著者
仁保 正和 木村 繁
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.668-677, 1971

いわゆる慢性中耳炎の病態は,中耳腔の炎症が含気蜂巣腔を経,或いは骨質のHavers管,骨髄腔を経てリンパ行性に全側頭骨に及ぶものであつて,病変は含気蜂巣被覆組織のみならず骨組織にも認められる.即ち側頭骨炎である.従つて慢性側頭骨炎を手術する場合にはその完全治癒を望むならば全側頭骨の全病巣を徹底的に除かねばならない.<br>最近我々は興味ある慢性側頭骨炎の1例に,仁保正次によつて創られた側頭骨炎根治手術を施行し治癒せしめることができたので,ここに報告する.<br>症例,24才,女子.生来健康であつた.昭和44年6月3日右耳の激痛が起つたが,当日バレーの試合に出場した.翌日某耳鼻科で鼓膜切開,抗生物質投与を受けたが,激痛は全く去らず,9月末迄とにかく頭が痛く寝たきりであつた.この間発病1ヶ月後にほとんど聾と言われ,4ヶ月後に顎関節拘縮が明らかとなつている.昭和44年12月13日,右難聴,耳鳴,右顎関節運動障害及び鈍痛等を主訴として来院した.初診時右外耳道前壁にゆるやかな骨性膨隆があり,鼓膜後半部の所見は軽度発赤肥厚,弛緩部膨隆,槌骨柄直立であり,レ線学的に慢性側頭骨炎及び右顎関節拘縮が証明された,右殆んど聾,完全半規管機能麻痺も証明された.第8脳神経以外の脳神経に異常は認められなかつた.<br>慢性側頭骨炎の診断の下に側頭骨炎根治手術を施行した.乳突部,鱗部及び錐体部蜂巣の発育は極めて良く,乳突部各蜂巣には何れも黄色粘稠膿汁,暗黒色の肉芽が充満し,含気蜂巣被覆組織は強い浮腫性肥厚を示し,骨は脆弱であつた.迷路周囲の錐体蜂巣開口部の発育も良く同様膿汁の貯溜が認められた.しかし鼓室,耳管,錐体尖蜂巣には淡紅色の肉芽が充満していたが,膿汁は全く認められなかつた.耳小骨は何れも肉芽の中で離断され,肉芽と共に簡単に除かれた.<br>病理組織学的に骨病変の最も強い部は外耳道後壁で破骨細胞が至る所に認められ,軟部組織の病変の最も強い部は頬骨蜂巣及び上鼓室であり,乳突部の他部位は何れも中等度の病変であつた.外耳道前壁上皮下組織に膿瘍形成が認められ,鼓室及び錐体部の肉芽も高度の慢性炎症或いは急性増悪像の混つた所見であつた.<br>以上の手術及び病理組織学的所見より,迷路炎及び頬骨蜂巣,上鼓室,外耳道前壁骨,下鼓室,耳管,中頭蓋窩底等の病変が顎関節周囲組織に波及し,顎関節拘縮に至つたことは明白となつた.術後,耳鳴,頭重感,頸肩部の強い凝り,開口障害は軽快し,6ヶ月後には顎関節運動は正常に復した.本症例の顎関節周囲炎の発生機序は骨質のHavers管,骨髄腔を経る感染経路を知らねば理解できず,更に側頭骨炎の概念により側頭骨の全病巣を除去しなかつたならば,本症例を治癒せしめることはできなかつたであろう.
著者
八木 昌人 川端 五十鈴 佐藤 恒正 鳥山 稔 山下 公一 牧嶋 和見 村井 和夫 原田 勇彦 岡本 牧人
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.869-874, 1996-06-20
参考文献数
6
被引用文献数
18 5

厚生省の高齢者の聴力に関する研究班は65歳以上の高齢者の聴力を調査した. 測定7周波数の平均聴力レベルはA群 (65~69歳) で35.0dB, B群 (70~74歳) で42.1dB, C群 (75~79歳) で46. 1dB, D群 (80~84歳) で52. 1dB, E群 (85歳以上) で55.6dBであった. すべてのグループにおいて聴力の男女差はみられず, オージオグラムの型は大部分の例で高音漸傾型を示した. 平均語音弁別能はA群で75.4%, B群で70%, C群で63.8%, D群で59.7%, E群で52.1%, また, SISI検査で70%以上を示した率はA群で45.2%, B群で49.3%, C群で47.9%, D群で51.6%, E群で59.7%であった.
著者
久我 堯
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.733-742, 1971-04-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
25

研究目的Reger and Lierle (1954) が刺激音及び検査音が1000Hz純音において音圧20db (SL) 及び80db (SL) で60秒間刺激した場合, 刺激音圧20db (SL) のTTSが80db (SL) のそれよりも大きいという事実を発表し, このことに関しては耳小骨筋の反射性収縮がある程度関与しているのではなかろうかといわれてきた. そこで音刺激に対する耳小骨筋反射収縮とTTSとの関係をさらに検討するために本実験を試みた.実験方法2台の特別に工夫をこらされたBékésy type audiometersを使用し, 刺激音及び検査音を1000Hzとして刺激音圧20db~80db (SL) で刺激時間が10秒~60秒にてTTSを次の対象群について測定した.1) 正常者群2) 耳介筋を随意的に収縮しうる群3) 顔面神経麻痺患者群実験結果1) 音圧20db (SL) ~80db (SL) の比較的弱ないし中等度刺激を10秒~60秒間作用させた場合, TTSの大きさは刺激音圧とは逆比例的に減少する傾向を示した.2) Regerのいう一見奇異な現象は, 刺激時間20秒附近より現われ初め, 60秒において著明であった.3) 刺激音圧20db (SL) の場合, 耳介筋収縮時のTTSは, 非収縮時のそれよりも小さい.4) 顔面神経麻痺患者症例においては, 刺激音圧80db (SL) のTTSの大きさは正常耳のそれよりも大きい.5) アブミ骨筋の音響性反射収縮は, 聴覚疲労に対して防禦的作用を呈する.
著者
鈴木 光也
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.15-23, 2011-01-20

superior canal dehiscence syndrome (上半規管裂隙症候群) とは, 上半規管を被っている中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲に骨欠損を生じ, 瘻孔症状, Tullio現象, 難聴などさまざまな臨床症状を来す疾患単位である. 発症の機序はいまだ不明であるが, その頻度は欧米に比較してアジア諸国では少ない. 本症候群の瘻孔症状やTullio現象は上半規管の刺激によって生じるため特徴的な眼球偏倚がみられる. つまり時計回りまたは反時計回りの回旋成分を含んだ垂直性の動きであり, 上半規管が正に刺激されると上方に, 負に刺激されると下方に眼球が偏倚する. 難聴は伝音難聴 (気導—骨導差) も感音難聴も生じうる. その他, 前庭誘発筋電位 (Vestibular evoked myogenic potential) 検査において振幅の増大と反応閾値の低下がみられる. 画像診断には側頭骨HRCT (high resolution CT) が用いられる. 上半規管裂隙症候群の診断ではスライス幅0.5-1.0mmの冠状断CTが有用とされているが, CTのみでは裂隙の診断に限界があり, false positiveに注意しなければならない. false positiveを排除するためには神経耳科学的検査で上半規管瘻孔を示唆する眼球運動の確認が必要である.
著者
長縄 慎二 中島 務
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.10, pp.783-789, 2010-10-20
被引用文献数
3 1

従来, 難聴やめまいのMRI (Magnetic Resonance Imaging) 診断では聴神経腫瘍の有無や奇形, 椎骨脳底動脈循環不全, 脳腫瘍, 多発性硬化症などが診断される程度であり, 内耳のリンパ環境の変化については, 迷路炎によるリンパ腔の形態的変化や著明な内耳出血がない限り検出が困難であった.<br>近年, 3Tの登場とマルチチャンネルコイルによる信号雑音比の向上, 新しいパルスシークエンスソフトの開発による高速化などのMR技術の顕著な進歩が複合して, 内耳リンパ環境の変化を鋭敏に捉えることのできる3D-FLAIR (fluid attenuated inversion recovery) が臨床応用可能となり, 従来は画像的な異常を検出できなかった突発性難聴やハント症候群, ムンプス難聴などの多くの患者で異常所見を検出し得るようになった. さらに3D-FLAIRを鼓室内ガドリニウム造影剤投与と組み合わせることによって, 内リンパ水腫を検出することが可能となった. しかし, 本法はガドリニウム造影剤の適応外使用であり, 侵襲性もあるので, 次のステップとして静脈注射での内リンパ腔描出を目指した. まず血液迷路関門の透過性が亢進していると思われる突発性難聴症例を対象に通常量静脈投与4時間後には迷路外リンパ腔が増強され, 前庭において内リンパ腔の認識が造影欠損として可能であることを示した. メニエール病については国内で認可されている最大量である2倍量のガドリニウム造影剤の静脈投与4時間後の3D-FLAIRで蝸牛, 前庭において内リンパ水腫を描出することに成功した. しかし, 静脈投与4時間後撮影は鼓室内ガドリニウム造影剤投与に比べて造影剤の外リンパ移行が不十分なことも多く, さらに薄い濃度の造影剤を検出する方法を検討している. このようにさまざまな内耳MRI研究は, 感音性難聴とめまいにおける画像を使った客観的医療の導入のきっかけとなることを目指して進化している.
著者
小林 正佳 今西 義宜 石川 雅子 西田 幸平 足立 光朗 大石 真綾 中村 哲 坂井田 寛 間島 雄一
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.108, no.10, pp.986-995, 2005-10-20
被引用文献数
5 9 3

嗅覚障害の治療としてステロイド薬の点鼻療法が一般的に行われているが, 治療が長期にわたる症例も多くその副作用が懸念される. ステロイド薬点鼻療法長期連用に関してその安全性を有用性と比較して検討した報告はない. そこで今回は当科嗅覚味覚外来で同療法を施行した患者を対象にこの比較検討を施行した.<BR>0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム液 (リンデロン液®) の点鼻療法を施行した62例中42例 (68%) に点鼻開始後1~2カ月で血清ACTHまたはコルチゾール値の低下が出現したが, 異常な理学的所見や自覚的症状は認められなかった. 点鼻療法を中止した8例は全例1カ月後にそれらの値が正常範囲内に回復した. 一方, 同療法を継続した34例中4例で開始後2~5カ月で自覚的な顔面腫脹感, 顔面の濃毛化というステロイド薬のminor side effectが出現したが, 中止後1カ月ですべての症状が消失した. 同療法のみを3カ月以上継続した23例の治療効果は, 自覚的嗅覚障害度, 基準嗅力検査上ともに統計学的に有意な改善がみられ, 日本鼻科学会嗅覚検査検討委員会制定の嗅覚改善評価法でも78%例で何らかの改善判定が得られた.<BR>ステロイド薬点鼻療法の長期連用は軽度で可逆的な副作用を生じ得る. 一方, 嗅覚障害の治療効果は高い. よって同療法は有用な嗅覚障害の治療法であり, 臨床的必要性に応じて十分な注意の下に長期連用することは可能と考えられる.
著者
岩崎 幸司 小野 勇 海老原 敏
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.92, no.12, pp.2047-2054, 1989
被引用文献数
12 8

A total of 27 cases of salivary gland adenocarcinomas were studied from clinicopathological view point. Adenocarcinomas of the salivary gland were microscopically subclassified into 3 groups according to Luna's classification : Salivary duct carcinomas histologically resembled the ductal carcinoma of the breast, displayed nuclear atypia and had poorer prognosis than the other subclasses of salivary gland adenocarcinomas. Terminal duct carcinomas lacked in nuclear atypia and displayed a variety of growth patterns, including papillary, cribriform, tubular, and solid. Some terminal duct carcinomas showed prominent mucin-production. Epithelial-myoepithelial carcinomas had clear cytoplasms and exuberant glycogen.<br>In addition to the clinicopathological study, nuclear areas of the tumor cells were measured in each of the 27 salivary gland adenocarcinomas, and mean nuclear area (MMA) and standard deviation (SD) were calculated. The group with more than 50 um2 of MNA had poorer prognosis than the group with 50 um2 or less of MNA, and the group with more than 13 um2 of SD had poorer prognosis than the group with 13 um' or less of SD.<br>Finally, immunohistochemical study was performed against various markers including keratin, epithelial membrane antigen, lactoferrin, S-100 protein, CEA, etc., using the Avidin-biotin-peroxe idase complex method. Lactoferrin was present in most of the salivary duct carcinomas, on the other hand, S-100 protein was detected in all of the five cases of the terminal duct carcinoma investigated. But immunohistochemical study is not especially useful in distinguishing subclasses of salivary gland adenocarcinomas or investigating the origin of tumor cells.
著者
久保田 彰 古川 まどか 藤田 芳史 八木 宏章
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.3, pp.101-109, 2010
被引用文献数
2 3

根治切除可能な進行頭頸部扁平上皮癌に対する化学放射線同時併用療法 (CRT) の毒性および効果に関連する因子を検討した. stage IIIとIVの115例に対する放射線の中央値は66Gy (58-70) で, 化学療法は5FUの1,000mg/m<SUP>2</SUP> を4日間の持続点滴とcisplatinの60mg/m<SUP>2</SUP> の2コース同時併用を行った. grade 3以上の粘膜炎はN0が13%でN1-2は59%と有意差を認めた. 治療の完遂率はN0が87%, N1-2が82%で有意差はなかった. 経過観察期間の中央値は42カ月 (5.8-91) で3年生存率 (OS) は66%, 3年progression free survival率 (PFS) は55%であった. OSで有意差を認めたのはstage IIIの86%とIVの57%, T0-2の78%とT3-4の62%, N0-1の83%とN2の53%, adjuvant chemotherapy (nedaplatin/UFT) ありの77%となしの50%, 舌の33%と中咽頭の77%であった. PFSで有意差を認めたのは, T0-2の72%とT3-4の49%, CRの77%とPRの53%, 舌の22%と下咽頭の58%, 中咽頭の66%, 喉頭の53%であった. 多変量解析ではT3-4, N2, adjuvantなし, 舌がOS, PFSと有意に関連する独立した危険因子であった. 根治切除可能な進行頭頸部扁平上皮癌のCRTは有用である. adjuvant chemotherapyの追加でCRTの治療成績をさらに向上する可能性があるが, 舌癌は不良で他の治療を検討する必要がある.
著者
吉浦 禎二
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.1662-1673, 1970

我耳鼻咽喉科領域における上気道粘膜はその殆んどが線毛上皮細胞によって被覆され, その線毛運動により, 気道内の異物, 細菌等を常に除去せんとする重要な役割を演じている. 一方他の動物においては, 運動・栄養・循環・生殖等, 種によりそれぞれ異った機能を発揮している.<BR>形態学的には近年電子顕微鏡の発達にともないその微細構造は次第に解明されているが機能的観点から線毛の収縮および協調運動の機構などについては未解決の点が多く残されている.<BR>従って私は上気道粘膜の病態生理特に線毛運動機構に関して, 原生動物からる脊椎動物にいたる8種の動物の線毛運動様式と線毛装置の微細構造との関係を比較検討することにより, 形態と機能との間の関連性を追求することを目的として本研究を企図した.<BR>研究方法として, 線毛協調運動様式の観察には, 位相差顕微鏡下に16ミリcinecameraを使用し高速度撮影し, 線毛装置の微細構造はJEM-T5型電子顕微鏡下に観察しそれぞれ比較検討した.<BR>固有線毛の内部構造には殆んど差違は認められず, いわゆる「9+2」patternを示した. しかしながらbasal bodyおよびrootletには形態学的に著しい差違が認められた. すなわちbasal bodyに関してゾウリムシ, ナミウズムシにおいては線毛長軸に対して対称性であり線毛運動が可転性を有することから, このような形態は必要なことと思われた. その他の動物においては非対称性が明らかでeffective strokeの方向に屈曲していた. さらにbasal footが常にrecovery strokeの側に突出しているのが認められた. 一方rootletは様々な方向に走り且つこれを欠くものもあり単なる支持組織に過ぎないとの説を認める. basal footは隣接するbasal bodyとは結合していず, その外にbasal body間を結合する何物も見出し得なかった.<BR>以上のことから個々の線毛のkinetic centerはbasal bodyにあると考察したがmetachronalな協調運動を支配するものあるいはその伝播径路を解明することは困難であった.
著者
石田 正幸 川崎 匡 渡辺 行雄
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp."107-179"-"107-187", 2004-03-20
被引用文献数
1

過去におけるネコの視運動性眼振(OKN)の報告では,水平性と垂直性OKNを定量的に同条件で記録したものは,ほとんどなかった.本研究では,ネコの水平性および垂直性OKNを直立頭位で同条件のもと記録し,定量的パラメーターを用いて解析した.<br>覚醒ネコ5匹を対象とした.直立頭位のネコにランダムドットパターンのステップ状視運動刺激を行い,サーチコイル法を用いて眼球運動を記録した.<br>ネコの水平性と垂直性OKN反応における,直接経路のパラメーターとして,急速緩徐相速度上昇,急速緩徐相速度下降を,間接経路のパラメーターとして,定常状態緩徐相速度,OKAN面積を呈示した.<br>水平性OKNの定常状態緩徐相速度(SPV)は,40~60°/sまで刺激速度の増加に伴って増大し,それ以上では,飽和した.右向きと左向きのOKNは,ほぼ対称だった.垂直性OKNについては,下向きOKNの定常状態緩徐相速度(SPV)は,20°/sまで刺激速度の増加に伴って増大し,それ以上では,飽和した.これは,水平性OKNのSPVよりも低速であった.一方,上向きOKNのSPVは,弱く不規則であった.<br>視運動性後眼振(OKAN)も,右向きと左向きで,ほぼ対称だった.下向きOKANも,認められたが,水平性OKANよりも弱かった.OKANのSPVにおける急速緩徐相速度下降は,水平性と下向きOKNにおいて観察された.一方,上向きOKANは,ほとんど観察されなかった.<br>本研究結果より,ネコの水平性OKNと垂直性OKN反応の差は,直接経路よりも間接経路の差によるところが大きいと思われた.また,ネコとサルのOKN反応を比較すると,直接経路,間接経路ともに,ネコの方が小さく,特に,中心窩視力に関わる直接経路の差が大きいと思われた.
著者
今西 順久 藤井 正人 徳丸 裕 菅家 稔 冨田 俊樹 神崎 仁 大野 芳裕 犬山 征夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.5, pp.602-614, 1998-05-20
被引用文献数
14 5

目的:今後の中咽頭癌に対する治療方針決定の参考にすべく,その予後因子の解析及び治療方針と成績に関する統計学的検討を行った.<br>(対象)1981年7月から1996年6月までの15年間に当科で治療した中咽頭扁平上皮癌91鯛,性別は男性83例,女性8例,年齢分布は29歳から84歳,平均62.7歳であった.病期分類は1期:11例,II期:12例,III期:30例,IV期:38例,進行期(III+IV)が納7500を占めた.原発巣に対する一次治療の内訳は,化学療法併用例とsalvage surgery施行例を含む根治照射群が72例,術前照射と術後照射施行例を含む根治手術群が14例,化学療法単独群が5例であった.NeoadjuvantChemotherapy(NAC)は50例に施行された.<br>(方法)単変量解析として背景因子別に粗累横生存率を箪出し,Coxの比例ハザードモデルによる多変量解析により予後因子の独立性及びハザード比を検討した.また根治照射群と根治手術群の一次治療方針別,さらにNACの有無別及び効果甥に生存率を比較検討した.<br>(結果)全体の5年生存率は55.6%で,単変量解析では(1)T分類(p=0.0075),(2)年齢(p=0.0274),(3)亜部位(p=0.0400)が予後因子と考えられ,多変量解析の結果T分類が独立した予後因子と判定された(p=0.0253).治療方針別生存率の検討に統計学的有意差は認められなかった.再発に対するsalvage surgeryが根治照射群の生存率の向上に寄与しており,特に上壁型は適応が高いと考えられた.NACの葵効率は85.44%と良好であったが,生存率改善に寄与した統計学的証明は得られず,効梁別の比較でも奏効群と非奏効群の生存率に有意差は認められなかった.<br>(結論)今後の治療成績向上のためには,予後不良因子である(1)T4,(2)70歳以上,(3)前壁型に短する治療を強化する必要があると同特に,積極的かつ適切なsalVage surgeryが不可欠である.放射線療法の占める比重は大きいがその適応と限界を正確に見極めるべきである.
著者
姜 学鈞 梅村 和夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.96, no.11, pp.1926-1932,2015, 1993
被引用文献数
2

光増感反応を利用して, ラットの前下小脳動脈 (AICA) 血栓形成による長期観察可能な内耳虚血モデルを作成し, 内耳循環障害が内耳の機能と形態に及ぼす影響を検討した. AICAに血栓形成後の蝸牛血流値は30.8±3.4% (平均値±SE) で, AICA閉塞時及び24時間後にABRに変化があったのは96%であった. そのうち平衡障害症状 (自発眼振または姿勢異常) を伴ったのは77%であった. 短時間内に血流が再開しない場合には, 内耳の広範な細胞の変性と消失が認められた. 平衡障害と前庭・三半規管の組織障害とは相関しなかったが, かなりの機能代償があるものと考えられた. このモデルは内耳虚血の機能と形態学的な研究に有用であると思われた.
著者
川城 信子 土橋 信明 荒木 昭夫 古賀 慶次郎 河野 寿夫 伊藤 裕司
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.97, no.6, pp.1056-1061, 1994
被引用文献数
14 1

NICU退院時のABRが正常であり,その後難聴と判明した症例10症例について検討した.退院時のABRが正常であったので難聴に気付いた時期が遅れた.難聴は生後10カ月から3歳3カ月で判明した.難聴の程度は90dB以上の高度難聴が6例,低音部の聴力が残存し,高音漸傾型の高度難聴が3例,60dBの高音漸傾型で中等度難聴が1例であった.<br>全例が周産期に重症の呼吸婚環障害があり,全例が挿管し人工呼吸の呼吸管理を行っていた.原因疾患としてPPHNの状態が10例中8例に認められた.これはPPHN25例中の8例,32%に難聴が発生したことになる.人工呼吸管理症例166例中12例,7.2%に難聴の発生があった.ECMOを使用した症例が6例あり,ECMO使用例8例の75%に難聴が発生したことになる.難聴の原因として人工呼吸管理方法に問題があるのかもしれない.また,アミノグリコシド系の薬剤,フロセマイド利尿剤も全例に使用されており,これらの薬剤の使用も否定できない.ABRが正常であっても安心してはならず,重症の呼吸困難症例では聴力についての観察が必要であり,6カ月および1歳前後にはABRによる聴力のスクリーニングが必要であることが判明した.