著者
井口 福一郎 谷口 善知 草野 純子 髙橋 由佳 村井 紀彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.8, pp.1108-1114, 2014-08-20 (Released:2014-10-07)
参考文献数
14
被引用文献数
5

唾液腺導管癌は予後不良な唾液腺悪性腫瘍であり, 遠隔転移再発後の有効な治療法はこれまで知られていなかった. HER2 過剰発現する本腫瘍へトラスツズマブを含む分子標的治療が著効した症例を経験したので報告する. 症例は69歳男性, 原発巣と所属リンパ節への手術, 術後照射の初回治療から半年後に肝, 椎骨への遠隔転移を来した. パクリタキセルとトラスツズマブによる化学療法を行ったところ, 転移巣は肝, 椎骨ともに著明に縮小した. パクリタキセルによる四肢の末梢神経障害が認められた後はトラスツズマブのみの投与を続けているが, 心障害は生じていない. 遠隔転移から3年経過するが再増大は認められず, 在宅で日常生活を送っている.
著者
中村 英樹
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.1605-1627, 1969-09-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
58

過去3年間における頭部外傷例について考察, 本稿では耳科学的並びに聴力検査の結果を報告した.1) 自覚症状, 耳鏡所見, レ線所見, 性及び年令, 受傷原因, 受傷部位及び受傷程度 (荒木氏の分類) につき統計的に検討した.2) 外傷による聴力障害の性質を上記の点につき総体的に検討した.3) 110例に対し自記オージオメトリーを施行し, 2, 3の知見を得た.結論としての要旨は次の如くである.1) 純音聴力検査では対象例 (160例) 中136例85.0%に難聴をみた. 伝音性及び感音性障害の両者がみられた.2) 聴力損失の程度及び性質は受傷部位とは関係なく, 受傷程度とは関係がみられた.3) 自記オージオメトリーではJergerの分類基準に従つて5型に分類, 対象例110例中, I型が52.7%, II型31.4%, III, IV型が15.9%であり, V型はみられなかつた.4) 自記オージオメトリーで, III, IV型の出現は受傷部位とは関係なく, 受傷程度とは関係がみとめられた.5) 頭部外傷による聴力障害の特長は, その性質, 程度に多様性を示し, 他の原因による難聴のごとく一定の傾向がみられなかつた.
著者
大橋 敬司 佐田 憲映
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.81-86, 2016-02-20 (Released:2016-03-10)
参考文献数
31
被引用文献数
1

ANCA 関連血管炎は全身の中小型血管の炎症と血中への ANCA の出現を特徴とする希少な難治性疾患である. 以前は予後不良とされていたが治療法の発展により, 予後は改善されてきている. 欧米では再燃や副作用の問題解決のため盛んに臨床研究が行われ, それをもとに診療ガイドラインが策定されている. しかし, わが国における ANCA 関連血管炎は, 高齢発症, 顕微鏡的多発血管炎の比率が高いといった特徴を持ち, 多発血管炎性肉芽腫症が大半を占める欧米とは疫学的, 病態的に大きく異なるため, わが国独自の ANCA 関連血管炎診療ガイドラインが長年求められてきた. そして, 日本人患者における治療法確立のため厚生労働省研究班を中心に行われた前向き臨床研究や欧米のガイドライン, 関連学会からの意見をもとに ANCA 関連血管炎の診療ガイドラインが2011年策定された. その後, Chapel Hill 分類の改定に伴い名称変更された疾患名を反映させ, 新たな知見を盛り込んだ改訂版診療ガイドラインが2014年に発行されている. 今回は, この診療ガイドラインをもとに ANCA 関連血管炎について概説し, 新たに開発されている治療法や近年提唱された ANCA 関連血管炎性中耳炎などについても触れたい.
著者
高橋 里沙 大淵 豊明 寳地 信介 竹内 頌子 大久保 淳一 池嵜 祥司 鈴木 秀明
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.7, pp.789-792, 2013-07-20 (Released:2013-09-14)
参考文献数
7
被引用文献数
1 5

閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSAS) において, 鼻腔抵抗はその病態と密接に関与している. 今回われわれはOSASに対する鼻中隔矯正術および粘膜下下鼻甲介骨切除術の効果について検討した.対象は, 鼻中隔彎曲症と肥厚性鼻炎による鼻閉を伴い, 内視鏡下鼻中隔矯正術と両側粘膜下下鼻甲介骨切除術を施行したOSAS患者9例 (男性8例, 女性1例; 平均年齢53.2歳) である. 術前後に終夜睡眠ポリグラフ検査と鼻腔通気度検査を行い, (1)無呼吸・低呼吸指数 (AHI), (2)最長無呼吸時間, (3)平均無呼吸時間, (4)最低血中酸素飽和度, (5)平均血中酸素飽和度, (6)血中酸素飽和度低下指数, (7)覚醒反応指数, (8)睡眠時間に対するいびき時間の割合の8つの無呼吸指標, および(9)鼻腔通気度について比較検討した. その結果, 術前に比して術後に, AHIの有意な低下 (27.6±5.3/時 vs. 20.7±5.5/時; p=0.033), 平均血中酸素飽和度の有意な上昇 (95.1±0.7% vs. 96.0±0.7%; p=0.023), および覚醒反応指数の有意な低下 (30.5±3.3/時 vs. 21.2±5.3/時; p=0.028) が認められた. また, 鼻腔通気度V (P100) は吸気呼気ともに有意に改善した (吸気: 474.4±49.0cm3/s vs. 842.7±50.2cm3/s; p=0.002, 呼気: 467.3±57.3cm3/s vs. 866.0±80.6cm3/s; p=0.004). 他の項目については変化がなく, また術前後のbody mass indexにも変化はみられなかった. 以上より, 鼻中隔矯正術と両側粘膜下下鼻甲介骨切除術は, 鼻閉を伴うOSAS患者の睡眠時呼吸動態を改善させることが示された. このような鼻内手術の効果はOSASの治療に積極的に応用されるべきであると考えられた.
著者
浜井 行夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.84-89, 1994-01-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
21
被引用文献数
1

The growth process of tracheal epithelia was observed by primary cell culture method using BrdU. Cells stained with BrdU, that showed mitotic activity, were nonciliary cells and BrdU was not found in ciliated (differentiated) cells. The dividing cells and the mature cells could be distinguished by BrdU. Thus, it was demonstrated that BrdU could be used as an index for investigating the growth process of basal cells. .Tissue culture of the tracheal rings after mucosal injury was performed. On the third day post -injury, the cells stained with BrdU and the migrating epithelia were observed in the border region between the non-injury and injury site. On the seventh day post-injury, healing was completed. The tissue culture method using BrdU is useful for observing the healing process of the tracheal mucous membrane.
著者
古屋 英彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.182-200, 1973-02-20 (Released:2008-12-16)
参考文献数
45
被引用文献数
1

最近の複雑多岐にわたる社会機構の中で生活する者にとつて,種々雑多な身体的および精神的ストレスにさらされることを余儀なくされているのが現状である.そのため生体の生理的バランスが維持されるのに重要な自律神経も絶えず緊張状態に置かれるため,それに伴う疾患の一つである眩暈症も増加の傾向にある,このために「めまい」は近代病とみなされているが,最近では種々の平衡神経系の機能検査をしても診断のはつきりしない眩暈や,あらゆる薬物療法にも抵抗を示す眩暈や,薬物の効果がある程度の範囲でとどまつてしまう眩量が増加している.一方,堀口教室における系統的研究では鼻咽腔炎によつて自律神経機能のアンバランスを来すことが解明され,眩暈が鼻咽腔炎に伴つて増強し,鼻咽腔炎の治療に伴つて眩暈が消失する事実も認められている.本論文では,外来を訪れた「めまい」患者を対象とし,これらについて詳細な前庭機能検査と鼻咽腔検査を施行し,その成績より眩暈患者の分類と鼻咽腔炎の有無との関連,鼻咽腔刺激による自律神経反応と前庭症状との関連,鼻咽腔治療に伴う前庭反応と自律神経反応との平行性を調べ,鼻咽腔炎と眩暈症との関連性を検討した結果,両者の間には密接な関係があることを認め次の結論を得た.結論1) 鼻咽腔炎の存在が,眩暈を誘発し増悪させる.2) 従来診断不明とされていた眩暈症には,鼻咽腔炎によるものが少からず存在する.3) 鼻咽腔刺激検査は眩暈症の予後判定に役立つ.4) 末梢迷路疾患の初期の段階では自律神経緊張が亢進し,次いで交感神経低反応型に移行し,眩暈消失の段階では自律神経反応は正常型になる.
著者
柏村 正明 福田 諭 間口 四郎 樋口 栄作 犬山 征夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.98, no.2, pp.254-259, 1995-02-20
被引用文献数
6 1

声門下喉頭癌27例について臨床的検討を行った. 5年生存率が44%と他の部位の喉頭癌に比べ不良であった. その原因として, 放射線治療後の局所再発率の高さが第一に考えられた. さらにsalvage operationの結果がT2で低く, 声門下喉頭癌の治療は他の喉頭癌より放射線治療の適応を厳しくし, 初めから手術を念頭においた治療計画が必要と思われた. またT1でも照射終了後の化学療法を考慮すべきと考えられた. また進行例では転移が多く初回治療後の化学療法の施行や, 喉頭全摘時の頸部郭清の施行により予後の改善に努めるべきと思われた. 縦隔への転移例は少なかったが実際にはもう少し多いと思われ, 慎重な経過観察が必要と思われた.
著者
綿貫 幸三 高坂 知節 草刈 潤 古和 田勲 西条 茂 小林 俊光 新川 秀一 飯野 ゆき子 六郷 正暁 柴原 義博 富岡 幸子 佐久間 眞弓 粟田口 敏一 三好 彰 荒川 栄一 橋本 省 大山 健二 原 晃 沖津 卓二 郭安 雄
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.85, no.7, pp.766-776, 1982
被引用文献数
6

The laryngeal cysts were treated in 14 cases in our in-patient clinic during the last 9 years and 8 months between the April 1972 and the December 1981. The laryngeal cysts at the vocal cord were excluded in this study. The clinical, histological and some other findings of these cysts were briefly described. After some considerations regarding the origin and the developing mechanism of the cysts, a new classification of the laryngeal cysts was proposed as follows. <br>Laryngeal cysts. <br>1) Retention cysts: The cysts due to stenosis of the glands, their ducts, lymph vessels or other similar structures. <br>2) Epidermoid or dermoid cysts: The cysts due to stray germs, implantation or the result of down growth with separation and eventual isolation of a fragment of epidermis or dermis. They may also due to dysontogenesis of a foetal epithelial tissue. Dermoid cysts are extremely rare. <br>3) Cysts of a special origin: Branchiogenic cysts, thyroglossal duct cysts, and cysts of laryngocele origin.
著者
吉野 邦俊
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.8, pp.986-987, 2013-08-20 (Released:2013-10-09)
参考文献数
3
被引用文献数
1
著者
仁保 正和
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.84, no.7, pp.703-708, 1981
被引用文献数
3

Maxillary sinus irrigation with a Schmidt's maxillary antrum trocar was applied to 47 patients with chronic sinusitis, including 2 with dental sinusitis, between the ages of 13 and 74 years; forty-six received the treatment 10 to 342 times, averaging 55 times in past 4 years; one received it 166 times in past 9 years.<br>Two patients with dental lesions were cured, and the others were not cured but their symptoms and findings were greatly improved.<br>It was observed that nasal obstruction due to sinusitis was chiefly related to the degree of stricture of the orifice of the maxillary antrum rather than to the changes of the nasal cavity. Frequent sinus irrigation may cure this stricture. The changes in the nasal cavity were improved, and rhinorrhea was decreased by this procedure. This treatment was superior to the other conservative treatments for chronic sinusitis.
著者
五島 史行 堤 知子 新井 基洋 小川 郁
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.9, pp.742-750, 2010-09-20
被引用文献数
2 9

めまい患者の身体症状とストレスに着目し調べることを目的とした. めまいの治療のため集団リハビリテーション治療を目的として入院した患者145例を対象とした. 今回作成した問診票を用いて調査した. 質問項目の内容は現在有している身体症状としてめまい, 頭痛, 不眠, 下痢, 便秘, 腹痛, 胸痛, 心臓がドキドキする, 息が切れやすい, 疲れやすいの項目, さらに現在感じているストレスの内容として仕事 (学業), 家庭内の問題, 社会に対して, 金銭面, 自分の健康, 生活環境, 近所づきあいの項目について数値評価尺度 (Numerical Rating Scale: NRS) によって回答するものである. また不安, 抑うつの程度, めまいによる障害度をHADS (hospital anxiety and depression scale), DHI (dizziness handicap inventory) にて評価を行った. 身体症状として疲れやすい, 不眠, 頭痛を多く認めた. これらの症状は抑うつや不安にしばしば認められる症状である. NRSにて数値化しためまいと頭痛症状の間には相関関係が認められた (R=0.48, P<0.0001). 今回の結果, めまい患者はめまい以外にもさまざまな身体愁訴を有していることが明らかになった. めまい患者の治療においてはめまい以外の身体症状に焦点をあて, 適切に症状聴取を行い対応していくことが必要である.
著者
小松原 幸子 花牟礼 豊 須田 佳人 春田 厚 笠野 藤彦 鹿島 直子
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.111, no.5, pp.412-415, 2008-05-20
被引用文献数
2 10

耳鼻咽喉科領域では, 脂肪注入術は, 主に声門閉鎖不全に対し行われる方法である. われわれは, 喉頭摘出後にボイスプロステーシス (PROVOX2<SUP>®</SUP>) を留置したがシャント孔が拡大し, 保存的には縮小困難であった症例に遭遇した. この症例に対し, 声帯内脂肪注入術を応用して, シャント孔周囲に脂肪を注入した. その結果, シャント孔の十分な縮小が得られた. これにより, ボイスプロステーシスを用いた発声が継続可能となった.