著者
原 真志
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.368-386, 2005-12-30
被引用文献数
3

日本初のフル3DCDによるテレビアニメシリーズである「SDガンダムフォース」プロジェクトを事例として,日本における予算的・時間的に制限された条件下で,アニメのフル3DCG化を実現したイノベーションのプロセスとそのシステムの特徴を分析した.対象プロジェクトを実現した谷原スタジオを中心とした「谷原システム」は,次の5つの特徴を持つ.東京大都市圏で近接する異質なクラスターを前提として,第1に谷原スタジオの主要スタッフとしてアニメ系,CG系,実写系の多様な人材が集められ,第2にアニメ系,CG系,ゲーム系といった多様な企業をサテライトCGスタジオとして組織化している.第3にアニメ産業とCG産業という2つの方法,価値観の異なるクラスターを融合し,従来のアニメとは全く異なる「作り方を作った」.第4に,予想できない問題に対処するために,プロジェクト期間中にループ型からスター型へとプロジェクト構造の進化を行った(「作り方を作った,しかも作りながら」).第5に,このプロジェクトの中で,クラスターを融合する関係性資産が再開発されていったが,異質なクラスターのシステム融合を実現したのは,「クリエイティブサイドとプロデュースサイドのバランスをとった」,異端のリーダーシップであった.大都市圏のコンテンツ産業などでは,近接する異質なクラスターを前提に,その融合の可能性と困難性を認識し,融合する関係性資産の開発プロセスに注目する視点が重要である.
著者
原 真志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.701-722, 1994-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
34
被引用文献数
1

都市化した住宅地域で,旧村落時代からの祭り運営が残る大阪府堺市百舌鳥梅北町5丁を対象地域に,自治会加入全世帯についての自治会関連組織に関する行動の分析,および個人単位での社会ネットワーク・社会空間の分析を行ない,地域社会特性と住民の定着の相互関係について考察した.年齢別,性別に分化した自治会関連組織は年齢の両端に位置する子供会・老人会が空間的には限定的であるが幅広い世帯属性を包摂しているのに対し,中間の青年団・秋月会はその逆である.この重層的包摂構造が住民の定着に影響を与えており,早くから社会空間を認知し組織に参加することで自治会全域という地域社会スケールでの定着がうながされる「地域社会型定着過程」と,若い間は組織に参加せず隣組およびその周辺という近隣スケールでの定着がまず進行し,後に社会空間を認知し定着範囲が広がる「近隣型定着過程」という2つの定着過程が生じていると考えられる.
著者
原 真志
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.701-722, 1994-10
被引用文献数
4

都市化した住宅地域で,旧村落時代からの祭り運営が残る大阪府堺市百舌鳥梅北町5丁を対象地域に,自治会加入全世帯についての自治会関連組織に関する行動の分析,および個人単位での社会ネットワーク・社会空間の分析を行ない,地域社会特性と住民の定着の相互関係について考察した.年齢別,性別に分化した自治会関連組織は年齢の両端に位置する子供会・老人会が空間的には限定的であるが幅広い世帯属性を包摂しているのに対し,中間の青年団・秋月会はその逆である.この重層的包摂構造が住民の定着に影響を与えており,早くから社会空間を認知し組織に参加することで自治会全域という地域社会スケールでの定着がうながされる「地域社会型定着過程」と,若い間は組織に参加せず隣組およびその周辺という近隣スケールでの定着がまず進行し,後に社会空間を認知し定着範囲が広がる「近隣型定着過程」という2つの定着過程が生じていると考えられる.
著者
小笠原 真志
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.201-205, 2023 (Released:2023-07-05)
参考文献数
20

先天性ミオパチーは臨床的,病理学的,遺伝学的にheterogeneousな遺伝性筋疾患である.筋病理で筋線維内に特徴的な構造異常を認めるため,従来,先天性ミオパチーは筋病理学的に診断がなされてきた.筋病理像によって,ネマリンミオパチー,コアミオパチー(セントラルコア病・マルチミニコア病),ミオチュブラーミオパチー/中心核病,先天性筋線維タイプ不均等症に細分化されている.近年の遺伝子解析の技術の進歩に伴い毎年のように先天性ミオパチーの新規原因遺伝子が同定され,さらに1つの原因遺伝子が複数の先天性ミオパチーを来す報告がある一方で,1つの先天性ミオパチーを来す原因として複数の原因遺伝子が報告されている.また遺伝形式も顕性遺伝しか報告のなかった原因遺伝子で潜性遺伝も報告され,その逆の例もまた報告されている.そのため遺伝子検査によって得られた結果だけではその解釈は難しい場合がある.従来,先天性ミオパチーは臨床的に表現型が似ているため筋病理によって診断がなされてきたが,最近の大規模な症例解析によって臨床的に異なる表現型を呈することが分かってきた.本稿ではそれぞれの先天性ミオパチーの臨床的,病理学的,遺伝学的な特徴について最新の知見を踏まえ概説する.また先天性ミオパチーで現在行われている研究についても概説する.
著者
和田 崇 荒井 良雄 箸本 健二 山田 晴通 原 真志 山本 健太 中村 努
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では,日本の諸地域における通信インフラを活用した情報生成・流通・活用の実態を,いくつかの事例分析を通じて解明した。まず,通信インフラ整備の過程を地方行政再編とデジタル・デバイドの2つの観点から把握・分析した。そのうえで,医療と育児,人材育成の3分野におけるインターネットを活用した地域振興の取組みを,関係者間の合意形成と連携・協力,サイバースペースとリアルスペースの関係などに着目して分析した。さらに,地方におけるアニメーションや映画の制作,コンテンツを活用した地域振興の課題を指摘し,今後の展開可能性を検討した。
著者
原 真志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.52, 2009

1.はじめに 文化と経済の双方向での融合が進行し(Scott, 2000),高コストの大都市に集積するコンテンツ産業に対する関心が高まり、わが国でもコンテンツ産業政策支援の議論が活発になって来ている.知識ベース集積論では,イノベーションに重要な暗黙知の共有のために対面接触に有利な近接立地が促進される側面が強調されているが(Maskel and Malmberg, 1999),間接的実証のみで,対面接触の直接的実証が欠如している(Malmberg and Power, 2005).コンテンツ産業の特徴としては,都市空間においてプロジェクトベースで多数の主体が相互作用して離合集散するプロジェクトエコロジーを形成している面が重要であり(Grabher, 2002),単に主体間のネットワークのパターンを静態的に特定するだけでは不十分である.本研究は,コンテンツ産業クラスターにおいて,プロジェクトベースでどんな主体のいかなる相互作用によって,どのようにして多様な主体が時限組織の中に編みこまれて,プロジェクトが開発され,実行されるのかのダイナミズムを明らかにすることを目的とする.2.方法 地理学においては,主体間のコミュニケーション分析として,コンタクトアナリシスがあるが(Törnqvist, 1970;荒井・中村,1996),定常的コンタクトの分析が中心であった.報告者は,これまでサーベイ・対面調査・参与観察等の手法により,ハリウッド映画や日本のアニメ・実写のコンテンツプロジェクトにおける主要な主体間のコミュニケーションの実証を行ってきたが(原,2002a;原,2002b;原,2007),プロジェクト期間中の,確定された参加者を対象としたものであった.産業クラスターあるいはプロジェクトエコロジーの核心部分は,プロジェクトがいかに立ち上がるのかという開発段階あるいはそれ以前の試行錯誤を含む相互作用ではないかと考えられる.その検証にはプロジェクトの正式な開始以前の長期のデータ収集が必要となるが,コミュニケーションの対象範囲の特定の困難さ,膨大な量,心理的抵抗,守秘義務などの障壁から,そうした段階の長期のデータ入手は困難であった. 本研究は,調査協力者を得て,こうした問題を克服するために「半リアルタイム定期調査法」という方法を考案してデータ収集を行った.「半リアルタイム定期調査法」では,調査協力者に,日常的にコミュニケーション日誌にすべてのミーティングスケジュールを記録してもらい,それを基に1~2カ月に一度の定期的ヒアリングを実施し,各ミーティングに関する詳細な内容を聞き取るというものである.この手法により,シングルケースであるが,1年間を越える長期の大量のコミュニケーションデータの収集が可能となった.聞き取る項目としては,いつ・どこで・誰と何のために会ったかという基本事項に加え,会う契機,定例-非定例,プロジェクトベースか否か,相談・依頼の有無と方向,金銭の授受の有無,情報の送受信量と相対量,コミュニケーションの結果としての認識の変化や意思決定の有無などの項目が含まれている.3.対象 本研究で具体的な調査対象とする松野美茂氏(現在ミディアルタ社取締役)は映画・テレビのVFXスーパーバイザー・VFXプロデューサー等として活躍しており,代表作に平成ガメラシリーズ,ウルトラマンシリーズ,SDガンダムフォース,生物彗星WoO等がある.企業に所属している時期も,企業を超えた形で次世代技術をいち早く活用するプロジェクトを起こすフリーランス的な仕事を行ってきており,またCG関連のソフト・ハード製品についての先見性が業界で伝説になっている.本研究では,松野氏に対して半リアルタイム調査法によりデータ収集を行い,分析を加えた.データ収集は2005年11月から開始し,2008年度日本地理学会春季学術大会において,2006年末までのデータの分析結果を報告した.今回は,2007年度分のデータを加えて,合計六百件強の約2ヶ年のデータの分析結果を報告するが,2006年には従来のフリーランス的な行動が反映されたものであったのに対し,2007年は松野氏が新規起業に関与していった時期であることに起因する興味深い違いが現われている.
著者
尾高 慎二 神田 佑亮 西ノ原 真志 飯野 公央 谷口 守
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.I_753-I_760, 2013 (Released:2014-12-15)
参考文献数
15
被引用文献数
2

松江都市圏では,平成19年度から職場モビリティ・マネジメント(MM)を5年間継続的に実施してきている.また,平成21年度からは市民全体の取り組みとして「ノーマイカーウィーク」へと発展させてMMを展開している.本稿では,職場MMの継続効果として,交通現象面へ与える集計的効果,「まつエコ宣言(職場交通プラン)」策定による意識・行動変容に与える効果,取り組みの継続・定着状況によるまちづくり意識へ及ぼす効果の3つの観点から職場MMの継続実施効果を明らかとするものである.これらの結果,ノーマイカーウィーク実施中のみならず,通常時の交通量も減少すること,まつエコ宣言によりノーマイカーへの取り組みが活性化されること,取り組みの継続意向の高さや定着により,まちづくり意識に影響があることを示唆している.
著者
原 真志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>1.研究目的</b><br>&nbsp;&nbsp; 2016年はVR(Virtual Reality)/AR(Augmented Reality)/360度映像といったVR関連技術(以下VR)が大いに注目され,「VR元年」と呼ばれるほど商業化の動きが加速しており,コンテンツ産業だけでなく観光,医療,製造業など多産業に及ぶ大きな影響が予測されている(原,2016; 岩田, 2016; Goldman Sachs, 2016). 日本ではHMD(ヘッドマウントディスプレイ)やゲーム・スマホ関係の話題が中心であるのに対し,米国ではハリウッドメジャーやシリコンバレーのIT企業を巻き込み,特にストーリーテリングに関する実験的取組みが盛んに行われている点が注目される.本研究は, CGの学会兼展示会であるSIGGRAPH(2016年8月アナハイム),SIGGRAPH ASIA(12月マカオ))等で情報収集し,LAや東京で実施したVR等関連企業の現地調査を基に,「破壊的」技術と考えられるVRが(原,2016),ストーリーテリングに関するイノベーションとどのように結びついてハリウッド映画とその関連産業に変化をもたらそうとしているのか,その地理的な含意はいかなるものかを考察することを目的とする.&nbsp;<br><br><b>2.ストーリーテリングと「古典的ハリウッド映画」</b><br>&nbsp; 近年,ストーリー性やストーリーテリングが組織論において企業戦略に重要と認識されるとともに(Brown <i>et al</i>., 2005; Denning, 2007; 楠木, 2010),地理学においても関心が高まって来ている(Cameron, 2012;&nbsp; Kerski, 2015).映画産業の黎明期に先進地だったヨーロッパや米国東海岸の「動く絵」に対し,後発のハリウッドが優位に立てたのは,ストーリーテリングの導入・確立というイノベーションによるものであり(Thompson and Bordwell, 2003; Cousins, 2004; Maltby, 2003; Bordwell and Thompson, 2008), Bordwell <i>et al</i>.(1985)は, コンティニュイティ編集,目標志向の主人公,原因と影響,クライマックス,強力な結末等から特徴づけられる観客に分かりやすい「古典的ハリウッド映画」を支配的なモードとして提示している.<b>&nbsp;</b><br><br><b>3.VRとハリウッド映画産業</b><br>&nbsp; HMDでのVR鑑賞では360度の視線の自由が与えられ,またカメラワークや編集の技法が使えないため,演出意図を一義的に視聴者に伝えるのに困難が生じる.伝統的な映画の方法論の不十分さを克服し,「VR酔い」を防ぎ,VRの没入感を活かす新たなVRストーリーテリングの開発が市場での成功に不可欠なものと認識されている(Pausch <i>et al</i>.,1996; Curtis <i>et al</i>.,2016).ハリウッド映画産業にとってVRは機会と脅威の両側面で捉えられ,Digital Domain, Technicolor, 20th Century Fox&rsquo;s Innovation Lab等従来のハリウッド映画関連企業がエンターテインメント系VRプロジェクトに参入している.他方シリコンバレー周辺においても,FacebookやGoogle等IT企業やVCが関与する形で,様々な実験的コンテンツ制作が行われている.そのような例として,ハリウッドのアニメ映画監督を招聘して優れた短編360度VRアニメ「Pearl」を制作したGoogle Spotlight Stories社 ,360度VR映像コンテンツの制作支援を様々な形で行っているOculus Story Studio社,Oculus Story Studio社 のCo-founderのEugine Chung氏が創業した Penrose Studios社,短編360度VRアニメ「Invasion!」を制作し、長編アニメ映画製作の資金調達に成功しているBaobab社等があげられる.&nbsp;<br><br><b>4.VRストーリーテリングとネットワーク社会</b><br>&nbsp; 約1世紀前に撮影・上映という技術革新を基にした映画産業の確立にストーリーテリングという感性価値に関するイノベーションが大きな役割を果たしたことが,21世紀のVRの時代に再来している.ただし排他的特許戦略をとったエジソンの例を他山の石としてか(Thompson and Bordwell, 2003),SNSとオープンイノベーションが普及している現在では,買収したOcculusを通してFacebookがVRコンテンツ制作のノウハウの開発と普及を図り,また開発した4Kの360度カメラをすぐにオープンソースにするなど,長期的戦略の投資で産業確立のための公共財提供を行って参入を促し市場成長を牽引している点は興味深い.
著者
原 真志
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

第1に,集積内と集積間の関係を総合的に取り扱い,また,企業から独立したプロジェクトリーダーチームが意思決定を行う場合があるコンテンツプロジェクトを説明するためには従来の組織論,組織間関係論,境界連結単位を超えるプロジェクトの理論が必要であり,申請者のこれまでの研究成果と他の既存研究の再検討を通して,「プロジェクトの空間デザイン」の研究フレームの構築作業を進めた。第2に,「プロジェクトの空間デザイン」の研究フレームを具体的に検証するため,ハリウッドにおけるVFXプロジェクトの総括責任者であるVFXスーパーバイザーへのヒアリングを行った。具体的にはKevin Tod Haug氏,John Bruno氏,John Dykstra氏を対象に,担当したVFXプロジェクトでの,要求内容に応じた企業選択の要因を,分業内容,企業や集積の評価(コストとクリエイティビティ),過去のプロジェクト経験,監督やプロデューサーの意向などの点について詳細にヒアリングを実施した。第3に,プロジェクトリーダーであるハリウッドのVFXスーパーバイザーを対象に調査した内容を,連携するハリウッド外の視点から検証するために,ハリウッド映画の参加実績を持つロンドンとプラハに立地するVFX企業を対象とした現地調査を行った.第4に,日本におけるアニメの事例として,東京のサンライズ社を中心とする日本で初めてのフル3DのCGによるテレビアニメシリーズ「SDガンダムフォース」プロジェクトにおけるコミュニケーションとイノベーションに関する調査を実施した。第5に,日本における実写の事例として,円谷プロとNHKの共同制作によるデジタル衛星放送用のハイディフィニションテレビSFシリーズ「WoO」を取り上げ,VFXスーパーバイザーである松野美茂氏を対象に1週間の参加観察を実施し,コミュニケーション行動のデータ収集を行って分析した.
著者
原 真志
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、国際比較実証研究により、映画・CG・アニメといった映像関連コンテンツ産業におけるクリエイティブプロセスを、企業とテンポラリー組織の戦略・ガバナンス・リーダーシップの相違という視点から分析し、さらに産業クラスターとテンポラリークラスターの果たす役割を検討することを目的とし、日米において企業とテンポラリー組織のキーパーソン、 テンポラリークラスターとして SIGGRAPH (CG 学会&展示会) の現地調査を実施した。
著者
原 真志
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

平成13年度の成果を受けて、平成14年度においては次の調査を行った。1)平成13年度に実施したリズム&ヒューズ社における映画「スクービー・ドゥ」のVFXプロジェクトでのコミュニケーション調査で得られたデータの分析を進めた。その結果、コミュニケーション手段間の関係、手段と知識創造(コミュニケーションのパフォーマンス)の関係等が明らかとなった。この定量的分析結果を踏まえて、さらにヒアリング調査による定性的検討を行った。それらの照合により、VFXプロジェクトは、従来のゲートキーパー説、ゲートキーパー&トランスフォーマー説では説明が不十分であり、スーパーバイズ・ラインとマネジメント・ラインという二つのラインの分業と階層構造からなる協働リーダーシップ・モデルが提示された。2)平成13年度に行った参加観察による一人のVFXスーパーバイザー(ケブン・トッド・ハウグ氏)の一週間のコミュニケーション行動の分析を受けて二つの調査を行った。第1に、14人のVFXスーパーバイザーに対するヒアリング調査を実施し、VFXスーパーバイザーの機能とコミュニケーションに関する一般化を試みた。その結果、プロジェクト・デザインにおける参加企業の立地決定要因が明らかにされるとともに、フリーランスと企業所属のVFXスーパーバイザー間の相違、対象メディアによる相違(映画、CM、音楽ビデオ)等が明らかになった。第2に、時間軸的な分析の拡張のため、ケブン・トッド・ハウグ氏に映画以前のキャリア・パス、作品毎のネットワークの進化について詳細なヒアリングを行った。その結果、同氏のネットワークの進化論的グルーピングがなされるとともに、ターニング・ポイントとなったプロジェクト並びに人物が存在し、マドンナのミュージックビデオの仕事でその後のキーパーソンとの出会いがあったこと、プロデューサーのシオン女史、デビッド・フィンチャー監督とのつながりがその後の仕事や人の拡大に関係していること、今はない某社が現在活躍している多くの入物とのネットワーキングの場として機能し、インキュベータ的役割を果たしたこと等が明らかになった。