著者
宮丸 直子 儀間 靖 與那嶺 介功 亀谷 茂
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.496-499, 2008
参考文献数
12
被引用文献数
3

沖縄県では台風や大雨時に赤土等の土砂が河川や沿岸海域に流出し、海洋生態系への悪影響が懸念され、大きな問題となっている。平成13年度の調査では、1年間で約30万tの赤土等が流出しており、そのうち74.4%は農地からのものであったと報告されている。これまで、耕種部門では減耕起栽培やグリーンベルト等の対策技術が開発されてきたが、コストや労力の増大から農家による実施は十分に進んでいない現状にある。沖縄県ではサトウキビや冬春期野菜の収穫後、春から夏にかけて休閑期間となるが、この期間は梅雨や台風の時期にあたり、畑面が裸地状態のままでは赤土流出が発生しやすい。そこで、沖縄で古くから土づくりのために利用されてきた緑肥を用いて、赤土流出防止を目的にカバークロップとしての評価をおこなった。供試作物としては、栽培面積が多いクロタラリア、近年導入されたピジョンピーとヒマワリ、一部離島で栽培されているフウキマメを選択し、生育特性および赤土流出防止効果について調査した。
著者
石黒 宗秀 大島 広行 小林 幹佳 森崎 久雄 田中 俊逸
出版者
日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.274-278, 2014

土壌は,多量の電荷を持っており,多い場合は, 1m3あたり1 億クーロンに達する.これは, 1kW の電気ストーブを120 目問つけっぱなしにして流れる電気量に相当する.これに起因する特性は,土壌に様々な現象を引き起こす.アロフェン質火山灰土下層土にイオン溶液を種々pH で浸透させると,pH が高くなるほどカチオンは流出が遅れ,アニオンは流出が速くなる.これは,pH が高くなるほどアロフェン質火山灰土の負電荷量が増え,正電荷量が減ることにより,静電吸着量が変化するためである.アロフェン質火山灰土(B 層)をカラムに均一に充填し,種々のpH の1mM 塩化ナトリウム溶液を飽和浸透させて,その飽和透水係数を測定した.図1 に示すようにpHが高くなったり,低くなったりすると,飽和透水係数が小さくなる.これらの原因を検討するため,土壌の分散凝集実験を行った.1mM 塩化ナトリウム溶液中に土壌を加え,種々pH に平衡させて良く振とうし,振とう直後の濁りと,振とう静置12 時間後の濁りを濁度計で測定したところ,pH4 以下およびpH 10 以上で良く分散し,その間のpHでは凝集した.土壌が分散するのは,電気的反発力が発生するためである.分散しやすい条件では,土粒子表面近傍に形成される拡散電気二重層が厚くなり,そのため,土粒子同士が接近した状態では,拡散電気二重層が重なる.その状態においては,粒子間の濃度が外液中の濃度より高まるため,浸透圧差により土粒子間に反発力が働く.この電気的反発力の大きさを評価するため,ゼータ電位(土粒子近傍の電位)を用いて電気的反発ポテンシャルエネルギーを計算した.分散条件では,大きな値となり,凝集条件では小さな値を示し,飽和透水係数の変化と良く対応した.飽和透水係数が低下するのは,その溶液条件で電気的反発力が大きくなり土粒子が分散して,粗間隙を目づまりさせたためである.土壌の電荷特性とイオンの吸着状態は,イオン移動の遅速,土壌構造の変化,透水性の変化をもたらすため,養分移動,汚染物質移動,土壌侵食,農地の水利用,流域の水・物質循環等の農業や環境問題と密接に関係する.また,有機物で覆われた土粒子や微生物は,柔らかいコロイド粒子として,その界面電気特性を捉える重要性が指摘されるようになり,関連する現象の理解と応用が進展している.2013 年名古屋大会でのシンポジウムでは,界面電気現象の基礎理論を平易に解説した.そして,測定法と現状における課題,微生物の固体表面への付着,汚染土壌の修復技術についての研究の講演へと繋げた.難解なイメージがあり敬遠されがちな界面電気現象の基礎を理解し,今後の基礎及び応用研究の展開をもたらす機会となればと考える.
著者
北村 八祥 松田 智子 原 正之 矢野 竹男
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.114-119, 2015

厚生労働省は健康の維持・増進,生活習慣病予防を目的に,各栄養素の摂取量について基準を策定している(厚生労働省,2010)。多量ミネラルとしては,カルシウム(Ca),リン(P),マグネシウム(Mg),カリウム(K)およびナトリウム(Na)の5要素が取り上げられており,農産物はNaを除く4要素の重要な供給源となっている(厚生労働省,2010)。農産物に含まれるミネラル含量は,日本食品標準成分表2010(文部科学省,2010)に品目毎の代表値が示されているが,利用部位による違いは考慮されていない。今後,農産物の加工・業務用需要が増加する中,用途に合わせた部位の活用が進むことが考えられ,部位別のミネラル含量を明らかにすることには意義がある。特に健康増進を目的としたメニューや農産加工品の開発への利用価値は非常に高い。そこで,摂取量が最も多いコメ(Oryza sativa L. ),代表的な加工・業務用野菜であるキャベツ(Brassica oleracea L. var. capitata),タマネギ(Allium cepa L. )およびニンジン(Daucus carota L. )について,部位別のミネラル含量を調査し,ミネラルに着目した農産物提供の可能性を検討した。
著者
山田 和義 上原 敬義 内津 政直
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.108-111, 2013

きのこの人工栽培には大きく分けて原木栽培と菌床栽培があるが,特に菌床栽培では,年聞を通して多量に発生する使用済み培地の有効利用が課題となっている。きのこ栽培が盛んな長野県の場合,いずれもビン栽培(菌床栽培)されるエノキタケとエリンギでの使用済み培地の年開発生量は,その生産量(林野庁,2010)から合計約200Ggと推計される。エノキタケとエリンギの培地は,主要原料としてコーンコブミール(トウモロコシ穂軸破砕物)30~50%,米ぬか20~40%を含むため,良質な堆肥原料となり得る。これまでに,堆肥化した使用済み培地(以下,コーンコブ堆肥)中の窒素については,肥効率(ここでは,化学肥料の肥効に対する堆肥成分の肥料的効果の割合)を20%として施用すると,レタスやハクサイでは基肥窒素の50%程度を代替できた(山田ら,2009)。一方,コーンコブ堆肥には主に培地原料の米ぬか由来のリン酸が窒素の1.5倍程度含まれている。水稲に対して使用済みきのこ培地(主原料がコーンコブおよびオガクズの培地)の化学肥料代替利用を検討した結果ではリン酸肥効率は60~70%であった(長野県,2011)。こうしたことから,コーンコブ堆肥の利用は有機物施用による団粒形成促進等の土壌改良効果とともに,単価の高いリン酸肥料の代替資材としてコスト低減も期待できる。そこで,本県での野菜作におけるコーンコブ堆肥施用時のリン酸肥効率を設定するために,根菜類等を対象に検討した。
著者
佐藤 邦明 増永 二之 稲田 郷 田中 利幸 新井 剛典 海野 修司 若月 利之
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.449-458, 2005
参考文献数
25
被引用文献数
1

多段土壌層法を用いて,汚濁負荷の大きい河川浄化システムの開発を目的とし,福岡県を流れる一級河川遠賀川の支流,熊添川のBOD除去を対象に基礎試験を行い,資材および構造の検討を行った。H144×W80×D56cmの装置を10基作成し,通水層および混合土壌層資材を検討し,構造については資材が同じで土壌層の幅を変えたものを作成した。流入原水は対象河川と同程度のBOD値(約40mg L^<-1>)である農業集落排水処理施設の処理水を用いて4,000Lm^<-2> day^<-1>の負荷で実験を行った。混合土壌層において対象河川の河川敷における現地土割合が高い装置で初期に目詰まりが起こった。この現地土は旧炭坑由来の微粉炭を含み,易分散性のシルト・粘土含量が高く,孔隙の閉塞を起こし易いためだと考えられた。今回のような特殊な現地土を使用する場合には,他資材の添加によってその透水性を上げること,そして分散性を抑制することが重要であると示唆された。また現地土に黒ボク土を混合した装置よりマサ土を混合した装置で目詰まりが起こりにくかったことから現地土へは大きな粒径の割合が多いマサ土の添加が好ましいと推察された。BOD値においても,現地土のみより(平均8.0〜12.4mg L^<-1>),特にマサ土を混合した装置(平均3.3,5.4mg L^<-1>)で高い処理能力を示した。本実験条件では,土壌資材の粒径はシルト以下の粒径が20%程度まで,0.450mm以下が50%程度までであることが,混合土壌層の混合割合は,現地土:マサ土:木炭:腐葉土=4:4:1:1の容積比が最適であると示唆された。また,通水層資材の違いについてはBOD処理には大きな差は出なかった。構造については,土壌層幅が15cmの装置で最も優れた性能を示した。土壌層幅の大きな装置で先に目詰まりを起こしたため,土壌層幅が狭いほうが有利であると示唆された。T-P除去能も土壌層幅の狭い装置で良い結果を示し,土壌との接触効率が高かったためと考えられた。
著者
鬼頭 誠 田口 真祐子
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.175-182, 2005-04-05 (Released:2017-06-28)
参考文献数
21
被引用文献数
2

コーヒー粕施用による植物生育抑制作用の消失時期を示す指標を明らかにすることを目的とし,2年間にわたりコーヒー粕を連用した跡地土壌における各種作物の生育と土壌の理化学性の変化を調査した.1.コーヒー粕連用跡地土壌における各種作物の生育量は,施用したコーヒー粕の分解率が0.5kg kg^<-1>以下の場合には減少したが,分解率が0.5kg kg^<-1>をこえた場合には増大する傾向が認められた.2.コーヒー粕連用跡地土壌の有効態リン酸,交換性カルシウムおよびマグネシウム含量は,コーヒー粕無施用土壌中のそれらよりも大きくなる傾向が認められたが,無機態窒素および交換性カリウム含量は,作物生育の低下が認められた97年夏作には減少した.3.窒素およびカリウム施肥量を増加してもコマツナの生育量の減少は完全には回復せず,無機態窒素および交換性カリウム含量の低下が作物生育抑制の主要因でないことが明らかになった.4.コーヒー粕連用跡地土壌のC/Nおよび水溶性フェノール含量と作物生育の間には一定の関係は認められなかった.5.コーヒー粕連用跡地において作物生育量の増大が認められた時期には各種肥料成分含量の増大に加えて,土壌の透水性および保水性も向上していた.以上の結果から,コーヒー粕連用跡地における作物生育抑制作用の直接的な要因ではないもののその消失時期を示す指標として土壌中の無機態窒素含量が有効であると結論した.
著者
西尾 隆
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.463-471, 1994-08-05 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
11
著者
新田 恒雄 松口 龍彦
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.140-148, 1988-04-05

堆きゅう肥による作物根系および根圏微生物フロラの改善効果を活用した土壌病害制御の可能性、およびその機能を少量で発揮させるために考案した根圏局所施用法についてアズキ落葉病を対象にほ場試験で検討し、以下の結果をえた。1)アズキ落葉病発病ほ場において、きゅう肥、バーク堆肥、落葉病罹病残渣堆肥をそれぞれ10a当たり5tの割合ですき込み施用した結果、病原菌感染率の低下と生育の増大が認められ、供試したこれらの資材には落葉病抑制機能のあることを見出した。2)この機能を効率的に発現させる少量施用法を検討するため、小型ペーパーポット(直径3cm、長さ5cm)に土壌と堆きゅう肥の混合物(1:1 w/w、生重)を充てんし、それに播腫してほ場に埋め込む"根圏局所施用法"を、重度の落葉病発病ほ場であるアズキ連作ほ場で試みた。その結果、上記の各種堆きゅう肥充てん区では堆きゅう肥が施用されていないペーパーポット外部の土壌中でも根の発達が著しく旺盛となり、病原菌感染率も低下し、地上部生育の増大がえられた。病原菌感染率の低下は罹病残渣堆肥で大きかった。3)病土充てん区ではペーパーポット外部の根の糸状菌フロラは極めて単純であったが、堆きゅう肥充てん区では多様性に富み、しかも、ポット内部の根の糸状菌フロラと高い類似性を示すなど、幼苗期にポット内部で根に定着した糸状菌フロラが外部の根にも定着したと推定された。ポット外部の根の糸状菌フロラの多様性指数は、根重と正の、病原菌感染率」とは負の相関を示した。4)土壌の種類の異なる3箇所の農家ほ場で堆きゅう肥の根圏局所施用法を実施した結果でも、ほぼ同様の結果がえられた。これら農家ほ場は軽度の発病ほ場であり、根圏局所施用は発病程度にかかわらず有効であることが実証された。5)用いたきゅう肥、バーク堆肥および罹病残渣堆肥からは病原菌に対する拮抗菌が検出された。検出頻度および菌数は罹病残渣堆肥で比較的多く、罹病残渣は堆肥化することによって有効な拮抗菌資材になることが示された。6)本試験の根圏局所施用では堆きゅう肥の必要量は10a当たりわずか140kg程度に過ぎず、実用性の高い施用法であることを確認した。
著者
松口 龍彦 新田 恒雄
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-11, 1988-02-05
被引用文献数
1

テンサイ、ジャガイモ、アズキ、春播コムギおよびダイズの連作ほ場において、きゅう肥、バーク堆肥それぞれ1.5t、3t、5t/10aの施用が作物の根群発達、根の菌糸態糸状菌フロラおよび各種微生物フロラに及ぼす影響を経年的に調べ、次の結果をえた。1)いずれの作物でも連作に伴い根群発達、根活力が低下し、その程度はジャガイモや春播コムギで小さく、テンサイ、アズキで大きかった。加えて、テンサイでは根腐病、アズキでは落葉病などの土壌病害も発生した。きゅう肥やバーク堆肥は施用量に応じて根活力の低下を軽減するとともに、土壌病害も抑制し、連作による減収を軽減した。2)連作3年目、5年目の生育中期に根の菌糸態糸状菌フロラを調べた結果、いずれの作物でも連作によってフロラが単純化し、その程度は連作障害の出にくいジャガイモや春播コムギよりも連作障害の出やすいテンサイやマメ類で著しかった。堆きゅう肥の施用は連作に伴うフロラの単純化を軽減し、フロラの多様性指数と根重とはおおむね正の相関を示した。3)生育初期の春播コムギとテンサイを対象に、非根圏土壌、根圏土壌および根の微生物フロラを希釈平板法により調べた結果、非根圏土壌の菌数にはきゅう肥施用の影響はみられなかったが、根圏土壌では施用量に伴って細菌、とくに色素耐性菌(グラム陰性細菌)が著しく増加した。根ではグラム陰性細菌ばかりでなく、放線菌も著しく増加した。4)堆きゅう肥施用量が多いほど土壌の交換性塩基、可給態リン酸、可給態窒素が増加する傾向がみられたが、交換性K以外は土壌診断基準値に比べて低かった。5)以上の結果から、輪作畑と同様、連作畑でも堆きゅう肥の施用は根圏の糸状菌フロラの多様化、色素耐性菌、放線菌などを増加させ、根群発達、根活力の増大、ひいては生育収量の向上をもたらしたと判断された。