著者
藤本 学
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1110-1112, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10

皮膚筋炎では,これまで知られていた抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体,抗Mi-2抗体に加えて,近年,抗melanoma differentiation antigen 5抗体,抗transcriptional intermediary factor 1抗体,抗nuclear matrix protein 2抗体などが報告され,その臨床的特徴が明らかになってきた.皮膚筋炎の約80%にいずれかの特異抗体が陽性になることから,本症の診断に有用なツールとなる.さらに,これらの抗体は,合併症や予後の予測や治療方針の決定,疾患活動性の判定にも有用であると考えられる.
著者
川田 明広 溝口 功一 林 秀明
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.476-480, 2008 (Released:2008-08-21)
参考文献数
10
被引用文献数
6 11

TPPVを導入したALS(TPPV・ALS)患者のtotally locked-in state(TLS)について全国調査をおこなった.調査時点709名のTPPV・ALS患者中89名(13%)がTLSであった.臨床経過が確認されたTLS患者41名は,ALSの神経病院分類で,29名(70%)が6カ月間内に四肢,橋・延髄(球),呼吸および外眼運動系の4つの随意運動系のうち2つ以上が麻痺した複数同時麻痺型で,28名(70%)はTPPV開始後5年以内にTLSになった.また最後に麻痺した随意運動系は,37名(90%)が外眼運動系であった.神経病院TLS例の臨床経過の特徴は、全国調査の結果に合致していた。
著者
北村 泰佑 後藤 聖司 髙木 勇人 喜友名 扶弥 吉村 壮平 藤井 健一郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
2016
被引用文献数
4

患者は86歳女性である.入院1年前より認知機能低下を指摘され,入院2週間前より食思不振,幻視が出現し,意識障害をきたしたため入院した.四肢に舞踏病様の不随意運動を生じ,頭部MRI拡散強調画像で両側基底核は左右対称性に高信号を呈していた.血液検査ではビタミンB12値は測定下限(50 pg/ml)以下,総ホモシステイン値は著明に上昇,抗内因子抗体と抗胃壁細胞抗体はともに陽性であった.上部消化管内視鏡検査で萎縮性胃炎を認めたため,吸収障害によるビタミンB12欠乏性脳症と診断した.ビタミンB12欠乏症の成人例で,両側基底核病変をきたし,不随意運動を呈することはまれであり,貴重な症例と考え報告する.
著者
飯塚 高浩
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.920-922, 2008 (Released:2009-01-15)
参考文献数
10
被引用文献数
4 3

Anti-N-methyl-D-aspartate receptor (NMDAR) encephalitis is a new category of treatment-responsive encephalitis associated with "anti-NMDAR antibodies," which bind to extracellular conformal epitope in the NR1/NR2 heteromers of the NMDAR. The antibodies are usually detected in CSF/serum of young women with ovarian teratoma, who typically developed schizophrenia-like psychiatric symptoms, usually preceded by viral infection-like illness. Most cases developed seizures, followed by unresponsive/catatonic state, decreased level of consciousness, central hypoventilation, orofacial-limb dyskinesias, and autonomic symptoms. Brain MRI is often unremarkable. CSF reveals nonspecific changes. EEG shows diffuse delta slowing. The pathogenesis remains unknown, however this disorder is considered as an antibodies-mediated encephalitis. The prodromal"viral-like"disorder by itself or in combination with a teratoma sets off the autoimmune response. The antibodies bind to the common autoantigens expressed on the cell membrane of the neurons in the forebrain/hippocampus. Based on the current NMDAR hypofunction hypothesis of schizophrenia, we speculate that the antibodies may cause inhibition of NMDAR, rather than stimulation, in presynaptic GABAergic interneurons, causing a reduction of release of GABA. This results in disinhibition of postsynaptic glutamatergic transmission, excessive release of glutamate in the prefrontal/subcortical structures, and glutamate and dopamine dysregulation that might contribute to development of schizophrenia-like psychosis and bizarre dyskinesias.
著者
伊藤 泰広 今井 和憲 鈴木 淳一郎 西田 卓 加藤 隆士 安田 武司
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.275-278, 2011 (Released:2011-04-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

症例は29歳の男性である.左眼周囲の間欠的な頭痛で発症し,当初は自律神経症状がなく三叉神経痛と診断したが,6日後に流涙,結膜充血といった自律神経症状が出現し,結膜充血と流涙をともなう短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)と診断した.ガバペンチンを開始し,800mg/日に増量したところ,頭痛発作と自律神経症状はすみやかに消退した.3カ月後に400mg/日に減量した時点で,僅かに頭痛発作が生じた.SUNCTでは頭痛が自律神経症状に先行して出現するばあいがあることが示唆された.SUNCTの長期経過や治療は未解決な点が多く,本邦での症例の蓄積と治療方針の確立が望まれる.
著者
中島 孝
出版者
Societas Neurologica Japonica
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.872-876, 2009-11-01
被引用文献数
1 2

Anti-disaster measures along with disaster medicine aims at reducing loss of property and life and facilitating grief work of the suffered people. In contrast the care system for patients with intractable disease has the same aim. According to the experiences of two large earthquakes including Chuetsu (2004) and Chuetsu-oki earthquake (2007), earthquake-resistant buildings are necessary for maintaining hospital function as well as reviving community after occurrence of large earthquake. A list of patients living with ventilator and their individual care plan designed for disaster need to be prepared to transport each patient to the hospital at appropriate timing, when electricity and visiting nurse care system are damaged. Satellite telephone is very useful for communicating with such patients and medical teams because telephone connection is limited to only the specific calling number just after occurrence of earthquake.<br>
著者
山下 雄也 郭 伸
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1151-1154, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10

ALSの病理学的指標であるTDP-43病理の形成メカニズムは未解明であり,引き金になるTDP-43の易凝集性断片形成に関与するプロテアーゼやその活性化メカニズムに関する合理的な説明はなかった.われわれは,孤発性ALSのもう一つの疾患特異的分子変化である,RNA編集酵素ADAR2の発現低下を再現するALSの分子病態モデルマウスの解析から,異常なCa2+透過性AMPA受容体発現を介したカルパインの活性化が,凝集性の高いTDP-43断片を形成することを明らかにした.この分子カスケードに通じるメカニズムは,孤発性ALSのみならず他の神経疾患に観察されるTDP-43病理形成にも当て嵌まることが強く示唆されたので概説する.
著者
糸山 泰人
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.699-707, 2009 (Released:2009-12-28)
参考文献数
10

「multiplicity in time and space in CNS」を診断基準の骨子とする多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)の診断には多様な病態と疾患がふくまれる可能性がある.MSの認識が遅れた日本では,視神経や脊髄に病変の主座をおく再発性の炎症性疾患はMSと考えられ,視神経脊髄型MS(OSMS)としてアジアのMSの特徴とされてきた.一方,欧米では類似の疾患を視神経脊髄炎(neuromyelitis optica,NMO)とよんできたが,両疾患には多くの臨床的および検査学的所見の共通性があることや,最近発見されたNMO-IgGが共通に存在することを考えると両者は同一疾患と考えられる.このNMO-IgGはNMO/OSMSにのみにみられMSにはみとめられない血清抗体で,その標的抗原はwater channelのaquaporin4(AQP4)でありアストロサイトに局在している.このNMO-IgGに加えてNMO/OSMSが示す臨床的特徴,すなわち視神経と脊髄という病変部位の選択性,極端な女性優位性,3椎体以上の長さのMRI脊髄病巣,髄液オリゴクローナルバンドが陰性である点などを考えてみると,NMO/OSMSとMSはきわだった差異を示していることに気付かされる.さらに,免疫組織化学的にはNMO/OSMSの脊髄病変ではAQP4とアストロサイトのマーカーであるGFAPの染色性が欠落しているが,MBP陽性の髄鞘は病変で比較的保たれていることが明らかとなった.この所見はMBPのみが欠損するprimarily demyelinating diseaseであるMSの病変特徴とは根本的に異なるものであり,NMO/OSMSはMSと病態を異にする疾患と考えられる.加えて,急性期のNMO患者の髄液では著明なGFAPの増加があり,NMOはastrocyteがprimaryに傷害される新たな概念の疾患と考えられる.現在,AQP4抗体が関与するNMOの病態機序が培養系や動物モデルで明らかにされつつある.今後はNMOへの新たな治療法の開発が求められる.
著者
今野 卓哉 山田 慧 笠原 壮 梅田 能生 小宅 睦郎 藤田 信也
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.657-660, 2015 (Released:2015-09-11)
参考文献数
10
被引用文献数
1

症例は69歳男性である.ネコ咬傷により発症した蜂窩織炎と敗血症の治療中に,頭痛,軽度の喚語困難と右不全片麻痺が出現した.頭部MRI拡散強調画像(diffusion-weighted image; DWI)で左大脳半球の硬膜下に三日月形の低信号病変を認め,慢性硬膜下血腫が疑われたが,7日後に神経症状が増悪し,硬膜下病変はDWI高信号に変化した.ネコの口腔内常在菌であるPasteurella multocidaによる硬膜下膿瘍の報告があり,本例は,既存の硬膜下血腫に血行性に細菌が感染して膿瘍化した感染性硬膜下血腫と考えられた.本例は,血腫から膿瘍への変化を画像的に追跡し得た貴重な症例である.
著者
田口 宗太郎 中村 友彦 山田 孝子 髙御堂 弘 道勇 学 髙橋 昭
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.29-32, 2015 (Released:2015-01-19)
参考文献数
13

症例は61歳の男性である.感冒様症状に続き,便秘,座位での眼前暗黒感,嘔気が出現.座位にて顕著な血圧低下あり.末梢神経伝導検査(NCS),心電図CVR-R,MIBG心筋シンチ心縦隔比は正常.血中LD,IL-2Rの高値と脊椎MRIから腫瘍がうたがわれた.傍腫瘍性自律神経ニューロパチーを考えたが原発巣不明.発症2ヵ月後,四肢遠位部手袋靴下型感覚障害と筋力低下が発現し増悪,発症4ヵ月後のNCSで異常を呈し,免疫グロブリン療法を施行したが無効.発症5ヵ月後,顔面皮疹からT細胞性悪性リンパ腫と診断.本例は自律神経不全で初発,末期に感覚運動障害を併発.T細胞性悪性リンパ腫の傍腫瘍性神経症候群としては稀有である.
著者
大槻 美佳
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.853-856, 2008 (Released:2009-01-15)
参考文献数
11
被引用文献数
4 5

In terms of practical view, the type of aphasia can be classified by four elementary symptoms: anarthria (apraxia of speech), phonemic paraphasia, word comprehension impairment, word finding difficulty. Each elementary symptom has been established by causative lesion: anarthria for lowed posterior part of the left precentral gyrus, phonemic paraphasia for the left marginal gyrus and underlying white matter, word comprehension impairment for the left middle frontal gyrus or the posterior part of superior and middle temporal gyrus (the area called Wernickle's area), word finding difficulty for the left inferior frontal gyrus or the left angular gyrus or the left posterior part of the inferior temporal gyrus. In addition to ordinary estimation of language some devised examination enables distinction of the symptoms due to frontal lesion and the symptom due to the posterior lesion. This methods taking advantage of the symptoms related apahasia is also useful for making diagnosis and knowing prognosis of progressive aphasia.
著者
宮腰 夏輝 板東 充秋 清水 俊夫 川田 明広 松原 四郎 中野 今治
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000618, (Released:2015-05-22)
参考文献数
14

症例は21歳の女性.先行感染後,発熱,頭痛,痙攣発作を生じ入院.前向性健忘,逆向性健忘が残存したが,それ以外は生活に不自由のない状況であり痙攣再発もなかった.髄液で軽度の細胞数増加あり.脳波では左側頭部起源がうたがわれる鋭波をみとめた.入院5日目に初対面の医師や看護師,入院中の患者に対し会ったはずがないのに以前にみたことがあるように思うと訴え,この症状は約20日間持続した.既知の相貌に関する異常はなく,相貌失認もなかった.心理検査では言語性の記憶障害がうたがわれ,退院時も逆向性健忘は残存した.類例の検討では言語性記憶障害例もあるが記憶障害のない例もある.左側頭葉病変とhyperfamiliarityには関連が示唆される.
著者
北村 泰佑 後藤 聖司 髙木 勇人 喜友名 扶弥 吉村 壮平 藤井 健一郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000884, (Released:2016-06-30)
参考文献数
25
被引用文献数
4

患者は86歳女性である.入院1年前より認知機能低下を指摘され,入院2週間前より食思不振,幻視が出現し,意識障害をきたしたため入院した.四肢に舞踏病様の不随意運動を生じ,頭部MRI拡散強調画像で両側基底核は左右対称性に高信号を呈していた.血液検査ではビタミンB12値は測定下限(50 pg/ml)以下,総ホモシステイン値は著明に上昇,抗内因子抗体と抗胃壁細胞抗体はともに陽性であった.上部消化管内視鏡検査で萎縮性胃炎を認めたため,吸収障害によるビタミンB12欠乏性脳症と診断した.ビタミンB12欠乏症の成人例で,両側基底核病変をきたし,不随意運動を呈することはまれであり,貴重な症例と考え報告する.
著者
長尾 茂人 近藤 誉之 中村 敬 中川 朋一 松本 禎之
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.255-259, 2016 (Released:2016-04-28)
参考文献数
16
被引用文献数
4

症例は43歳の男性である.亜急性に小脳失調症が出現し,ヒト免疫不全ウィルス(human immunodeficiency virus; HIV)感染症が確認された.小脳失調症の原因として,HIV脳症や二次性脳症を来たすウィルス,真菌,抗酸菌などの存在は否定的であった.一方で,自己免疫性小脳失調症と関連のある抗体である抗Yo抗体及び抗グリアジン抗体が検出された.HIV感染症では自己免疫現象がしばしば惹起されることが報告されている.HIV感染症に伴う小脳失調症では自己免疫機序による可能性を考慮する必要がある.
著者
竹島 慎一 吉本 武史 志賀 裕二 金谷 雄平 音成 秀一郎 姫野 隆洋 河野 龍平 高松 和弘 下江 豊 栗山 勝
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.630-636, 2015 (Released:2015-09-11)
参考文献数
28
被引用文献数
3

2004年~2014年で,成人無菌性髄膜炎365例中,ムンプス髄膜炎は13例(3.6%,29.8 ± 7.0歳)であった.季節性はないが,地区のムンプス流行に一致した発症率であった.耳下腺腫脹は8例(61.5%),精巣炎は男性7例中2例(28.6%)に認めた.重症度,転機を含めエコーウイルス髄膜炎に類似するが,髄液の単核球比率が高かった.発症前にムンプス患者との接触は8例(61.5%),ワクチン接種は1例,非接種9例,3例は確認できなかった.抗ムンプス抗体価から判断して,6例は初感染,2例は再感染が疑われ,初感染の高齢化が認められた.ワクチン接種歴のある症例は二次性ワクチン不全と思われた.
著者
石倉 照之 奥野 龍禎 荒木 克哉 高橋 正紀 渡部 健二 望月 秀樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000757, (Released:2015-10-28)
参考文献数
15
被引用文献数
3

症例は23歳男性である.先行感染後に強直間代性痙攣を発症し,抗てんかん薬による治療にもかかわらず,痙攣発作を繰り返した.ウイルス学的検査や抗神経抗体は検索した範囲では陰性で,原因不明であったことから,new-onset refractory status epilepticus(NORSE)と呼ばれる症候群に合致する臨床像であった.ステロイドパルス療法,免疫吸着療法及び経静脈的免疫グロブリン療法を行い痙攣の頻度が減少したが,意識障害は遷延した.本患者血清を用いてラット脳の免疫染色を行ったところ,海馬神経細胞の核及び細胞質が染色され,自己免疫介在性であることが示唆された.
著者
沖 良祐 内野 彰子 和泉 唯信 小川 博久 村山 繁雄 梶 龍兒
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000761, (Released:2015-11-30)
参考文献数
12
被引用文献数
2

症例は死亡時74歳の男性である.小児期の急性灰白髄炎罹患後に左下肢麻痺が残存した.60歳頃より四肢筋力低下,72歳頃より呼吸機能障害・嚥下障害が進行し,発症約14年後に死亡した.神経病理学的には脊髄にポリオ後遺症と思われるplaque-like lesionのほか,脊髄全長にわたりグリオーシスを伴う前角細胞脱落を認めたが,Bunina小体やユビキチン・TDP43陽性封入体などamyotrophic lateral sclerosis(ALS)に特徴的とされる構造物は認めなかった.ポストポリオ症候群は稀に呼吸機能障害や嚥下障害が急速に進行して致死的となる場合があり,これらの病理所見はポストポリオ症候群による運動麻痺の進行と関連していると考えられた.
著者
安井 正人
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.786-788, 2009 (Released:2009-12-28)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

体内水分バランスは,生体の恒常性維持機能のもっとも重要な調節機構である.水分バランスの不均衡は,様々な病態にともなってみとめられ,その補正が治療上有効となることが多い.水チャネル,アクアポリンの発見は,体内水分バランスや分泌・吸収に対するわれわれの理解を分子レベルまで深めることとなった.腎臓における尿の濃縮・希釈はもちろんのこと,涙液・唾液の分泌にも重要な働きをしている.アクアポリンの結晶構造が解明されたことで,水分子がいかにしてアクアポリンのポアを選択的に通過するか,分子動力学シミュレーションを駆使して再現することも可能となった.アクアポリンの調節機構に対する理解も進みつつあり,アクアポリンを標的とする創薬への期待が高まっている.脳においても水バランスの重要性は例外ではない.アクアポリンの分布から考えて,神経細胞ではなくグリア細胞がその役割を担っていると考えられている.グリア細胞に発現しているアクアポリン-4(AQP4)は,脳浮腫の病態生理に関与している事が明らかになったのみならず,最近ではNMOの患者に特異的にみとめられるNMO-IgGの抗原としてAQP4が同定されるなど,AQP4は臨床的にも大変注目を集めている.AQP4の立体構造も解明され,分子標的創薬の面からも期待が高まっている.