著者
伊藤 芳恵 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.52-58, 2017 (Released:2022-09-03)
参考文献数
25

機能性月経困難症は月経のある女性の約半数が経験する婦人科疾患で,激しい下腹部痛によりQOLの低下及び経済的損失が報告されている.本疾患の疼痛管理として経皮的電気刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation: TENS)の研究が報告されているが電極貼付部位は様々である.本研究の目的は機能性月経困難症に対するTENSの鎮痛効果を電極貼付部位に着目して調査することである.医師に機能性月経困難症と診断され,特に疼痛の強い女子学生2名を対象にTENSの介入研究を行った.調査期間は月経3周期とし,各周期でそれぞれ設定した電極部位の鎮痛効果を調査した.電極部位は,Th12/L1/L2とS2/S4デルマトームに電極を貼付する群(全髄節刺激),Th12/L1/L2デルマトームのみに電極を貼付する群(一部髄節刺激),無関係なL3/L4デルマトームに電極を貼付する群(非髄節刺激)とし,TENSの刺激は月経痛が強くなった時から60分間実施した. TENS前後にVisual Analog Scale(VAS)とMcGill Pain Questionnaire-Short Form(MPQ-SF)を測定した.VAS値は全髄節刺激で37.5±16.5 mm,一部髄節刺激で64.0±14.0 mm,非髄節刺激で18.0±7.0 mm低下した.MPQ-SF(情緒的項目)の改善が認められた.VAS値は一部髄節刺激,全髄節刺激で30.0 mm以上低下し,臨床的に重要な鎮痛が可能だった.MPQ-SFの結果より,鎮痛による精神的苦痛の改善が期待できる可能性がある.
著者
徳田 光紀 唄 大輔 藤森 由貴 亀口 祐貴 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.63-66, 2016 (Released:2022-09-03)
参考文献数
10

本研究の目的は大腿骨頚部骨折術後症例を対象に,術後翌日から電気刺激治療を併用しながら筋力強化運動を実施する電気刺激併用筋力強化法の効果を検討することである.大腿骨頚部骨折術後に人工骨頭置換術を施行した8名を対象に電気刺激併用筋力強化法群(ES群)4名とコントロール群4名に割り付けた.電気刺激併用筋力強化法は電気刺激治療器(ESPERGE)で患側の大腿四頭筋に対して二相性非対称性パルス波,パルス幅300 µs,周波数80 pps,強度は運動レベルの耐えうる最大強度,ON:OFF=5:7秒に設定して毎日20分間実施した.膝伸展筋力(患健側比),股関節JOAスコア,日常生活動作および歩行の自立するまでに要した日数を評価し,各群で比較した.ES群はコントロール群よりも筋力や股関節JOAスコアは早期に改善し,日常生活動作および歩行の自立も早かった.大腿骨頚部骨折後の人工骨頭置換術後症例に対する術後翌日からの電気刺激併用筋力強化法は,膝伸展筋力の改善や日常生活動作および歩行の早期獲得に効果的に寄与することが示唆された.
著者
小嶌 康介 生野 公貴 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.64-68, 2014 (Released:2022-09-03)
参考文献数
13

本研究の目的は脳卒中1症例にて部分免荷トレッドミル歩行訓練(BWSTT)と足関節背屈筋に対する随意運動介助型電気刺激(IVES)の併用治療の臨床有用性を検証することとした.対象は脳梗塞後左片麻痺を呈した59歳男性とした.研究デザインは各期4週間のABデザインを用い,8週間のフォローアップを行った.B期にBWSTTとIVESの併用治療を実施した.評価はFugl-Meyer Assessment(FMA),足関節背屈の自動関節可動域(A-ROM),膝伸展筋力,10 m歩行速度,2分間歩行距離(2MD)とした.FMA,10 m歩行速度はA期に最も改善した.膝伸展筋力はフォローアップに最も改善した.A-ROMと2MDはB期に最も改善した.機器設定は5分程度で可能で治療の受け入れは良好であった.A-ROMや2MDのB期の改善について本治療が足関節の随意性や歩行の協調性の改善に寄与したものと考えられた.本治療の臨床有用性は良好であった.
著者
大江 健人 瀧口 述弘 徳田 光紀 庄本 康治
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.929-933, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
29

〔目的〕脊椎圧迫骨折後疼痛患者1名への経皮的電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)が与える影響の検討.[対象と方法]80代女性,診断名は第2腰椎圧迫骨折であった.プラセボTENSをA期,通常のTENSをB期として1日ずつを交互に,計4日間実施した.TENS実施前後に安静時痛をVisual Analog Scale(VAS)で測定し,Timed up and Go test(TUG)とTUG後疼痛をVASで測定した.〔結果〕A期に比べB期では安静時痛VAS,TUG後疼痛VAS,TUGで大きな改善を示した.〔結語〕脊椎圧迫骨折後の症例においてTENSは疼痛と運動パフォーマンスの即時的改善に効果的な可能性が示唆された.
著者
徳田 光紀 庄本 康治 冨田 恭治
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.565-570, 2012 (Released:2012-12-05)
参考文献数
18
被引用文献数
6 1

〔目的〕肩関節術後症例に対する経皮的電気刺激治療(TENS)の効果を電極設置部位に着目して比較検討することである.〔対象〕肩関節術後症例12名とした.〔方法〕TENS前,中,後の電流知覚閾値(CPT),疼痛強度(VAS),関節可動域(ROM)を評価した.TENSの電極設置は,疼痛部位の皮膚分節領域と一致させる方法(電極設置A)と一致させない方法(電極設置B)で実施した.〔結果〕電極設置Aでは,電極設置BよりもTENS中,TENS後に有意なCPTの上昇やVASの減少を認めた.また,ROMはどちらの電極設置でも改善された.〔結語〕肩関節術後症例に対するTENSは,疼痛部位の皮膚分節領域上に電極設置部位を一致させると効果的である.
著者
梛野 浩司 中村 潤二 三ツ川 拓治 生野 公貴 徳久 謙太郎 岡田 洋平 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P2206, 2009

【目的】高齢者の転倒・転落は寝たきりの原因となるため重要視されている.転倒に関わる因子は内的因子と外的因子に分類され、さまざまな報告がなされている.近年、Functional Reach Test(FRT)は簡便に使用できるため高齢者の転倒予測ツールとして用いられている.しかし、FRTは前後方向のバランスを測定しているのみである.転倒に関する調査によると、後側方への転倒で大腿骨頸部骨折のリスクが3~6倍になることが示されている.このことから、前後方向へのバランスだけでなく側方へのバランスが危険な転倒を予測する因子として重要であると考えられる.そこで今回、我々は健常高齢者を対象に側方へのバランス指標として坐位での側方リーチ距離を測定し、転倒との関係について調査したので報告する.<BR><BR>【方法】対象はN県U市の転倒予防教室に参加した健常高齢者74名(男性35名、女性39名、平均年齢76.2±5.9歳)とした.全参加者に対して事前に測定の目的を説明し同意を得た上で測定を行った.測定項目は、FRTおよび坐位側方リーチ距離とした.その他、過去1年間の転倒の有無および複数回転倒の有無についてアンケート調査を行った.FRTはDuncanらのスライド法に準じて行った.坐位側方リーチについては、測定機器としてハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と、40cm台を用いた.測定方法は、開始肢位を40cm台上端座位、リーチ側上肢を90°外転位とし、最大リーチを行うよう指示した.アンケート調査の結果より対象者を転倒なし群、1回転倒群、複数回転倒群の3群に分けFRTと座位側方リーチ距離について比較を行った.また、FRTと坐位側方リーチ距離との関連性についても検討した.統計解析はKruskal-Wallis検定を使用し、有意差を認めた場合には多重比較検定を行った.FRTと坐位側方リーチ距離との関連性についてはピアソンの積率相関係数を求めた.有意水準はp<0.05とした.<BR><BR>【結果】アンケート調査の結果、転倒なし群54名、1回転倒群11名、複数回転倒群7名であった.FRT(p=0.085)では3群間に有意な差を認めなかった.坐位側方リーチ距離(p=0.035)では有意な差を認め、多重比較検定では複数回転倒群が他の2群よりも有意に低値を示した.FRTと坐位側方リーチとの関連性はr=0.123と低い相関関係であった.<BR><BR>【考察】今回の結果では、FRTでは複数回転倒群と転倒なし群で差を認めなかったことに対し、坐位側方リーチ距離では有意な差を認めたことから、複数回転倒する可能性のある高齢者を簡便に抽出することができる可能性が考えられた.身体の平衡機能には様々な要因が関わっているが、FRTと坐位側方リーチ距離において弱い相関関係しか認められなかったことから、坐位側方リーチ距離とFRTとでは異なった機能を評価できるものと考えられた.坐位側方リーチ距離は体幹機能をより反映しているものと考えられ、転倒に対する体幹機能の重要性が考えられた.
著者
三ツ川 拓治 中村 潤二 生野 公貴 徳久 謙太郎 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O3029, 2010

【目的】脳卒中片麻痺患者の歩行能力や日常生活動作(ADL)の獲得には様々な因子が関与している。特に体幹機能は、四肢の随意運動時の身体近位部の固定などに関与するため重要であるといわれている。しかし、歩行能力やADLと下肢機能との関連を報告したものは多いが、体幹機能との関連を報告しているものは少ない。先行研究では、既存の体幹機能評価法であるTrunk Control Test(TCT)とTrunk Impairment Scale(TIS)が、歩行能力とADLに関連していることが報告されており、その中でもTISのほうがより脳卒中片麻痺患者の歩行能力と関連していることが示唆されている。しかし、TISは項目数が多く、評価に時間を要する。そこで我々は、体幹での制御を必要とし、座位での側方へのリーチ距離を測定する座位側方リーチテスト(Sit-and-Side Reach Test;SSRT)を考案した。SSRTはTCTやTISとの妥当性が示されており、脳卒中片麻痺患者の体幹機能を評価することのできる新しい指標であると考えられる。そこで、本研究では新しい体幹機能評価法であるSSRTと 歩行能力やADLとの関連を検討することとする。<BR>【方法】対象は当院回復期病棟及び療養型病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者36名(男性15名、女性21名、平均年齢69.3±13.7歳)とした。SSRTの測定は、ハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定方法は、開始肢位を40cm台上端座位、非麻痺側上肢90°外転位とし、側方へ最大リーチするよう指示した。測定中は非麻痺側下肢を床面から動かさないよう注意を促した。初めの2回後の3回を測定し、その平均値を統計解析に用いた。その他の評価項目は、歩行能力としてFIM歩行項目、歩行自立度はFIM歩行項目の6以上を自立群とし、5未満を非自立群として判別した。またADLとしてBarthel Index(BI)を評価した。統計解析は、SSRTと各項目の相関をスピアマンの順位相関係数を用い算出して検討した。また歩行の自立群、非自立群の比較はt検定にて行った。有意水準はすべてp<0.05とした。<BR>【説明と同意】本研究は、研究実施施設長の承認を得て行われた。対象者には文書にて本研究の趣旨を説明し、書面での同意を得た。<BR>【結果】SSRTは全対象者では23.7±6.8cm、歩行の自立群14名では27.6±5.6cm、非自立群22名では21.1±6.4cmであった。SSRTとFIM歩行項目との間では中等度の有意な相関(ρ=0.58,p=0.0002)があった。また歩行の自立群と非自立群のSSRTの間には有意差(p=0.004)が認められた。BIは79.9±17.4点であり、SSRTとBIとの間では高い有意な相関(ρ=0.72,p<0.0001)があった。【考察】SSRTが歩行自立群と非自立群との間で有意差があったことから、SSRTで示される体幹機能が歩行自立度に関係していると考えられた。またFIM歩行項目との間で中等度の相関、BIとの間に高い相関があった。これは先行研究においてTCT、TISが歩行能力、ADLに関連しているとの報告と一致している。このことからSSRTで示される体幹機能は歩行能力やADLの獲得に関連している一つの重要な因子であると考えられた。また今回の結果から、SSRTが今後、臨床現場において有用な一指標となる可能性があると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者の歩行能力やADLに体幹機能が大きく関連しており、現在、臨床で使用されているTCTやTISとの相関も報告されている。しかしTCTやTISといった評価法は定量的ではなく客観性に欠けている。本研究で使用したSSRTはリーチ距離にて評価をするため定量的・客観的である。また項目数の多いTISに比べて簡便に評価が可能であり、患者への負担を軽減することができる。そのためSSRTは臨床的な指標であると考えられる。しかし本研究は、横断研究であるため、今後はさらに予測妥当性についても検討する必要がある。
著者
中村 潤二 三ツ川 拓治 生野 公貴 徳久 謙太郎 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O1029, 2010

【目的】近年の報告では脳卒中片麻痺患者において上下肢の障害だけでなく, 体幹屈曲筋・伸展筋・回旋筋等の筋力低下といった体幹機能障害の存在が証明されている。体幹機能は四肢の随意運動時の身体近位部の固定や起き上がり, 歩行などの基本動作の獲得のために重要であると考えられている。脳卒中患者の中で急性期に体幹機能が高い者は, 退院時の日常生活動作得点が高いとしており, 機能的予後を予測する因子としても重要であるとしている。体幹機能を評価する方法には筋電図などの特別な機器を用いた方法があるが, 臨床での使用は利便性に欠ける。簡便に体幹機能を評価する方法には古くからTrunk Control Test (TCT) が知られているが, これは4項目の身体パフォーマンスを3段階で評価しているため段階付けの幅が大きく, 天井効果があることなどが問題とされている。他の評価法としてはTrunk Impairment Scale (TIS) があり, 構成概念妥当性, 併存的妥当性, 高い再現性が報告されている。TISは静的座位バランス, 動的座位バランス, 協調性について評価しているが, 順序尺度であり項目数が17項目と多いため測定に時間を要する。そこで我々は定量的な評価が可能な座位での側方リーチテスト (Sit - and - Side Reach Test : SSRT ) 考案した。SSRTはTCT, TISとの併存的妥当性が確認されているがその再現性は報告されていない。そこで本研究の目的はSSRTの検者内・検者間再現性と測定誤差を検討することとした。<BR>【方法】対象は当院回復期病棟及び療養型病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者32名 (男性17名, 女性15名, 平均年齢67.6± 16.4歳) とした。重篤な脊柱の変形を有する者, 高次脳機能障害等により指示を理解できない者は除外した。SSRTの測定にはハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定は開始肢位を40cm台上に端座位をとり, 測定器を非麻痺側肩峰の高さに合わせた後, 非麻痺側肩関節90°外転, 手指伸展位とし, 非麻痺側へ最大リーチするように指示した。測定中は非麻痺側下肢を床面から動かさないように注意を促した。SSRTは初めの2回を練習とし, その後3回測定し, 各測定値及びその平均値を統計解析に用いた。検者間再現性を検証するために測定は2名の検者で合計2セッション行った。2セッション目の測定は最初の測定より1~2日以内に測定した。また他の検者の測定結果を測定終了時まで教えないことで, 先入観に基づく測定バイアスを排除した。検者内再現性の検討には測定値間の級内相関係数 (Intraclass Correlation Coefficient: ICC) を求め, 検者間再現性の検討は各検者の測定平均値の差を対応のあるt検定にて確認し, そのICCを求めた。また測定の精度を検証するために測定標準誤差 (Standard Error of Measurement: SEM) , 最小検知変化 (Minimal Detectable Change: MDC) を算出した。有意水準は5%とした。SEMは測定値に生じる誤差を表し, MDCは検知可能な変化の最小値を表す。<BR>【説明と同意】本研究は, 研究実施施設長の許可を得て行われた。全ての対象者には文書にて本研究の趣旨を説明し, 書面での同意を得た。<BR>【結果】SSRTの測定値は平均22.8± 7.5 cmであった。各検者の測定平均値の間に有意な差はなかった (P > 0.05)。SSRTの検者内再現性は検者AにおいてICC = 0.97 (95%信頼区間 (CI ): 0.94-0.98) , 検者BはICC = 0.97 (95%CI: 0.95-0.99) であった。また検者間再現性はICC = 0.91 (95%CI: 0.82-0.96) で, SEMは2.3 cm, MDCは6.4 cmであった。<BR>【考察】今回の結果からSSRTは良好なICCを示し、検者内・検者間再現性が高いと考えられる。またSSRTを用いた場合には測定結果に2.3 cm程度の測定誤差が生じることが明らかになった。その測定誤差はSSRTの平均値の約10%程度であった。MDCは一症例のSSRTを経時的に測定し, その変化が統計学的に有意と認められる最小値であり, 1回の測定で6.4 cmの改善または悪化がないと真の変化とは言えず, それ以下は測定誤差の範囲内であることが示唆された。これらのことからSSRTは優れた再現性, 測定の精度を有していると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者において体幹機能の重要性が報告されている。体幹機能を評価する方法にはいくつかの方法が報告されているが評価の天井効果や項目数の多さ, 定量的な評価ができないといった問題点がある。SSRTは評価方法の特性上, 簡便かつ客観的で連続尺度による定量的な評価が可能である。今回の結果からSSRTは優れた再現性, 測定の精度を有しており, 脳卒中患者の体幹機能の経時的な変化を評価することも可能であると考えられる。今後はさらにSSRTの測定特性について検討していく必要がある。
著者
兼松 大和 徳久 謙太郎 宇都 いづみ 鈴木 敏裕 大成 愛 三好 卓宏 藤村 純矢 高取 克彦 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0680, 2007

【はじめに】<BR>ファンクショナルリーチ(FR)テストは臨床や研究場面、介護予防事業などで広く用いられている動的バランスの臨床評価指標である。先行研究によると健常成人や高齢者におけるFRテストの再現性は良好であると報告されている。しかし、脳卒中片麻痺患者においてその再現性を検討した報告は少ない。また、一症例の継時的な動的バランス変化の有無を評価する際には、測定値にどの程度の測定誤差が生じるかを知ることは有用である。本研究の目的は、脳卒中片麻痺患者におけるFRテストの検者内再現性と測定誤差を明らかにし、実際の臨床での評価場面において有用な情報を提供することである。<BR>【対象及び方法】<BR>対象は2施設に入院中の脳卒中片麻痺患者のうち、立位保持が20秒以上可能で、指示理解良好な者31名(男20名・女11名、平均年齢69.2±10.8歳)である。FRはハンガーラックにメジャーを貼り付けて作成した自作の測定器にて測定した。靴を履いた状態で測定すること、肩峰の位置から前方リーチによる最大到達点までの距離を測定し、上肢長を引いてFR算出すること以外はDuncan等による原著の方法に従った。測定は同一検者により行われ、2回の練習後、3回の測定を1セッションとし、2セッション実施した。セッション間隔は1~2日とした。<BR>【分析】<BR>検者内再現性の検討には、異なるセッションの測定値間の級内相関係数(ICC)を求めた。測定誤差の分析は一般化可能性理論により行った。セッションと反復を要因とする2要因完全クロス計画の下、主効果と交互作用の分散成分推定量を求めた。この情報を基にセッション回数や反復回数を変更した測定条件下での測定の標準誤差standard error of measurement(SEM)および最小検知変化minimal detectable change(MDC)を求めた。<BR>【結果】<BR>異なるセッションの測定値間のICC(1,1)は0.975であった。SEMとMDCは1回の測定では1.7cmと4.8cmであり、測定反復回数を変更すると2回の平均値では1.4cmと4.0cm、3回の平均値では1.3cmと3.7cmに減少した。測定セッション回数を変更すると、2回の平均値では1.4cmと3.8cmに減少した。<BR>【考察・まとめ】<BR>異なるセッションの測定値間において優秀な級内相関が得られたことから、脳卒中片麻痺患者のFRテストの検者内再現性は良好であるといえる。原著の方法と同じく2回の練習後、3回測定の平均値を使用した場合、1.3cmのSEMが生じることが明らかになった。MDCは一症例のFRを継時的に測定し、その変化が統計学的に有意と認められる最小の値であり、原著の方法では3.7cm以上の変化がないと真の変化(改善・悪化)とは言えず、測定誤差範囲内であることが示唆された。<BR>
著者
冷水 誠 笠原 伸幸 中原 栄二 中谷 仁美 西田 真美 望月 弘己 松尾 篤 森岡 周 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0075, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】脳卒中片麻痺患者(CVA患者)の転倒要因は様々であるが、その一つに注意能力が挙げられる。その中でも、歩行中出現する課題への注意分配能力の影響が報告されている(Hyndmann.2003)。この注意分配能力による転倒予測法として、Olssonら(1997)による“Stops Walking When Talking test”(SWWT test)がある。これは、歩行中会話などの認知課題により、歩行を中止するかを評価するものである。このSWWT testはバランス機能と関連があると報告されているが、注意能力とは不明である。CVA患者では、動作時と机上テストでの注意能力の違いをよく経験するため、SWWT testによる注意分配能力と机上テストでの注意分配能力の違いが予想される。この違いを捉えることは、SWWT testの適応患者を明確にできると考えられる。そこで本研究は,CVA患者を対象として、SWWT testの結果が、注意分配能力の机上テストであるTrail Making Test part B(TMT-B)の成績に差があるかを検証することを目的とした。【方法】対象は高次脳機能障害を有しない独歩可能なCVA患者20名(男12名、女8名、平均年齢63.8歳、右麻痺11名、左麻痺9名、平均発症期間3年3ヶ月)とした。SWWT testは、対象者に自由速度にて歩行してもらい、歩行開始から約5m付近にて同伴した検者が認知課題として年齢を尋ねた。この時、対象者が歩行を中止するかを記録した。なお、測定前に、対象者には歩行および質問への返答に対する指示は行わなかった。机上での注意能力の評価には、用紙上にある数字と平仮名を交互に結ぶテストであるTMT-Bを使用した。TMT-Bは5分を最大とした実施時間とエラー数を記録した。SWWT testにて歩行を中止した群(中止群)と継続した群(継続群)、TMT-B実施時間が5分以内と5分以上に分類し、2×2のクロス表を作成した。統計学的分析にはFisherの直接確率法を用い、TMT-B実施時間5分以内と5分以上によって中止群と継続群に差があるかを検証した。なお、有意水準は5%未満とした。【結果】SWWT testにて中止群は3名であり、うち2名がTMT-B実施時間5分以上、1名が5分以内であった。継続群は17名であり、うち6名がTMT-B実施時間5分以上、11名が5分以内であった。Fisherの直接確率法の結果、TMT-B実施時間5分以内と5分以上によって中止群と継続群間に有意差が認められなかった(p=0.536)。TMT-Bエラー数は中止群と継続群にて明確な違いは見られなかった。【考察】慢性期CVA患者において、SWWT test陽性には、机上での注意分配能力の評価であるTMT-Bの実施時間の延長およびエラー数の増大が影響していないことが明らかになった。このことから、SWWT test はTMT-Bの机上評価成績に関わらず、多くの慢性期CVA患者を対象とすべきテストであることが示唆された。しかし今回は、SWWT testの課題が年齢を問う容易な課題であったことが影響した可能性があり、今後は課題の特異性等を検証する必要がある。
著者
高取 克彦 岡田 洋平 梛野 浩司 徳久 謙太郎 生野 公貴 奥田 紗代子 鶴田 佳世 庄本 康治 嶋田 智明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.52-58, 2007-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
33
被引用文献数
4

リハビリテーション専門病棟入院中の慢性期脳卒中片麻痺患者32例を対象に,Functional reach test(FRT)を応用した非麻痺側上肢の最大リーチ見積もり距離(Perceived reachability: PR)を評価し,実際のリーチ距離との誤差(以下,誤差距離)と入院期間中に生じた転倒回数との関係を調査した。PRはリーチ目標物が遠位から近位に接近する条件で評価し,誤差距離は実測値との差を絶対値で記録した。また両者の関連性を,他の要因を含めて検討するために,調査項目にはこの他,FIM移動項目点数,Functional reach距離(FR距離),下肢Brunnstrom's recovery stage,下肢感覚障害の程度,転倒恐怖心を含めた。解析は誤差距離と転倒回数との相関と,転倒の有無で分類した2群間の誤差距離とFR距離それぞれの比較,および上記評価項目の全てを含めた転倒関連因子の抽出とした。誤差距離と過去の転倒回数との関係にはピアソンの積率相関係数を用い,転倒関連因子の抽出には目的変数を転倒の有無に2項化したステップワイズ法でのロジスティック回帰分析を用いた。結果として,誤差距離と転倒回数には有意な相関が認められた。また転倒の有無を基準に2群化した場合,誤差距離は転倒群が有意に大きかった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果では,誤差距離,FIM移動項目点数,性別が転倒関連因子として採択された。回帰式を用いた判別分析による予測判別率は85%であり,転倒群の92%は6cm以上の誤差距離を有していた。以上のことから,片麻疹患者に対するFRTを応用したPR見積もり誤差の評価は,転倒ハイリスク患者を判別する簡便な評価法の1つとなる事が示唆された。
著者
岡田 洋平 高取 克彦 梛野 浩司 徳久 謙太郎 生野 公貴 鶴田 佳世 庄本 康治
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.279-284, 2008-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
3

本研究は,地域高齢者163名(平均年齢75.9 ± 5.2歳,男性55名女性108名)を対象に,自己の身体能力の認識誤差の指標としてリーチ距離の見積り誤差(Error in estimated reach Distance: ED),および転倒恐怖心を評価し,転倒との関係について調査した。評価項目は,過去1年間の転倒歴,Functional Reach Test(FRT),ED,ED絶対値(|ED|),転倒恐怖心(Falls Efficacy Scale: FES)とした。データ解析は,「転倒無し」「1回転倒」「複数回転倒」の3群における各調査項目の比較,「複数回転倒の有無」に関係する調査項目の抽出を行った。その結果,EDは,複数回転倒群は負の値を示し,転倒無し群と比較して有意に小さく,自己のリーチ能力を過大評価する傾向にあった。複数回転倒の有無を目的変数,FRT,ED,|ED|,FESを説明変数として,年齢と性別を調整して多重ロジスティック回帰分析を行った結果,複数回転倒の予測因子としてEDとFESが選択された。以上の結果から,リーチ距離の見積り誤差が地域高齢者の複数回転倒に関連している可能性が示唆された。
著者
瀧口 述弘 庄本 康治
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.343-348, 2017 (Released:2017-05-02)
参考文献数
29
被引用文献数
2 1

〔目的〕大腿骨近位部骨折術後2症例に対して,経皮的電気刺激(TENS)を患側肢に実施する患側TENSと両側肢に実施する両側TENSの効果を評価すること.〔対象と方法〕症例1は大腿骨転子部骨折固定術後症例,症例2は大腿骨頚部骨折固定術後症例であった.症例1は,術後1~3日目に30分間の患側,両側TENSを実施し,症例2は,術後1日目には1時間患側TENSのみ実施し,2,3日目は1時間の患側,両側TENSを実施した.アウトカムは運動時のNRSを測定した.〔結果〕2症例とも患側,両側TENS後のNRSが低下し,症例2では患側TENSと比べ両側TENSの方が1低下した.〔結語〕患側,両側TENSともにNRSが低下したが,今後はプラセボなども実施し,患側,両側TENSの効果を明らかにする必要がある.
著者
小嶌 康介 中村 潤二 北別府 慎介(OT) 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第50回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.78, 2010 (Released:2010-10-15)

【目的】筋電誘発電気刺激(ETMS)は脳卒中後の運動麻痺の改善を目的として近年試みられている治療であり,随意運動時に生じる筋放電を表面電極を介して測定し,設定された閾値を越えると電気刺激が誘発され筋収縮を引き起こす治療方法である。海外では脳卒中患者の手関節背屈筋群に対してETMSを実施した研究報告が散見されるがシステマティック・レビューでもETMSの治療効果はいまだ確立されておらず,本邦での治療報告はほとんどないのが現状である。一方で脳卒中患者の麻痺側上肢に対する他のアプローチとしてミラーセラピー(MT)による治療報告が散見される。MTでは,鏡像による視覚フィードバックにより脳へ錯覚入力を与え,その錯覚により運動感覚を生成し,運動前野や運動野の活性化をもたらし,運動麻痺を改善させることが考えられている。しかしMTの先行研究も多くは小サンプルであり,治療効果が確立されるには至っていない。ETMSとMTは,それぞれ異なる形で大脳皮質の損傷側の神経ネットワークの再構築にアプローチしており,両者を組み合わせることでより高い治療効果をもたらす可能性が考えられる。そこで今回,脳卒中患者の麻痺側上肢に対してETMSとMTの組み合わせ治療(ETMS-MT)を実施し,その臨床変化を捉え考察することとする。 【方法】対象は同意の得られた脳卒中患者2症例とした。症例1は脳梗塞発症後86日を経過した84歳の左片麻痺女性で研究参加時の運動麻痺はBrunnstrom Recovery Stage(BRS)にて,上肢stage_III_,手指stage_IV_であった。症例2は脳梗塞発症後111日を経過した72歳の左片麻痺男性でBRSは上肢stage_V_,手指stage_IV_であった。両症例とも口頭指示を理解し,著明な認知機能低下や高次脳機能障害はみられなかった。 ETMS-MTは椅子座位,両前腕を台上にのせた肢位で実施した。電極を設置した状態で麻痺側前腕以遠を卓上鏡にて隠し,その位置に非麻痺側前腕と手の鏡像を知覚するようにし,対象には常に鏡像を注視するよう指示した。電気刺激パラメータのon/off時間のうちonの時間は機器の聴覚信号に併せて両上肢同時に手関節背屈の随意努力を行い,offの時間は両側上肢で手関節,手指の運動を同調させて行った。 治療機器はChattanooga社製Intelect Advanced comboを使用した。電気刺激パラメータは周波数50Hz,パルス幅200μsecの対称性二相性電流を使用し,on/off時間は10/20秒とした。電流強度は疼痛を生じず,最大限の関節運動が起こる程度とし,閾値は手関節背屈の最大随意努力時とし対象の状態に併せて治療者が適宜調整を行った。対象筋は麻痺側尺側手根伸筋とした。 研究デザインにはBA型シングルケースデザインを用い,操作導入期(B期),治療撤回期(A期)はそれぞれ4週間とした。B期には標準的理学療法(PT),作業療法(OT)と併せてETMS-MTを1セッション20分間を2回/日,5日/週,4週間実施した。A期にはPT,OTのみを実施した。評価項目はFugl-Meyer Motor Assessment Scale上肢項目(FM),手関節背屈の自動関節可動域(AROM),握力,Box and Block Test(BBT),Wolf Motor Function Test(WMFT),Motor Activity Log(MAL)とした。 【説明と同意】本研究への参加を求めるにあたり,対象には本研究の目的や予測される治療効果および危険性について説明を行い,参加同意書に署名を得た。 【結果】B期には症例1,2はそれぞれFMにて11点,7点,AROMにて10°,0°握力にて2.0kg,1.0kg,BBTにて8個,6個,WMFTにて496.0秒,40.5秒,MALにて0.51点,0.99点と殆どの評価にて改善を示した。A期にはそれぞれFMにて5点,4点,AROMにて-5°,0°,握力にて0.5kg,3.0kg,BBTにて1個,2個,WMFTにて-47.1秒,7.4秒,MALにて-0.17点,-0.41点と変化し,一部の項目に低下もみられたが,わずかな改善傾向を示した。FMとWMFT,MAL,BBTは両症例ともB期により大きな改善を示した。 【考察】両症例ともB期に多くの改善を示しており,FMやWMFTの中でも手関節の分離運動や手の巧緻動作の項目に改善が多いことから,ETMS- MTが麻痺手の機能回復に寄与した可能性が考えられた。今後は症例数の増加,比較対照群の設定などにより,治療効果の検証を行っていく必要がある。 【理学療法研究としての意義】今回は2症例のみでの検証であったが,ETMS-MTは脳卒中後の上肢運動麻痺に対する新たな治療方法として今後の更なる検証の必要性が示唆された。
著者
徳久 謙太郎 松田 充代 松尾 篤 冷水 誠 庄本 康治 鶴田 佳世 宇都 いづみ 高取 克彦 梛野 浩司 生野 公貴 岡田 洋平 奥田 紗代子 竹田 陽子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0798, 2006

【はじめに】ハンドヘルドダイナモメーター(以下HHD)は簡易かつ携帯性に優れた等尺性筋力測定器であり、先行研究によるとその再現性・妥当性は良好であるとの報告が多い。しかし従来の徒手による膝伸展筋力測定方法では、女性検者のHHD固定力に限界があり、筋力が強い場合には正確に測定できないことや、被検者の体幹筋力が弱い場合には、転倒防止のため2人のセラピストが必要になることなど、臨床的有用性にはまだ問題がある。そこで今回、HHD固定力を強化し、臨床において安全かつ簡易に測定できることを重視した測定方法である「H固定法」を考案し、その男女検者間再現性や、測定にベルトを使用した場合との同時妥当性、及び測定時間の比較により簡便性を検討した。<BR>【対象及び方法】対象は、当院通所リハビリテーション利用者の内、中枢神経疾患の既往のない者25名(男7名、女18名)である。検者は、HHD使用経験のある理学療法士男女2名で、HHDはアニマ社製μTas MF-01を使用した。測定は当院で考案したH固定法にて行った。H固定法は、被検者の肢位を車椅子座位にて下腿下垂位とし、検者のHHDを装着した上腕を同側下肢にて補強することにより、HHDの強力な固定を可能にしている。測定は、各被検者に対し男性検者・女性検者・ベルト使用にて1回ずつ、測定順序はランダムに実施した。測定結果は測定終了時まで、被検者および検者に知らせないことにより測定バイアスを排除した。測定時間は、オリエンテーションの開始から測定終了時までの所要時間を記録者が測定し、同じく検者には測定していることを知らせなかった。統計学的解析は、男女検者間の再現性を級内相関係数(以下ICC)にて、H固定法とベルトによる測定との同時妥当性をピアソンの積率相関係数にて検討した。<BR>【結果】男性検者と女性検者間のICCは0.96であった。ベルト使用時と男性検者、女性検者とのピアソンの積率相関係数は、それぞれ0.94、0.92であった。女性検者のH固定法による測定時間は平均2分26秒、ベルト使用時は平均4分9秒であった。<BR>【考察】山崎らは女性が徒手にてHHDを固定できる最大重量は平均19kgであったと報告している。本研究においては、筋力が19kgを超える被検者が7人いるにもかかわらず、1回の測定でICCが0.96という良好な検者間再現性が得られた。これはH固定法によるHHD固定力が、従来の測定方法よりも優れていることが一因であると考える。また、先行研究において妥当性が確認されているベルト使用による測定と高い相関がみられたことから、H固定法による測定は妥当性を有しているといえる。H固定法を使用した場合の測定時間は平均2分26秒であり、実際の臨床場面においても簡便に測定が可能である。H固定法による等尺性膝伸展筋力測定は、再現性・妥当性・簡便性のある臨床的に有用な測定方法である。
著者
高取 克彦 梛野 浩司 山本 和香 下平 貴弘 森下 慎一郎 立山 真治 庄本 康治
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.352-356, 2003
参考文献数
15
被引用文献数
2

変形性膝関節症にて全人工膝関節置換術(total knee arthroplasty:以下TKA)を受けた症例に対して,深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:以下DVT)の予防を目的とした下肢の神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulation:以下NMES)を実施し,その臨床的実用性を検討した。対象は,本研究に対して同意を得られた16例(男性2名,女性14名,平均年齢68.6 ± 8歳)とした。NMESは術直後から離床まで継続的に実施し,その臨床的実用性を以下の3項目(1.電気刺激に対するコンプライアンス,2.刺激強度の定常性,3.電極の皮膚への影響)で評価した。DVTの有無については,腫脹,Homan's徴候などの理学的所見と凝固線溶系マーカーのFDP D-dimer(以下D-dimer)値によるスクリーニング評価にて実施した。刺激に対するコンプライアンスは15例が手術直後からドレーンチューブ抜去までNMESが実施可能であり良好であった。1例のみ刺激に対する不快感によりNMESを一時中断した。刺激強度は麻酔の影響,発汗などにより定期的な調節が必要であった。電極の皮膚への影響は1例のみ皮膚の発赤が認められた。DVTスクリーニング評価では明らかな下肢腫張が3例,腓腹筋把握痛が3例に認められたが,D-dimer値は全症例正常範囲内であった。今回の結果から,本法は刺激強度の定常性や皮膚への影響などの課題を改善することで,臨床的実用性が獲得できるものと考えられた。
著者
前岡 浩 福本 貴彦 坂口 顕 長谷川 正哉 金井 秀作 高取 克彦 冷水 誠 庄本 康治
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.529-533, 2008 (Released:2008-10-09)
参考文献数
16
被引用文献数
11 4

[目的]フリーウェアであるImageJは顕微鏡画像の処理,解析に利用されているが,角度測定機能は理学療法分野でも活用可能と考えた。そこで,立ち上がり動作を利用し,ImageJによる体幹前傾角度測定の信頼性を検証した。[対象]被験者は3名,ImageJを使用する検者を10名とした。[方法]被験者に左側の肩峰,大転子,膝関節外側関節裂隙に反射マーカーを貼付し,立ち上がり動作を矢状面から1回撮影した。体幹前傾角度はImageJおよび三次元動作解析装置で測定した。[結果]級内相関係数と標準誤差を用いて統計解析を行った結果,検者内・検者間信頼性を示すICCはともに高かった。[結語]ImageJを用いた二次元での動作分析は理学療法分野における評価や研究,教育に有益な手段である可能性が示唆された。
著者
生野 公貴 北別府 慎介 梛野 浩司 森本 茂 松尾 篤 庄本 康治
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.485-491, 2010-12-20
被引用文献数
1

【目的】本研究の目的は,脳卒中患者に対する1時間の末梢神経電気刺激(PSS)と課題指向型練習の組み合わせが上肢機能に与える影響を検討することである。【方法】脳卒中患者3名をベースライン日数を変化させた3種のABデザインプロトコルに無作為に割り付け,ベースライン期として偽刺激(Sham)治療,操作導入期としてPSS治療を実施した。1時間のSham治療およびPSS治療後に課題指向型練習としてBox and Block Test(BBT)を20回行い,練習時の平均BBTスコアの変化を調査した。さらに,PSS治療後24時間後にBBTを再評価した。【結果】全症例Sham治療後と比較して,PSS治療後に平均BBTスコアが改善傾向を示した{症例1: +4.9(p<;0.05), 症例2: +3.1, 症例3: +5.7(p<0.05)}。全症例の24時間後のBBTスコアが維持されていた。また,PSSによる有害事象はなく,PSSの受け入れは良好であった。【結論】1時間のPSSは課題指向型練習の効果を促進させ,24時間後もその効果が維持される可能性がある。