- 著者
-
太田 健一
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, pp.117, 2004
1.はじめに大雪山国立公園では,近年の登山ブームによる登山客の増加により,土壌侵食による登山道の荒廃が問題となっている.これまで,後藤(1993),渡辺・深澤(1998),沖(2001)らの研究によって登山道における土壌侵食のメカニズムや,侵食に影響を与える環境因子との関係が解明されてきた.それにより,登山道のきめ細かな維持管理の必要性が議論されるようになった(沖,2001)が,国立公園内全域に渡る登山道の現状把握調査や適切な侵食対策に関する議論はまだ行われていない.そこで本研究では,大雪山国立公園の中でも多くの登山者が利用すると思われる,旭岳,間宮岳,裾合平,沼の平,愛山渓を結ぶ登山道の侵食状況を明らかにし,適切な侵食対策について考察を行った.2.調査地と方法調査地である大雪山国立公園は,北海道の中央に位置し,総面積226,764 haにおよぶ日本最大の国立公園である.調査は2003年8月_から_9月にかけて行った.調査対象地域は,旭岳ロープウェイの終着駅がある姿見を起点として,姿見_-_旭岳山頂_-_裾合平_-_間宮岳山頂_-_沼の平_-_愛山渓を結ぶ登山道約12 _km_とした.この登山道は標高1230 mから2185 mに位置する.この登山道上のほぼ100 mおきにプロットを設置し,各プロットにおいて登山道の両側にアルミアングルを打ち込み,登山道の形状を測量した,測量は,近年,注目を浴びているデジタル写真測量を行った.これは,写真測量の応用で,_丸1_市販のデジタルカメラを用いて被写体を2方向から写しこみ,_丸2_得られたステレオ写真を三次元計測ソフトに入力し三次元座標計算を行い,_丸3_登山道の三次元モデルを作成して断面図を出力し,断面積を求める,という方法である.この測量法は,_丸1_ある区間の侵食量を体積で示せる,_丸2_高い精度が期待できるという利点がある.本研究では,多くの三次元計測ソフトの中でも最も信頼性が高いといわれている倉敷紡績株式会社製の三次元計測システムKuraves-Kを使用した.次に,現地踏査および地形図を用いて登山道が位置する斜面形を谷形斜面,平滑斜面,尾根形斜面の3タイプに区分し,さらに登山道の横断面形をその形態的特徴から平型,ガリー型,谷型,複合型の4タイプに区分した,3.結果と考察 調査の結果,AからHまでの8コース計108地点についてステレオ写真が得られた.それより,Kuraves-Kを用いて各プロットの侵食量を求めた.侵食量は,登山道の両側にあるアルミアングル同士を結んだ線を中心として,登山道の平面図上にアングル幅×1 mの方形区を想定し(図),方形区内における登山道側面の植生と裸地の境界から下の部分の体積を登山道の侵食量として算出した.その侵食量は最大で3453657.4 _cm_<sup>3</sup>(裾合平,D-10),最小で1248.6 _cm_<sup>3</sup>(沼の平,G-10)であった.B,C,Dコース(裾合平_-_間宮岳)において侵食量が大きく,A,Gコース(旭岳,沼の平)において侵食量が小さい傾向が示された.また,コースごとに登山道幅と侵食度合い(侵食量/断面積)を平均し散布図を作成したところ,F,Hコースは登山道幅が狭いにもかかわらず侵食を受ける強度が強く,B,Cコースは登山道幅が広い上にある程度の侵食を受けやすいことが示唆された.これらの登山道には早急な対応策が必要である.