- 著者
-
木庭 元晴
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.100344, 2014 (Released:2014-03-31)
福島第一原発事故以来3年を経た現在も,福島経済の中軸部である中通り地方の空間線量は5mSv/yをはるかに越えている。人の動線沿いの除染活動は比較的進んではいるが,動線から少し離れると高い空間線量を記録している。中通り地方の多くが5mSv/y,つまり放射線管理区域を脱するのは,広域のホットスポットを除いても,20年後である。 これは,航空機モニタリングと現地調査によって得られた土壌中のセシウム-134,-137濃度分布(Bq/m2)(文科省測定,農林水産省2012.12.28現在)から初期値を逆算し,原発事故から60年間についての自然減衰を計算した結果である。2013年終わりの四半期の測定は現在終了しておりこの3月には新たな測定結果がマスコミに発表される筈で,できれば再計算したい。 JA福島は,国・県・市に圃場単位の線量測定を依頼したが受け入れられず,全国生協の協力を得て,どじょスクと呼ばれる何万筆もの土壌汚染計測を実施してきた。どじょスクでは,筆毎に3点で測定器を接地して計測している。これでは農家の外部被曝量を評価できず,農家毎への適正な助言もすることはできない。つまり,疫学的な評価の基礎資料にならない。 この問題点をクリアするのは空間線量の利用である。耕地をカバーしうる地点(1点あたり半径50mの範囲)で,地上高1mの空間線量を計測することで,各耕地のいわば平均的なガンマ線線量率を得ることができる。地上高1mは3次元的な情報を得ることができるし,農家の被曝量μSv/hも求めることができる。なお,当然のことながら,農家の被曝は農作業対象の耕地だけでなくその周辺からの放射線からも被曝しており,耕地の土壌汚染よりも空間線量が農家の被曝評価には有効である。サーベイメータはPM1703MO-1(Polimaster製 高感度, CsI放射線測定器, 積算線量,探索メーター)を使用する。この調査では耕地内外のホットスポットの探索も重要である。 現地での空間線量測定値は天候に左右される可能性があり,空間線量値として地上高1mとともに地上高25cmでも計測する。無風の場合,理論的には後者は前者の1.3倍値となる。なお,中通りには多数の定点観測所が設置されている。このうち連続観測データのある7方部の測定値(2分毎の計測で1時間平均値)と風の関係をみると,0.01μSv/hほどである。