著者
中田 高 高橋 達郎 木庭 元晴
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.87-108, 1978-02-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
61
被引用文献数
25 28

琉球列島の完新世離水サンゴ礁の地形とその年代から,地震性地殻変動地域におけるサンゴ礁形成過程と完新世後半の海水準変動曲線の復元を試みた.このため,離水サンゴ礁の地形断面を簡易測量によって作成し,異なった層準面から得られた58個のサンゴ化石試料の14C年代からサンゴの礁発達過程を明らかにしようとした.小宝島,宝島および喜界島において復元された相対的海水準変動曲線から,間歇的地震性隆起によってサンゴ礁の離水段化が進んだことがわかった.地殻変動は長期的には等速的であり,間歇的地震性隆起により段化は進むが,地震間の地殻変動が比較的静穏な時期には海水準変動は氷河性海水準変動そのものであるという考えから,喜界島の相対的海水準変動曲線から間歓的隆起量を除去し,海水準変動曲線を復元した.この海水準変動曲線は,日本で一般的に受け入れられているFairbridge curveにみられる,いわゆる後氷期の高位海水準は認められず, Shepard curveに代表されるゆるやかに上昇し現海水準に達する海水準変動曲線に近い.
著者
菅 浩伸 高橋 達郎 木庭 元晴
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.114-131, 1991-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
37
被引用文献数
11 11

本研究の目的は,琉球列島・久米島西銘崎の完新世離水サンゴ礁で行った9本の掘削試料をもとに,完新世の各時相における礁原の形成過程の時空間関係を明らかにし,それに関わった地形形成環境を明らかにすることである。試料の解析は,礁の地形構成における掘削地点の水平的な位置関係と掘削試料の放射性炭素年代とその試料の垂直的な位置関係にとくに留意して行い,次のような結果を得た。 7500-2000年前の期間における相対的海水準変化は,海面上昇速度から以下の3っの時相に区分される。 1. 約7500-6500年前:約10m/1000年と急速な海水準の上昇期 2. 6500-5000年前: 3m/1000年以下の海水準の上昇期 3. 5000-2000年前:海面安定期現礁原にあたる部分の礁地形の形成過程は, 3つの形成段階に分けられる。 1. 初期成長期:礁形成の開始は約7500年前である。初期成長段階における礁形成は,完新世サンゴ礁の基盤地形における波の進入方向と斜面の方向との関係と,水深の違いを反映した成長構造の差異が認められる。 2. 礁嶺成長期: 6500-6000年前の海水準面の上昇速度の低下に対応して原地性卓状サンゴによる活発な造礁活動が認められ,礁嶺が海面に達する。この段階において礁嶺頂部がもっとも速く海面に達したのは,前段階までに形成された礁地形の深度が浅く,波の影響を強く受ける位置にあった部分である。 3. 礁原形成期:海面上昇速度の低下とそれに続く海面安定期に対応して,約6000年前に礁原の形成が始まる。まず,礁嶺中央部が海面に達し,続いて礁嶺の外洋側と礁湖側が海面に達して礁原が形成される。礁湖側の上方成長速度にっいては礁嶺中央部の上方成長が遅く,かっ水平的な連続性が悪いところほど速い。 完新世サンゴ礁形成に関わる諸要因については,主に海面上昇速度と波の進入方向がサンゴ礁形成過程に作用している。サンゴ礁形成の結果つくられた地形は,次の礁形成に作用する要因となっている。
著者
中田 高 木庭 元晴 今泉 俊文 曹 華龍 松本 秀明 菅沼 健
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.29-44, 1980
被引用文献数
40

房総半島南部の完新世海成段丘は,相模トラフに沿って発生する過去の大地震に伴う地殻変動の歴史を記録している.地形的証拠および36個の<sup>14</sup>C年代測定を含む年代資料をもとに,本地域の地殻変動の量と様式について考察した.<br> その結果,本地域は, 6,150年前, 4,350年前, 2,850年前および270年前に急激な海水準の相対的低下があり,これらは,大正・元禄型地震による地震性地殻隆起によるものであると考えられる.地震間の安定期間の長さは,前回の地震時における変位量と比例関係にある.各地震直前の年代と相対的海水準高度をもとに,長期的平均隆起速度を最小二乗法を用いて求めたところ, 3.0mm/年という値が得られた.また,長期的平均隆起速度と各地震間において求められた隆起速度との値の差は,当時の海水準変動の傾向を示すものと考えられる.これによれぽ,約2,700年前ごろには海水準は低下傾向にあり,それ以降,上昇傾向にあるとみることができる.なお,同様の地殻変動様式と海水準変動の傾向は,琉球列島・喜界島の離水サンゴ礁においても認めることができた.
著者
木庭 元晴
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100344, 2014 (Released:2014-03-31)

福島第一原発事故以来3年を経た現在も,福島経済の中軸部である中通り地方の空間線量は5mSv/yをはるかに越えている。人の動線沿いの除染活動は比較的進んではいるが,動線から少し離れると高い空間線量を記録している。中通り地方の多くが5mSv/y,つまり放射線管理区域を脱するのは,広域のホットスポットを除いても,20年後である。 これは,航空機モニタリングと現地調査によって得られた土壌中のセシウム-134,-137濃度分布(Bq/m2)(文科省測定,農林水産省2012.12.28現在)から初期値を逆算し,原発事故から60年間についての自然減衰を計算した結果である。2013年終わりの四半期の測定は現在終了しておりこの3月には新たな測定結果がマスコミに発表される筈で,できれば再計算したい。 JA福島は,国・県・市に圃場単位の線量測定を依頼したが受け入れられず,全国生協の協力を得て,どじょスクと呼ばれる何万筆もの土壌汚染計測を実施してきた。どじょスクでは,筆毎に3点で測定器を接地して計測している。これでは農家の外部被曝量を評価できず,農家毎への適正な助言もすることはできない。つまり,疫学的な評価の基礎資料にならない。 この問題点をクリアするのは空間線量の利用である。耕地をカバーしうる地点(1点あたり半径50mの範囲)で,地上高1mの空間線量を計測することで,各耕地のいわば平均的なガンマ線線量率を得ることができる。地上高1mは3次元的な情報を得ることができるし,農家の被曝量μSv/hも求めることができる。なお,当然のことながら,農家の被曝は農作業対象の耕地だけでなくその周辺からの放射線からも被曝しており,耕地の土壌汚染よりも空間線量が農家の被曝評価には有効である。サーベイメータはPM1703MO-1(Polimaster製 高感度, CsI放射線測定器, 積算線量,探索メーター)を使用する。この調査では耕地内外のホットスポットの探索も重要である。 現地での空間線量測定値は天候に左右される可能性があり,空間線量値として地上高1mとともに地上高25cmでも計測する。無風の場合,理論的には後者は前者の1.3倍値となる。なお,中通りには多数の定点観測所が設置されている。このうち連続観測データのある7方部の測定値(2分毎の計測で1時間平均値)と風の関係をみると,0.01μSv/hほどである。
著者
野間 晴雄 森 隆男 高橋 誠一 木庭 元晴 伊東 理 荒武 賢一朗 岡 絵理子 永瀬 克己 朴 賛弼 中俣 均 平井 松午 山田 誠 山元 貴継 西岡 尚也 矢嶋 巌 松井 幸一 于 亜 チャン アイン トゥアン グエン ティ ハータイン チャン ティ マイ・ホア 水田 憲志 吉田 雄介 水谷 彰伸 元田 茂光 安原 美帆 堀内 千加 斎藤 鮎子 舟越 寿尚 茶谷 まりえ 林 泰寛 後藤 さとみ 海老原 翔太
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

東アジア世界に位置する歴史的地域としての東シナ海,日本海,黄海・渤海・中国東北地方,広義の琉球・ベトナム,朝鮮半島の5つの部分地域として,環東シナ海,環日本海沿岸域の相互の交流,衝突,融合,分立などを広義の文化交渉の実体としてとらえる。それが表象された「かたち」である建築,集落,土地システム,技術体系,信仰や儀礼,食文化等を,地理学,民俗建築学,歴史学・民俗学の学際的研究組織で,総合的かつ複眼的に研究することをめざす。いずれも,双方向の交流の実体と,その立地や分布を規定する環境的な側面が歴史生態として明らかになった。今後はこの視点を適用した論集や地域誌の刊行をめざしたい。
著者
米田 文孝 中谷 伸生 長谷 洋一 木庭 元晴 原田 正俊
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

従来, インド国内の石窟寺院の造営時期は前期石窟と後期石窟とに明確に区分され, その間に造営中断期を設定して論説されてきました。しかし, 本研究で造営中断期に塔院(礼拝堂)と僧院を同一窟内に造営する事例を確認し, 5世紀以降の後期石窟で主流となる先駆的形態の出現確認と, その結果として造営中断期の設定自体の再検討という, 重要な成果を獲得しました。あわせて, 看過されていた中小石窟の現状報告が保存・修復の必要性を提起し, 保存修復や復元事業の契機になることも期待できます。
著者
高橋 誠一 野間 晴雄 橋本 征治 平岡 昭利 西岡 尚也 筒井 由起乃 貝柄 徹 木庭 元晴
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、南海地域における歴史地理的実体を多角的に解明することを主目的としたものであった。従来の地理学分野からの琉球研究は、都市、集落、民俗、交易活動などを個別的に扱い、かつ沖縄や奄美の一地方を対象としたものが多かった。しかしこれらの個別事例の蓄積のみでは、東シナ海や南シナ海全域にわたる琉球の実体の把握が困難であったことは言うまでもない。そこで本研究においては、中国沿海州・台湾・ベトナム・フィリピン、沖縄・奄美における現地調査を実施し、都市・集落景観、伝統的地理学観の影響と変容、伝統的農作物栽培の伝播過程、物流と交易活動、食文化の比較、過去と現在の当該地域における地理学教育に見られる地域差などに関して、立体的な分析を行った。以上の研究によって、琉球が果たしてきた重層的な歴史的役割の実態を、かなりの程度まで明らかにできたと考える。これらの成果の一部は各研究者による個別論文のほかに、2007年に沖縄県立公文書館において開催した国際研究集会報告書などにおいても公刊済みである。また全体的な成果の一部を報告書としても提示した。しかし、本研究によって解明できた点は、当初の目的からすれば、やはりまだその一部を果たしたに過ぎないと言わざるを得ない。すなわち南海地域における歴史地理的諸事象の伝播過程やその変容については、かなり解明したとはいうものの、本研究の成果は単方向的な文化事象の伝播や影響の摘出に終始したとの反省がある。文化の交流や伝播は、長い歴史的過程の中では、多方向的に複雑に錯綜することによって新しい様相を生み出すということができる。それらを明らかにすることによって、本究で対象とした地域に関する理解を深化することを今後の課題としたい。