著者
高橋 淳
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1009-1012, 2013-11-01 (Released:2013-11-29)
参考文献数
10
被引用文献数
4 2

パーキンソン病に対しては1980年代の後半から胎児中脳腹側細胞の移植がおこなわれ一定の効果がみられているが,倫理的問題に加え移植細胞の量的,質的問題があり一般的な治療にはなっていない.これらの問題を解決するために幹細胞とりわけES, iPS細胞をもちいた移植治療に期待が寄せられている.分化誘導技術が発達し,ヒトES, iPS細胞から効率的に中脳ドパミン神経細胞が誘導できるようになった.さらには選別技術も開発されつつある.ラットや霊長類モデルへの移植では行動改善が観察されており,臨床での効果も期待される.あとは安全性を厳しく検証すること,万が一腫瘍化がおこったときの対策を立てることが重要になるであろう.
著者
松浦 啓 蒔田 直輝 石井 亮太郎 藤田 泰子 古野 優一 水野 敏樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.378-382, 2017 (Released:2017-07-29)
参考文献数
25
被引用文献数
1

Chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroids(CLIPPERS)の病変は一般的に後脳から離れるに従って縮小することが多いが,側頭葉に最大病変を示す症例を経験した.症例は49歳男性.来院22日前から発熱が,その後左眼視野障害が出現し入院となった.神経学的に左眼視野の中心部に暗点を認め,MRIで右側頭葉に粒状のガドリニウム造影効果を伴うFLAIR高信号病変を認めた.その後,橋及び小脳に病変が拡大し,複視・滑動性眼球運動障害・輻輳麻痺が出現した.右側頭葉病変から開頭脳生検し,CLIPPERSと診断した.ステロイド投与により病変・症状ともに軽快した.病初期に後脳から離れた病変が大きい症例であっても,CLIPPERSの可能性を考慮する必要がある.
著者
谷 裕基 中嶋 秀人 山根 一志 大西 宏之 木村 文治 花房 俊昭
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.581-584, 2014-07-01 (Released:2014-08-02)
参考文献数
10
被引用文献数
1

症例は66歳の女性である.約1ヵ月の経過で小脳性運動失調と意識障害が増悪し,頭部MRI FLAIR強調画像で脳幹の腫大,および中脳,橋,小脳脚,右小脳半球,右後頭葉に高信号をみとめた.造影MRIでは橋に造影効果を有する多発性の点状病変をみとめ,右後頭葉にも造影病変をみとめた.ステロイド薬により臨床症状と画像所見は急速に改善したが減量後に再燃した.右後頭葉の生検で血管周囲にT細胞を主とする炎症性細胞浸潤をみとめchronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroids(CLIPPERS)と診断した.ステロイド薬増量と維持によりこれらの病変は消失し寛解した.MRIで高度脳幹浮腫を呈する疾患としてCLIPPERSを考慮する必要がある.
著者
岡澤 均
出版者
Societas Neurologica Japonica
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.63-72, 2012

ハンチントン病ではハンチンチン遺伝子のCAGリピート伸長により,変異RNAと変異タンパクが産生され,神経細胞の機能障害と最終的な細胞死を誘発する.私たちは20年近く,網羅的アプローチ(オミックス)をもちいてハンチントン病ならびに関連するポリグルタミン病の分子病態を解析してきた.その結果,PQBP1,Ku70,HMGB,Maxer,Omiなどの新たな病態関連分子を同定し,転写,スプライシング,DNA損傷修復という核機能に深くかかわる新たな分子病態が存在することを,機能変化の面から明らかにしてきた.今後,これらのターゲット分子を介した分子標的治療の開発が期待できる.<br>
著者
青木 正志 鈴木 直輝 加藤 昌昭 割田 仁
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1115-1118, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
3

封入体筋炎(sIBM)は骨格筋に縁取り空胞と呼ばれる特徴的な組織変化を生じ炎症細胞浸潤をともなう疾患である.厚生労働省,希少難治性筋疾患班ではsIBMの患者数把握・診断・治療改善に関する取組を継続しておこなっている.現在日本には1,000~1,500人前後のIBM患者がいると考えられる.筋病理をもちいたTDP43, p62などの検討も各施設でおこなわれており,診断マーカーとしても検討がおこなわれている.さらに2013年にはIBM患者血清中に抗cytosolic 5'-nucleotidase 1A(cN1A)抗体が存在するという報告もある.さらに現状では治療法が無い難病であるが,IBMに対するアクチビンのタイプII受容体をターゲットにした拮抗薬の治験も進行中である.
著者
吉良 潤一
出版者
Societas Neurologica Japonica
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.939-946, 2014
被引用文献数
1

日本初の独立した神経内科を九州大学に設立した黒岩義五郎先生のモットーは,Keep Pioneeringだった.私は1980年に黒岩先生のもとで多発性硬化症研究を始めた.この間,神経科学と免疫科学は驚異的な進歩を遂げ,神経系と免疫系との間の密接な関連性がみいだされ,両者を統合する神経免疫学という新しい学問領域が形成された.神経科学と免疫科学の最先端のコア部分を絶えず取り込み統合していくことで,神経難病の新たなパラダイムシフトが生まれ,未来の医療が拓かれると期待したい.他方,根治療法のない神経難病患者に対しては,1998年に全国に先駆け難病コーディネータを配置した福岡県重症神経難病ネットワークを立ち上げ,重症神経難病患者の長期・短期レスパイト入院先の確保と療養相談にあたってきた.Keep Pioneeringは,明日の医学を切り拓く研究にとどまらない.今いる難病患者へのケアにも取り組み,社会に対して責任を果たす神経内科をめざすことが望まれる.
著者
鈴木 匡子
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.930-933, 2011 (Released:2012-01-24)
参考文献数
7

非典型認知症では健忘以外の高次脳機能障害が前景に立つが,それらに対し臨床的にどうアプローチしていくかは未だ手探りの状態である.変性性認知症でみられる"行為"の障害も,対象の受容の段階から最終的な出力の手前まで多くの段階での機能異常が原因となりうる.詳細な検討から後部皮質萎縮症では視覚性注意障害が,進行性核上性麻痺では対象のある意図的な運動の制御の障害が"行為"に影響していると考えられ,それぞれ視覚背側路,補足運動野の関与が示唆された.神経心理学的検索と神経放射線学的検討を統合することにより症状の背後にある機能異常とその神経基盤を明らかにし,各認知症の病態やその進展の特徴を知ることが重要である.
著者
牧岡 大器 中谷 経雪 Yan Ling 鳥居 慎一 斎田 孝彦 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.553-561, 2017 (Released:2017-10-27)
参考文献数
18
被引用文献数
1

日本の実臨床下でのインターフェロンβ-1a筋注用製剤の安全性と有効性検討のため,2006年11月から2010年12月までに登録された本剤投与例全例を対象に観察期間2年の使用成績調査を実施した.全国397施設より調査票が回収され,安全性は1,476例,有効性は1,441例を評価した.安全性評価の86.3%は再発寛解型多発性硬化症であった.主な副作用は発熱(19.24%),重篤な副作用は多発性硬化症の再発26件,肝機能異常10件であった.有効性検討では,年間再発率は1.07から0.29,総合障害度は3.08から2.94と改善した(各P<0.001).安全性と有効性プロファイルは既報と同様であった.
著者
福元 尚子 白石 裕一 中道 一生 中嶋 秀樹 西條 政幸 辻野 彰
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000776, (Released:2016-01-21)
参考文献数
30
被引用文献数
4

症例は65歳男性である.急速進行性の認知機能低下で発症した.頭部MRIのFLAIR/T2強調画像で大脳皮質下に広汎な高信号域を認め,髄液よりJohn Cunningham virus-DNAを検出した.最終的に脳組織所見から進行性多巣性白質脳症と確定診断した.合併症として高安動脈炎と慢性型/くすぶり型成人T細胞白血病が認められた.発症早期にメフロキンとミルタザピンによる治療を開始したが,症状・画像共に改善なく約半年後に死亡した.本例において治療効果が認められなかった理由としては,HTLV-I感染に加えて高安動脈炎によるB細胞系の異常が影響した可能性を考えた.
著者
兼本 浩祐 田所 ゆかり 大島 智弘
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1091-1093, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

Almost every kind of psychiatric problems are associated with epilepsy such as psychotic states, manic as well as depressive states and anxiety attacks. Overall, the prevalence of psychiatric comorbidities in patients with epilepsy amounts to as high as 20-30% of all cases. Acute and chronic interictal psychoses, as well as postictal psychosis (or more precisely periictal psychosis), comprise 95% of psychosis in patients with epilepsy. Prevalence of depressive states in patients with yet active epilepsy ranges from 20-55%. Prevalence in patients with controlled epilepsy ranges from 3-9%. Depressive states comprise 50-80% of psychiatric co-morbidities in patients with epilepsy. Several studies reported that PNES amounted to as high as 30% among patients considered as candidates for epilepsy surgery due to intractable epilepsy. It is of clinical use that PNES is divided into 3 groups: The first group belongs to PNES without either intellectual disability nor epilepsy; The second group suffers from intellectual disability in addition to PNES; The third group shows both epileptic seizure and PNES. These groups need to be differently treated. After temporal lobectomy for controlling pharmacoresistant TLE, severe but transient depression possibly leading to suicide can appear, especially within the first few months after surgery.
著者
吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.788-793, 2010 (Released:2011-03-28)
参考文献数
19
被引用文献数
2

視神経脊髄炎(neuromyelitis optica,NMO)は,NMO-IgGの発見により多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)とは病態機序が異なる独立した疾患とする説が有力となっている.NMO-IgGが認識するaquaporin-4(AQP4)がアストロサイトの足突起に存在する水チャネル分子であることから,NMO-IgG(抗AQP4抗体)が,アストロサイトの足突起上のAQP4に結合し補体を活性化することでアストロサイト死を誘導するとされる.他方,Baló病は脱髄層と非脱髄層が交互に同心円状に分布する特徴的な病理像を示す.このような同心円状病巣は,MSやNMOでもみられることがある.私たちは,Baló病巣では脱髄巣も非脱髄巣もふくめて広汎にAQP4が脱落していることをみいだした.Baló病では,血管周囲性に抗体や補体の沈着はみられず,血清抗AQP4抗体も陰性であることから,抗AQP4抗体非依存性アストロサイトパチーが,オリゴデンドロサイトパチーを誘導して,脱髄をひきおこすとの新しい説を提唱している.同様な血管周囲性の抗体や補体の沈着をともなわないAQP4の脱落は,MSやNMOの病巣でもみられることがあり,自己抗体非依存性アストロサイトパチーは広く脱髄性疾患に共通するメカニズムである可能性が高い.
著者
石川 欽也 新美 祐介 佐藤 望 網野 猛志 水澤 英洋
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1122-1124, 2011 (Released:2012-01-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

Spinocerebellar ataxia is a group of neurodegenerative disorders clinically presenting adult onset cerebellar ataxia. To date, 21 different genes (SCA1, 2, 3, 5, 6, 7, 8, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 17, 23, 27, 28, 31, 35, 36 and DRPLA) and additionally 10 different gene loci (SCA4, 18, 19, 20, 21, 25, 26, 29, 30 and 32) are identified. Among these, SCA6 and SCA31 are the two common diseases clinically presenting as a relatively predominant cerebellar syndrome, whereas Machado-Joseph disease/SCA3, DRPLA, SCA1 and SCA2 are SCAs often associated with extra-cerebellar manifestations. SCA31 is a late-onset purely cerebellar ataxia caused by a complex pentanucleotide repeat containing (TGGAA)n lying in an intronic region shared by two genes, BEAN (brain expressed, associated with NEDD4) and TK2 (thymidine kinase 2). In situ hybridization analysis in patients' Purkinje cells demonstrated that pentanucleotide repeats transcribed in BEAN direction form RNA aggregates ("RNA foci"), and essential splicing factors, SFRS1 and SFRS9, bind to (UGGAA)n, the transcript of (TGGAA)nin vitro. Our preliminary data also demonstrated that (UGGAA)n is toxic when expressed in cultured cells. These findings may imply that RNA-mediated pathogenesis is involved in SCA31. Further studies are needed to explore precise mechanism of this disease.
著者
中辻 裕司
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.972-974, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
4

多発性硬化症(MS)患者の約3割で血中セマフォリンSema4Aが著明高値を示す.Sema4A高値群にはインターフェロン(IFN)-β療法が有効でないばあいが多く,逆に障害の進行が助長されるばあいもある.疾患モデル動物EAEで検証実験をおこなうと,EAEはIFN-β治療で軽症化するがSema4A投与によりIFN-βの治療効果が打ち消され,むしろ増悪傾向を示した.機序としてSema4AがIFN-β治療下でもTh1,Th17分化を促進すること,およびT細胞の内皮への接着を促進することが一因である.まずSema4Aを測定し,高値MS患者には第一選択薬としてIFN-β以外の治療を考慮することが望ましい.
著者
西川 敦子 森 まどか 岡本 智子 大矢 寧 中田 智彦 大野 欽司 村田 美穂
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.561-564, 2014-07-01 (Released:2014-08-02)
参考文献数
19
被引用文献数
6

症例は26歳の女性である.出生時に呼吸不全,筋力低下があり,5歳時,顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーと臨床診断されていた.歩行の可否などが週単位で変動した.12歳時,プロテカロール塩酸塩で変動が改善,内服を継続した.26歳時,当院受診.眼瞼下垂,顔面・体幹・四肢近位筋の筋力低下,易疲労性があり,血清CK正常,抗アセチルコリン受容体抗体と抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体は陰性,僧帽筋の反復刺激試験でwaning現象をみとめた.DOK7遺伝子に新規変異をみとめ,先天性筋無力症候群と確定診断した.症状はアンベノニウム塩酸塩で悪化し,3,4-ジアミノピリジンで改善した.筋力低下の週から月単位の変動は診断に重要である.
著者
小林 正武 南里 和紀 田中 伸幸 長谷川 明 田口 丈士 齊藤 和裕
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.704-709, 2010 (Released:2010-11-04)
参考文献数
25
被引用文献数
1

症例は76歳女性である.12年前に多系統萎縮症と診断され徐々に歩行障害が進行し独歩困難となった.頭部MRI T2強調画像で両側被殻は低信号,その外側に線状高信号をみとめ,SPECTでは両側線条体の血流低下所見をみとめた.抗GAD抗体陽性1型糖尿病,抗甲状腺抗体陽性,抗内因子抗体陽性ビタミンB12欠乏症であり多腺性自己免疫症候群3型に関連したパーキンソニズムと診断,ビタミンB12筋注治療,大量免疫グロブリン療法により安定した歩行が可能となった.診断困難な難治性神経疾患患者を診療する際には多腺性自己免疫症候群に関連したビタミンB12欠乏症,自己免疫機序の神経障害である可能性を考慮し十分な鑑別診断をおこなう必要がある.
著者
大岩 康太郎 安井 敬三 長谷川 康博
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.93-97, 2016 (Released:2016-03-08)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

症例は50歳男性.36歳時に発症し,43歳時にパーキンソン病(Parkinson’s disease; PD)と診断した.首下がり,wearing-offが出現し,すくみ足と易転倒性が悪化し入院した.ロチゴチンの投与を開始し,歩行障害および首下がりの日内変動を記録した.首下がりは歩行障害とほぼ平行して変動した.歩行障害はロチゴチンの増量で用量依存的に改善した.一方,首下がりはロチゴチン9 mgで改善したが,18 mgでは改善度が低下した.低用量ではundertreatmentで生じていた首下がりが改善し,高用量では薬剤誘発性の首下がりが出現した可能性がある.PDの姿勢異常に対しては,日内変動を観察し,治療方針を検討する必要があると考える.
著者
日指 志乃布 福光 涼子 石田 光代 野寺 敦子 大谷 尭広 丸岡 貴弘 中村 和己 和泉 唯信 梶 龍兒 西田 善彦
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.550-554, 2016 (Released:2016-08-31)
参考文献数
19
被引用文献数
2

パーキンソン病(Parkinson’s disease; PD)の嚥下障害は予後に関係する重要な因子だが,進行するまで見落とされやすい傾向にある.我々は主に軽症から中等症のPD患者31例の嚥下機能を嚥下造影により検討した.嚥下障害は咽頭期28例,口腔期19例,食道期15例,準備期1例とほぼ全例にごく早期から咽頭期を中心に認められたが,質問票などのスクリーニング検査では検出が困難であった.今回の検討によりPDの早期から嚥下障害が不顕性に認められる場合があることが臨床的評価指標から示された.今後,PD発症前の嚥下機能低下を何らかの形で追跡して嚥下障害が発症前症状になり得るか検討する必要がある.
著者
阿部 康二
出版者
Societas Neurologica Japonica
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1348-1350, 2012
被引用文献数
1

2011年3月11日金曜日の東日本大震災・東北大津波から1年が経過したが,未だ被災地では復興がほとんど進んでいないのが現状である.被災直後は救命処置が主体のはずであったが,地震のみの被害とことなり津波被害のばあいはほとんどのケースがall or nothingで津波に飲み込まれての溺水死か,走り逃げてまったく身体的障害がなかったかに2極分化したことであった.一方,高齢者や認知症,神経難病など多くの神経内科疾患患者さんは災害弱者でもあって,地震や津波などの災害時における避難にはきわめて不利な立場にある.そこで日本神経学会ではIT化推進委員会が中心になって,2012年1月から今災害時の被災地支援意見交換メーリングリスト登録の先生方と共同で「日本神経学会災害支援プログラム」を策定する作業に入っている.その趣旨は今後予想されうる自然災害や人的災害に際して,日本神経学会として神経内科疾患全般の患者さん方への災害時の緊急受入れ体制ネットワークの整備や災害時医療支援チーム派遣の組織化などについて,IT技術も活用して構築することである.具体的には今後想定される災害やそれによる具体的被害,想定される神経内科疾患患者,災害時患者受入れ施設ネットワークの確立,災害時医療支援チーム派遣組織化,関連団体との折衝他について委員会案を作成中である.5月までに委員会案を神経学会ホームページに公開して,会員の皆様や患者さんからも広くパブリックコメントをいただいた上で,5月の学術大会終了後からプログラムに基づいて実際のネットワーク構築作業に入る予定である.本シンポジウムではこれまでの経過報告をさせていただき,参加者の皆様からご意見をいただきたいと考えている.<br>
著者
本村 政勝
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.872-876, 2011 (Released:2012-01-24)
参考文献数
10
被引用文献数
4 5

The neuromuscular junction lacks the protection of the blood-nerve barrier and is vulnerable to antibody-mediated disorders. Myasthenia gravis (MG) is caused by the failure of neuromuscular transmission mediated by autoantibodies against acetylcholine receptors (AChR) and muscle-specific receptor tyrosine kinase (MuSK)/LDL-receptor related protein 4 which are AChR-associated transmembrane post-synaptic proteins involved in AChR aggregation. The seropositivity rates for AChR positive and MuSK positive MG in Japan are 80-85% and 5-10%/less than 1%,respectively. The incidence of late-onset MG, defined as onset after age 50 years, has been increasing worldwide. A nationwide epidemiological survey in Japan also revealed that the rates of late-onset MG had increased from 20% in 1987 to 42% in 2006. In 2010, a guideline for standard treatments of late-onset MG was published by the Japanese Society of Neurological Therapeutics. Lambert-Eaton myasthenic syndrome (LEMS) is an autoimmune disease of the neuromuscular junction and approximately 60% of LEMS patients have a tumor, mostly small cell lung cancer (SCLC), as a paraneoplastic neurological syndrome. The clinical pictures of Japanese LEMS patients are as follows; male dominant sex ratio (3 : 1), mean age 62 years (17-80 years), 61% of LEMS have SCLC, and the remaining are without cancer. In less than 10% of cases there are signs of cerebellar dysfunctions (paraneoplastic cerebellar degeneration with LEMS; PCD-LEMS) as well, often associated with SCLC. Most patients benefit from 3, 4-diaminopyridine plus pyridostigmine. In paraneoplastic LEMS, treatment of the tumor often results in neurological improvement. In non-paraneoplastic LEMS, prednisone alone or combined with immunosuppressants are treatment options. In both MG and LEMS, where weakness is severe, plasma exchange or intravenous immunoglobulin treatment may provide short-term benefit.
著者
森 恵子 岩崎 靖 伊藤 益美 三室 マヤ 吉田 眞理
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.405-410, 2012 (Released:2012-06-26)
参考文献数
15
被引用文献数
2 7

症例は死亡時86歳の男性である.進行性の歩行障害,筋強剛,認知症を呈した.静止時振戦,L-dopaの反応性,自律神経障害はなかったが,MIBG心筋シンチグラフィーの集積低下をみとめ,Lewy小体型認知症と臨床診断された.死亡後の病理診断は大脳皮質基底核変性症であった.全身病理では心臓交感神経終末が高度に脱落しており,MIBGの集積低下を反映していた.さらに中枢神経,消化管,副腎等にはみられなかったLewy小体が交感神経節に限局してみとめられた.MIBGの集積低下はLewy小体の存在を示唆するが,その広がりまでは予見できず,また偶発的にLewy小体が合併する事を臨床診断の際には考慮する必要がある.