著者
若松 孝志 高橋 章 佐藤 一男 久保井 喬 柴田 英昭
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.169-178, 2004-04-05
被引用文献数
6

アカマツ林の林床に^<15>NH_4^+を添加し,70日後までの林床植生,有機質・無機質土層への^<15>Nの移行量を調べた.さらに,室内培養実験により窒素の形態変化速度を測定し,^<15>Nの動態と微生物による窒素代謝との関係を調べた.^<15>N添加30日後の各プールヘの15N移行量は,林床植生5%,有機質上層56%,無機質土層44%であった.70日後には,無機質土層への移行量が増大したが,37%の^<15>Nが有機質土層に保持されていた.土壌水の観測結果から,無機質土層へ浸透する窒素の95%をNO_3^-が占めることが分かった.また,^<15>NH_4^+を添加したにもかかわらず,添加初期には土壌表層のNO_3^-のδ^<15>N値が著しく上昇し,またそのピークは時間の経過とともに下層に移動した.このことから,林床に沈着したNH_4^+のほとんどは,有機質土層で硝化によりNO_3^-に変化した後に,下層土壌へ移行することが裏付けられた.室内培養実験の結果,有機質土層(Oe-Oa層)における硝化速度(20mg N kg^<-1> d^<-1>)は,微生物の代謝によるNH_4^+の有機化と窒素無機化の速度(145mg N kg^<-1> d^<-1>)の1/7程度であった.このことから,大気由来のNH_4^+は林床に沈着した後,すべてが硝化に向うのではなく,微生物の窒素代謝のサイクルに取り込まれることが推察された.このことが,70日経週後も,添加した^<15>Nの4割が有機質土層に保持された主要な要因と考えられた.本調査地の有機質土層における窒素の形態変化速度は,ほぼ同量の窒素が大気から負荷されているオランダの森林よりも1桁程度大きかった.これには本調査地における温暖多雨な気候条件と酸性度の低い土壌条件が関与していることが推察された.
著者
村松 紀久夫 粟村 光男
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.571-578, 1986-12-05

茶樹の立枯性症状発生園の特性を明らかにするため,静岡県西部において,3つの症状園を選び,対照園を対比させて,症状園の養分吸収特性および土壌水分特性を調べた。また症状園の施肥改善試験を行った。1)症状園茶樹の養分吸収において,2つの症状園で葉部の塩基組成のアンバランスおよびマンガンの過剰吸収,根部のアルミニウム不足などの吸収特性が認められた。またこの特性が認められない症状園では,とくに過湿になりやすい条件下にあり,物理性の不良が認められた。2)施肥改善による細根の断面分布は,有機肥料系処理区>無機肥料系処理区>対照区の関係がみられた。立枯性症状の多発した処理区は,根の生育が劣り,土壌水分量が高かった。断面分布の細根数と発生率の間にr=-0.812と比較的高い負の相関が認められた。3)以上の結果から,茶樹の立枯性症状とは,養分吸収のアンバランスや土壌水分に関連する物理性の不良などによって,茶樹は,とくに根部の生長が抑制され,樹勢も著しく弱まる。それにせん枝や過湿などが加わると,さらに根の活性が衰える結果発生する症状と考えられた。
著者
樋口 恭子
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.237-242, 2003-04-05

鉄はLactobacillusやBacillusなどごく一部のバクテリアを除く全ての生物にとって必須の元素であり、多くの酸化還元反応に関与している。鉄は地球上で4番目に多く存在する元素であるが、好気的な条件では三価鉄になるため難溶性になり、これに加えて中性以上のpHになると溶解性がさらに低下するため、地球上の生物はしばしば鉄欠乏条件にさらされる。ポルフィリン環の生合成酵素が鉄を必要とするため、植物では鉄欠乏になるとクロロフィルが減少し葉脈間クロロシス症状を呈する。鉄吸収能力(ムギネ酸生合成)を強化した結果、鉄欠乏耐性イネができている。しかし水耕で極端な鉄欠乏条件にした場合、オオムギは激甚なクロロシスになっても新葉の展開や伸長には大きな影響はないが、イネは新葉の成長が著しく抑制されることから、植物体内の鉄の利用効率は植物種によってかなり異なると考えられる。鉄の吸収だけでなく移行や利用効率を高められれば、さらに適用範囲の広い鉄欠乏耐性作物が開発できると思われる。鉄貯蔵能力(フェリチン発現)を強化した結果、イネ穀粒の鉄含量を約3倍に、レタス葉の鉄含量を2割から7割増加させることに成功している。これに吸収、移行能力を強化して鉄含量を著しく増加させれば鉄強化食品としての価値を高めることができるであろう。その際には鉄過剰害を起こさないよう鉄の分配や解毒も考慮する必要がある。以上のような目的のため、今後、植物体内の鉄の移行や分配についての研究が進展することが望まれる。
著者
小川 吉雄 酒井 一
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-9, 1985-02-05
被引用文献数
13

水田のN浄化機能を解明するため,硝酸塩灌漑水田におけるN収支および水稲生育に及ぼす灌漑水中のNO_3-Nの限界濃度を調査した.結果を要約すると次のとおりである.(1)水稲が正常な生育相を示し,適正な玄米収量を得るための灌漑水中のNO_3-Nの限界濃度は,標肥,生わら施用の条件で5〜6 mg/lであろうと推定された.(2)硝酸塩灌漑水田におけるN収支を調査した結果,高濃度灌水区ほど作物体N吸収量,浸透流出N量は多くなったが,それ以上に未回収N量も多かった.(3)土壌のEh,脱窒菌数,脱窒能などの測定結果から,未回収N量の大部分は脱窒に起因するものと推定された.(4)水田の灌漑水中のN(おもに NO_3-N)浄化機能を要因別に解析した.水稲の吸収利用による浄化率は生育初期5%程度であるが,生育が進むにつれて高まり,出穂期には40%になった.脱窒による浄化率は初期は20〜30%,中期から後期は50〜55%で推移した.また,生わらを施用することにより,土壌の還元化を促進させ,生育初期の浄化率を5〜20%高める効果が認められた.
著者
木方 展治 結団 康一
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.581-589, 1992-10-05
被引用文献数
1

神奈川県足柄平野内の扇状地にしけん区を設け、深さ130cm までの土壌水を経時的に採取して硝酸態窒素濃度を調べた結果、以下のことがわかった。1)下層(100〜130cm)の土壌水硝酸態窒素濃度の最大値と平均値は,扇央上部の延沢では3.66 mgL^<-1>と0.705 mg L^<-1>であった.扇端上部の透水性の非常によい宮台では施肥後に最大値24.6mg L^<-1>を示したが,平均値は1.35mg L^<-1>と延沢を上回るもののそれほど高い価を示さなかった.先端下部の透水性が悪く,地下水位の高い曽比では最大値0.684mg L^<-1>,平均値0.041mg L^<-1>と低い値であった.2)水田に流入した窒素量から水田下層より浸透水として流出する賞賛対窒素量を差し引いた値は,延沢では2〜7kg ha^<-1>とかんがい期,非かんがい期ともわずかに0を上回った.宮台ではかんがい期に年間施用窒素量の50%近い硝酸態窒素が浸透しており,差し引き値は-20kg ha^<-1> year^<-1> を示したが,茶園の-270〜-280kg ha^<-1>year^<-1>に比べて1/10以下であった.3)曽比のような湧水地帯の湿田は脱窒機能が大きく,扇状地浸透水のうち,扇端部に浸出してくる地下水中硝酸態窒素を浄化する働きをしていることが推測された.
著者
小原 洋 中井 信
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.59-67, 2004-02-05
被引用文献数
21

可給態リン酸は,定点調査実施期間において全国的に明瞭な増加を示した.地目別には,施設と茶園が非常に高いレベルにあり,水田と牧草地が低かった.土壌群別では,水田としての利用が多い土壌群と黒ボク土グループが低い含量を示し,樹園地や普通畑に多く使われている岩屑土,非黒ボク土グループの褐色森林土,赤色土,黄色土,褐色低地土,砂丘未熟土が高い含量を示した.地域的には,瀬戸内から中部地域で高い含量を示した.また,地域区分によると中部,東海地域が高い含量を示した.経年的には,地目別,土壌別,地域別などによる区分の多くで1巡目から3巡目までは明瞭な増加傾向が認められた.しかし,3巡目から4巡目には増加率が低いなど,減少傾向を示す区分が多く,水田を中心に可給態リン酸の増加傾向が鈍化していた.これには化成肥料のリン酸投入量にみられるようなリン酸施肥量の減少が貢献していた.改善目標値と比較すると,目標値以下の部分は水田や普通畑では改善されつつあるが,4巡目でもまだ2割程度は不足域にある.一方,目標値の適正域を超える地点は,水田・牧草地では少ないが,その他の地目では10〜78%程度とかなりの割合を占め,増加傾向にある.
著者
定本 裕明 飯村 康二 本名 俊正 山本 定博
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.645-653, 1994-12-05
被引用文献数
26

McLAREN らの方法とこれを一部改良した方法とを比較検討し,汚染,非汚染各種土壌中の銅,亜鉛,カドミウムの形態分布の特性を調べた.結果の概要は次のとおりである.1)有機結合態の抽出方法を検討した結果,原法の0.1M ピロリン産カリウム抽出法では,有機物がほとんど含まれていない黒ボク土下層土と表層土と大差ない抽出量が得られたが,6%過酸化水素で有機物を分解した後,2.5%酢酸で抽出する方法では,下層土における抽出量が著しく低下した.遊離酸化物吸蔵態の抽出については,原法の UV-酸性シュウ酸アンモニウム抽出では赤黄色土で遊離酸化物の還元,抽出が不十分であったが,アスコルビン酸-酸性シュウ酸アンモニウム抽出によれば他の土壌はもちろん,とくに赤黄色土において遊離酸化物吸蔵態の重金属抽出量が著しく増加した. 2)無機結合態や有機結合態の抽出に用いた2.5%酢酸は,ゲータイトおよびギブサイトに吸着された重金属をほぼ全量抽出した. 3)非汚染土壌中において銅は,全体の約半分が残渣が全体の約6割から7割を占めており,続いて遊離酸化物吸蔵態の割合が高い.カドミウムは,同夜亜鉛で少ない交換態,,無機結合態が比較的多く,土壌中のカドミウムの量が植物に吸収されやすい形で存在していることを示した. 4)汚染土壌では各重金属とも非汚染土壌より交換態,無機結合態等の植物に吸収されやすい形態が多く,特に汚染水田のカドミウムは交換態の割合が非常に高く,わずかな汚染でも植物中のカドミウム濃度を増加させる危険性があることが示された.
著者
石塚 成宏 小野寺 真一
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1-7, 1997-02-05
参考文献数
31
被引用文献数
19

In order to determine processes of decreasing nitrate concentration in shallow groundwater in a forest on a suburban upland, we investigated the spatial distribution of δ^<15>N values of nitrate and nitrate concentrations in groundwater and soil water on Joso Upland, 60 km northeast of Tokyo. The water samples were collected at four plots along the direction of groundwater flow, which existed in farm land, forest, the boundary between farm land and forest, and grassland near a spring, respectively. Soil water samples were collected at depths of 0.2 m, 1 m and 3 m in the forest. The nitrate concentrations of shallow groundwater in farm land, forest and grassland were from 8 to 11, 6 and 2 mg L^<-1>, respectively. The nitrate concentration of shallow groundwater remarkably decreased throughout the forest. This suggested dilution of shallow groundwater with soil water which had a lower nitrate concentration. The δ^<15>N values of shallow groundwater in the forest (12 ‰) and grassland (more than 14 ‰) were higher than those of the shallow groundwater in the farm land (6 ‰), and the soil water in the forest (about 2 ‰). These results indicated that the nitrate concentration decreased not only by the dilution process with soil water, but also by the denitrification process of shallow groundwater in the forest and grassland.
著者
柳沢 啓 大山 卓爾 熊沢 喜久雄
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.371-376, 1986-08-05
被引用文献数
3

根粒による固定窒素と培養液中の硝酸を同時に利用する生育条件下でダイズを水耕栽培し,開花期(7月10日),莢生長期(7月24日)および子実生長期(8月7日)の初めに^<13>CO_2と^<15>N_2または^<13>CO_2 と^<15>NO_3の二重標識処理を行ないその後の^<13>Cおよび^<15>Nの分配を追跡した。1)どの時期に同化した^<13>CO_2も同化直後に速やかに各器官へ転流する。しかしその後の^<13>Cの分配の変化はゆるやかでありNの場合ほど顕著ではなかった。2)根から吸収したNO_3-^<15>Nはどの時期に吸収した場合も処理直後には約90%が根と葉に見出された。収穫時には葉身と根の分配率は減少し子実および莢に再分配された。3)根粒で固定した^<15>N_2の挙動は^<15>NO_3と著しく異なっていた。どの時期に固定した場合も処理直後にはおもに根粒と葉身に分配していた。開花期の初めに固定した^<15>N_2は収穫時に子実への再分配はほとんど認められなかった。しかしながら莢生長期および子実生長期の初めに固定したN_2-^<15>Nは収穫時までに子実へ高い割合で分配され,同じ時期に吸収したNO_3-^<15>Nよりも高い割合であった。
著者
本間 利光
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.89-92, 2010-02-05
参考文献数
15

2004年10月23日(土)17時56分頃、マグニチュード6.8の新潟県中越地震が新潟県中越地方で発生した。内陸直下型の地震で震源近傍の小千谷市及び川口町では、震度7相当の地震動が観測され、地震による農地・農業用施設の被害総額は約1300億円であった。翌春の作付けが不能と判断された水田面積は被災当初の2004年11月12日では長岡地域管内の水田面積の約54%、10,761haであったが、道路の仮復旧や水路の応急措置により年度末には24%に減少、翌年5月の作付け時までには4%まで復旧が進んだ。しかし、山間地の山古志村(現、長岡市山古志)では作付け不能面積は被災当初より増加し約78%の水田で作付け不能となった。これは19年ぶりの豪雪に見舞われ、融雪時期(3月中下旬)頃に多量の融雪水が地震の影響で不安定化した斜面内に浸透し、農道や棚田が崩落した土砂に埋まったためで、中越地震と豪雪がもたらした複合災害が原因と考えられた。中越地震の被害について地形や地質の面から検討した報告はいくつかあるが、ここでは農地や農業施設の被害について具体的な発生事例をもとに紹介するとともに、地震後に行われた災害復旧工事や実際の営農支援対策としての栽培指導について述べる。
著者
中鉢 富夫 浅野 岩夫 及川 勉
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.190-193, 1986-04-05
被引用文献数
7

SPAD(501)型葉緑素計を用いて,ササニシキの窒素栄養診断を行うための基礎的調査を実施し,次の結果を得た。1)測定葉位は葉緑素計値と全葉身窒素濃度との相関がきわめて高い主稈の展開第2葉身が適当と判断された。2)葉緑素計値と全葉身窒素濃度との回帰係数は,生育時期により多少異なるが,その差はきわめて小さく,穂肥期(ここでは7月11日から31日)を通した同一の回帰式で窒素濃度を推定しても,実用上差し支えないと判断された。3)測定部位は,葉色が葉身先端部または基部より濃く,安定性も高い葉身中央部が最適と考えられた。4)展葉中または展開第1葉身の葉緑素計値が,カラースケールによる群落としての葉色と最も高い相関を示した。5)宮城県におけるササニシキ栽培の場合,穂肥が必要な葉緑素計値は頴花分化初期で34以下,減数分裂期では30以下付近とみられた。
著者
井上 健一 西尾 隆
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.659-665, 2006-12-05
参考文献数
24
被引用文献数
4

有機質資材施用下の畑地の窒素収支を把握するためには,脱窒の定量的な予測手法の開発が不可欠である.そこで,土壌の種類,水分,かさ密度の違い,有機物添加の有無およびそれら要因の複合的な作用が土壌の脱窒速度に及ぼす影響を室内モデル試験によって調査し,未攪乱土壌法による圃場での層位別脱窒速度の実測結果と合わせて検討した.1)淡色黒ボク土,灰色低地土の両土壌とも土壌含水率と仮比重の増加とともに脱窒速度が増加したが,特に速度が著しく増加する境界域が存在した.乾燥豚ぷんの施用で脱窒速度は大きく増加したが,境界域の値は無添加に比べ1低下した.2)脱窒速度を圃場条件下で実測した結果,7月9日の乾燥豚ぷん区の脱窒速度は化学肥料区に比べ高く,しかも,10〜20cm,20〜30cm層位において0〜10cm層位を上回る結果となった.3)7月8日に採取した土壌の脱窒酵素活性と二酸化炭素発生速度の間には高い相関関係が認められた.4)以上の結果より,畑土壌の気相率を基に脱窒を推定する簡易予測手法について検討した.その結果,土壌の違いと施用有機物の有無で分けて気相率と脱窒速度の関係をみると,両者の間にそれぞれ負の相関関係がみられた.得られた回帰直線の係数は土壌と有機物の二要因の影響を強く受けていることが推察されることから,脱窒速度の推定には,この関係を考慮することが必要と考えられた.
著者
澤田 寛子 徐 相規 藤山 正史 渡邊 太治 藤原 伸介
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.389-397, 2011-10-05
参考文献数
30
被引用文献数
2

長崎県佐世保市の北部高標高地帯では,梅雨明け前後に水稲上位葉の葉先や葉縁部が褐色〜白色化し,その後の障害の進行と発症株の増大によって水田の一部がつぼ状に枯れ上がる'水稲葉枯症'が40年以上も昔から知られてきたが,その真の原因や発症機構は未だ不明である.本研究では,水稲にストレスが負荷される時期や葉枯症をもたらすストレス要因を明らかにすることを目的に,2006年〜2008年の3年間にわたって葉枯症の発生地域および発生歴のない近隣地域の水稲について,生育時期を追って健全葉と障害葉におけるストレス応答成分を分析した.その結果,エチレン前駆物質のACC(遊離および結合態の合量)およびポリアミンの葉中レベルが葉枯症の発症に伴い上昇することから、その診断に有効なストレス指標と考えられた.ACCおよびポリアミン含有量の変動に基づき,各年におけるストレスの推移を推定したところ,葉枯症が激発した2006年および2007年は,梅雨から梅雨明け直後にかけて発症地域の健全葉中ACC含有量が上昇し,この時期に既にストレスが負荷されていることが推測された.また,発症地域では8月以降に健全葉中のポリアミン含有量が上昇したことから,水稲の生育後半に,被害拡大をもたらす強いストレス負荷のあることが示唆された.梅雨の期間が短く,深刻な葉枯被害のなかった2008年は,梅雨明け期におけるACCやポリアミン含有量の顕著な上昇は認められず,当該地域においては初期のストレス負荷が少なかったものと推定された.水稲に葉枯症を引き起こし,障害を促進するストレス要因をストレス負荷のあった時期の気象条件や大気環境との関連などから考察した.
著者
小西 戎毅 若澤 秀幸 青山 仁子 中村 元弘 山下 春吉
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.456-461, 1986-10-05
被引用文献数
8

堆肥腐熟度の検定のための新しい方法として,花粉管生長テストが使用しうるかどうかを,種子発芽試験,幼植物試験との比較から検討した。家畜ふん木質混合堆肥,バーク堆肥,スラッジ堆肥などの10種類を用い,またそれぞれ堆積期間,ロットの異なる合計113点の堆肥を供試した。堆肥に2倍量の水を加え,1昼夜常温で浸し,抽出し,その液を被検液とした。花粉はチャの花粉を用い,蔗糖8%,ホウ素17ppmを含むpH5.5の基準寒天培地で培養した。花粉管生長テストには2つの方法を用い,また幼植物試験ではコマツナを用い,同様2つの方法を用いた。ウェル法:ペトリ皿の基準観点培地の周囲に等間隔で直径5mmの6つの搾せつ穴(ウェル)をあけ,それに接して中心に向かって直線状(18mm)に花粉を置床した。ついで,被検液をその穴に注入し,20時間培養した。そして,未発芽,不完全生長帯の長さを測定し,完・不完全阻害とした。 培地法:基準寒天培地の作製時に被検液を直接加え,ウェル法同様花粉を6条置床し,培養した。そして,花粉管長を測定した。発芽試験:被検液を10mlペトリ皿のろ紙上に添加し,種子を播種し,4〜5日後その種子根長を測定した。幼植物実験:堆肥を土壌重量の1/2量施用し,全層混合した。そして,種子を播種し,1カ月後採取,乾物重を測定した。これらの4つの方法での測定値間での相関,分布状況,意味を検討した。その結果,花粉管生長テストの2方法は堆肥の腐熟度に対し感度よく応答し,その測定値は2つの幼植物試験による値よりも大変精度がよかった。作物の安全性を中心に,感度と精度から,次の順序で優れると結論した。培地法>ウェル法>発芽試験>幼植物試験 この花粉管生長テストは素材や性質の異なるほとんどの堆肥に適用でき,堆肥に含まれる肥料成分の効果を除外でき,また種子の貯蔵養分による影響の少ない方法である。さらに,堆肥の施用量との関連で検定でき,20時間で検定できる簡易,迅速な方法であり,また花粉の冷凍保存で年中いつでもできる長所を有する。