著者
田崎 和江 長谷川 香織 松本 和也
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.87-104, 2002-03-25

かつての鉱山活動は重金属を外界に排出し,今日でも水質や土壌汚染の原因となっている.岐阜県神岡町にある大規模なZn-Pb鉱山の一つである神岡鉱山は,神通川の重金属汚染源となってきた.Cd,Pb,ZnそしてFeなどの重金属が高原川-神通川水系に未処理のまま廃棄され,下流域の住民の健康に影響を与えた.重金属の中でも特にCdは,イタイイタイ病の病原物質と見なされた.Cd汚染問題は未だに解決されていない.消石灰を投入し,中和凝集処理された廃滓の沈殿池が神岡鉱山にいくつか存在する.廃滓や廃棄場から排出された汚染水は,神通川の上流の高原川に流れ込んでいる.本研究では,重金属を含む堆積物の特性を明らかにするため,高原川-神通川水系にある五つのダムの堆積物を採取した.ダム堆積物の鉱物的・化学的組成を明らかにするため,それぞれの試料についてXRD,ED-XRFによる分析を行った.その結果,神岡鉱山の上流域に位置する浅井田ダムの堆積物はCd,粘土鉱物そして有機物が少なく,神岡鉱山の下流域に位置する新猪谷ダム,神通川第一,第二,第三ダムにおいては,汚泥,スメクタイトそしてZn,Cdのような重金属が多く含まれていることが明らかになった.また,本研究では,水中の重金属の浄化能力を見積もるための実験を行った.その結果,バクテリアを使ったバイオレメディエーションは重金属の固定に効果的であることを示した.室内実験系においてバイオフロック中の糸状菌は,一週間で細胞壁の表面にPb,Zn,Cdを選択的に濃集した.バイオレメディエーションの能力を持つバクテリアは,鉱山地域における下流のダム堆積物中でも重金属を固定する重要な役割を演じている.
著者
松本 和紀
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、統合失調症(精神分裂病)の記憶機能に注目し、これが統合失調症の病態といかなる関わりがあるかを明らかにするために行った。報告者の研究により統合失調症では、記憶や言語機能を反映する事象関連電位反復効果に異常があることが見いだされているが、今回は特にこの反復効果が、統合失調症に特徴的である思考障害の基盤にある認知神経異常として現れると考え実験を行った。対象は、健常対照者10名、統合失調症患者19名で、患者はDSM-IVの基準を満たし、検査時には寛解期にあった。いずれの被検者に対しても研究について書面でのインフォームドコンセント行った。思考障害の評価にはホルツマンらの思考障害評価尺度を用いた。統合失調症患者は、この尺度に基づき思考障害群9名と非思考障害群10名に分けられた。反復効果課題施行中の事象関連電位が測定された。刺激は、かな二文字からなる単語で、標的は動物を意味する単語、非標的はそれ以外の単語を用いた。非標的の半分は初回提示の後に反復され、その半分は直後に反復される直後反復で、残り半分は平均5単語おいて反復される遅延反復であった。思考障害群では、有効な反復効果は認められず効果の大きさは刺激提示後300-500ミリ秒の平均振幅で健常群と比べ有意に減弱した。非思考障害群は部分的に反復効果を認め、効果の大きさは健常者と思考障害群との中間であった。反復効果の頭皮分布は、思考障害群では健常群や非思考障害群で認められる正中有意の分布を示さなかった。反復効果は、記憶や言語などの認知機能と関わりが深いことが知られており、特に刺激提示後400ミリ秒近辺の電位はN400成分と関わりが深いことが知られている。本研究の結果、思考障害を有する統合失調症患者では、N400の調整機構が障害されており、記憶や言語と関わる認知機能が思考障害の基盤にある可能性が指摘される。
著者
松本 和紀 進藤 克博 松岡 洋夫 松本 和紀
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究は脳内で行われる言語情報処理の早期の「知覚処理」から後期の「意味処理」への変換の仕組みとその相互作用を電気生理学的に解明していくために、事象関連電位を用いて早期の知覚情報処理に関わるNA電位と意味・記憶処理と関わるERP反復効果を指標に研究を行った。今年はNA電位とERP反復効果を健常者と精神分裂病者を対象に調べた。実験1:外国文字とかな文字との比較-刺激は非読外国文字、無意味かな単語、有意味かな単語の三種類。刺激は二文字からなり200m秒、2〜3秒の間隔で提示された。被験者はある意味範疇に属する単語に対してボタン押し反応をした。NA電位は非標的刺激に対するERPから単純反応課題に対するERPを差分して得られた。結果、NA電位は、三種類の刺激間で差が認められず、早期知覚処理では、意味の有無、日本語・外国語の違いなく同等に処理が行われることが分かった。健常者と分裂病者の比較では、分裂病者でNA電位の遅延が認められたが、刺激間の差はなかった。実験2:ERP反復効果とNA電位の比較-刺激は二文字からなるかな単語で、標的は動物の意味をもつ単語で非標的はそれ以外のかな単語。非標的の半分は初回に提示される単語で、残り半分は直後反復される単語と平均5単語間隔をおいて遅延反復される単語とに分けられた。単純反応課題も施行され、実験1と同様の方法でNA電位が計測された。結果、反復単語に対してCzを中心に全般性にERPが陽性方向へシフトするERP反復効果が認められた。NA電位とERP反復効果とは振幅や潜時に相関は認められなかった。一方で精神分裂病では、直後反復でのERPで反復効果の減弱が認められた。この結果、知覚の早期処理と記憶処理とでは、ある程度独立した機構が並行した処理を行っている可能性が指摘され、精神分裂病では知覚の早期処理の遅延と、記憶や意味と関連する電気生理学的活動の減弱が推定された。
著者
三成 賢次 松川 正毅 高橋 明男 高田 篤 茶園 成樹 松本 和彦 中山 竜一 養老 真一 福井 康太 仁木 恒夫 水島 郁子 佐藤 岩夫 佐藤 岩夫
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、法曹の新職域として注目が集まっている弁護士業務の調査研究を行い、これに法領域横断的な理論的検討を加えることを通じて、近未来における法曹新職域のグランドデザインを提示することを目的とする研究プロジェクトであった。本研究では、諸外国の法曹とその養成課程に関する現状と課題を明らかにするとともに、主として最先端の企業法務を対象とする聞き取りおよびアンケート調査を実施し、法曹の職域の今後に関する模索的な研究を行った。本研究で特に力を入れたのは、全国2000社を対象とする「企業における弁護士ニーズに関する調査」、大阪弁護士会会員の約半数にあたる1500名を対象とする「弁護士業務に関するアンケート調査」、そして全国の企業内弁護士259人を対象とする「組織内弁護士の業務に関するアンケート調査」という3つのアンケート調査であった。それゆえ、本研究では、主として企業関連の弁護士の新しい職域の動向を明らかにすることとなった。
著者
高村 聡 松本 和教 関口 芳廣
出版者
山梨大学
雑誌
山梨大學工學部研究報告 (ISSN:05131871)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.44-50, 1991-12

We are developing a wild birds twitter-identification system which can work in noisy enviroments. In the natural world, there are several types of noises, for example, the sound of stream, the sound of leaves swayed by the wind and twitters of other birds. Then we can't use specific features of the twitters of birds to identify them. In this system, the number of zerocrossing and the mean value of overall spectrum of twitters of birds are used to determine the kind of birds. This system can successfully identify 34 twitters out of 35 twitters which are twittered by 7 kinds of birds and recorded in natural world.
著者
松本 和 山本 文子 山本 千恵子 玉川 栄子
出版者
高知学園短期大学
雑誌
高知学園短期大学紀要 (ISSN:03894088)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.49-53, 1973-09-01

1.献立作成の際,材料に対して,何%の油が吸着するかを知る必要がある.それで,日常行なわれている調理操作で吸油量を検討した.2.吸油量は大体,10%前後であるが,調理方法によって,吸着量は若干異なる.いも類の素揚げは3%, 魚類の衣揚げは10%,から揚げ14%,パン粉揚げ15%である.3.衣揚げ, パン粉揚げの衣の準備量は衣揚げの場合,衣は材料と同量で,材料が100gの場合の小麦粉 : 水 : 卵(2 : 2 : 1)の準備量は40g : 40g : 20gである.パン粉揚げの場合は小麦粉4〜7%, 卵液5〜7%(卵の分量は3〜4%)パン粉10%である.
著者
松本 和也 戸川 望 柳澤 政生 大附 辰夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ITS (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.171, pp.25-30, 2008-07-21
被引用文献数
5

携帯電話の高性能化・小型化により,GPSやナビゲーションシステムを用いた地図サービスの利用が拡大し,都市部から郊外部にわたって需要が増加すると考えられる.しかし表示画面が狭く処理能力の低い携帯端末で地図を表示させるには,携帯端末画面に適した略地図を生成する必要がある.本稿では,主に直線から構成される都市部だけでなく,直線・曲線を含む郊外部にも適用可能な略地図生成手法を提案する.提案手法は,エリア全体の道路ネットワークをいくつかのグループに分割し,各グループごとに間引き処理すると同時に直線化曲線化することで,都市部や郊外部に適応した略地図生成を図る.都市部と郊外部各10箇所の入力データを用いて提案手法を適用した結果,都市部ならびに曲線の多い郊外部でもデータ量削減と見やすい略地図が生成されることを確認した.
著者
松本和幸
雑誌
信学技報
巻号頁・発行日
2003
被引用文献数
1
著者
足立 由美 高田 茂樹 雄山 真弓 松本 和雄
出版者
関西学院大学
雑誌
教育学科研究年報 (ISSN:02889153)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.7-14, 2003-03-25
被引用文献数
1

近年,コミュニケーションメディアの多様化やその普及・影響について論じられているが,携帯電話の急速な変化・普及とそのことが与える影響については研究・議論が追いついていない感さえある.本稿では,2回の調査によって携帯電話コミュニケーションの実態から見えてきた大学生の対人関係について考察することを目的とする.特に携帯メール利用についての実態を報告するとともに,性別分析の結果も報告する.調査は関西学院大学の学生に対して,質問紙調査を行った.1回目の調査(以下調査1)では携帯電話の所有率や利用実態について,2回目の調査(以下調査2)では調査1の結果に基づき,携帯メールの利用実態についてより詳細に尋ねた.調査1は2000年6月中旬から8月末にかけて,調査員5名が大学内,または大学周辺で個別に調査を実施した.収集したデータ数は197名分であり,有効回答数は195名(男性94名,女性101名)となった.調査2は2002年1月中旬から1月末にかけて,調査員2名が学部の講義に出席していた学生を対象に集団または個別に調査を実施した.収集したデータ数は305名分であり,有効回答数は302名(男性161名,女性141名)となった.調査結果から,大学生にとって携帯電話は単なる情報伝達手段ではなく,最も身近なコミュニケーションメディアであることが明らかになった.特に携帯メールによる文字コミュニケーションは同世代の対人関係の絆や依存意識を高めるものとして機能していると考えられる.本研究から携帯電話の通話相手および携帯メール相手と普段の依存対象との正の相関が示された.携帯電話によるコミュニケーションの対象を見ると,音声通話ではほとんど出てこないきょうだいや先生が携帯メールでは挙げられている.このことは携帯メールコミュニケーションが対人関係を広げる可能性を示唆したものだと言えるだろう.その反面,不特定相手とのEメールへの希望は減少してきていること,恋人との音声通話および携帯メールの頻度の高さ,そして恋人への依存度との高い正の相関などから,狭い選択的人間関係の中で絆を深めるのに携帯メールが使用されていることも読み取れる.また,携帯メールは男性よりも女性に利用頻度が高いという先行研究の結果が再確認された.男性にとって携帯電話は積極的に新しい人間関係(特に異性関係)を広げるもの,女性にとっては親しい仲間(特に同性の友人と)の絆を強めるものとして機能する可能性が考えられる.携帯電話というメディアが対人関係に与える影響についてさらなる研究が期待される.