- 著者
-
篠田 知和基
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1993
日本とフランスを中心として、昔話、および伝説の異類婚説話の比較を行なった。広くインド・ヨーロッパ文化圏の説話と日本の説話が民衆文化のレヴェルで相同性を示すことはすでに、吉田敦彦氏らによって証明されているが、とくに神話レヴェルに近い昔話としての異類婚説話を検討すると、それが、獣祖と天人との結合を物語る始祖説話から発生することが了解され、そのひとつとして、たとえば、フランスのメリュジーヌ説話と日本のトヨタマヒメ説話の相同性なども出てくるが、それは、決して直接的な一方の他方への伝播でなはく、双方の中間地帯からの同時両方向的伝播の結果だが、それも単に単一説話の移動ではなく、自然と人間とのかかわり方を説明する説話体系の複合的移動が、文化的に変容を蒙っていった果ての一致であることがわかる。すなわち、昔話では、フランスの代表的な昔話、「悪魔の娘」が、日本の「天人女房」と構造的一致を示し、「青髭」は「猿婿」の文化的変容である。また、動物相の変化の法則により、中央アジアの狼は日本では蛇(神)になり、メソポタミアを経由したヨーロッパでは竜になるが、それが、さらに、攻撃者と犠牲の相互可逆性の法則により、昔話では蛙になり、また、文化英雄の遺棄の説話は超自然的保育神話に接続するときに、授乳者としての雌鹿のイメージをうんでもゆく。それらを総合して、日本とフランスは同一文化の両端に属し、同種の文化変容を遂げつつ、それぞれ、特有の風土性を示し、かつ、早くから、近代化を蒙りながらも、その両者を対照させることで、いくつかの説話の古層の原態を再現することができる文化であることが証明された。