著者
成 元哲 牛島 佳代 松谷 満 阪口 祐介 永幡 幸司 守山 正樹 高木 竜輔 田中 美加
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、原発事故が福島県中通りに居住する親子の生活と健康にどのような影響を与えているのかを明らかにし、必要な支援策を検討することにある。そのために、参与観察、聞き取り調査、調査票調査を通じで、原発事故後、中通り9市町村に暮らす親子は急激な生活変化を経験しており、それに適応できない母親は精神健康の低下を経験しており、それが子どもの問題行動につながっていることを明らかにした。親子への支援策は、経済的負担感と補償をめぐる不公平感を軽減し、放射能への対処をめぐる認識のずれを軽減する。また、保養・避難を選択できる環境にし、福島での子育て不安、健康不安を軽減することが必要である。
著者
吉田 邦彦 辻内 琢也 今野 正規 津田 敏秀 成 元哲 窪田 亜矢 淡路 剛久 今中 哲二
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、《福島放射能被害・水俣病・アスベスト被害などの潜伏的健康被害と地球温暖化の大規模災害の救済システムの国際的学際研究――21世紀型不法行為に関する医学・法学・工学の対話》がテーマである。敷衍すると、福島原発事故の放射能被害をはじめとする蓄積的健康被害および地球温暖化に関わる大災害の救済システムについて、医学・原子力工学などの自然科学の経験分析研究と、環境法・医事法・居住福祉法学やリスク論の方法論的展開を踏まえた法学研究を糾合しつつ、被災者の社会学的知見や医療人類学的な分析も取り込みながら、従来の損害賠償法のスキームに囚われぬ総合的枠組みを現状批判的に再構築することを目指す。
著者
牛島 佳代 成 元哲 松谷 満
出版者
公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.84-92, 2014 (Released:2014-10-31)
参考文献数
23
被引用文献数
1

The 2011 earthquake and tsunami in Japan caused a meltdown at Fukushima nuclear power plant. This paper examines the association between demographics or exposure to potentially upsetting events following Fukushima disaster and psychological and physical well-being of mothers with young children 2 years after the Fukushima nuclear accident. The sample consisted of mothers with preschool children still inhabiting in low level radiation contamination area, 30~90 km distant from the plant. In addition to exposure status, the questionnaire obtained data on radiation anxiety, coping behavior, perceived economic stress and stress moderators. The dependent variables were measured by the K6, SQD (Screening Questionnaire for Disaster Mental Health).Overall, mental health of mothers with young children have been polarized as time passes. The conflict about coping behavior to radiation risk and economic stress increased the vulnerability of mothers to subsequent distress, PTSD, depression. It was confirmed a husband’s childcare participation as a stress moderator. Long-term follow-up study is needed to confirm that the progress of mental health of mothers with young children.
著者
牛島 佳代 成 元哲 守山 正樹 田中 美加
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、福島原発事故が母子の心身の健康に与えた影響を明らかにし、支援策を構築することである。分析には、2013年から毎年実施している福島県中通り9市町村の2008年度出生児の母親に対する社会疫学調査と面接調査データを用いた。結果、一貫してSQDで評価されるうつであった人は12.7%、うつ維持には低収入、放射能の対処をめぐる認識のずれ、経済的負担感が関連していた。また、うつ状態を脱した人も事故により生じた新しい日常への適応のあり方を模索していた。福島の母子がレジリエンスを獲得するためには、母親が抱く将来の健康不安に対して真摯に向き合い、継続的な医療補償システムを構築することが必要である。
著者
成 元哲 牛島 佳代 松谷 満 阪口 祐介 西崎 伸子 永幡 幸司 三上 直之 守山 正樹 荒川 雅志 石原 明子
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

未曾有の原発災害における人間経験を生活変化と健康影響に焦点を当て長期的に追跡し、実態解明を行うとともに、社会的亀裂を修復するために次の二つの取り組みを行った。第1に、福島県中通り9市町村の2008年度出生児とその母親を対象に、原発事故が与える影響を生活と健康に焦点を当て継続的に記録するための大規模の調査票調査を行った。第2に、上記の福島県内の調査対象者への半構造化面接を行った。これは、当事者の語り部活動を行うための準備作業である。放射能の健康影響についての不安の度合いやリスク対処行動において温度差がある母親が、原発事故後の経験を広く社会と共有できることを目指している。
著者
松谷 満 成 元哲 大瀧 友織
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、原発事故によって、被災地福島の政治にどのような変化があったのかを明らかにすることである。本研究では、福島市民を対象とする質問紙調査、市会議員などを対象とする聞き取り調査を行った。その結果、福島では他地域と比較して政治不信が高まっていること、政治の側では結果的にさほど大きな変化が生じておらず、世論とのあいだに乖離がみられることが明らかとなった。
著者
中澤 秀雄 成 元哲 樋口 直人 角 一典 水澤 弘光
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.4, pp.142-157, 1998-10-05

1990年代における環境運動の「再生」を理解するためには、1960〜70年代以降の住民運動の軌跡を振り返り、マクロな社会的諸条件との関連で運動の盛衰を把握する視点が必要不可欠である。戦後日本の住民運動を対象にした事例研究の蓄積はかなりの量に達しているが、データソース確保の困難や方法論的不備などにより、個別の運動を越えた、運動インダストリーの盛衰を取り扱った研究は十分に行われてこなかった。また、これまで住民運動の盛衰は主に高度経済成長による「構造的ストレーン」によって説明されてきたが、それだけでは低成長期以降の運動発生や盛衰の地域的多様性を説明することができない。我々はこうした研究上の空白を埋めるべく、1968-82年における地域開発や環境関連の抗議イベントをコード化しデータベースを整備した。このデータベースを利用し、全国レベルにおける抗議サイクル形成の論理と、抗議水準の地域的・時期的な変動を、「構造的ストレーン」変数と「政治的機会構造」変数との比較により検討した。その結果、次の2点が明らかになった。(1)住民運動の抗議サイクル形成にあたっては、構造的ストレーンより政治的機会構造の影響の方が強い。(2)地域ごとの相違をみると、政治的基盤が安定していない保守地域で抗議水準が最も高くなる。これらの知見は90年代の運動の「再生」を理解するうえで、重要な手がかりを提供する。
著者
木田 勇輔 成 元哲 河村 則行
出版者
東海社会学会
雑誌
東海社会学会年報 (ISSN:18839452)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.133-143, 2018 (Released:2021-03-22)

本稿では Robert J. Sampson の集合的効力感に関する理論を検討し,日本の都市において個人レベルの集合的効力感がコミュニティにおける活動意欲を促すのかという点について検証を行った.具体的には名古屋市の6学区における質問紙調査から得られたデータを用い,集合的効力感の規定要因とその効果に関する基礎的な分析を行った.個人レベルの変数や居住学区のダミー変数を含めた重回帰分析を行った結果として,以下の3つの結論を得た.(1)社会的紐帯の豊富さと移動性の低さは集合的効力感を高める.(2)居住学区は集合的効力感に影響を与えている可能性が高い.(3) 個人レベルの変数や居住学区の効果を統制しても,集合的効力感はコミュニティにおける活動意欲に正の効果を持っている.今後の研究の展望として,日本でも集合的効力感が重要な意味を持つ可能性は高く,居住地区間の格差や不平等を解明する際の糸口を提供すると考えられる.
著者
久保田 滋 伊藤 美登里 樋口 直人 矢部 拓也 松谷 満 成 元哲
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究期間全体を通じて、申請書に記載した知事選や総選挙に関するサーベイ調査に加えて聞き取り調査も実施し、以下のようなデータが得られた。(1)投票行動に関するデータ。徳島、高知(2004年)、東京(2005年)、長野・滋賀(2006年)、東京(2007年)。(2)政治に関わる行為者に対する聞き取り。徳島(150件)、滋賀(40件)、高知・長野(各10件)。こうしたデータの解析のうち、徳島調査については成果を刊行し、他の都県については予備的な分析を発表し本格的な解析に着手するところである。そうした段階で当初の仮説の当否とその後の発展は、以下のとおりである。(1)政治的亀裂構造の再編に伴い、テクノクラシー-底辺民主主義-ポピュリズムという3つの供給様式が生じるという仮説は、調査地以外の宮崎・大阪といった事例をみても妥当かつ有効であることが検証された。(2)新たな政治的亀裂として院内-院外があるという見通しを得られたため、それを徳島の事例で検証したところ有効であることが確認できた。すなわち、院内=保革問わずすべての既成勢力は、既得権益に関わる争点が生じたときに対応できず、院外=既成勢力とは関係の薄い一般有権者の代弁者(住民運動や知事個人など)が現れたときに対抗しえない。(3)(2)の結果として、議会=政党を迂回した政治的意思決定がなされる「中抜きの構造」がもたらされる。(1)で述べた3つの新たな供給様式は中抜きの構造に親和的であるが、テクノクラシーが地方自治の脱政治化を目的とするのに対し、底辺民主主義とポピュリズムは再政治家をもたらす。このうち底辺民主主義は強い正統性を持つが、決定単位を分散化することで決定コストの上昇をもたらす点で、より効率の良いテクノクラシーに敗北することが、徳島調査の結論となる。