著者
大場 武
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.204-207, 2020-05-20 (Released:2021-05-01)
参考文献数
8

水蒸気噴火は一般に小規模な噴火である場合が多いが,致命的な被害をもたらす可能性がある。水蒸気噴火の原因である熱水溜りから地表に漏れ出る火山ガスの化学組成変化をモニタリングすることにより,火山活動を評価することが可能になってきた。活動的火口湖における火山活動評価では,湖水の化学組成が有益な情報を与えることが示された。
著者
代田 寧 大場 武 谷口 無我 十河 孝夫 原田 昌武
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.783-796, 2021-12-25 (Released:2022-01-28)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

Earthquake swarms have occurred with volcanism repeatedly at Hakone volcano in Kanagawa prefecture, Japan. In 2015, a phreatic eruption took place about two months after the start of an earthquake swarm. Hakone volcano is a popular tourist destination. If it is possible to forecast at the early stages of an earthquake swarm whether or not an eruption will occur, the forecast could contribute to preventing disasters involving tourists. At Hakone volcano, increases in the ratio of components (CO2/H2S) contained in the volcanic gas from fumaroles were observed in synchronization with earthquake swarms and ground deformation in 2013 and 2015. Similar increases in CO2/H2S ratio were also observed in 2017 and 2019, although the increases in the CO2/H2S ratio in 2017 and 2019 were not as sharp as those in 2013 and 2015. Furthermore, the maximum values of the CO2/H2S ratio in 2017 and 2019 were lower than the values in 2013 and 2015. These differences in the CO2/H2S ratio may be related to the limited and smaller scale of volcanic activity in 2017 and 2019 relative to 2013 and 2015. Another explanation for the difference is a possible irreversible change in the underground structure of the Owakudani area, which is a geothermal area around Hakone volcano, because the phreatic eruption took place in the Owakudani area in 2015. During all four seismically active periods in 2013, 2015, 2017, and 2019, the CO2/H2S ratio decreased simultaneously with decreases in the number of volcanic earthquakes. The lower limit of CO2/H2S ratios after the peak of the CO2/H2S ratio time series was about 20 in all periods. This implies that subsequent unrest would not start until the CO2/H2S ratio drops to about 20. The CO2/H2S ratio might be an effective tool for forecasting activity at Hakone volcano. During the active periods in 2013, 2015, 2017, and 2019, extensions of the baseline across Hakone volcano were observed by GNSS with increases in the CO2/H2S ratio. A good correlation was found between the extensional velocity of the baseline length and the increasing rate of the CO2/H2S ratio. These variations could be examined at the early stage of unrest. The findings argue that the CO2/H2S ratio is a promising tool for predicting and evaluating volcanic activity at Hakone volcano.
著者
大場 武
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

火山ガスはマグマに溶存していた揮発性成分から構成され,火山噴火がマグマから揮発性成分が抜けることを駆動力としていることを考えれば,その観測は火山噴火メカニズムの解明に必須であると言える.しかしながら,火山ガスを火口で直接採取することは危険を伴う.その危険を回避する手段として,大気に拡散した火山ガスによる自然光の紫外域,赤外域での吸収を利用する遠隔観測が実用化されている.しかし自然光の光吸収による観測は,SO_2,HCl, CO_2など,限られた気体のみに可能である.火山ガスの重要な成分であるH_2,H_2Sに光吸収法は適応できない.本研究で試みた遠隔観測の手法では,火山ガスにレーザービーム光を照射し,後方散乱するラマン光を観測することにより化学種の特定と濃度の推定を行う.この手法は,ごく一部の気体を除き,火山ガスを構成する主要な気体を全て感知することが原理的に可能である.実験は,532nm cw 0.6Wレーザー発振器,25cmニュートン式反射望遠鏡,CCDマルチチャンネル光ファイバー入力分光器を購入し,組み立てることにより実施した.実験では,レーザービームを夜空に向けて照射し,後方散乱する光を望遠鏡で集光し,分光器でそのスペクトルを観測した.分光器の仕様により露光時間は1分間に限られた.その結果,大気を構成するN_2ガスのラマン散乱光の検出に成功した.しかN_2以外の気体のラマン光強度は,ノイズ光強度以下であった.本研究の結果,実際の火山ガスに応用するために以下の改善が必要であるいえる.それは,レーザー出力の増強,分光器の感度向上,望遠鏡の集光力の増大である.結論として,最終的な目標への道のりは遠いものの,本手法の成功がもたらす革新的な観測能力の向上を考えれば,継続的に発展的な研究を続ける意義があると考えられる.
著者
大場 武
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2019年度日本地球化学会第66回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.120, 2019 (Released:2019-11-20)

Giggenbach (1986)は,ニュージーランド,ホワイトアイランドの火山ガスを詳細に研究し,火山ガス(噴気)にはマグマに直接由来する成分(マグマ成分)と,熱水系に由来する成分(熱水系成分)が共存していることを発見した.Ohba et al (2019)は,箱根山で噴気を繰り返し採取し,マグマ成分と熱水系成分の比率が火山活動と相関して変動することを見出した.本論文では,箱根山における結果を中心に,マグマ成分と熱水系成分の比率の変動と,火山活動評価への応用を紹介する.
著者
大場 武 谷口 無我 代田 寧
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2017年度日本地球化学会第64回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.141, 2017 (Released:2017-11-09)

箱根山,草津白根山,霧島硫黄山で,火山ガス組成と地震活動の間に調和した傾向が見られた.これは火山ガス観測が火山活動の評価に有用であることを証明している.観測頻度の高い箱根山では群発地震の前兆もとらえることができた.火山における地震は,地殻内の流体圧の上昇により起きると考えられる.流体圧の上昇を引き起こすのがマグマから脱ガスした揮発性成分であり,それを成分として含有する噴気を観測することは,火山活動を評価する近道である.一方で,火山ガスの観測はいまだ人手に頼っており,火山ガスを本格的に火山活動評価に用いるには観測の自動化は避けて通ることができない.
著者
谷口 無我 村松 容一 千葉 仁 大場 武 奥村 文章 山室 真澄
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2013年度日本地球化学会第60回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.69, 2013 (Released:2013-08-31)

甲府盆地北東部の花崗岩体周辺では、近年、深部掘削による温泉開発が盛んに行われてきた。温泉の新規掘削や既存源泉の保護には、温泉水の起源や泉質形成機構を解明することが不可欠である。本研究では、当該地域に分布する非火山性温泉水を採取し分析するとともに、水-鉱物相互作用の化学平衡論による検証を実施し、温泉水の起源と泉質形成機構を考察した。温泉水のδD, δ18O値の特徴はいずれの温泉水も天水が起源であること示唆した。温泉水の泉質は、花崗岩地域では曹長石の風化に起因したNa-HCO3型であり、火山岩類の分布地域では曹長石の風化のほかに硬石膏の溶解、およびモンモリロナイトによるイオン交換作用が寄与し、Na-HCO3型、Na-SO4型、Na-HCO3・SO4・Cl型、Ca-SO4型と多様な泉質を示すと考えられた。
著者
大場 武 平林 順一 野上 健治
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2006年度日本地球化学会第53回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.247, 2006 (Released:2007-11-01)

草津白根山の火口湖湯釜の化学組成経年変化からマグマの脱ガスモデルを提案する.1966年から1981年までは,マグマを取り囲むように形成された熱水二次鉱物からなるシーリングゾーンが成長し,マグマから放出されるSやClの流量は漸減しつつあった.1982,83年の噴火の際は,シーリングゾーンが破壊し,一部は熱水に再溶解し,火口湖に供給され,湖水の硫酸イオン濃度が上昇した.1990年には破壊されたシーリングゾーンを貫いて地下水が冷却しつつあるマグマに浸入し,マグマに残存していたClを熱水に抽出した.このためにClに富んだ熱水が発生し,火口湖に供給され,塩化物イオン濃度の上昇を引き起こした.
著者
小坂 丈予 小坂 知子 平林 順一 大井 隆夫 大場 武 野上 健治 木川田 喜一 山野 眞由美 油井 端明 福原 英城
出版者
日本地球化学会
雑誌
地球化学 (ISSN:03864073)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.119-128, 1997
被引用文献数
7

Geochemical study on Yugama, a crater lake at Kusatsu-Shirane volcano, has been conducted since 1966. Amounts of various cationic species in Yugama water started increasing around 1981, slightly before the phreatic eruptions in 1982-1983, and kept increasing until 1985. In 1986, they turned to decrease and at present restore their former levels before the eruptions. The concentration of sulfate ion showed a secular change similar to those of cationic species, but no such variation was observed for chloride ion even during the 1976 and 1982-1983 eruptions. However, it started increasing in 1989. A high correlation between the concentrations of chloride and hydrogen ions suggests an increasing influx of hydrogen chloride from the deep volcanic systems under the lake. A Cl<sup>-</sup>-SO<sub>4</sub><sup>2-</sup> is an excellent monitor of the variation in volcanic activity at Kusatsu-Shirane volcano; all of the three past activities since 1966, i.e., the high-level subsurface activity in 1968, the eruption in 1976 and the eruptions in 1982-1983, showed a reverse secular change with time in the Cl<sup>-</sup>-SO<sub>4</sub><sup>2-</sup> plot. This could be attributable to the function of Yugama water as a condenser of volatiles released underground.