- 著者
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市場 尚文
- 出版者
- 一般社団法人 日本小児神経学会
- 雑誌
- 脳と発達 (ISSN:00290831)
- 巻号頁・発行日
- vol.14, no.6, pp.558-565, 1982-11-01 (Released:2011-08-10)
- 参考文献数
- 38
- 被引用文献数
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微細脳障害症候群 (MBD) の学習障害の神経機序と, 行動異常を有するてんかんとMBDとの関連を明らかにする目的で, 系統的な神経心理学的検討を行った. 対象は微細な脳障害が基盤にあると推測されるIQ 90以上の行動異常児53例 (1群, 平均IQ 104) と, 行動異常を有するIQ 90以上の大発作てんかん30例 (II群, 平均IQ 108) の計83例である.1. 手・足・目の利き側の不統一を示したのは1群49.0%, II群43.3%で, 正常小児 (23.3%) に比し有意の高値を示した.2. ITPA言語学習能力検査 (日本版) では, 言語学習指数は知能指数より低値を示すものが多く, 下位検査でも2群とも表象機能に比し自動機能に著しい選択的欠陥を示したが, いずれも学業成績の下級のものに著明であった.3. Bender Gestalt test (Koppitz法) で+1SD以上の高値を示したものは1群18例, II群10例であった. 高値例の検討では, ITPAの視覚配列記憶能力との相関がみられ, 利き側の混乱, 読み書き障害, 学業不振も高率に合併した.4. Frostig視知覚発達検査の全知覚指数 (PQ) が90以下の低値を示したものは29例中16例 (55.2%) で, PQはBender Gestalt testの得点と相関を示した.5. 脳波検査では, 2群とも間脳機能障害を示唆するanterior theta burst, 6c/swave & spike phantom, 6 & 14c/spositivespikesを高率にみとめた. これら挿間性脳波異常を有するものでは2群ともITPAの自動能力に選択的欠陥を示すものが多かった.以上の検討より, MBDにおいては記銘・認知・自動運動などの自動能力に選択的障害を有することが明らかとなり, これらがMBDにおける学習障害の基盤を形成すると考えられた. 行動異常を有する大発作てんかん児が極めてMBDに類似した障害を示したことより, これらの児においてもMBDと同様の医学的教育的配慮が必要であることを指摘した.