著者
樫村 修生 南 和広 星 秋夫
出版者
Japanese Society of Biometeorology
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.139-144, 2016-12-01 (Released:2016-12-31)
参考文献数
9

本研究では,2020 年東京オリンピック開催期間と同期間の 2015 年において,暑熱曝露がもっと過酷であると想定されるマラソン選手の立場から,走行中に曝露される WBGT の計測を試みた.期間中にロードバイクに環境温度計を設置し,スタート地点からゴールまでをマラソン競技の走行スピードに相当する時速 20 km 時の WBGT を計測し,熱中症の危険性を評価した.平均 WBGT は 7 月 26 日が 30.4℃で 30℃を超え,次いで 8 月 4 日が 29.6℃,8 月 9 日が 27.0℃であった.また,平均乾球温度は,7 月 26 日が 36.9℃,8 月 4 日が 34.5℃,8 月 9 日が 32.4℃であった.平均 WBGT は,各地点においてロードバイク走行時の方が定点観測より平均 0.2±0.1℃(0.1 から 0.3℃)とわずかに低値であった.その結果,走行時に選手が曝露される WBGT は予想以上に高く,これにマラソン運動による 2 時間以上の体温上昇の負担も加わることから,熱中症を防ぎ良い成績を残すためには暑熱下トレーニングを実施し,十分な暑熱順化が必要になると思われる.この研究において,我々は 8:30 にスタート時間を設定したが,そのスタート時間をさらに早朝にシフトすることを検討する必要がある.さらに,我々はマラソンコースに多くのミストシャワーを設置し,ランナーの身体冷却を補助することが必要であると考える.
著者
星 秋夫 稲葉 裕
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.730-736, 1995-08-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
23
被引用文献数
6 9

1898年から1991年までに幕内に入幕した力士664名を対象に,力士の年齢標準化死亡比(SMR)について同時代の日本人男性と比較した。さらに,1898年以降の出生者を対象として死亡率に対する種々の要因の寄与の推定を行った。その結果は以下の通りである。1.力士のSMRはいずれの年次においても有意に高く,年齢階級別にみると,35∼74歳のSMRが有意に高かった。2.Coxの比例ハザードモデルによる解析から力士の死亡率に寄与する要因として,入幕暦年,BMIが抽出された。3.生存率曲線において,入幕暦年の高値群,BMIの低値群はそれぞれ低値群,高値群よりも生存率が高かった。以上の結果から相撲力士の高い死亡率は35∼74歳の高い死亡率によるものと示唆され,力士において,BMIの高値群は死亡のリスクが高いことが明らかとなった。
著者
星 秋夫 稲葉 裕
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.85-92, 2002-02-01
参考文献数
24
被引用文献数
12 4

本研究では近年13年間 (1986~1998) における学校管理下での体育・スポーツ活動中における外因性死亡の発生状況について検討し, 以下のような結果を得た.<BR>1) 過去13年間における外因性死亡事故の発生は295件, 年平均22.7件であり, 全体の約52%が外傷によるものであった.いずれの外因においても女子より男子での死亡件数が多かった.<BR>2) 外傷, 熱中症はそれぞれ進学するにしたがって増加するが, 溺水は各学校で同様に発生した.高校において, 外傷と熱中症の発生は高学年時よりも低学年時で高い傾向にあった.<BR>3) 外傷, 熱中症においては大部分が運動部活動時に発生したが, 溺水では大部分が体育授業時に発生した.<BR>4) 外傷の発生は柔道が最も多く, 以下ラグビー, 野球等であった.溺水は水泳であり, 熱中症は野球, サッカー, 柔道等であった.また, 外傷による死因は約74%が頭部外傷による死亡であった.<BR>5) ICD-10による分類において, 外傷で最も多かったのは投げられ, 投げ出されまたは落下する物体による打撲 (W20) 54件であり, 以下スポーツ用具との衝突または打撲 (W21) 33件, 他人との衝突 (W51) 20件等であった.溺水では水泳プール内での溺死および溺水 (W67) 49件等, 熱中症は自然の過度の高温への暴露 (X30) 69件であった.<BR>6) 外傷による死因で最も多い柔道における外因の大部分はW20であった.また, ラグビー, アメリカンフットボールの大半はW51, 野球, サッカーの大半はW21であった.<BR>以上のことから, 発生事例の多い運動種目においては発生防止に対して十分に注意を払うとともに, 基礎練習の充実等, 予防策を講ずる必要がある.
著者
星 秋夫 中井 誠一 金田 英子 山本 享 稲葉 裕
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.175-184, 2010 (Released:2010-12-17)
参考文献数
24
被引用文献数
2

本研究は人口動態統計死亡票を用い,熱中症死亡の地域差について検討した.さらに,ICD-10 適用前・後(以降 ICD-10 前後と略)における熱中症死亡の差異についても検討した. 1975年~2007年までの33年間における熱中症による死亡数は5,877人であり,年平均の死亡数は178人/年であった.ICD-10 後の死亡率,年齢調整死亡率は ICD-10 前よりも有意に高値を示した.また,いずれの年齢階級においても ICD-10 後の死亡率は ICD-10 前よりも有意に高値を示した.死亡の発生場所において,スポーツ施設,その他明示された場所を除くすべての場所で ICD-10 前よりも ICD-10 後に発生割合が増加した.しかし,スポーツ施設,その他明示された場所においては ICD-10 後,その発生割合は急激に低下した. 死亡率は秋田県が最も高く,次いで鹿児島県,群馬県となる.これに対して,北海道の死亡率は最も低く,神奈川県,宮城県で低値を示した.各都道府県における人口の年齢構成の影響を除くために,年齢調整死亡率をみると,沖縄県が最も高くなり,ついで鹿児島県,群馬県となり,北海道,神奈川県,長野県が低値を示した.最高気温/年と死亡率,年齢調整死亡率との間には高い有意水準で相関が認められ,年最高気温の差異は各地域の熱中症死亡に影響をもたらす要因の一つであることが認められた. 以上のことから,熱中症の死亡率や年齢調整死亡率は日本海側で高く,太平洋側で低い傾向を示すとともに,内陸に位置する群馬県,埼玉県,山梨県で高値を示した.また,沖縄県,鹿児島県で高く,北海道で低いことが認められた.このような熱中症の死亡率や年齢調整死亡率の都道府県の差異は夏季の暑熱環境の差,いわゆる熱ストレスの差に起因していると考えられる.
著者
星 秋夫 稲葉 裕 村山 貢司
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.3-11, 2007 (Released:2007-07-02)
参考文献数
22
被引用文献数
5

東京都と千葉市における 2000~2004 年の熱中症発生について解析した.熱中症発生率は東京都(人口 10 万対:4.4 人)よりも千葉市(9.4 人)で高かった.年齢階級別熱中症の発生は両都市共,5~19 歳と 65 歳以上とに,発生のピークを示す二峰性を示した.5~19 歳における熱中症発生は東京都,千葉市共に平日よりも日曜日,祭日で多かった.千葉市において,スポーツ時の発生は大部分が 5~19 歳であった.高齢者(65 歳以上)では大部分が生活活動時に発生した.熱中症の発生した日の日最高気温分布は東京都よりも千葉市で低温域にあった.日最高気温と日平均発生率との間に東京都と千葉市にそれぞれ異なる有意な相関関係を認め,千葉市で急勾配であった.日最高気温時 WBGT 分布は東京都と千葉市で同様であり,東京都と千葉市における日最高気温時 WBGT と日平均発生率との間に有意な相関関係を認めた.多重ロジスティックモデルの結果,日最高気温時 WBGT,日平均海面気圧,日照時間,降水量の因子について有意性を認めた.
著者
坂手 誠治 澤井 睦美 南 和広 寄本 明 星 秋夫
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.157-163, 2013 (Released:2013-01-25)
参考文献数
15
被引用文献数
4

本研究の目的は,大学生の熱中症予防教育に役立てるために,我が国の大学生の熱中症の実態を明らかにすることである.調査は質問紙を用いて実施した.対象は 18 歳から 24 歳の男性 792 名,女性 439 名の 1,231 名(19.1±1.0 歳)であった.熱中症の重症度について,過去のスポーツ活動時に経験した自覚症状より I 度~III 度に判別した.重症度の判別結果は I 度 5.6%,II 度 80.4%,III 度 14.0% であった.男性は女性と比較して III 度の該当率が高かった.体育系学部の学生はそれ以外の学生に比べて III 度の該当率が低かった.熱中症に関しては,90% 以上の学生が正しく認識していた.熱中症に関して正しく認識している者は,そうでない者に比べて III 度の該当率が低かった.WBGT および日本生気象学会,日本体育協会の熱中症に関する予防指針を知っていると回答した者は,知らないと回答した者に比べて,いずれも III 度の該当率が高かった.熱中症の経験があると回答した者は,ないと回答した者に比べて III 度の該当率が高かった.しかし,熱中症の経験がないと回答した者の重症度の内訳では,III 度の該当率は 10% であった.熱中症で病院に搬送されたことがある者は,ない者に比べて III 度の経験が高く,また全員 II 度以上であった.しかし運ばれたことがないと回答した者の重症度の内訳では,III 度の該当率は 12.2% であった.以上より,大学生の熱中症に対する知識は十分ではなく,熱中症による事故を防ぐためにも,より効果的な教育を実施する必要がある.
著者
宮田 一 星 秋夫 佐藤 勉 丹羽 源男
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.21-29, 1999-01-30 (Released:2017-10-27)
参考文献数
21

歯科医師に推奨すべき健康管理を確立するための基礎的データを収集する目的で,歯科医師の死亡構造の特徴について検討した。対象集団は,1975年から1996年までの22年間に某歯科大学同窓会に所属した男性歯科医師9,026名(死亡者1,550名)であり,SMRを算出して日本人男性と比較を行い,以下の結果を得た。1.観察期間における死因は心疾患(29.8%)が最も多く,次に悪性新生物(27.8%),脳血管疾患(13.6%),肺炎・気管支炎(9.9%)であり,これら死亡割合の合計は全体の80%以上に達した。2.歯科医師の平均死亡年齢は72.8±12.1歳(27〜101歳)であるが,近年になるに従って有意に増加した。3.総死因における歯科医師のSMRは日本人男性よりも有意に低価であった。4.主要死因のSMRについてみると,悪性新生物,および脳血管疾患は歯科医師で有意に低価であった。しかし,心疾患のSMRはいずれの年次においても歯科医師が有意に高値を示した。また,肺炎・気管支炎は歯科医師で有意に低値を示したが,最近4年間と55〜69歳の年齢層では高値を示した。以上から歯科医師は日本人男性よりも良好な健康状態にあることが示唆された。
著者
星 秋夫 稲葉 裕
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衞生學雜誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.730-736, 1995-08-15
参考文献数
23
被引用文献数
1 9

1898年から1991年までに幕内に入幕した力士664名を対象に,力士の年齢標準化死亡比(SMR)について同時代の日本人男性と比較した。さらに,1898年以降の出生者を対象として死亡率に対する種々の要因の寄与の推定を行った。<br>その結果は以下の通りである。<br>1.力士のSMRはいずれの年次においても有意に高く,年齢階級別にみると,35&sim;74歳のSMRが有意に高かった。<br>2.Coxの比例ハザードモデルによる解析から力士の死亡率に寄与する要因として,入幕暦年,BMIが抽出された。<br>3.生存率曲線において,入幕暦年の高値群,BMIの低値群はそれぞれ低値群,高値群よりも生存率が高かった。<br>以上の結果から相撲力士の高い死亡率は35&sim;74歳の高い死亡率によるものと示唆され,力士において,BMIの高値群は死亡のリスクが高いことが明らかとなった。
著者
樫村 修生 南 和広 星 秋夫
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.139-144, 2016

<p>本研究では,2020 年東京オリンピック開催期間と同期間の 2015 年において,暑熱曝露がもっと過酷であると想定されるマラソン選手の立場から,走行中に曝露される WBGT の計測を試みた.期間中にロードバイクに環境温度計を設置し,スタート地点からゴールまでをマラソン競技の走行スピードに相当する時速 20 km 時の WBGT を計測し,熱中症の危険性を評価した.平均 WBGT は 7 月 26 日が 30.4℃で 30℃を超え,次いで 8 月 4 日が 29.6℃,8 月 9 日が 27.0℃であった.また,平均乾球温度は,7 月 26 日が 36.9℃,8 月 4 日が 34.5℃,8 月 9 日が 32.4℃であった.平均 WBGT は,各地点においてロードバイク走行時の方が定点観測より平均 0.2±0.1℃(0.1 から 0.3℃)とわずかに低値であった.その結果,走行時に選手が曝露される WBGT は予想以上に高く,これにマラソン運動による 2 時間以上の体温上昇の負担も加わることから,熱中症を防ぎ良い成績を残すためには暑熱下トレーニングを実施し,十分な暑熱順化が必要になると思われる.この研究において,我々は 8:30 にスタート時間を設定したが,そのスタート時間をさらに早朝にシフトすることを検討する必要がある.さらに,我々はマラソンコースに多くのミストシャワーを設置し,ランナーの身体冷却を補助することが必要であると考える.</p>
著者
星 秋夫 稲葉 裕 村山 貢司
出版者
Japanese Society of Biometeorology
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.3-11, 2007-06-01
被引用文献数
7

東京都と千葉市における 2000~2004 年の熱中症発生について解析した.熱中症発生率は東京都(人口 10 万対:4.4 人)よりも千葉市(9.4 人)で高かった.年齢階級別熱中症の発生は両都市共,5~19 歳と 65 歳以上とに,発生のピークを示す二峰性を示した.5~19 歳における熱中症発生は東京都,千葉市共に平日よりも日曜日,祭日で多かった.千葉市において,スポーツ時の発生は大部分が 5~19 歳であった.高齢者(65 歳以上)では大部分が生活活動時に発生した.熱中症の発生した日の日最高気温分布は東京都よりも千葉市で低温域にあった.日最高気温と日平均発生率との間に東京都と千葉市にそれぞれ異なる有意な相関関係を認め,千葉市で急勾配であった.日最高気温時 WBGT 分布は東京都と千葉市で同様であり,東京都と千葉市における日最高気温時 WBGT と日平均発生率との間に有意な相関関係を認めた.多重ロジスティックモデルの結果,日最高気温時 WBGT,日平均海面気圧,日照時間,降水量の因子について有意性を認めた.<br>
著者
中井 誠一 星 秋夫 寄本 明 新矢 博美 芳田 哲也
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

わが国の運動時熱中症予防指針は発表以来18年を経るに至り,様々な研究成果が積み上げられ,熱中症予防に関する新たな知見が得られたと考えられる。熱中症発生実態では子どもと高齢者に多いこと,暑熱順化や着衣条件が関係することが発生要因として指摘された。そこで,WBGT28℃以上を厳重注意(激しい運動は中止)とし,暑熱順化不足,子どもと高齢者および全身を覆う着衣の場合については従来の基準1 段階下げるWBGT25℃以上(気温では28℃以上)を厳重注意とすることを提案した。