- 著者
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杉山 武敏
濱崎 周次
逢坂 光彦
羽賀 博典
杉山 武敏
嶋田 俊秀
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1992
ラムダ・ファージDNA(λDNA)を10%ホルマリンで固定するとDNAは小分子量化を来す.このホルマリンによるλDNAの小分子量化は,固定時の温度,固定液のpH,塩濃度等の影響を受けることが明かとなった.塩を含む中性緩衝ホルマリン固定で,λDNAの小分子量化を完全に防ぐことが出来た.マウス肝臓組織を用い,ホルマリン固定の組織DNAへの影響を検討したところ,10%ホルマリン,12時間室温固定した組織より抽出したDNAでは小分子量化が見られた.この小分子量化には固定時の温度,固定液のpH等が影響を及ぼした.中性緩衝ホルマリン,4℃固定で組織DNAの分解をある程度抑制することができた.室温で中性緩衝ホルマリン固定したλDNAを制限酵素で消化すると,不完全消化を示すバンドが電気泳動上認められた.この制限酵素処理の際の不消化現象は,制限酵素の種類,酵素量や消化時間に依存せず,また不消化を起こす特定の塩基配列も認められなかった.4℃,中性緩衝ホルマリン固定では不消化を示すバンドは認められず,不消化現象は固定時の温度に依存していると考えられた.一方,固定液の塩濃度は制限酵素不消化現象に対して影響を及ぼさなかった.ホルマリン固定したλDNAを鋳型としてpolymerase chain reaction(PCR)を行い,固定のPCR増幅への影響を検討した.10%ホルマリンでは固定後14日以降でPCR効率の低下が見られた.一方,中性緩衝ホルマリンでは,28日間固定したものでもPCR効率は低下せず,PCR産物の塩基配列にも影響は見られなかった.ヒト剖検例の肝(10%ホルマリン,室温固定)からDNAを抽出しPCRでK-rasコドン61を含む128bpを増幅したところ,固定期間が6ケ月を過ぎるとDNAの増幅は困難であった.以上から中性緩衝ホルマリン,4℃固定がDNA保存及び解析に望ましい固定法であると考えられた.本研究は成果をあげ修了した.