著者
矢野 一行
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.207-214, 2013-05-29
参考文献数
12

&nbsp;&nbsp;東京周辺にはボーリングで地下深く掘り、地温勾配による熱源で温められた深層水を汲み上げ、さらに、加温した新しい温泉が次々と誕生し、天然温泉と称して一般に広く利用されている。しかし、これらの温泉の医学的効果が古くから知られている火山性温泉に比べてどの程度のものであるか等の客観的評価については不明である。<BR>&nbsp;&nbsp;そこで、これらの点を明らかにするために、ナトリウム&mdash;塩化物泉として東京-Aと熱海温泉、ナトリウム&mdash;炭酸水素塩泉として東京-Bと鳴子温泉を選び、それらの温泉からランダムにインターネットを通して温泉成分表を入手し、それぞれの温泉水に含まれている成分を比較することで検討した。<BR>&nbsp;&nbsp;東京23区内の温泉はいずれも非火山性温泉であるので、火山性温泉に特有の硫黄化合物や二酸化炭素のような薬理作用の知られている成分の含量は少ない。また、これらの源泉の温度が低いため入浴には加温する必要があり、湧出後のこれらの操作による温泉成分の劣化は避けられない。これらのことより、東京の温泉(-A, -B)に火山性温泉と同様の薬理効果を期待することはできない。しかし、多量の海水成分を含む東京-Aには温熱、浮力、静水圧などによる物理的効果は期待できるが、炭酸水素塩以外の成分が殆ど含まれていない東京-Bではこの効果も少ない。<BR>&nbsp;&nbsp;さらに、大都会の真っただ中にある東京の温泉に熱海温泉のタラソセラピーや鳴子温泉の森林浴のような環境因子(自然&middot;気候)の変化によってもたらされる変調効果を期待することにも無理がある。<BR>&nbsp;&nbsp;温泉の医学的効果の本質は、活性酸素の産生を抑え、その働きを抑制するとともに、活性酸素等によって傷んだ組織を修復し、修復不能の細胞は分解&middot;除去することで、健康を取り戻すことにあると考えられる。これらの点からして、東京の温泉にはそれなりの癒し効果はあるものの古くから知られている火山性温泉のような医学的効果を期待することはできない。
著者
前田 真治 杉田 淳 齋藤 雅人 萩原 摩里 池本 毅
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.179-186, 2006 (Released:2010-04-30)
参考文献数
7

日本酒濃縮物 (日本酒濃縮入浴剤) 添加温水が人体にどのような影響をもたらし、有用な作用があるかをみるために、健常成人を対象に日本酒濃縮物添加温水、またその特異成分であるα-エチルグルコシド添加温水、水道水温水とを比較検討した。その結果、血圧・脈拍は3者間で差がなく心肺への負担は水道水温水と同じであった。前額部の表面皮膚温で日本酒濃縮物添加温水が他2者に比して出浴後緩徐な低下であり、保温効果が示唆された。深部体温計の経過から日本酒濃縮物添加温水が、熱吸収効率の高い要因としてα-エチルグルコシドの関与が考えられた。皮膚血流量増加も加味した結果から、日本酒濃縮物添加温水は、温水中の熱が身体内に入りやすく、かつ出にくい環境を作り出すと考えられる。その要素として、α-エチルグルコシド以外の溶存物質が関与することで、より強い熱運搬作用と保温作用をもつと結論した。皮膚水分量の測定から、温水中に入っている部分では、出浴後早期の潤いはあるが、早期に以前の状態に戻ることがわかった。温水中に入っていない顔面は、皮膚の角層水分量が日本酒濃縮物添加温水の方が良好であり、保湿量が増加していることが認められた。
著者
中山 毅
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.250-256, 2014-05-30 (Released:2014-10-01)
参考文献数
20

入浴習慣は国や文化により大きく異なるが、一方で時代による変遷もあり、近年ではシャワー浴が普及する等の変化が現れている。そこで、現代の妊婦の入浴習慣について調査すると同時に、妊娠経過に及ぼす影響につき検討した。  2011年4月1日より2012年2月29日までに当院で出産をし、1ヶ月健診をおこなった褥婦204名を対象とし、無記名アンケートを実施した。アンケートは、入浴習慣、温泉浴に関する多肢選択法および自由記入法からなる。これらの結果と、妊娠経過中に起こったイベントにつき、後方視的に関連性を検討した。  204名の妊婦の内訳は、初産婦が99名、1経産が76名、2経産以上が29名であった。産科合併症としては、切迫流産が12名、切迫早産が35名、早産が15例、妊娠高血圧症候群が7名、微弱陣痛が10名、前期破水が26名に認めた。一方で妊娠中の入浴習慣については、全例毎日入浴習慣があったが、内訳として、毎日シャワー浴を行う妊婦(シャワー浴群)が38名(19%)、週に1~3回の湯浴が45名(22%)、週4日以上の湯浴を行う妊婦(湯浴群)が121名(59%)であった。産科合併症を比較したところ、湯浴群において、妊娠高血圧症候群の頻度が高く、一方で微弱陣痛に関しては、シャワー浴群の方が多い傾向にあった。  さらに、入浴習慣が外陰部の保清に影響するか、また細菌性腟症の原因や助長因子となるかについては、科学的根拠が乏しいが、本検討より湯浴を日常とする生活習慣が、腟内細菌叢やpHに影響を及ぼす可能性が示唆された。
著者
森 康則 犬飼 健自 一色 博 今井 奈妙
出版者
The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.66-72, 2016 (Released:2017-05-30)
参考文献数
13

目的:ヒノキに代表される木質の建築資材は,利用者のリラックス感を促進すると考えられている.本研究では,三重県産ヒノキで作られた浴槽に入浴する者の自律神経機能と感情尺度の変化に着目して,その仮説の科学的な検証を試みた.方法:被験者には,健常成年16名を選定した.被験者1人につき,入浴介入を2回行った.1回の入浴は通常のユニットバスでの入浴とし(対照実験),もう1回の入浴はユニットバスと同一形状に設計されたヒノキで作られた浴槽での入浴とした.入浴介入前に唾液の採取と主観的感情尺度(MCL-S.2)の測定,入浴介入後にも唾液の採取と主観的感情尺度(MCL-S.2, VAS)の測定をそれぞれ行った.また実験を通じて,胸部に防水機構付きのホルター心電計を装着し,データを採取した.結果および考察:MCL-S.2による感情尺度評価の結果,ヒノキ製浴槽への入浴前後の「快感情」で,有意なスコア上昇が認められた.加えて,VASによる感情尺度評価の結果,ヒノキ製浴槽の入浴後の方が,対照実験後のそれに比べて,「疲労感」のスコアが有意に低い値が得られた.このことから,ヒノキ浴槽における入浴の「快感情」の促進効果と,「疲労感」の軽減効果が示唆された.また,唾液中コルチゾールの各入浴介入前後の比較の結果,いずれの入浴介入においても入浴後の有意な濃度低下が認められた.また,入浴直前と入浴後安静における副交感神経指標である√HFの比較を行ったところ,いずれの入浴介入においても,有意に高い値に推移していることが明らかになった.これらの結果から,いずれの浴槽材質の入浴であっても,本研究で設定した入浴条件(38~39℃15分間)であれば,入浴行為そのものによっても副交感神経が優位となる傾向が示された.
著者
松本 毅 木村 友昭 形井 秀一 波多野 義郎
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.96-101, 2005 (Released:2010-04-30)
参考文献数
15

The purpose of this study was to determine if Moxibustion stimulus influence on the circulation in the sacral area.In the first phase of this study, the influence of indirect Moxibustion stimulus (using‹SEN-NEN-KYU›) on the amount of blood flowing to the sacrum was investigated using laser Doppler Perfusion Imager PeriScan PIM II.Significant increase in the amount of blood flow in radial directions were observed around the area where Moxibustion was applied. Immediately after the stimulus, significant differences in the amount of blood flow were observed within 2.5cm to the right and left and 1.5cm above and below the stimulated spot.With increasing time after the Moxibustion stimulus, the amount of blood flow gradually decreased concentrically returning to the original state over time. However, the amount of blood flow at the Moxibustion spot was significantly higher than the original state 32 minutes and 52 seconds after the Moxibustion treatment.Increased blood flows to pressure ulcers area induced by Moxibustion stimulus are considered to restrict or arrest the progress of pressure ulcers (according to Stage I of the International Association for Enterostomal Therapy (IAET) classification) on in-home care.
著者
吉田 史郎
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.171-180, 1989 (Released:2010-04-30)
参考文献数
23

慢性関節リウマチ (RA) に対する温泉浴の効果はよく知られているが、冷泉浴については研究がない。そこで九重、寒の地獄泉 (単純硫化水素泉、泉温13℃) 入浴のRAに対する影響を別府堀田泉浴 (単純硫化水素泉、泉温40℃) 入浴の場合と比較観察した。握力、ランスバリー活動指数、日常生活動作点数はいずれも3週間の連浴 (1日2回入浴) によって、両泉とも改善をみたが、有意差は冷泉浴の場合にのみ認められた. したがってRAに対する効果はむしろ冷泉浴の方が勝っていると思われた。血中コルチゾール、尿中17-OHCS、尿中17-KS値は3週間の連浴中、両泉とも有意の変動を示さなかった。したがって作用機序として副腎皮質刺激作用は考え難かった。一方血中ノルアドレナリンは入浴直後一過性に有意に増加したが、特に冷泉浴で著明であった。しかも増加の程度は冷泉浴の時間と相関し、それが長くなるほど大となった。尿中ノルアドレナリン排泄量も冷泉浴連浴によって次第に増加し、3週後には有意差となったが、なお正常範囲内であった。アドレナリンに関しては血中、尿中とも有意の変動を示さなかった。以上よりノルアドレナリン増加によって示唆される交感神経刺激がRAに対する冷泉浴効果の機序の一つである可能性が考えられた。
著者
矢野 一行
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.176-190, 2016-10-31 (Released:2017-03-10)
参考文献数
29

温泉医学の先進国であるドイツを中心としたヨーロッパ諸国では科学的根拠に基づいた温泉治療が専門医を配置した温泉病院や医療施設で広く行われている.一方,世界でも類をみない温泉大国のわが国では,温泉は湯治や,観光,レジャーなどによる“気分”的利用が中心をなし,温泉を科学的に究明し,近代医療の相補療法(Complementary Medicine)として活用し,国民の健康に役立てようとする総合的な取り組みはなされていない.  限られた小面積の伊豆半島には,海底火山,陸上複成火山,そして単成火山,それぞれの時代の地層がモザイク的に分布し,それらの地層にはさまざまな泉質の温泉が散在している.このような場所は世界でも珍しく,温泉の本質を科学的に究明するには最適な場所と考えられる.そこで,これらの温泉地を訪れ入手した情報を基にそれぞれの温泉の特性を明らかにし,今後の温泉研究の方向性を示すことを目標とした.  今回調べた伊豆半島の温泉は,弱アルカリ性かアルカリ性の硫酸塩泉,塩化物泉,単純温泉の3種類であり,非火山性温泉には珍しく,殆どが高温泉である.西伊豆・中伊豆の古い地層の硫酸塩泉の起源は海底火山によるグリーンタフ(Green tuff)岩石中の硬石膏によるもので,基本成分である硫酸イオンの濃度は非常に高く,高い薬理効果が期待される.また,塩化物泉には,東伊豆の地下深部のマグマの熱源による海洋水の熱水対流系で形成された温泉と,南伊豆の地下深部の熱水に地表付近で海洋水が混入した高張性温泉がある.単純温泉は,古い地層の西伊豆・中伊豆では硫酸塩泉の性質,東伊豆では硫酸塩泉と塩化物泉の性質,南伊豆では硫酸イオンの量は少ないが,相対的に炭酸水素イオンや炭酸イオンなどの割合が増え,それぞれ特徴のある性質の温泉になっている.  伊豆半島のこれらの温泉を活用し,温泉医学の確立を目指すには,下記の研究課題の解明が待たれる.(1)特徴ある温泉の源泉と浴槽の温泉水の物理化学成分の直接比較:温泉水の地上に湧出直後から浴槽に至るまでの間に変化した物理化学的性質を検討する.(2)飲泉可能な温泉水に含まれているミネラル成分の定量分析:特に,抗酸化酵素に含まれているミネラル類と日常生活で不足しがちなミネラルを中心に検討する.(3)実験動物やiPS細胞などによる硫酸塩泉の薬理効果の指標の作成:硫酸塩泉のそれぞれ陽イオンと陰イオンの組み合わせによる薬理効果を動物や細胞等を用いた客観的指標で評価する.(4)高張性塩化物泉の浴用によるセシウム137とストロンチウム90のデトックス効果の検討:福島第一原発事故や廃炉関連の仕事で被曝した人が,これらの放射性元素の同族元素を多く含む温泉に入浴することによって,放射線被曝を軽減できるかどうかを検討する.(5)単純温泉の浴用による医療被曝障害の予防効果の検討:わが国は放射線診断や放射線治療による医療被曝障害が非常に高い国であるので,入浴によってこの被曝障害を予防・軽減できるかどうかを検討する.
著者
堀切 豊 下堂園 恵 王 小軍 須藤 和彦 林 菊若 田中 信行 小原 該一
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.181-186, 2000 (Released:2010-04-30)
参考文献数
12

The effects of high concentration mineral water bating (31.16g/kg, mainly composed of Na, Ca, Mg chloride and sulfate) were studied in 13 healthy men (44.9±16.3y.o.). The subjects took 41°C, 10min bathing and kept warmth by a blanket for 30min. Blood pressure (BP), Heart rate (HR), cardiac output (CO), total peripheral resistance (TPR) and sublingual temperature by electric thermista as deep body temperature were measured during and after bathing. Skin blood flow by LASER doppler flow meter and venous partial gas pressure and pH were also measured.Sublingual and forehead temperature was increased significantly by +1.4°C after 10min bathing and +0.9°C increase continued even after 30min. Diastolic BP and TPR were significantly decreased, and HR and CO were significantly increased by +20bpm and +2.7l/min, respectively. Significant increase of skin blood flow was also demonstrated. Significant increase of venous pO2 (+20 Torr) and decrease of pCO2 (-8.0 Torr) suggested the improvement of peripheral oxidative metabolism due to increased CO.High concentration mineral water bathing was highly effective than simple water bathing probably due to the thick coating effect by binding concentrated minerals with skin furface protein.
著者
早坂 信哉 石川 鎮清 岡山 雅信 梶井 英治 中村 好一 小栗 重統 岡山 明 柳川 洋
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.173-181, 2001 (Released:2010-04-30)
参考文献数
15

To determine the background of aged people who need bathing assistance, we analyzed data of the Survey on Demand for Health and Welfare Services of Japan as of 1997. The survey covered 21, 723 persons aged 65 years or older, and 1, 193 caregivers who provide care to persons 65 years or older throughout Japan. The main parameters were aged people's sex, age, marital status, health condition, degree of bed rest, and needs of care in daily life; relation between caregivers and aged people; life with care giver; job; family composition; use of home care services; demand for home care services; caregivers' sex, age, health condition, and employment status; and demand for home care services. Subjects were divided into three groups, those who need bathing assistance, those who do not need bathing assistance, and those who do not need care in daily life, and the rate was shown for each item. The results indicated that the rate of those who need bathing assistance was higher among (1) aged people who were older, have poor health, and are in bed alweys or almost alweys, (2) aged people who needed care in daily life, used home care service, and required home care service, and (3) aged people whose caregivers required home care services.Aged people who need bathing assistance are subject to frequent bathing accidents, so we need to pay attention to safe bathing service.
著者
石井 敦子 石井 正三 石井 匡
出版者
The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.117-122, 2011-01-01

The experience of the thermal spa lake "Blue Lagoon" in Iceland was reported. The plenty of geothermal seawater was supplied from the Svartsengi geothermal power plant to the Blue Lagoon. It was utilized not only as the spa for the public but also for the treatment of psoriasis at the annex clinic. The well-organized project supplying electric power to the community and hot water for the heating system of the public and home use was supposed to be the advanced model to answer to the increasing demand for carbon offset with ecological purposes.