著者
桑原 直行 越後谷 和美 藤田 正子 鳥海 雄好 湯澤 仁
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.56, pp.235, 2007

〈はじめに〉災害拠点病院とは、災害に対して24時間緊急対応し、災害発生時に被災地内の傷病等の受入れ及び搬出を行なうことが可能な体制を有し、 被災地外の場合も、被災地からの傷病者の受入れ拠点にもなる病院である。また、災害発生時における消防機関と連携した医療救護班の派遣体制があるのも条件となっている。秋田組合総合病院は平成12年新築移転後、秋田県災害拠点病院としての体制作りと活動を行っている。新潟中越地震が発生した際にも医療救護班を派遣しているが、当時の貴重な経験と現在の当院での災害拠点病院としての取り組みと問題点を報告する〈活動内容〉平成16年10月23日午後5時56分に小千谷市を震源として、新潟中越地震が発生したが、この時から本格的な災害拠点病院としての活動が始まった。秋田組合総合病院は歴史的に新潟大学医学部との関係が深く、新潟県出身の医師も多いため、地震発生当初から支援要請があれば直ちに医療救護班を派遣する準備をしていた。県からの派遣要請のもと、先遣隊の後を引き継ぐ形で、地震発生から10日目にあたる11月1日から医療救護班を現地に送った。当初は現在のように訓練された医療班はなく、すべてが手探りの状態であった。この貴重な災害医療を経験することで、被災地のニーズは時々刻々と変化しており、これを的確にかつリアルタイムに把握し対応することの大切さを実感した。この医療救護班を派遣した実績を認められ、DMAT(災害派遣医療チーム)指定病院となり、現在DMATとして1チームが活動している。DMATとは、災害の急性期(48時間以内)に活動できる機動性をもった、専門的トレーニングを受けた医療チームのことである。大規模災害等での非常時における医療活動を、いかに効率よく行っていくかを4日間の研修で学んできている。秋田空港での航空機事故を想定した災害訓練等にも参加しており、少しずつ、災害拠点病院としての役割をはたせる体制が整ってきた。しかし、病院としての被災地内の災害医療に対応できる体制は十分とは言えない。災害急性期には、特殊状況下で、傷病者が普段と桁違いに集中発生する一時的なニーズに応えなければいけない。つまりトリアージが重要で、これはDMAT隊員だけができればよいというものではない。当院では、事務職も含め、トリアージを実践できるように院内研修会をすすめている。また、 DMAT研修での知識を共有し、さらに、隊員を拡充することも必要である。また、災害時のマニュアルの整備と訓練、食料備品などの事前の準備と備蓄などの問題点も多くあり、一つずつ解決する努力を継続していかなければならない。〈結語〉災害拠点病院として機能するためには、マニュアルを整備することはもちろんであるが、災害急性期に対応するためには、大規模災害は他人事ではないという職員全員の自覚と日頃の訓練によるスキルアップが必要不可欠である。
著者
湯澤 規子
出版者
日本農業史学会
雑誌
農業史研究 (ISSN:13475614)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.41-58, 2015 (Released:2017-03-23)

As a case study of the Bisai textile and industrial areas of the Taisho era from the Meiji period, this paper will examine the interaction between agriculture and the textile industry in order to sketch the formation process of this industrial area. First, there is a structural transformation of the textile industry, starting from the late 19th century. Since the early modern period, the Bisai cotton fabric industry thrived as a household industry, and grew with the introduction of the factory machine loom beginning at the end of the 19th century. Then, in particular as a response to the First World War, which resulted in a new market for uniforms and military blankets, production was converted from cotton fabric to wool. When the factories were established, a lot of female workers gathered. Such production not only resulted in secure labor, but it also increased the demand for food with the rising number of workers leaving farms. The demand for fuel for use in textile production and cooking also increased. Second, there is an important relationship between agriculture and the textile industry. The development of vegetable cultivation was observed near rural factories and cities in Aichi Prefecture. Night soil, which has been indispensable in the development of vegetable cultivation, was supplied from the city, parade ground and factories. The cultivation of rice and wheat experienced chronic labor shortages and soaring labor costs as a result of the flow of the workforce from agriculture to industry. Thus agriculture in the region in the Taisho period was heavily influenced by the development of commerce and industry, especially the textile industry. Such socio-economic change not only affected Bisai, but characterizes the formative years of industrial areas in Japan as a whole. There was an increased demand for labor in agriculture and industry, as well as for food, fuel and fertilizer. Thus, there was a profound interrelationship between the transformations occurring in industry and the surrounding rural area.
著者
湯澤 正通 渡辺 大介 水口 啓吾 森田 愛子 湯澤 美紀
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.380-390, 2013 (Released:2015-09-21)
参考文献数
13

本研究では,小学校1年のクラスでワーキングメモリの相対的に小さい児童の授業観察を行い,そのような観察対象児の授業中における態度の特徴を調べ,その教育的,発達的意味,および授業参加の支援方法についての考察を行った。小学校1年生2クラスを対象にコンピュータベースのワーキングメモリテストを行い,テスト成績の最下位の児童をそれぞれのクラスで3名ずつ選び,国語と算数の授業37時間で観察を行った。ワーキングメモリの小さい児童の授業態度は,個人によって違いが見られたが,挙手をほとんどしない児童が含まれ,全般に,課題や教材についての教師の説明や,他児の発言を聞くことが容易でないことが示唆された。挙手をほとんどしない観察対象児が挙手する場面を検討したところ,a) 発問の前に児童に考える時間を与えてから発問する,b) 発問をもう一度繰り返す,c)いくつかの具体的な選択肢を教師が提示した上で発問するといった場面で,他の場面よりも挙手率が有意に高かった。ワーキングメモリに発達的な個人差がある中で,ワーキングメモリの相対的に小さい児童にとって授業への参加は不利になること,そのため,教師は,ワーキングメモリの小さい児童を意識した支援方法を意図的に用いる必要があることが考察された。
著者
湯澤 直美
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.496-501, 2016-07-15

先進諸国における「子どもの貧困」が社会問題化するなか,日本においても政府による対応が着手された.2013年6月には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(平成25年法律第64号)が成立し,2014年1月に施行されている(以下,子どもの貧困対策推進法).これを受け,2014年8月には「子供の貧困対策に関する大綱」(以下,大綱)が閣議決定された.また,生活困窮者への対応として,2013年12月には「生活困窮者自立支援法」(平成25年法律第105号)が成立し,2014年4月に施行されている.本稿では,これらの法律・大綱の内容を解説するとともに,施策の動向や課題について概観する.
著者
深見 公雄 湯澤 篤 西島 敏隆 畑 幸彦
出版者
日本水産學會
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.1073-1077, 1992
被引用文献数
28 83

A bacterium 5N-3 possessing a remarkable inhibitory effect on the growth of <i>Gymnodinium nagasakiense</i> was isolated from Uranouchi Inlet, Kochi. This bacterium was tentatively identified as <i>Flavobacterium</i> sp. The growth inhibiting effect of 5N-3 on <i>G. nagasakiense</i> was drastic in particular when the alga was in the logarithmic growth phase, and cell density decreased to less than 1% of the initial concentration within 4 days after inoculating 5N-3, indicating that the effect was algicidal. The effect was obtained when the density of the bacterium was more than 10<sup>6</sup> cells/m<i>l</i>. However, they grew very rapidly up to 10<sup>8</sup> cells/m<i>l</i> by using extracellular released organic carbon from various phytoplankton species. On the other hand, the algicidal effect of 5N-3 was only observed on <i>G. nagasakiense</i> but not on <i>Chattonella antiqua</i>, <i>Heterosigma akashiwo</i>, or <i>Skeletonema costatum</i>. These results indicate that the effect of 5N-3 was <i>G. nagasakiense</i>-specific and suggest that it grows to a level of cell density effective in inhibiting the alga in the field by using naturally oc-curring organic carbon from phytoplankton.
著者
渡辺 大介 湯澤 正通 水口 啓吾
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.87-94, 2014

本研究では,小学校2,3年生(N=160)による減算の求補場面と求差場面の作問課題における言語性ワーキングメモリおよび視空間性ワーキングメモリの役割を検討した。言語性ワーキングメモリおよび視空間性ワーキングメモリの高低群によって作問課題に対する解答内容の違いを調べた結果,求補場面では,言語性ワーキングメモリ得点の高い児童は低い児童に比べて,式と絵の両方に対応している解答を多く行った。一方,視空間性ワーキングメモリにおいては,このような偏りは見られなかった。他方,求差場面では,視空間性ワーキングメモリ得点の高い児童は低い児童に比べて,式と絵の両方に対応している解答を多く行った。一方,言語性ワーキングメモリにおいては,このような偏りは見られなかった。これらの結果から,求補場面と求差場面の作問課題においてそれぞれ言語性ワーキングメモリと視空間性ワーキングメモリが異なる働きをしていること,これらの問題理解の支援において異なるアプローチをとる必要がある可能性が示唆された。
著者
大河内 信弘 湯澤 賢治 佐藤 英明 安江 博
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

移植医療の問題点の一つである移植臓器不足の解決法のひとつとして、豚、牛などの異種動物からヒトへ臓器を移植する異種移植が挙げられる。このドナー動物として豚が最も有望とされているが、細胞、臓器を問わずブタからヒトへの異種移植において、ヒトが生まれつき持っている抗異種反応性自然抗体、および補体によって引き起こされる超急性拒絶反応が大きな障壁となっている。これらの抗体や補体により引き起こされる超急性拒絶反応は不可逆的であり、移植された細胞や臓器は細胞死、または臓器不全となる。この超急性拒絶反応を抑制するためにはドナー側の異種抗原(galactose α-1,3-galactose)を消去または減少させることが必要不可欠である。そこで本研究では、昨年度は異種抗原をknock outするgene vectorの作成を試みたが、いずれのvectorも抗原の発現抑制には無効であった。今年度はこの細胞表面に存在する異種抗原を合成する転換酵素(α-1,3-galactosyltransferase)のアンチセンスRNAベクターを作成し、ブタ細胞への遺伝子導入を試みた。その結果、一過性発現ではあるが、ブタ細胞の異種抗原を減弱させられることが明らかになった。以上の結果より、遺伝子導入によりアンチセンスRNAを発現させα-1,3-galactosyltransferaseタンパクの翻訳を阻害する方法は、超急性拒絶反応を抑制する手段の一つとなることが示唆された。
著者
長屋 幸助 湯澤 秀人 村上 岩範
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. C編 (ISSN:03875024)
巻号頁・発行日
vol.65, no.640, pp.4653-4659, 1999-12-25
被引用文献数
2

Since a commutator of the DC-motor is divided into a number of segments to have the torque in the circumference direction, the currents in the coils of the rotor vary and have alternative waves during the rotor rotation even in a constant input voltage. The currents become sharp waves, so that they have high frequency component. This implies that the rotor shaft and the case of motor are excited electromagnetic forces with high frequency components. Since high frequency noises are loud when they are input to human ears, so that when high frequency vibrations are suppressed, noises become small. From the situation, this paper discusses a method of noise reduction of Dc Motor. In the method, the current waves are controlled to be sinusoidal waves. The method and the control algorithm are given. In order to validate the method, experimental tests are carried out. It is proven that our method is applicable to the motor noise control.
著者
水口 啓吾 湯澤 正通
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.75-84, 2012-03-20

本研究では,日本語母語大学生・大学院生60名を対象として,音韻構造の異なる5つの英単語(CV,CVC,CVCV,CVCC,CVCVC)を用いた記憶スパン課題を行い,英単語音声知覚時の分節化について検討した。その結果,以下のことが明らかになった。第1に参加者全体の記憶スパンを音韻構造で比較したところ,CVCとCVCV,CVCCとCVCVCの記憶スパンはそれぞれ同じだが,CVC,CVCVの記憶スパンは,CVCC,CVCVCの記憶スパンよりも長かった。第2に,モーラ分節者の反復音声持続時間は,もとの音声刺激の持続時間や,混合分節者のそれよりも長くなる傾向が見られた。第3にTOEIC得点の高い英語能力高群の記憶スパンでは,低群のそれよりも,音節による分節化と一致するパターンが多く見られた。以上の結果から,長期間,英語学習を積んできた大学生・大学院生であっても,英単語音声の知覚や音韻的短期記憶内での処理において,日本語母語のリズムの影響を強く受けること,そして,英語能力の向上は,音節による分節化と密接な関連があることが示唆された。

1 0 0 0 IR 五音の歌

著者
湯澤 質幸
出版者
筑波大学
雑誌
文藝言語研究. 言語篇 (ISSN:03877515)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.142(31)-172(1), 1992
著者
湯澤 直美
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
日本教育学会大會研究発表要項
巻号頁・発行日
vol.68, pp.76-77, 2009-08-12

近年、日本においても「子どもの貧困」が社会問題として注目されるようになってきた。しかしながら、「子どもの貧困」研究は緒についたばかりともいえ、子ども期に貧困であることの持続的な影響や貧困の世代的再生産を生み出す構造についての解明、貧困防御のための実践の創造と共有化は急務である。本報告では、社会福祉の領域をフィールドとしながら、とりわけ家族という社会制度に焦点をあて、家族を単位として保護者・子ども双方に要請される自助努力の現代的態様について、子どもの貧困をめぐる日本的土壌という観点から考察する。その際、特定の世帯類型で貧困率が高い点に注目し、ワーキング・プアの典型ともいえる母子世帯の現況をとりあげる。そのうえで、教育と福祉をつなぐ視角から実践的な課題を提起することを目的とする。
著者
湯澤 直美
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.45-56, 2009
被引用文献数
1

子育て家族の経済基盤の二極化の進行のなかで,子育ての実態はいかなる現況にあるのか。本稿では,より困難が集約されている家族の現実を考察するため, 貧困の世代的再生産が把握される母と子のライフヒストリーをもとに,いかなる政策対応が求められるのかを検討した。分析からは,子ども期の貧困が若者期の貧困化に直結し,母子家族の貧困—女性の貧困へと分かち難く連なる慢性的貧困が確認された。子ども期の貧困の持続的な影響力は,貧困化と孤立化の連鎖により,生活基盤に加えて家族の形態も流動化させ,解体された家族は社会的排除のなかに置かれていた。子どもの貧困克服には,親世代における富の不平等に積極的に介入し,教育・福祉・医療・住宅・労働など包括的な支援システムが必要である。加えて,貧困リスクのなかで生きる子どもへのソーシャルワークによる子どもの孤立化の防止と,社会的包摂に向けたエンパワーメントの視点が必要であることを提言した。