11, 2014
被引用文献数
1

近年,社会調査における個人情報の保護に対する関心が高まっている.本稿では,日本における近年の社会調査環境の変化によってもたらされた個人情報保護の課題と新たなデータ収集法について解説することを目的とする.具体的には,①社会調査データを収集・管理するにあたって考慮すべき住民基本台帳法や公職選挙法のような法制度の変化や調査倫理,①個人情報そのものを取り扱うことなく調査データを収集できるインターネット調査データや公開データの仕組みのようなデータ収集法の活用可能性に着目した.
著者
埴淵 知哉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100014, 2011 (Released:2011-11-22)

本研究では、不動産広告に表現される情報を材料として、軍港都市・横須賀の場所イメージの構造とその変遷を「住」の側面から明らかにする。広告内に表現される場所イメージは、特定の目的に沿って生産された選択性の高い情報と考えられるため、そこに含まれる「偏り」の中に、価値や評価の構造を読み取ることができる。そこで本研究では、場所イメージの生産者が、消費者に対してどのような情報を提示してきたのかを分析し、その中で軍港都市の諸要素がいかにかかわっていたのか、あるいはいなかったのかを検討する。不動産広告を収集する資料としては、『朝日新聞縮刷版』の朝刊を用い、1940~2009年の70年間を対象期間とした。季節性と曜日を考慮しながら、一定の基準に従ってサンプリング(抽出率約10%)をおこなったうえで、抽出した新聞記事の中から、横須賀市内に立地する物件の不動産広告を収集した。作業の結果、合計で150件の広告が資料として得られた。分析においては、まず、不動産広告における文字情報に着目し、場所イメージが言語的表現を通じてどのように書かれているのかを探った。具体的には、キーワードの出現頻度を集計し、場所イメージに関する内容分析をおこなった。その結果、横須賀市内に立地する住宅地の不動産広告からは、基本的に「軍港都市」と関連する場所イメージは、少なくとも直接的には抽出されなかった。出現頻度の高かった「海」「高台」「丘陵」といったキーワードは、横須賀が港湾都市として発展してきた地形条件を表現しているともいえるが、それはむしろ「景観・風景」「眺望・見晴らし」といった一般的に好ましいイメージに結び付けられており、抽象的な自然物として表現されていると考えられた。次に、広告内の視覚的表現として地図・図像データを取り上げ、軍港都市の各種施設や地物がどのように描かれるのか/描かれないのかに注目しながら、場所イメージの描かれ方を分析した。その結果、文字情報と同様に、地図・図像においても軍港都市の要素は基本的に描かれていなかった。例えば、イラストとして表現された海や港も、軍港としてではなく、レジャーを連想させるものとして描かれていた。このように、不動産広告において表現される横須賀の場所イメージには、軍港都市の要素はほとんどみられず、それは住宅地のイメージを商品化するうえで意図的に除外されていたものと推察される。
著者
村中 亮夫 埴淵 知哉 竹森 雅泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.1-11, 2014 (Released:2014-09-17)
参考文献数
32
被引用文献数
2 1

近年,社会調査における個人情報の保護に対する関心が高まっている.本稿では,日本における近年の社会調査環境の変化によってもたらされた個人情報保護の課題と新たなデータ収集法について解説することを目的とする.具体的には,①社会調査データを収集・管理するにあたって考慮すべき住民基本台帳法や公職選挙法のような法制度の変化や調査倫理,①個人情報そのものを取り扱うことなく調査データを収集できるインターネット調査データや公開データの仕組みのようなデータ収集法の活用可能性に着目した.
著者
埴淵 知哉
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は,世界都市システム研究に関する包括的なレビューをおこなった.これまでは,NPO/NGOといった非営利・非政府組織を取り上げ,その空間組織やネットワーク,また地域との関係性などについて,インタビュー調査を中心とした質的調査を用いた研究を進めてきた.本年度は,これらを都市システム研究の再構築に結びつけるという問題意識から,近年の世界都市システム研究の展開を包括的に整理し,さらにこれまでの事例研究の成果を踏まえ,今後の方向性を議論した.近年のグローバル化の進展に伴い,世界全体を視野に入れた都市システムが注目されるようになり,とりわけ1990年代後半以降は,理論的検討や仮説提示に加えて本格的な実証研究も進められるようになった.この研究領域を切り開いたのは,GaWCという研究グループである.そこでまず,GaWCが想定する基本的な都市システム概念を抽出した.第一に,世界都市が他の世界都市との関係性の中において成立するという世界都市概念の転換を指摘し,第二に,領域的な国民国家のモザイクに対して,世界都市のネットワークというオルタナティブなメタ・ジオグラフィーを提示するというGaWCの根本的な問題意識を示した.続いて,急速に研究が進みつつある実証研究を整理し,連結ネットワークモデルや社会ネットワーク分析などの手法,グローバル・サービス企業などの関係性データを中心としながら,さまざまな手法・指標によって,多元的な世界都市システムが実証的に描き出されてきた点を明らかにした.そして今後の方向性として,NPO/NGOが企業・政府に対するオルタナティブな組織として,グローバル化時代の都市システム再構築に寄与しうる可能性を提示し,このような組織の観点を明示的に都市システム研究に取り入れる道筋を示した.