著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 片野 晶子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.38-53, 2010 (Released:2010-04-16)
参考文献数
72
被引用文献数
24 9

本研究の目的は, 日本語話者の発達性読み書き障害児における視覚情報処理過程を体系的に評価し発達性読み書き障害の背景となる認知障害構造を明らかにすることである. 対象は日本語話者の発達性読み書き障害児20名と定型発達児59名である. 視機能, 視知覚, 視覚認知機能および視覚性記憶機能を測定, 評価した. 本研究の結果から, 視機能の問題は読み書きの正確性に大きな影響を与えないのではないかと思われた. 線分の傾き知覚と視覚性記憶機能は本研究で対象とした発達性読み書き障害児全例で低下していた. 視知覚と関連のあるvisual magnocellular systemとvisual parvocellular systemを検討した結果, 双方の視覚経路で機能低下を認める発達性読み書き障害児が20名中8名いた. 日本語圏の発達性読み書き障害児は海外での報告とは異なり2つの視覚経路の問題を併せもつことが多いのではないかと思われた.
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.267-271, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
21
被引用文献数
3 1

発達性ディスレクシアでは, 読みだけの障害例は 40 年近く報告されていない。音読だけでなく書字にも障害が認められることから発達性読み書き障害と翻訳されることが多い。その背景となる認知障害について, 英語圏での音韻障害仮説を中心とする報告および他言語における共通点と相違点について解説し, 日本語話者の発達性ディスレクシア 84 名のデータに関して解説した。その結果, 日本語話者の発達性ディスレクシア児童・生徒の 65% 以上は複数の認知障害の組み合わせで生じており, 音韻障害のみが背景と思われる群は 20% 以下であり, 音韻障害のない群は 20% 以上とむしろ音韻障害を認めない発達性ディスレクシア例が多いことが分かった。
著者
宇野 彰
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.170-176, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

発達性読み書き障害 (Developmental Dyslexia: DD) は, 直訳すると発達性読み障害だが後天性のdyslexia とは異なり, 読めなければ書けないので, 発達性読み書き障害と翻訳されることが多い。DD は, (知能や) 年齢から推定される読み書きの習得度と乖離がある低さが認められ, 環境要因では説明ができない障害である。すなわち, 診断評価としては, 知能検査, 読み書きの学習到達度, および文字習得にかかわる認知能力の3 種類が必要となる。出現頻度は言語の種類によって影響され, 「読み」に関しては文字列から音韻列への変換の規則性が不規則な英語では出現頻度が高いと考えられる。すなわち, 同じ能力であってもどの言語を用いるかによって, 読み書きに関する習得度が変化することになる。DD の生物学的な原因としては, 異所性灰白質や小脳回などが観察されていることから, 細胞遊走の異常が仮説としては有力である。これら生物学的原因によって, 音韻, 視覚認知, 自動化, などの認知障害が生じ文字習得に困難さを生じると考えられる。訓練法については, 日本語では症例シリーズ研究法により科学的根拠にもとづいた効果のある方法が2 種報告されている。
著者
谷 尚樹 後藤 多可志 宇野 彰 内山 俊朗 山中 敏正
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.238-245, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

本研究では,発達性ディスレクシア児童23名と典型発達児童36名を対象に,2種類の書体を用いた速読課題を実施し,書体が速読所要時間,誤読数,自己修正数に与える影響を検討した.刺激は,表記(漢字仮名混じりの文章,ひらがなとカタカナで構成された無意味文字列)と書体(丸ゴシック体,明朝体)の2×2の合計4種類である.実験参加者には,4種類の刺激を速読してもらった後,どちらの書体を主観的に読みやすいと感じたか口頭で答えてもらった.その結果,発達性ディスレクシア児童群と典型発達児童群の双方において,書体間の速読所要時間,誤読数,自己修正数に有意差は認められなかった.主観的には,発達性ディスレクシア児童群では丸ゴシック体を読みやすいと感じる児童が多かった.本研究の結果からは,客観的評価と主観的評価は異なり,丸ゴシック体と明朝体の書体の違いによる正確性と流暢性に関する「読みやすさ」の指標は見出せなかった.
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 後藤 多可志 粟屋 徳子 狐塚 順子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.171-179, 2015 (Released:2015-05-21)
参考文献数
25
被引用文献数
15 2

ひらがな,もしくはカタカナ1モーラ表記文字に関して1年間以上習得が困難であった発達性読み書き障害児36名を対象として,音声言語の記憶力を活用した訓練方法を適用した.全例全般的知能が正常で,かつReyのAVLT (Auditory Verbal Learning Test)の遅延再生課題にて高得点を示していた小学生である.また,訓練開始前に練習をするとみずからの意思を表明していた児童,生徒である.訓練は,次に示す3段階にて実施した.すなわち,1)50音表を音だけで覚える,2)50音表を書字可能にする,3)文字想起の速度を上げる,であった.また,4)児童によっては拗音の音の分解練習を口頭で実施した.その結果,平均7週間以内という短期間にて,ひらがなやカタカナの書字と音読正答率が有意に上昇し,平均98%以上の文字が読み書き可能になった.さらに,1年後に測定したカタカナに関しては高い正答率が維持され,書字の反応開始時間も有意に短縮した.今回の症例シリーズ研究にて,良好な音声言語の記憶力を活用した練習方法の有効性が,正確性においても流暢性においても示されたのではないかと思われた.
著者
山川 恵子 伊藤 憲治 湯本 真人 宇野 彰 狩野 章太郎 加我 君孝
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.103, no.658, pp.19-24, 2004-02-12
参考文献数
9

縦書き・横書きの表記形式の単語、シンボル、ラインを中心視野に提示し、視覚誘発脳磁場の比較を行った。全頭および左右側頭部の被験者全員分のRMS (Root Mean Square) を算出し、およそ5ms毎に縦・横×刺激の種類(2×3)の分散分析を行い、条件ごとの反応に有意差がみられるかを検討した。単語の処理においてのみ出現する反応として、(1)180-200ms、(2)250msあたり、(3)370msあたりをピークとする三つの成分(N180、RP、P300)が共通して確認された。どの成分においても単語刺激では縦書きの反応が横書きよりも一貫して強く、縦書き文字の処理は横書きに比べ何かしらの高度あるいは困難な過程が含まれることが示唆された。縦書き・横書き文字の脳内の認知処理における本質的な違いが示唆され、これまでの研究で議論されてきたような読みにおける縦書きの効率の悪さは、サッケードや眼球運動によってのみ起因するものではない可能性が示された。
著者
佐野 洋子 宇野 彰 加藤 正弘 種村 純 長谷川 恒雄
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.323-336, 1992 (Released:2006-06-23)
参考文献数
30
被引用文献数
12 11

発症後3年以上を経過した失語症者72名にSLTAを施行し,いわば到達レベルの検査成績を,CT所見により確認した病巣部位と発症年齢の観点から比較検討した。SLTA評価点合計の到達レベルは,基底核限局型病巣例,前方限局損傷症例が高い値を示し,これに後方限局損傷例が続き,広範病巣例と基底核大病巣例は,最も低い値であった。発症年齢が40歳未満群は,軽度にまで改善する症例が多い。40歳以降発症例と,未満発症例で,到達レベルに有意な差が認められたのは,広範病巣例と,後方限局損傷例であった。前方限局損傷では,発症年齢での到達レベルの有意差はみられず,失語症状はいずれも軽減するが構音失行症状は残存する。これに対し,後方限局損傷例では,聴覚経路を介する課題や語想起の課題で発症年齢による到達レベルの差が認められる。このことから脳の,機能による可塑性が異なることが示唆される。また基底核損傷例は病巣の形状で到達レベルに差異が著しく,被殻失語として一括して予後を論ずることは難しい。
著者
粟屋 徳子 春原 則子 宇野 彰 金子 真人 後藤 多可志 狐塚 順子 孫入 里英
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.294-301, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
25
被引用文献数
12 3

発達性読み書き障害児に対し, 春原ら (2005) の方法に従って漢字の成り立ちを音声言語化して覚える学習方法 (聴覚法) と書き写しながら覚える従来の学習方法 (視覚法) の 2 種の漢字書字訓練を行い聴覚法の適用を検討した。対象は発達性読み書き障害の小学 3 年生から中学 2 年生の 14 名で, 全例, 全般的知的機能, 音声言語の発達, 音声言語の長期記憶に問題はなかったが, 音韻認識や視覚的認知機能, 視覚的記憶に問題があると考えられた。症例ごとに未習得の漢字を選択し, 視覚法と聴覚法の 2 通りの方法で訓練を行い, 単一事例実験研究法を用いて効果を比較した。その結果, 2 例では両方法の間の成績に差を認めなかったが, 12 例では聴覚法が視覚法よりも有効であった。この 12 例はいずれも, 視覚的認知機能または視覚的記憶に問題を認めた。この結果は, 聴覚法による漢字書字訓練の適用に関する示唆を与えるものと思われた。
著者
三盃 亜美 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.218-225, 2018 (Released:2018-09-15)
参考文献数
11

本研究では,発達性ディスレクシアのある児童生徒(ディスレクシア群)を対象に,漢字を刺激とした文字/非文字判別課題と語彙判断課題を行い,定型発達児童生徒(定型発達群)の成績と比較して,視覚的分析と文字入力辞書の発達を検討した.文字/非文字判別課題では,実在字刺激に対してディスレクシア群と定型発達群の正答率に有意差は見られなかったが,実在字と形態が類似する非実在字に対してディスレクシア群の正答率は定型発達群よりも有意に低かった.また語彙判断課題においては,実在語,同音擬似語,実在語と形態が類似する非同音非語に対して,ディスレクシア群の正答率は定型発達群よりも低かった.実在語と形態が類似していない非同音非語に対しては正答率に有意差はなかった.以上の結果から,本研究のディスレクシア群の視覚的分析と文字入力辞書は定型発達群ほど発達していないと考えられた.
著者
太田 静佳 宇野 彰 猪俣 朋恵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.9-15, 2018 (Released:2018-03-15)
参考文献数
5
被引用文献数
10 8

文字教育を行っていない幼稚園3園に在籍する年長児230名を対象に,国立国語研究所(1972)および島村,三神(1994)の調査と同様の方法で,ひらがな71文字についての音読課題,書字課題,拗音,促音,長音,拗長音,助詞「は」「へ」についての音読課題を実施し,現代の幼児のひらがな読み書き習得度について検討した.ひらがな71文字における平均読字数は64.9文字,平均書字数は43.0文字であり,島村,三神の調査結果と近似していた.また,本研究における71文字の音読,書字課題成績について,性別および月齢による違いを検討するため分散分析を行った結果,71文字の書字課題のみで性別の有意な主効果が認められ,男児に比べて女児の成績が高かった.月齢の影響はなかった.書字において女児の成績が男児の成績に比べて高かった点で,先行研究を支持していた.
著者
宇野 彰 猪俣 朋恵 小出 芽以 太田 静佳
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.260-264, 2021-09-30 (Released:2022-07-04)
参考文献数
9

本研究では, ひらがな音読に焦点を当て, ひらがな習得困難児の出現頻度, 年長児の習得度, 年長児への指導の効果, 年長時に習得が困難だった幼児の追跡調査結果を報告する。その結果, ひらがな音読困難な小学生児童は 0.2% ( ひらがな書字に関しては 1.4% ) であった。年長児では, 70% 以上の幼児が拗音以外の 71 文字のうち 1 文字読めないだけか, 全て読むことができた。年長児を対象に, ひらがな音読成績を従属変数とした重回帰分析の結果, 認知能力のみが有意な予測変数であり, 環境要因は有意な貢献を示さなかった。別な集団でも同様の結果であった。また, 介入研究として統制した指導をしても, 指導群と非指導群との成績間に有意な差が認められなかったことから, 年長児へのひらがな指導は効果的ではないと思われた。この結果も別の集団にて再現性が認められた。しかし, ひらがな習得度の低い年長児の 90% は小学1 年時の夏休み直後に追いついていたことから, ひらがな習得に関するレディネスはそのころに完成するのではないかと思われた。
著者
川田 三四郎 神藤 修 落合 秀人 飯野 一郎太 宇野 彰晋 深澤 貴子 稲葉 圭介 松本 圭五 鈴木 昌八
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.619-622, 2015-07-31 (Released:2015-10-31)
参考文献数
8
被引用文献数
2

今回われわれはPress Through Package(以下,PTP)誤飲による消化管穿孔の2症例を経験した。【症例1】87歳女性。心窩部痛を主訴に受診。腹部CTで十二指腸にPTPと思われる高吸収構造と遊離ガス像を認めた。PTP誤飲による十二指腸穿孔を疑い,上部消化管内視鏡検査で,十二指腸水平脚にPTPを確認,摘出しクリップで閉鎖したが治癒に至らず,第48病日に十二指腸・空腸部分切除術を施行した。【症例2】60歳女性。上腹部痛で発症し,CTで遊離ガス像を認め消化管穿孔の診断で当院に搬送された。当院で再検したCTでも異物を指摘できず,穿孔部の同定も困難であった。緊急手術で,Treitz靱帯から240cmの回腸に穿孔部を認めPTPの一部が露出していた。【考察】消化管穿孔の原因としてPTPの誤飲も念頭におく必要がある。PTPは材質によりCTで描出されない場合があることを考慮し,画像診断すべきである。
著者
浜田 千晴 宇野 彰
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.156-164, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
39
被引用文献数
1

小学1年生173名を対象に,ひらがな特殊表記の音読および書字の習得度とそれらに影響する認知能力を検討した.刺激は促音,拗音,長音,撥音の各表記を含む単語(特殊表記単語)と非語ならびに清音,濁音,拗音,撥音のかな1モーラ表記文字とした.典型発達児の音読において,拗音表記文字では頻度効果が認められ,単語では促音および拗音表記の正答率は長音および撥音表記に比べて有意に低かった.また,書字において,単語では促音表記の正答率が最も低く,次いで,拗音と長音表記は撥音表記に比べて有意に低かった.重回帰分析の結果,単語音読には単語逆唱と図形模写と語彙,単語書字には特殊表記単語の音読成績と非語復唱と図形直後再生が有意な予測変数として示された.小学1年生における特殊表記単語の音読には音韻処理能力,視覚認知能力,語彙力が影響し,書字には音読力の影響が示唆された.
著者
蔦森 英史 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志 片野 晶子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.167-172, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
20
被引用文献数
6 2 7

発達性読み書き障害は複数の認知的要因が関与しているとの報告がある (Wolf, 2000;宇野, 2002;粟屋, 2003) . しかし, 読み, 書きの学習到達度にそれぞれの情報処理過程がどのように影響しているのかはまだ明確になっていない. 本研究では全般的な知能は正常 (VIQ110, PIQ94, FIQ103) だが漢字と英語の書字に困難を示した発達性書字障害例について報告する. 症例は12歳の右利き男児である. 要素的な認知機能検査においては, 日本語での音韻認識力に問題が認められず, 視覚的記憶力のみに低下を示した. 本症例の漢字書字困難は過去の報告例と同様に, 視覚性記憶障害に起因しているものと考えられた. 英語における書字困難の障害構造については, 音素認識力に関しては測定できなかったが, 日本語話者の英語読み書き学習過程および要素的な認知機能障害から視覚性記憶障害に起因する可能性が示唆された.
著者
狐塚 順子 宇野 彰 北 義子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.131-137, 2003-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

モヤモヤ病術後の脳梗塞により左大脳後部に病巣を認め, 新造語, 錯語を呈した小児失語の1症例について, 呼称における誤反応の継時的変化を検討した.SLTAの呼称においても, 訓練時使用したすずき絵カードの呼称においても, 発症から時間が経つにつれ, 誤反応における新造語と語性錯語, 字性錯語の占める割合が減少した.これらの経過から, 本症例では意味処理過程も音韻処理過程も改善したのではないかと推察された.また小児失語症では新造語や錯語の報告は少なく, 新造語は発症のごく初期に限られ, その特有な経過は頭部外傷に関係するとされているが, 本症例では脳梗塞が原因で, 発症約1年後でも呼称において新造語が出現したことから, 成人失語症例と同様, 脳血管障害であっても新造語は生じ, かつ慢性期においても残存する可能性が考えられた.流暢性失語症である本症例の病巣は左大脳後部病変であったことから, 成人例での損傷部位と流暢性に関する対応関係が, 小児失語症例においても認められるのではないかと思われた.
著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.187-194, 2014 (Released:2014-09-05)
参考文献数
26

本研究では,日本語話者の発達性読み書き障害児群を対象に有色透明フィルム使用が音読速度に与える影響を,明るさを統制しない場合の色の要因に焦点を当てて検討した.対象は8~14歳の発達性読み書き障害児と典型発達児,各12名である.音読課題(ひらがな,カタカナの単語と非語および文章)をフィルム不使用条件,無色透明フィルム使用条件および有色透明フィルム使用条件の3条件で実施し,音読所要時間を計測した.実験手続きは後藤ら(2011)に従ったが,有色および無色透明フィルム使用時に低下した刺激の表面照度の補正は行わなかった.両群ともに,所要時間はすべての音読課題において3条件間で有意差は認められなかった.明るさを統制しない場合でも有色透明フィルムの使用は発達性読み書き障害児の音読速度に影響を及ぼさない可能性が考えられた.
著者
宇野 彰
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.351-358, 2017-06-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
22

本稿では,DSM-5の限局性学習障害(症)に関して,定義に基づくアセスメントの条件,下位分類,手法別アセスメントについて概説し,次に全般的知能,読み書きの習得度検査,文字習得の背景となる認知能力である音韻能力,自動化能力,視覚認知能力,語彙力,最後に指導に必要な支援につながる検査について,主に「読み書き」に関して解説した。限局性学習症のアセスメントは,自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症とは異なり,より客観的な尺度を用いた検査を用いることにより診断評価が可能であること,診断評価のためには学習(読み書き,計算など)の到達度検査や,環境要因を除外するための認知検査が必要であることを述べた。科学的根拠に基づいた効果のある指導を行うために必要な検査法についても言及した。
著者
宇野 彰 金子 真人 春原 則子 松田 博史 加藤 元一郎 笠原 麻里
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.130-136, 2002 (Released:2006-04-24)
参考文献数
33
被引用文献数
23 13

発達性読み書き障害について神経心理学的および認知神経心理学的検討を行った。はじめに, 読み書き検査を作成し健常児童の基準値を算出した。次に, 検査結果に基づいて 22名の発達性読み書き障害児を抽出し対象者とした。7~12歳までの男児 20名と女児 2名である。WISC-III, もしくは WISC-Rでの平均IQは 103.0, 言語性IQ 103.1, 動作性IQ 102.4であった。パトラック法による SPECTでは, 左側頭頭頂葉領域で右の同部位に比べて 10%以上の局所脳血流量の低下が認められた。音韻情報処理過程と視覚情報処理過程に関する検査を実施した結果, 双方の処理過程に問題が認められた児童が多かった。以上より, 発達性読み書き障害は局所大脳機能低下を背景とする高次神経機能障害であると思われ, 音韻情報処理過程の障害だけでなく, 少なくとも視覚情報処理過程にも障害を有することが多いと思われた。
著者
谷 尚樹 後藤 多可志 宇野 彰 内山 俊朗 山中 敏正
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.238-245, 2016
被引用文献数
1

本研究では,発達性ディスレクシア児童23名と典型発達児童36名を対象に,2種類の書体を用いた速読課題を実施し,書体が速読所要時間,誤読数,自己修正数に与える影響を検討した.刺激は,表記(漢字仮名混じりの文章,ひらがなとカタカナで構成された無意味文字列)と書体(丸ゴシック体,明朝体)の2×2の合計4種類である.実験参加者には,4種類の刺激を速読してもらった後,どちらの書体を主観的に読みやすいと感じたか口頭で答えてもらった.その結果,発達性ディスレクシア児童群と典型発達児童群の双方において,書体間の速読所要時間,誤読数,自己修正数に有意差は認められなかった.主観的には,発達性ディスレクシア児童群では丸ゴシック体を読みやすいと感じる児童が多かった.本研究の結果からは,客観的評価と主観的評価は異なり,丸ゴシック体と明朝体の書体の違いによる正確性と流暢性に関する「読みやすさ」の指標は見出せなかった.
著者
鈴木 香菜美 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 WYDELL Takeo N. 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-11, 2010-01-20
被引用文献数
3 5

本研究の目的は, 発達性読み書き障害児の診断評価の補助的な指標となる書字特徴を明らかにすることである. 対象は専門機関にて診断を受けた1年生から6年生の発達性読み書き障害児45名と, 定型発達児560名である. 小学生の読み書きスクリーニング検査のひらがな, カタカナ1文字と単語の書取課題にて分析した結果, 発達性読み書き障害児の書字特徴は, 特殊音節で誤りやすく, その誤りは学年が上がっても減少しにくい点, 低学年ではひらがなの単語よりも1文字で誤りが多い点, ひらがなに比べてカタカナの習得の遅れが著しい点であると思われた. 一方, 主に1年生から3年生でひらがな単語の心像性効果が両群で認められる可能性が示唆された. したがって, ひらがなやカタカナに関して1文字と単語双方の書取課題を実施し, これらから得られた書字特徴を確認することが発達性読み書き障害児の診断評価における補助的な指標となりうるのではないかと考えられた.