著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.240-252, 2001
被引用文献数
1

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題に対処するために能動的に制御された過程でもある。心配研究の主要な課題は, 心配がなぜ制御困難性になるのかを説明することである。本論文では, 先行研究を,(1) 心配の背後の自動的処理過程を制御困難性のメカニズムとして重視する流れと,(2) 心配の能動性そのものの中に制御困難性の要因を見いだそうとする流れ, の2つに分けたうえで,(2) に重点を置いて概観する。(2) の立場からの研究の課題は, さらに, a. 心配の機能や目標を明らかにするという大局的なものと, b. そのような機能や目標を実現するための方略を明らかにするという微視的なものとに区分される。本論文では特にb. のような微視的な視点に立った研究の必要性を提唱する。
著者
向井 秀文 杉浦 義典
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.137-147, 2022-11-25 (Released:2022-11-25)
参考文献数
43

近年,不安や抑うつといった内在化問題の低減に有効な治療アプローチの一つとして,メタ認知療法が注目されている。本研究では,考え続ける義務感といった内在化問題に対して強い予測力を有するメタ認知的信念に着目して,考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法の効果検証を行った。大学生34名を統制群と介入群に振り分けて,各群のプレからフォローにかけての指標得点の変化を検討した。対応のあるt検定を実施した結果,統制群のすべての指標得点間に有意な差は認められなかった。一方で,介入群においては,摂食症状以外のすべての指標得点間に有意な差が認められた。また,効果量を算出したところ,統制群よりも介入群において,大きな効果量が認められた。以上から,考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法の有効性が示唆された。
著者
竹林 由武 高垣 耕企 広瀬 慎一 大野 哲哉 小幡 昌志 川崎 友也 シールズ 久美 杉浦 義典 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.145-154, 2013-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、不安障害・大うつ病性障害の脆弱性と指摘されている「嫌悪的な事象に対するコントロールの知覚」を測定するAnxiety Control Questionnaire(ACQ)の日本語版を作成し、その妥当性を検討することであった。385名の大学生がACQ日本語版とそのほかの指標に回答した。探索的因子分析の結果、ACQ日本語版は「嫌悪的な刺激や状況に対するコントロールの知覚」と「不快な感情/身体感覚に対するコントロールの知覚」からなる2因子パタンであることが示された。ACQ日本語版は、高い内的整合性と再検査信頼性を示し、抑うつ・不安症状と負の相関、内的統制と正の相関があった。また、過剰な心配を統制した場合に、ACQ日本語版は不安症状との有意な負の相関を維持したが、抑うつ症状との相関は弱くなった。以上から、ACQ日本語版は、十分な信頼性と妥当性の一部をもつ尺度であることが明らかになった。
著者
杉浦 義典 杉浦 知子 丹野 義彦
出版者
信州大学人文学部
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.33-46, 2006-03-15

This study examined the psychometric properties of the scales intended to measure constructs related to Morita Therapy. Such scales are expected to be useful for empirical comparison of Morita Therapy with different but similar interventions (e.g., cognitive behavior therapy). Two scales were completed by college students: Self Report Morita -Neuroticism Inventory (SRMNI) and Self and Anxiety Questionnaire (SAQ). SRMNI is intended to measure vulnerability to neurosis (anxiety disorders); SAQ is intended to measure beliefs about anxiety, which is relevant to development, maintenance, and treatment of anxiety. Correlations with personality traits, anxiety, and depression revealed the psychometric properties of the subscales of each inventory. Morita-Neuroticism of SRMNI reflected per. 森田療法で仮定される病理学的要因や治療における変化プロセスを捉えることを目的とした尺度の心理測定的性質を検討した。このような尺度は森田療法を認知行動療法など他の心理療法と実証的に比較するために有用である。具体的には,神経症(不安障害)の素因とされる森田神経質を測定する神経質自己調査票,および「とらわれ」や「あるがまま」といった概念と密接にかかわる不安への態度を測定する自己と不安の質問紙を取り上げた。大学生データをもとに,他のパーソナリティ特性や不安や抑うつ症状との関連を検討した。神経質自己調査票の下位尺度である神経質傾向度は完全主義的傾向を反映しており,いわゆる神経症傾向(ネガティブ情動)とは異なった側面を捉えていた。一方,幼弱性という傾向が症状と一貫した関連を示した。幼弱性は,自己中心性や依存性を反映する。一方,自己と不安の質問紙については,不安感や不安を感じる自己を受容できる傾向および問題に対処する効力感が,特性不安などと負の相関を示した。神経質自己調査票の神経質傾向度や理知-感覚傾向度,自己と不安の質問紙の感情制御欲求は本研究では症状との関連が見いだされなかったが,理論的に有用な次元であると考えられた。それぞれの尺度は一定の妥当性を示したため,森田療法の関連概念を測定する研究は今後も継続する価値があると考えられる。しかし,尺度の項目など今後の洗練が必要であろう。
著者
杉浦 義典 杉浦 知子
出版者
信州大学高等教育システムセンター
雑誌
信州大学高等教育システムセンター紀要
巻号頁・発行日
vol.2, pp.75-81, 2006-03-31

近年,個人的な経験や直感ではなく,科学的・客観的な研究知見の蓄積をもとに介入を行うエビデンス(実証)に基づいた臨床心理学が盛んである.臨床心理学やカウンセリングは多くの学生が興味をもつテーマであるが,エビデンス・ベイストの考えを導入することで,臨床心理学を手掛かりに,統計的思考法,批判的思考力,自己観察のスキルなどを磨く機会になると期待できる.臨床心理学教育というと,大学院レベルでの専門職の養成に焦点がおかれる場合が多い,それに対して,筆者の所属する信州大学の人文学部では,(専門職の養成を直接には目指さない)学部レベルの教育と,教養教育レベルが中心になる.そこで,幅広い学生を対象とした一般教養レベルにおける筆者の実践を紹介したい.
著者
砂田 安秀 杉浦 義典 伊藤 義徳
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.150-159, 2019
被引用文献数
2

<p>近年,倫理を伴ってマインドフルネスの訓練を行う重要性が指摘されている。本研究では,マインドフルネスと無執着・視点取得の関連に対する倫理の調整効果を検討することを目的として,一般成人193名を対象としたウェブ調査を実施した。階層的重回帰分析の結果,倫理観が強い場合,マインドフルネスが高いほど,無執着が高かった。一方で,倫理観が弱い場合,マインドフルネスが高いほど,無執着が低かった。また,倫理観が弱い場合,マインドフルネスが高いほど,視点取得が低かった。以上の結果から,マインドフルネスは倫理を伴って機能することで有益な結果をもたらし,倫理が欠如した中では有益な結果につながらない可能性が示唆された。</p>
著者
砂田 安秀 杉浦 義典 伊藤 義徳
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
2019
被引用文献数
2

<p>近年,倫理を伴ってマインドフルネスの訓練を行う重要性が指摘されている。本研究では,マインドフルネスと無執着・視点取得の関連に対する倫理の調整効果を検討することを目的として,一般成人193名を対象としたウェブ調査を実施した。階層的重回帰分析の結果,倫理観が強い場合,マインドフルネスが高いほど,無執着が高かった。一方で,倫理観が弱い場合,マインドフルネスが高いほど,無執着が低かった。また,倫理観が弱い場合,マインドフルネスが高いほど,視点取得が低かった。以上の結果から,マインドフルネスは倫理を伴って機能することで有益な結果をもたらし,倫理が欠如した中では有益な結果につながらない可能性が示唆された。</p>
著者
砂田 安秀 甲田 宗良 伊藤 義徳 杉浦 義典
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.253-262, 2018

<p>本研究では,約半数のADHDの成人に併発する症状である成人のSCT症状を測定する尺度を開発し,妥当性を検討した。この新たな尺度の狙いは,既存の尺度の項目が抑うつと類似しているために抑うつとの弁別性が乏しい問題を克服することであった。文献のレビューによってSCT項目が選定され,専門家によって内容的妥当性の検討が行われた。これらの項目は抑うつ気分でないときの状況について回答されるものであった。大学生471名が質問紙に回答し,因子分析によって項目の選定が行われた。ジョイント因子分析によって,本SCT尺度は抑うつからの十分な弁別性を有していることが示された。最終的なSCT尺度(9項目)は,収束的妥当性,弁別的妥当性,内的一貫性の高さが示された。</p>
著者
砂田 安秀 甲田 宗良 伊藤 義徳 杉浦 義典
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究
巻号頁・発行日
2018

<p>本研究では,約半数のADHDの成人に併発する症状である成人のSCT症状を測定する尺度を開発し,妥当性を検討した。この新たな尺度の狙いは,既存の尺度の項目が抑うつと類似しているために抑うつとの弁別性が乏しい問題を克服することであった。文献のレビューによってSCT項目が選定され,専門家によって内容的妥当性の検討が行われた。これらの項目は抑うつ気分でないときの状況について回答されるものであった。大学生471名が質問紙に回答し,因子分析によって項目の選定が行われた。ジョイント因子分析によって,本SCT尺度は抑うつからの十分な弁別性を有していることが示された。最終的なSCT尺度(9項目)は,収束的妥当性,弁別的妥当性,内的一貫性の高さが示された。</p>
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.191-198, 1999-06-30

心配には問題解決のために能動的に制御された側面(問題解決志向性)と制御困難性という2つの側面が存在している。本研究では両者の関連を因果分析によって検討した。心配のプロセスをとらえる質問紙を大学生359名に実施したデータを, 共分散構造分析によって分析したところ, 問題解決志向性は制御困難性を抑制する効果とともに, 問題が解決されないという感覚(未解決感)を強めることを通じて, 制御困難性を促進する効果ももっていることが見出された。問題解決志向性から制御困難性へのこのような正負の効果が相殺しあって, 両変数はほぼ無相関であった。さらに, 心配の問題解決志向性は普段一般の積極的な問題解決スタイルを反映していること, 問題解決の自信の低さや完全主義という性格特性が未解決感を強めることが見いだされた。問題解決にかかわる変数から構成されるモデルが, 心配の制御困難性の分散の約31%を説明していたことから, 問題解決に着目した理論化および臨床的介入が有効であることが示唆された。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.271-282, 2002
被引用文献数
7

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題を解決しようとする動機を反映している。先行研究では, 問題を解決するための方略 (問題焦点型対処方略) の使用が, 思考の制御困難性を強める場合力あることが見いだされている。本研究では, 問題焦点型対処方略と思考の制御困難性との関連を規定する要因として, 問題解決過程を評価, 制御する思考 (内的陳述) に着目して検討した。大学生177名を対雰とした質問紙調査の結果, 問題解決への積極性や粘り強さをしめす自己教示 (考え続ける義務感) と問題解決過程に対する否定的な評価 (未解決感) が, 問題焦点型対処方略と思考の制御困難性の関連を媒介していた。考え続ける義務感と未解決感は, いずれも思考を持続させるような内容の変数である。これらの結果から, 動機的な要因による思考の持続が, 思考の制御困難性の重要な規定要因であることが示唆された。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.186-197, 2001-06-30
被引用文献数
1

心配は, 制御困難な思考であると同時に, ストレスへの対処方略でもある。本研究では, 心配がどのような性質の対処方略なのかを調べるために, 情報回避, 情報収集, 解決策産出という3つの対処方略とストレスに関する思考の制御困難性との関連を検討した。成人134名を対象とした質問紙調査の結果, 情報回避, 情報収集, 解決策産出のいずれもが思考の制御困難性を増強し得ることが示された。さらに, この関連はそれぞれの対処方略のもつストレス低減効果とは独立であった。また, 性格特性によって, 対処方略の使用が思考の制御困難性に及ぼす影響が異なることが分かった。結果を, 心配のメカニズムのモデルに照らして考察し, 問題焦点型対処に分類される情報収集と解決策産出については, 動機的な要因による思考の持続が思考の制御困難性を規定するのに重要である可能性を示唆した。
著者
田中 圭介 杉浦 義典 竹林 由武
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.146-155, 2013-11-30 (Released:2013-12-04)
参考文献数
34
被引用文献数
1 2

マインドフルネスとは,“今ここでの経験に,評価や判断を加えることなく,能動的に注意を向けること”として定義される自己の体験に対する特殊な注意の向け方である。マインドフルネスの個人差を規定する要因として,注意機能の関連が指摘されている。しかし,注意機能のどの側面が,どのような交互作用でマインドフルネスに関連するのかについては,これまで明らかにされていない。本研究では,大学生を対象にAttention Network Test(Fan et al., 2002)とマインドフルネス傾向(Baer et al., 2006)を測定した。階層的重回帰分析の結果,注意の喚起機能が低い時には,注意の定位機能はマインドフルネスと正の関連を示す一方で,喚起機能が高い場合には,定位機能はマインドフルネスと負の関連を示した。これらの結果は,マインドフルネスの個人差の規定因として,注意機能を交互作用から捉える必要性を示唆する。
著者
杉浦 義典 杉浦 知子 丹野 義彦
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.79-89, 2007-03-15

強迫症状と関連の深い意志決定の困難さを,強迫症状に限定されないパーソナリティ特性として測定する不決断傾向尺度(Frost & Shows,1993)の日本語版を作成し,その信頼性と妥当性を検討した。非臨床群を対象とした質問紙調査の結果,以下のことが明らかになった。(1)不決断傾向は1因子構造であり,十分な内的整合性を示した。(2)不決断傾向は,強迫症状と正の相関を示した。(3)不決断傾向は,責任の認知および完全主義(ミスを恐れる傾向)との正の関連を示した。(4)不決断傾向は,一般的なパーソナリティ傾向(ビッグファイブ),および,責任の認知と完全主義で説明出来ない強迫症状の分散を説明していた(増分妥当性)。(5)否定的な思考の暴走を防ぐ認知的なスキル(認知的統制尺度の「破局的思考の緩和」)は,不決断傾向を低減できる可能性が示唆された。以上の知見から,日本語版不決断傾向尺度の一定の信頼性と妥当性が確認された。
著者
佐藤 德 杉浦 義典
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.605-611, 2014
被引用文献数
7

Previous studies showed that incidental feelings of disgust could make moral judgments more severe. In the present study, we investigated whether individual differences in mindfulness modulated automatic transference of disgust into moral judgment. Undergraduates were divided into high- and low-mindfulness groups based on the mean score on each subscale of the Five Facet Mindfulness Questionnaire (FFMQ). Participants were asked to write about a disgusting experience or an emotionally neutral experience, and then to evaluate moral (impersonal vs. high-conflict personal) and non-moral scenarios. The results showed that the disgust induction made moral judgments more severe for the low "acting with awareness" participants, whereas it did not influence the moral judgments of the high "acting with awareness" participants irrespective of type of moral dilemma. The other facets of the FFMQ did not modulate the effect of disgust on moral judgment. These findings suggest that being present prevents automatic transference of disgust into moral judgment even when prepotent emotions elicited by the thought of killing one person to save several others and utilitarian reasoning conflict.