- 著者
-
高瀬 克範
- 出版者
- 一般社団法人 日本考古学協会
- 雑誌
- 日本考古学 (ISSN:13408488)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.18, pp.149-158, 2004-11-01 (Released:2009-02-16)
- 参考文献数
- 48
先史時代研究のなかで,通事的な多様性のみならず,共時的な多様性までをも優劣関係のもとに評価してしまう価値観は,たとえ顕在的ではないとしてもいまなお息づいている可能性が高い。こうした評価軸のなかでは,決して積極的な位置づけがあたえられることがない地域は必ず存在しており,そうした歴史を偏見や差別,一方的な価値観の押しつけを排しながら,いかにして取り扱ってゆくべきかはいまだ解決していない大きな課題といえる。ここでは,「非文明」の評価をめぐる問題を作法としてまとめ,「文明」研究とはことなる注意点についての覚書きとした。「非文明」をとりあつかう際の姿勢としてまず指摘されるのは,一国史の枠組みを対象化し,それとの距離のとりかたに慎重になることである。さらに,「文明」中心の歴史叙述のなかで常識化してきた,「文明」にとって都合がよい論理に疑問を呈してゆく批判的な態度も必要である。こうした姿勢がないかぎり,「文明」を中心とした価値観のなかに埋もれた「非文明」の正当な歴史的価値を引き出すことは非常に難しくなってしまう。つづいて,「非文明」を扱う際の手法として指摘されるのは,物質文化の定性的な側面のみならず定量的な側面にも十分な配慮を行うこと,さらに,モノの系統性に引きずられた解釈をおこなうのではなく,実用的機能・社会的機能をふくめて,それぞれの時期・地域で機能・用途論的な分析をともなっていることである。これらは「文明」についてもあてはまるが,「非文明」では両者への十分な配慮を怠ると誤った判断を誘発しやすいという点で重要な意味を持っている。