著者
奥村 恵子 相崎 貢一 津留 智彦
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.471-475, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
19

マイコプラズマ感染後に全身倦怠感で発症した急性両側線条体壊死 (acute encephalopathy with bilateral striatal necrosis ; EBSN) の10歳男児例を経験した. 急性期の頭部MRIでは両側線条体と黒質に病変を認めた. 経過中, 錐体外路症状, 錐体路症状に加え, 黒質病変に伴うと思われる尿意切迫・頻尿がみられた. 遠隔期には頭部MRI上, 両側基底核の軽度の萎縮を認め, 臨床的には軽度のチックを残した. EBSNで脳幹病変の合併例の報告は少ない. 尿意切迫・頻尿の報告は調べた限りではなく, 本症例が初めてである. L-dopa補充療法で症状の改善がみられた. ステロイド投与は急性期の症状改善に対しての効果が明らかでなかった.
著者
大沼 晃 小林 康子 飯沼 一宇
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.285-290, 1997-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
17

発達障害941例のMRI中39例に神経細胞遊走障害の所見を認め, 特にsurfaceanatomy scanによる脳溝形成の状態と臨床症状との相関について検討した. 39例中痙性麻痺は25例, 筋緊張低下は6例, 運動麻痺を伴わない知的障害は8例に認められた. 完全ないし不完全な無脳回症7例では全例が痙性四肢麻痺を示したが, 厚脳回症例では8例中7例に運動障害を認めなかった. 典型的FCMD5例では全例に大脳縦裂に沿う幅広い脳回がみられ, 特徴的であった. 知的障害については, 脳回の形成障害が全般性の例ではほとんどが重度であったが, 半球性ないし局所性の例では様々であった. てんかんは21例に認められ, 11例が難治であった.
著者
井上 健 岩城 明子 黒澤 健司 高梨 潤一 出口 貴美子 山本 俊至 小坂 仁
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.435-442, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
16

先天性大脳白質形成不全症は, Pelizaeus-Merzbacher病 (PMD) を代表とする主に遺伝性の原因により大脳白質の髄鞘形成不全を特徴とする疾患群の総称である. これまでPMD以外の疾患については, 臨床および分子遺伝学的な分類が困難であった. しかし, ここ数年で新たな疾患概念の確立や疾患遺伝子の同定が進み, PMD以外の先天性大脳白質形成不全症に関する多くの知見が明らかになった. これらを加味した先天性大脳白質形成不全症の診断基準や疾患分類は, 臨床上有用と思われる. 本稿では, 先天性大脳白質形成不全症に関する研究班による成果による新たな診断基準や, この疾患群に含まれる11疾患の鑑別診断のためのフローチャートを含む疾患分類を中心に, 先天性大脳白質形成不全症に関する最新の知見をまとめた.
著者
内匠 透
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.91-94, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
14

ヒト染色体15q11-13重複は自閉症の細胞遺伝的異常として最も頻度の高いものである. 染色体工学的手法を用いて, 我々は同相同領域を重複させたマウスを作製することに成功した. 本マウスは, 社会的相互作用の障害, 超音波啼鳴数の発達異常, 固執的常同様行動等, 自閉症様行動を示した. また, 発達期には脳内セロトニン異常を呈した. 本マウスは, 表現型妥当性だけでなく, 自閉症の原因である染色体異常をヒトと同じ型で有する構成的妥当性をも充たすヒト型モデルマウスである. 本マウスにより, 自閉症を含む発達障害の分子病態解明だけでなく, 新たな診断, 治療, 予防法の確立にも有効なマウスとして, 小児神経学領域における発展が期待される.
著者
香川 和子 森 糸子 丸山 博 福山 幸夫
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.53-64, 1976 (Released:2011-05-24)
参考文献数
20

熱性痙攣患児307例について,単純型と複合型に分類し,各々の臨床的および脳波学的検討を行なった.男188例,女119例で,男女比は約1.6:1であった.単純型は131例,複合型は176例でやや複合型が多かった.脳波所見では,単純型の10.6%,複合型の19.8%に異常を認めた・熱性痙攣の家族歴は35.8%に,てんかんの家族歴は4.8%に認められた.脳障害の原因となり得る疾患の既往歴は16.6%に,また精神発達遅延の症例は4.8%に認められた.発作再発率に関し初発年齢0~11ヵ月,12~35ヵ月,36ヵ月以上の3群で有意差を認めた.臨床的諸項と脳波所見の相関関係について次の結果を得た.
著者
長尾 秀夫 岩永 学 穐吉 眞之介
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.279-282, 2015 (Released:2015-11-20)
参考文献数
13

【目的】極低出生体重児 (VLBW児) の課題の一つである国語と算数の学習上の問題について, 学習習熟度テストの結果を基に検討した. 【方法】対象は10歳時にフォローできたVLBW児14名, 男6名, 女8名である. 在胎週数は平均27週6日, 出生時体重は平均988gであった. 学習習熟度テストは国語と算数の4年生修了段階の問題を外来の待ち時間に行い, 定型発達児 (TD児) と比較した. 【結果】国語の文章読解で自分の言葉で答える問題の正答率はVLBW児が42.9±51.4%, TD児が69.7±46.3%であった. 作文の正答率はVLBW児が28.6±46.9%, TD児が72.7±44.9%でVLBW児は低かった. 算数の計算法則では, 3つの数の計算の正答率はVLBW児が55.4±14.7%, TD児が66.3±15.5%であった. 文章題2問の正答率は, VLBW児が42.9±50.4%, TD児が52.9±50.1%であった. 【結論】VLBW児はTD児に比べて, 国語・算数共に文章理解に基づく思考を要する課題に困難があった. それぞれに対する教育支援のあり方を提案した.
著者
栗原 まな
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.459-460, 2005-11-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
1
著者
大滝 悦生 山口 洋一郎 塩月 由子 片淵 幸彦 松石 豊次郎 松浦 伸郎 山本 正士
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.502-506, 1987-11-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
18

単純ヘルペスウイルス1型脳炎 (以下HSV1型脳炎と略す) 罹患後, 著明な精神運動発達遅滞, 両側片麻痺を認め, 8カ月後シリーズ形成する点頭てんかんを発症した1歳4カ月男児を報告した. 病初期の脳波でperiodic sharp wave, CTで左右側頭葉の低吸収域が認められ, 造影剤注入後にはstreak linear enhancementを認めた. 急性期を過ぎた発症後8週のCTでは著明な左右側頭葉, 視床の低吸収域, 第III脳室拡大, 脳皮質萎縮が認められた.髄液でのenzyme-linked immunosorbent assay (以下ELISAと略す) による抗体測定によりHSV1型脳炎と確定した. HSV脳炎は, 局所症状を呈することがよく知られているが点頭てんかんを認めたという報告はわれわれが調べた範囲では見当たらなく極めてまれと考え病巣についても考察を加え報告した.
著者
北 洋輔 小林 朋佳 小池 敏英 小枝 達也 若宮 英司 細川 徹 加我 牧子 稲垣 真澄
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.437-442, 2010 (Released:2015-11-21)
参考文献数
13
被引用文献数
2

全般的知能正常で読み書きにつまずきを持つ小中学生98名 (発達性読み書き障害, すなわちdevelopmental dyslexia (DD) 群24名と非DD群74名) に対して, 読字・書字各15項目からなる臨床症状チェックリスト (以下CL) を適用し, ひらがな音読能力を検討した. 信頼性分析の結果, CL各13項目の妥当性が示され, 音読4課題成績との関連性が認められた. DD群は非DD群より多くの臨床症状を有しており, 音読課題の成績低下も顕著であった. 臨床症状が7つ該当し, 音読課題2つに異常がみられる場合, DD群は感度 (79.7%) と特異度 (79.2%) がバランス良く, 非DD群と弁別された. 以上より, DDの医学的診断における本CLの臨床的有用性が示された.
著者
生田 陽二 伊藤 麻美 森 貴幸 鈴木 洋実 小出 彩香 冨田 直 清水 直樹 三山 佐保子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.283-284, 2017 (Released:2017-07-12)
参考文献数
9

6歳女児. 発熱・頭痛で発症 (第1病日), 第7病日に傾眠傾向とけいれんが出現し入院. 頭部MRI拡散強調画像では大脳皮質に広範囲の拡散制限を, 脳波では高振幅徐波と全般性あるいは多焦点性の棘徐波複合を認めた. 入院時より下肢間代発作や全身強直発作が群発し, 人工呼吸管理とした. 発作は治療抵抗性で, 第9病日にthiopental (TP) 持続投与を開始したところ, 臨床発作は消失した. TP開始後, 心機能悪化が懸念されたため他の抗てんかん薬を併用してTPの減量を試みた. しかし部分発作が再発し, 脳波も数十秒間連続する多棘波が5~10分間隔で出現する非臨床発作と考えられる所見となり, TP離脱は困難であった. 第24病日に24時間の絶食期間を経てケトン指数3 : 1でケトン食療法を開始したところ, 絶食開始24時間後には背景脳波活動の改善がみられ, ケトン食開始後は速やかに発作と脳波上の棘波が減少した. 第35病日以降, 発作は消失し第42病日にTPを終了した. 以上の経過より, 本症例はTPからの離脱にケトン食療法が有効であった難治頻回部分発作重積型急性脳炎 (AERRPS) と診断した. AERRPSでは抗てんかん薬の大量かつ長期間の経静脈投与を必要とし, 心機能を含めた臓器障害が問題となる. 抗てんかん薬経静脈投与からの離脱困難例においてケトン食療法は選択肢の一つであり, 輸液中の糖質制限が発作抑制に有効である可能性が示唆された.
著者
市山 高志 西河 美希 林 隆 古川 漸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.466-470, 1997-11-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
20

急性脳炎において, 局所の免疫・炎症病態を検討するため, 急性期の髄液中のinter-Ieukin-1β (IL-1β), IL-6, tumor necrosis factor-α (TNF-α), soluble TNF receptor1 (sTNF-R1) をsandwich enzyme-linked immunoassay法で測定した.対象は急性脳炎の24名で, 神経学的後遺症の有無により予後不良群9名, 予後良好群15名に分けて検討した.IL-1β, IL-6, TNF-α, sTNF-R1とも対照群 (23名) に比して予後不良群, 予後良好群とも有意に高値を示した.またsTNF-R1は予後不良群が予後良好群より有意に高値を示した.以上からIL-1β, IL-6, TNF-αは急性脳炎の炎症・免疫病態に関与しており, また急性期の髄液中sTNF-R1値は神経学的予後を推測しうる指標になると考えた.
著者
市山 高志 松藤 博紀 末永 尚子 西河 美希 林 隆 古川 漸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.493-497, 2005-11-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
19
被引用文献数
4

軽症胃腸炎関連けいれんに対するcarbamazepine (CBZ) の有用性を検討した.対象は当科に入院した軽症胃腸炎関連けいれん16例 (男6例, 女10例, 9カ月~3歳, 平均1.7歳).方法は確定診断後ただちにCBZ5mg/kg/回を1日1回の内服を開始し, 下痢が治癒するまで継続投与した.CBZ投与前に16例中13例はdiazepam製剤を, 1例はdiazepam+phenobarbitalを単回あるいは複数回投与されていたが, けいれんは再発していた.CBZ投与前のけいれん回数は2~8回 (平均4.1回) だった.CBZ投与後15例にけいれんの再発はなかった.1例で15分後に1回のけいれんがみられた.CBZ投与期間は2~9日 (平均6.4日) で, CBZ投与は軽症胃腸炎関連けいれんに対し著効した.
著者
青木 久夫
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.298-306, 1976-07-01 (Released:2011-05-24)
参考文献数
22

知能障害児1, 325名, 知能正常児4, 852名につきシスチン尿症の頻度を調べた結果・本症が有意の差を以って知能障害児に高い傾向が見出された.さらにこれらシスチン尿症患者に経口的リジン負荷テストを行ないリジン吸収能を調べた結果, 知能障害を伴う本症患者では腸管におけるリジン吸収能の低下を示す例が多く認められた.これらの知見により, 本症患者ではリジンの輸送機構の障害, 特に腸管吸収不全という遺伝的障害があり, それに脳発達の旺盛な乳幼児期の栄養条件が加わって知能障害に陥る頻度が高くなるものと推測された.
著者
田中 学 浜野 晋一郎 今井 祐之 奈良 隆寛
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.269-275, 1999-05-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
10

滑脳症I型は無脳回と厚脳回が混在する型の脳皮質形成異常である.本症の乳児例を5例経験し, 頭部CT所見に基づいた形態学的な重症度分類を用いて, てんかん発症当時の発作間欠時脳波, 発作型および臨床症状を検討した.てんかんの発症は生後2カ月から4カ月で, 広汎性無脳回の症例は全身強直発作で発症し, 厚脳回の混在する例では, 部分発作やtonic spasmsで発症した.全例とも発作はその後tonic spasmsに移行した.頭部CTにおいて脳表に占める厚脳回の比率が増すほど, 脳波では無脳回の症例に多いα波よりも高振幅δ波が優位になる傾向がみられた.その他に全例を通して多焦点性の高振幅徐波, 棘波や鋭波がみられた.これらは厚脳回の形成が不規則であることの影響と考えられ, 画像所見との相関が示唆された.
著者
下澤 伸行
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.128-133, 1998-03-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
16

ペルオキシソームの形成や代謝機構に異常を来す遺伝病のうちZellweger症候群に代表されるペルオキシソーム欠損症とX-linked adrenoleukodystrophy (ALD) について解説する. 前者は哺乳動物細胞や酵母を疾患モデルとしてその病因遺伝子が次々に解明された点で特筆すべき遺伝病であり, 後者はポジショナルクローニングにより遺伝子異常は解明されたもののALD蛋白の機能から脱髄の発症機序, 遺伝子変異と臨床型の不一致から治療に至るまで解決すべき多くの問題を抱えた遺伝病として注目される. 今後, 両者の重症度や発症を規定する新たな因子がモデルマウス等により解明され, より有効な治療法の開発に結びついていくことが期待される.
著者
諸岡 啓一
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.131-138, 2005-03-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
23
被引用文献数
1

言語獲得の理論には生得説と経験説がある.言葉の遅れを評価する上で重要なのは, 音声の産出 (発語) と理解 (言語理解) の2つの側面に加えて, 非言語的手がかりとして対人関係を評価することである.遅れありとするには発語の遅れ以外に絵カードや指示の理解など言語理解も含めて遅れがあるか否かを判断すべきである.幼児期に精神・言語発達を評価するには新版K式発達検査法が適しているが, 遠城寺式乳幼児分析的発達検査法は簡便でかつ発達領域の適切な評価ができるので有用である.テレビ視聴の時間が長いと言語遅滞や精神発達障害を来すという意見もあるが, 明らかな精神発達障害を呈するとは考えにくい.東京都大田区での筆者らの調査では, 言語遅滞で頻度が最も高いものは発達性言語障害で, 1歳6カ月児健診では4.3%であった.ことばの遅れを来す疾患には発達性言語障害, 精神遅滞, 自閉症などがある.自閉症を的確に診断するにはチェックリストが有用である.発達性言語障害の診断基準はいくつかあり, 混乱している.この診断基準を提示した.
著者
松尾 雅文
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.92-95, 2009 (Released:2016-05-11)
参考文献数
15
被引用文献数
1

Duchenne型筋ジストロフィー (DMD) は男児3,500人に1人が発症する最も頻度の高い遺伝性進行性筋萎縮症である. DMDはジストロフィン遺伝子の異常に起因する筋肉のジストロフィン欠損を特徴とする. 多くのDMDでは, このジストロフィン欠損はジストロフィン遺伝子のエクソン単位の欠失の異常によりジストロフィンmRNAのアミノ酸読み取り枠にずれを生じ (アウトオブフレーム), mRNA上にストップコドンが新たに出現し, ジストロフィン合成が翻訳の途中で停止してしまうために生じる. また, 1部のDMDではジストロフィン遺伝子の1塩基置換のためにナンセンス変異を生じ, ジストロフィンの合成が停止し, そのためにジストロフィンが欠損する.  現在DMDの治療としてジストロフィン遺伝子のエクソン欠失に対してはエクソンスキッピング誘導治療が, ナンセンス変異に対してはリボソーマルリードスルー誘導治療が提唱されている. ここではDMDの治療の最近の動きについて紹介する.
著者
吉岡 博
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.317-327, 1983-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
50

新生仔期の低酸素症がその後の脳組織発達におよぼす影響を3H-チミジンオートラジオグラフィーにより細胞増殖動態面から検討した.実験ではJcl: ICR系生後2日目の哺乳マウスに30分間無酸素負荷を行い, 生存マウスを低酸素群とし, 無処置同胞マウスを対照群とした.低酸素群の体重・体長は生後20日目までは増加が不良で対照群に比し有意に低値を示したが, その後は回復し有意差はなくなった. 脳重量も生後10日目では対照群に比べ11%減少していたが, 生後20日目には有意差はなくなった.負荷直後の低酸素群マウスの視床・小脳には神経細胞の変性が存在した. 低酸素群の分裂指数や標識率は, 生後5日目までは対照群より下まわっていたが, 7日目および10日目では対照群より高値をとり, 15日目以後には両群ほぼ等しくなった生後2日目の低酸素群小脳外顆粒層細胞の世代時間は対照群に比べ約2時間延長したが, それは主としてG2期の延長によるものであった. 一方, 生後7日目では低酸素群のそれは対照群に比し約2時間短縮しており, G1期の短縮がその主因であった.以上より, 細胞増殖動態の面で, 生後2日目における30分間の低酸素負荷がおよそ5日目まで抑制をもたらすこと, その後はcatch up現象が生ずること, そしてその抑制と回復は別の機構により行われることが示唆された.