著者
水口 浩一 久保田 雅也
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.337-341, 2016 (Released:2016-09-09)
参考文献数
20

【目的】人工呼吸器に依存する重症心身障害児 (重症児) は, 少ない摂取エネルギーでも, ときに栄養過多による肥満が問題となる. 長期人工呼吸管理中の蘇生後脳症児5例に対し, 生体インピーダンス法 (BIA) で体組成を測定, 病態とエネルギー必要量を検討した. 【対象・方法】年齢1~9歳. 体組成は多周波数BIA (InBody S20®) を用い, 体脂肪率, 骨格筋量, 除脂肪体重 (FFM) を測定した. 各症例の経過を後方視的に検討した. 【結果】体脂肪率は40~60%と高く, 全例で肥満, 過栄養状態であった. また, 骨格筋量と, FFMが減少していた. 適切な摂取エネルギー量の検討後は210~350kcal/日と極めて少なく, FFMあたり25~42kcal/kg/日で維持できていた. 【考察】人工呼吸管理を要す蘇生後脳症児の体組成は, 体脂肪が増加し, FFMは減少する. FFMが基礎代謝量に強く相関するため, 本病態では体重を用いたエネルギー必要量の設定では過栄養となる. FFMを基準にしたエネルギー必要量の設定が望ましい. 【結語】BIAを用いた体組成の把握は, 重症児の栄養管理の一助となる.
著者
髙橋 悟
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.117-120, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
20

Rett症候群は, 主に女児に発症する神経発達障害である. その診断は, 臨床症状に基づいて行われ, 回復期や安定期が後続する神経症状の退行があることを必要要件とする. 病因遺伝子は, メチル化DNAに結合して遺伝子の転写を制御するmethyl-CpG-binding protein 2 (MECP2) をコードする. Rett症候群に類似するが異なった臨床経過を示すものを非典型的Rett症候群とよび, “早期発症てんかん型” や “先天型” が知られている. 前者の病因遺伝子は, 樹状突起棘に局在するリン酸化酵素cyclin-dependent kinase-like 5 (CDKL5) をコードしている. 後者の病因遺伝子は, 終脳の発生に重要な転写因子forkhead box G1 (FOXG1) をコードしている. このように非典型的Rett症候群の病態は, 典型的Rett症候群とは異なることを理解する必要がある.
著者
佐久間 隆介 軍司 敦子 後藤 隆章 北 洋輔 小池 敏英 加我 牧子 稲垣 真澄
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.320-326, 2012 (Released:2014-12-25)
参考文献数
22

コミュニケーション行動の習得にともなう行動変化の客観的な定量評価を目指し, 従来の行動観察法に加えて, 児の頭部方向を二次元平面上に展開する行動解析を行った. 発達障害児4名に, ソーシャルスキルトレーニング (SST) を行い, 前後の行動を比較した結果, ①コミュニケーション行動の増加と, ②ペア活動の相手を中心視野に捉えようとする注目行動の増加が認められた. ヒト位置情報の二次元尺度化は, ソーシャルスキルの治療的介入がもたらす行動における空間的時間的変化の可視化に有用であり, 従来の行動観察法を補う定量評価法の一つとして, 今後の応用が期待される.
著者
北井 征宏 大村 馨代 平井 聡里 荒井 洋
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.43-48, 2015 (Released:2015-03-20)
参考文献数
12

【目的】小児期発症低酸素性虚血性脳症 (HIE) の長期予後に影響する因子を明らかにし, 予後予測に基づく療育計画を提言する. 【方法】生後1カ月以降発症のHIE 42例 (男28例, 女14例, 発症年齢2カ月~13歳10カ月, 経過観察期間1年~14年) を, 粗大運動予後から軽度群 (独歩可), 中等度群 (歩行器歩行可), 重度群 (自力移動不可) に分け, 頭部MRI所見, 発症年齢, 臨床経過, 合併症を後方視的に比較検討した. 【結果】軽度群10例, 中等度群10例のMRI所見は全例限局性損傷, 重度群22例中19例は広範性損傷, 3例は乳児期発症の限局性損傷であった. 中等度群で新生児HIE類似の基底核視床+中心溝周囲病変を示した3例は生後5カ月未満発症であった. 軽度群10例中7例は5カ月以内に独歩を再獲得したが, 9例で中等度以上の知的障害, 3例で重度視覚障害を認めた. 重度群の過半数に外科的合併症 (股関節脱臼, 側彎, 気管切開, 胃瘻) を認め, 紹介までに半年以上を要した6例中5例は, 初診時すでに合併症が進行していた. 【考察】限局性脳損傷例は移動機能獲得を目指したリハビリテーションとともに, 早期に独歩を獲得できても知的障害や視覚障害に対する療育の重要性が高い. 広範性脳損傷例は, 機能獲得は困難だが, 合併症予防のため早期からのリハビリテーションが重要である. MRI所見, 発症年齢, 臨床経過から予後を予測し, 適切な療育計画を立てる必要がある.
著者
金村 英秋 佐野 史和 反頭 智子 杉田 完爾 相原 正男
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.18-22, 2015 (Released:2015-03-20)
参考文献数
11

【目的】小児てんかん児の発作間欠期頭痛に対するtopiramate (以下, TPM) の有効性について検討した. 【方法】対象は頭痛の訴えを表出できる患児85名 (5~15歳). Valproate (以下, VPA) 内服群42名, carbamazepine (以下, CBZ) 群34名, 併用群6名, 他剤群3名であった. 発作間欠期頭痛の有無, 頻度, 程度{1 (支障度 : 小) ~3 (同 : 大) }による治療開始後6カ月時点でのTPMの有用性を検討した. 頻度50%以上の減少または程度50%以上の軽減を反応群とした. TPMは0.5mg/kg/dayで開始, 症状に応じて3mg/kg/dayまで増量可とした. 【結果】反復する発作間欠期頭痛を認めた児は18名 (21%) であった. VPA群8例, CBZ群6例, 併用群3例, 他剤群1例であった. けいれん発作は頭痛 (-) 群で年平均0.9回に対し, 頭痛 (+) 群では2.6回と高頻度であった. TPM反応群は13名 (72%) (VPA群4例, CBZ群6例, 併用群2例) であり, 頭痛の完全消失を6例 (33%) に認めた. TPMの投与量 (mg/kg/day) は非反応群2.7に対し反応群は平均1.1と低用量であった. なお, 反応群におけるTPM投与後の発作頻度は年平均2.2回と有意な減少を認めなかった. 【結論】てんかん児の頭痛に対してTPMは積極的に試みるべき薬剤と考えられる. TPMは発作と関係なく頭痛への有効性が認められたと考えられる. さらにその有効性は必ずしも用量依存性ではなく, 一定の投与量 (2mg/kg/day) で無効な場合は他剤の使用を考慮すべきと考えられる.
著者
斎藤 義朗 目々澤 肇
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.303-304, 2010 (Released:2015-11-21)
参考文献数
11

前兆のある片頭痛を有する13歳男子が, 頭痛出現後2時間以内に, 当日または前日の出来事が思い出せない, 頭痛出現後の記憶も残っていないという健忘症状を伴うエピソードを反復した. この症状は頭痛の軽快後10分ほどの間に回復したが, 一部のエピソード記憶は回復しなかった. 意識減損は伴わず, 症状の特徴からてんかん発作や脳底型片頭痛は否定, 一過性全健忘と診断した. 小児期の片頭痛と一過性全健忘の合併について文献的に論じる.
著者
安原 隆雄 伊達 勲
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.197-202, 2009 (Released:2016-05-11)
参考文献数
23

神経疾患に対する細胞移植・再生療法は, 分子生物学的技術の発展により, 新しい治療戦略として注目されている. 脳虚血に対して我々はこれまで, カプセル化細胞移植や成体由来神経幹細胞移植を中心に多くの研究報告を行ってきた. また, もやもや病に対する間接血行再建術時にVEGF遺伝子導入を併用する治療法や, くも膜下出血後の脳血管攣縮に対するタンパク質セラピー法についても研究を行った. 本稿では, 最近の脳性麻痺モデルを用いた基礎研究を交えて, 我々が行ってきた脳虚血に対する研究を解説する. 最後に, 細胞移植・再生医療分野の臨床研究をレビューし, 神経疾患に対する細胞移植・再生療法について今後の方向性を検討する.
著者
矢野 英二 北原 佶 有馬 正高
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.10, no.5, pp.359-371, 1978-09-01 (Released:2011-05-24)
参考文献数
17

乳児の頸定遅延の要因について分析するため, 正常乳児250例, 異常児152例の頸定の時期を検討した. また, 正常乳児28例, 脳性麻痺児 (以下C. P. 児) 16例, 精薄児 (M. R. 児) 11例, Werdnig-Hoffmann病 (W.-H. 病) 4例, Congenital Progressive Muscular Dystrophy (CMD) 3例, 水頭症4例については, Traction Responseの表面筋電図学的研究を行なった. またLandau responseと頸定の相関についても検討した.1) 正常乳児250例の頸定の時期は (3.20±0.51月) で, 3ヵ月にピークがあり, 153例 (61%). 4ヵ月までには, 1例を除き全例可能となった.2) C. P. 児 (6.11±3.82月), M. R. 児 (5.30±2.31月), Down症候群 (5.68±1.74月) CMD (5.63±2.95月) の患児では半数以上に頸定の遅延を認めた (mean±SD).3) Traction responseの表面筋電図学的検討は, 頸定の完成した正常児群では, 中間位までに活発な筋放電を認め, 垂直位では, 消失するパターンを得た. 3生月未満の末頸定群でも, 引き起こしと同時に前頸筋に放電が得られたが, 垂直位になっても持続する例がかなりみられた. 頸定が完成している乳児でも, 未完成の乳児でも, 引き起こしで放電が誘発されるので, 2ヵ月未満の成熟乳児の頸定の未完成が立ち直り反射の未発達によるとする記録は得られなかった. C. P. 児群では, 全般的にVoltageが高く, 不規則で, 特に垂直位の状態においても不安定な筋放電の持続を認め, 筋トーヌスの保持機能に障害があるものと推測された. 重度精薄の患児では, 抗重力筋の収縮がほとんど起こらず, 反射機構に何らかの異常があると考えられた. W.-H. 病およびCMDでは, 全体的に筋活動が著明で, 垂直位でも持続的な筋収縮を認め, 頭部立位保持の努力がうかがわれた.4) Landau responseと頸定の相関では, 正常乳児未頸定群, 頸定群ともにNeck extentionは可能であるが, C. P. 児, M. R. 児の未頸定群では, 約半数にしか達していない. 一方, C. P., M. R. 児の頸定群では, 全例可能であった.5) 頭部の垂直保持機構に関しては, 少なくとも, 筋肉, 結合織, 骨, 靱帯などの支持組織の発達が十分であり, また中枢神経系, 特にRighting reflexを中心とした姿勢反応の成熟が必要で, 加えて, 安定した筋トーヌスの保持機能の発達が大きく関与しているものと考えられた.
著者
柏木 充 鈴木 周平
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.343-348, 2009 (Released:2016-05-11)
参考文献数
17
被引用文献数
1

小児の不器用さの簡易判定法を予備調査より作成し, その有用性について検討した. 判定法は, 問診情報と微細神経学的徴候より構成される. 前者は, 球技やはしの使い方等の日常の運動面に関する12項目の問診結果より, 後者は, 閉眼片足立ちや上肢変換運動等の5項目中の陽性項目数より判定される. 発達障害児を含む43例を我々の判定法で不器用さの有・疑・無群に分け, 運動検査Movement Assessment Battery for Childrenの結果と比較した. 有群15例中14例, 疑群11例中6例が障害境界以上, 無群では17例中14例は障害なしであり, 判定法と運動検査の結果は概ね一致した. この簡易判定法は有用で, 発達性協調運動障害を診断する指標となると考えた.
著者
桑原 健太郎
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.115-118, 2012 (Released:2014-12-25)
参考文献数
5

わが国の成人頭痛患者数は約3,000万人で片頭痛は840万人 (15歳以上の8.4%) とされる. わが国の小児の大規模調査は少なく, 疫学的実態は不明な点が多い. 2007年に東京都文京区で8,937人 (小学生6,773人, 中学生2,164人), 2009年に東京都荒川区で10,799人 (小学生7,809人, 中学生2,990人) に頭痛疫学調査を施行した. 有病率は片頭痛は文京区で小学生7.9%, 中学生13.2%, 荒川区で小学生7.5%, 中学生17.2%, 緊張型頭痛は文京区で小学生8.4%, 中学生10.4%, 荒川区で小学生3.7%, 中学生7.0%であった. 片頭痛の生活支障度は緊張型頭痛に比べ高く, 年間欠席日数も多かった.
著者
堀口 寿広
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.271-276, 2006-07-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
17
被引用文献数
1

発達障害児 (者) のニーズを明らかにする目的で, 施設利用者の保護者を対象にアンケートを実施した. 利用者の現在の状態は国際生活機能分類 (ICF) によって記述した. ICFに基づき社会参加の到達度によって利用者の群分けをしたところ, 到達度の高い群は若年者に多かった. 到達度の固定した群は通所更生施設や作業所の利用者に多く, 保護者はグループホームでの生活と同時に現在の施設の継続利用を望んでいた. 専門医療に対する要望は回答者全般で高かった. 発達障害児 (者) を支援二するためには, 医療の専門家は利用者側のニーズと自身が必要と判断した支援の内容を比較することに加えて, 医療面での支援を充実させる社会的な取り組みが必要と考えた.
著者
渡辺 誠 牧原 寛之 矢吹 みや子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.413-417, 1988-09-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12

倍体/4倍体モザイク染色体異常を有する5歳5カ月の女児の1症例について, その発達的側面を含めて報告した. 重度精神遅滞, 小頭症, 両眼離開, 耳介低位, 口蓋裂, 小下顎症, 第5指内攣・単一屈曲線, 内反足, 内斜視などの臨床像を認め, 頭部CTでは, 無脳回症を疑わせる脳回異常および側脳室拡大がみられた. また, 小脳虫部欠損も疑われた. 脳波検査で右側頭部に鋭波の出現がみられたが, 臨床的には何ら発作は認められなかった. 遠城寺式乳幼児分析的発達検査法を用いて2歳11カ月より5歳5カ月までの発達を経時的に追跡した. その結果, 発達の全般的な遅れおよび発語面における発達の著しい遅れという特徴をみた. 緩徐にではあるがなお発達を示しつつあり, 今後精神発達を促進するために治療教育的アプローチが必要であると考えられる.
著者
生田目 紀子 江川 潔 須藤 章 石川 丹
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.373-379, 2019 (Released:2020-01-17)
参考文献数
20

【目的】Down症候群患者の発達と患者背景, リハビリテーション, 合併症との関連性を検討することを目的とした. 【方法】1997年1月から2016年12月に初診し当院で療育を行ったDown症候群患者の患者背景, 当院のリハビリテーション, 合併症の有無と, 粗大運動および有意語の獲得時期, IQ/DQについて診療録を元に後方視的に調査し, 関連性について検討した. 【結果】成人期初診例, モザイク症例を除いたDown症候群患者58症例を対象とした. 調査時年齢は9.8±4.8歳, 初診時月齢は22.3±15.5か月であった. 合併症は54例 (93%) で確認でき, 心疾患37例, 眼疾患17例, 甲状腺疾患11例, 難聴9例, 血液疾患5例, 消化器疾患3例, てんかん2例であった. 難聴, てんかん合併群は粗大運動発達, 有意語獲得時期ともに遅い傾向にあり, IQ/DQもより低値であった. 患者背景とその他の合併症は概ね発達に影響を及ぼさなかった. 生後12か月以前に理学療法を開始した群の独歩獲得までの理学療法期間は, 生後24か月以降に開始した群に比し有意に短かった. 【結論】てんかん合併群は発達遅滞がより顕著となる傾向にあり, 治療, 療育の早期介入が重要である. 難聴合併群も同様の傾向が疑われるが他の合併症の影響も否定できず, 今後詳細な検討が必要となる. Down症候群における理学療法早期開始は早期の独歩獲得に有用である.
著者
小松原 孝夫 眞柄 慎一 小林 悠 放上 萌美 皆川 雄介 岡崎 実 遠山 潤 高橋 幸利
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.254-259, 2019 (Released:2019-10-26)
参考文献数
18

Rasmussen脳炎 (Rasmussen encephalitis; RE) は, 主に小児期に発症し, 慢性局在性脳炎をきたす自己免疫性疾患である. 通常, 一側性のてんかん発作を初発症状として発症し, 数年の経過を経て対側大脳半球の進行性萎縮と痙性片麻痺が徐々に顕在化する. 今回てんかん発作が先行せずに発症した非典型REの4歳6か月女児例を経験した. 痙性片麻痺で発症し, 一側大脳半球の進行性萎縮を認め, 診断基準3項目中2項目を満たしたためREと診断した. 補助診断として, 髄液中抗グルタミン酸受容体抗体が強陽性を示し, 髄液granzyme B濃度の有意な上昇を認めた. メチルプレドニゾロンパルス療法, 経静脈的γグロブリン療法が病態の改善に有効であった. 同様の症例はヨーロッパコンセンサス研究でRE with delayed seizures onsetとして紹介されている. 過去の報告と同様に, 本例の経過からは, REでは自己免疫反応が先行し, のちに慢性的な大脳障害を来すことが示唆された. REの特に病初期においては, てんかん発作を伴わない症例が存在することに注意が必要である.
著者
山本 聖子 阿部 孝典
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.61-65, 2002-01-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12

発熱, 幻聴および髄膜刺激症状で発症したヘルペス脳炎の14歳女児例を経験した.頭部MRIで, 右側頭葉内側皮質野を中心に右前頭葉と左側頭葉に広範囲の炎症像を認め, 髄液ヘルペスウイルスHSV-DNA (PCR) が陽性であったため, ヘルペス脳炎と確定診断した.入院後1週間で意識障害は軽快, 髄液HSV-DNA (PCR) は陰性となった.Acyclovirは入院時より開始し, 計23日間 (総量350mg/kg) 投与した.第40病日に退院となったが, 第90病日頃より脱抑制, 集中力低下および異性への関心が増大するなどの言動が出現した.頭部MRIで側頭葉の萎縮に伴う側脳室の拡大が著明となっており, これが精神症状の出現に関与していると考えられた.
著者
大野 耕策
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.81-88, 2016 (Released:2016-03-26)
参考文献数
36

Niemann-Pick病C型 (NPC) は, ライソゾーム脂質輸送蛋白質をコーディングしているヒト染色体18番のNPC1 (患者の95%) またはNPC2遺伝子の変異に伴う常染色体劣性遺伝の神経変性疾患である. この輸送蛋白質の機能不全により, 全身のライソゾーム内に遊離コレステロールが蓄積し, 特に脳神経細胞においてはスフィンゴ脂質が蓄積する. 本邦では, 2015年12月時点で, 34例のNPC患者の生存が確認されているが, 西欧での発症頻度を勘案すると, その約5倍の数の潜在患者がいるものと推計される. NPCは診断法が確立しており, 本疾患に対する治療薬も承認されている. 発症早期から薬物治療を開始することで, 患者の神経症状の進行を遅らせることができるので, 日常診療において少しでもNPCを疑う症例に遭遇した場合は, 速やかに専門施設に紹介することが重要である.
著者
奥村 彰久
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.110-116, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1

急性脳症において脳波は注目がやや集まりにくい検査法であるが, その臨床において脳波が果たし得る役割は小さくない. 熱性けいれん重積と急性脳症との鑑別に脳波は有用で, 急性期に施行した脳波に異常を認めない場合には, 急性脳症である可能性は低い. 近年注目されているbright tree appearanceを呈する急性脳症においても, 脳波では発症後早期から高率に異常を認め, 早期診断に有用である可能性があり, 脳波異常の重症度は予後と相関する. Amplitude-integrated EEGを用いた持続脳波モニタリングでは, しばしばsubclinical seizuresが認められ, 病態への洞察を得ることができる.
著者
市場 尚文
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.258-264, 1989-05-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
26

正常人48名 [左手利き24名 (男12名, 女12名), 右手利き24名 (男12名, 女12名)] を対象として, tachistoscopeを用いて視覚認知における優位視野と手, 目の利き側との関連を検討した.1) 両側同時呈示における平均露出時間と利き手, 性別との関連は認められなかった.2) A値測定時の1aterality indexで左視野優位を示したものは8名であったが, 右手利き, 左手利きおのおの4名で利き手と優位視野との関連は認められなかった.利き目は, 8名中6名が左目利きであった.一方, D値測定時に左視野優位を示した7名は全員左目利きで有意差を示し, 利き目と優位視野との関連が確認された.3) 各種刺激別の優位視野の割合と利き手, 利き目との関連は認められなかった.以上より, 正常人の視覚認知における半球優位性の検討においては, 利き目の考慮が必要と考えられた.
著者
苛原 香 小牧 宏文 本田 涼子 奥村 彰久 白石 一浩 小林 悠 東 慶輝 中田 智彦 大矢 寧 佐々木 征行
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.450-454, 2012 (Released:2014-12-25)
参考文献数
20

【目的】先天性筋無力症候群 (congenital myasthenic syndrome ; CMS) の特徴を明らかにする.  【方法】CMSと診断した5例の臨床経過, 診察所見, 電気生理学的所見などを後方視的に検討した.  【結果】4例が乳児早期に筋力低下と運動発達遅滞, 1例は3歳時に運動不耐で発症した. 幼児期以降に1日単位で変動または数日間持続する筋力低下を全例で認めたのが特徴的で, 日内変動を示したのは1例のみであった. 反復神経刺激では, 遠位の運動神経では減衰を認めない例があった. 塩酸エドロフォニウム試験では, 眼瞼下垂を示した3例全例で改善を認めなかった. 全例で薬物治療による改善を示した.  【結論】CMSはていねいな診察と電気生理検査により診断可能で薬物治療が行える疾患である.