著者
Akihiko Nakamura Tadao Asai Kazuhiro Yoshida Kohtaro Baba Kimihiro Nakae
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
Nippon Jibiinkoka Gakkai Kaiho (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.215-224, 2002-03-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
40
被引用文献数
12 10

アレルギー性鼻炎に関する全国疫学調査を行った. 全国の耳鼻咽喉科医師9471名およびその家族を対象とし, 1998年6月にアレルギー性鼻炎に関する質問用紙を郵送し, 同年9月末日までに回収した. 回収率は42.8%で, 17301名が対象になった. 年齢構成を日本人人口ものと比較すると調査対象者は20歳代がやや多く, 60歳以上特に男性に多い以外ほとんど差異はみられなかった.スギ花粉症の有症率は, 人口分布調整を行ったところ17.3%であった. 全体に日本海側, 瀬戸内地方に比べ太平洋側, 中部地方に高く, 高緯度あるいは低緯度地域で有症率は低かった. 年齢層別有症率をみると, 10歳代で急激に増加し60歳代になると低下した. スギ花粉飛散が多い地域で有症率が高く, 住環境に関しては郊外, 住宅地, 都会の順で高かった.スギ以外の花粉症についても同様に検討した. 年齢層別有症率および住環境と有症率との関係は, スギ花粉症とほぼ同様の結果で, 人口分布調整後の有症率は11.7%であった.通年性アレルギー性鼻炎の人口分布調整後の有症率は19.8%で, スギ花粉症に比べやや高率であった. 年齢層別有症率は, 5~9歳で急激な上昇がみられ, スギ花粉より若年者での発症が多く, 60歳以降での有症率の低下はみられなかった. スギ花粉症と異なり, 地域や住環境による有症率の差異はみられなかった.今回の調査は全国に住居する耳鼻咽喉科医師およびその家族を対象としており, スギ花粉症はもとより通年性アレルギー性鼻炎の地域による有症率の差異を知ることができた. また回収率も他のアンケート調査より優れており, 回答内容の信用度も高いため, 日本全国のスギを主としたアレルギー性鼻炎に関する疫学的調査として有用なものと思われた.
著者
Tadao Enomoto Takema Sakoda Yoshihiro Dake Akira Shibano Yuko Saitoh Masanori Takahashi Hideyo Sogo Yoshiaki Fujiki
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
Nippon Jibiinkoka Gakkai Kaiho (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.102, no.12, pp.1311-1317, 1999-12-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

和歌山県下のスギ花粉症の現状を把握するため, 1321例の自然集団を対象として, スギ特異的IgE抗体をルミワードイムノアッセイシステムで測定した. その結果, クラス2以上の陽性者は30.9%であった. 過去の同様の調査, 13.9% (1985年), 18.3% (1990年) より明らかに増加していた. 性別では女性よりも男性に多かった. 年齢では20歳代に陽性者が最も多く, 加齢と共にその陽性率は減少した.スギ特異IgE抗体陽性率に及ぼす各種の環境要因について検討したが, 過去の調査では検討学的に有意差のでた項目で有意差はみられず, 陽性者増加の要因を明らかにすることはできなかった.
著者
久保 寿夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.8, pp.1097-1104, 2016-08-20 (Released:2016-09-08)
参考文献数
14

G-CSF 適正使用ガイドライン (2013年版) は, 医師, 看護師, 薬剤師などの医療スタッフが, 化学療法や放射線療法による好中球減少症に対して顆粒球コロニー刺激因子 (granulocyte-colony stimulating factor: G-CSF) を使用する際の参考となり, その適切な使用により患者に生存期間の延長や, 生活の質 (Quality of Life: QOL) の向上がもたらされることを目指して作成された. G-CSF は発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia: FN) の予防および治療において用いられ, その投与法は「一次予防的投与」, 「二次予防的投与」, 「治療的投与」の3つに大別される. 「一次予防的投与」とは, 抗がん薬治療の1コース目から FN を予防する目的で, 好中球減少や発熱を確認することなく G-CSF を投与することを指す. ガイドラインでは, FN の発症率が20%を超える高リスクのレジメンにおいて一次予防的投与が推奨され (推奨グレード A), FN 発症率が10~20%のレジメンでは, FN 発症または重症化のリスクが高いと考えられる因子を持つ患者においてのみ考慮すべきとしている (推奨グレードB). 「二次予防的投与」は前コースで FN を生じた場合, 次コースにおいて予防的に G-CSF を投与することを指す. リンパ腫や胚細胞腫瘍など化学療法により「治癒」を含む十分な効果が期待でき, 治療強度を下げない方がいいと考えられる疾患においては, 二次予防的投与を考慮すべき (推奨グレード B) であるが, 緩和的化学療法の場合は次コースの投与量減量もしくはスケジュール変更を検討することが原則である. 「治療的投与」は好中球減少症を生じた時に G-CSF を投与することであり, 無熱性好中球減少症に対しては, 有効性を示すデータが不十分であり推奨されない. FN 患者における治療的 G-CSF 投与についても, ルーチンに G-CSF の治療的投与を行うのではなく, 高リスクの場合に G-CSF の治療的投与を検討するべきとしている (推奨グレード C1). 2014年9月にペグフィルグラスチムが承認されたこともあり, G-CSF 適正使用ガイドライン (2013年版 Ver.2) が発表された. 本稿では Ves.2 の内容をもとにペグフィルグラスチム, バイオシミラーについても併せて概説する.
著者
小島 博己 青木 和博 宮崎 日出海 森山 寛
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.339-346, 1999-03-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
24
被引用文献数
6 5

耳かきによる外傷性耳小骨離断の診断で耳小骨形成術を施行した10例10耳についてその病態, 手術成績について検討した. 手術所見ではキヌタ・アブミ関節の離断が5例にみられたが, キヌタ・アブミ関節の単独の離断は少なかった. 9例にアブミ骨の異常がみられ, うち6例にアブミ骨底板の陥入がみられた. 外リンパ瘻の合併は5例にみられた. めまいを呈した6例中5例に外リンパ瘻が認められたが, 耳鳴を伴った症例は必ずしも外リンパ瘻を合併していなかった. 術前検査ではティンパノグラムだけでは耳小骨離断の診断は困難であると考えられたが, アブミ骨筋反射は, 診断の参考になると考えられた. 手術はアブミ骨底板に異常のない症例ではアブミ骨頭, 底板を利用した耳小骨再建を行い, アブミ骨陥入例ではアブミ骨の位置を整復, 外リンパ瘻を閉鎖し, 必要に応じて耳小骨再建を行った. 手術成績は良好で, 聴力の改善率は90%であった.
著者
立木 圭吾 竹中 洋 後藤 違也 西山 康之 水越 治 西村 武重
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.37-45, 1989
被引用文献数
6

We experienced 102 cases of facial bone fracture during 16 months of 1986 to 1987. These cases were analyzed statistically concerning causes, age and locations of the fracture.<br>These fractures have increased rapidly in number. The causes were classified into three types; occurrence during sport, traffic accident and fighting, which were equal in number. There were 85% males and 15% females in the patient cohort, which were concentrated at the ages of 10-20 years. A large part of the fractures was mostly consisted of maxillo-facial components (95%). These trends were similar to the previous report of our clinic (1972-1979). On the other hand, not only severe dysfunctioning cases but also complicated cases increased in number, so that the several clinical aspects were reported.<br>Case 1 : 17-year-old male presented with retraction of left cheek caused by Rugby foot ball, whose maler bone was dislocated backward and anticlockwise, was treated with oroantral reduction and with the intermaxillary packing of silicon blocks.<br>Case 2 : 10-year-old boy with complaint of double vision occured by head blow to right eye. Pure type blowout fracture of the orbital floor was presented, which was reconstructed by silicon plate from the incision of the lower eyelid.<br>Case 3 : 59-year-old male presented with 6 month history of diplopia and retraction of left eye ball, had been under the conservative care by an eye doctor. X-ray examination showed the intraorbital soft tissue was blown out into the ethomoidal sinus.However the transethomoidal reduction was performed, the result was not satisfactory.<br>Case 4 : 17-year-old female visited emergently with facial destruction by traffic accident. Bilateral mid-third fracture of the face and fractures of the mandibullar processes were found. In order to pull out the maxilla, silicon blocks were packed into the maxillary sinus and intermaxillary fixation with bite plate was tried.However, the maxilla was receded backward and "dish face" deformity was appeared.
著者
五島 史行 堤 知子 新井 基洋 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.9, pp.742-750, 2010 (Released:2011-05-28)
参考文献数
17
被引用文献数
7 8

めまい患者の身体症状とストレスに着目し調べることを目的とした. めまいの治療のため集団リハビリテーション治療を目的として入院した患者145例を対象とした. 今回作成した問診票を用いて調査した. 質問項目の内容は現在有している身体症状としてめまい, 頭痛, 不眠, 下痢, 便秘, 腹痛, 胸痛, 心臓がドキドキする, 息が切れやすい, 疲れやすいの項目, さらに現在感じているストレスの内容として仕事 (学業), 家庭内の問題, 社会に対して, 金銭面, 自分の健康, 生活環境, 近所づきあいの項目について数値評価尺度 (Numerical Rating Scale: NRS) によって回答するものである. また不安, 抑うつの程度, めまいによる障害度をHADS (hospital anxiety and depression scale), DHI (dizziness handicap inventory) にて評価を行った. 身体症状として疲れやすい, 不眠, 頭痛を多く認めた. これらの症状は抑うつや不安にしばしば認められる症状である. NRSにて数値化しためまいと頭痛症状の間には相関関係が認められた (R=0.48, P<0.0001). 今回の結果, めまい患者はめまい以外にもさまざまな身体愁訴を有していることが明らかになった. めまい患者の治療においてはめまい以外の身体症状に焦点をあて, 適切に症状聴取を行い対応していくことが必要である.
著者
高倉 亨
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.75, no.7, pp.749-763, 1972

1)研究屋的と実験方法平衡機能に対して,視器系,前庭迷路系および深部受容器系がどのような相関性をもつているかを検討するために,家兎の鼓室内に4%キシロカインを注入して迷路を一過性に麻酔したり,深層項筋群を1%プロカインで麻酔した時の視運動眼振触発態度の変化を主として眼振数の変動をもとに,迷路破壊術も加えて検索した.<br>2)結果および結論<br>(i)一側迷路麻酔では前庭性眼振の強さにより種々な反応態度を示し,常に前庭性impulseの影響を受けた.<br>(ii)両側迷路麻酔では前庭性筋緊張が低下して,四肢,頸筋の筋緊張が一過牲に低下し特異なを示し,視運動眼振は抑制され,特に網膜型眼振において著明であつた.<br>(iii)深層項筋群のprocainizationによる視運動眼振の解発態度は両側お路麻酔時に比して軽度であるが抑制が起り,迷路麻酔時と同様に網膜型眼振において著明であつた.<br>(iv)両側迷路を完全破壊すると,四肢およびが頸筋の緊張が低下するが時間の経過とともに次第に回復し,やがて過緊張が起り視運動眼振の解発も改善された.
著者
南 和彦 長谷川 直子 福岡 修 宮島 千枝 角田 玲子 深谷 卓
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.112, no.7, pp.550-553, 2009 (Released:2010-10-26)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

頭頸部進行癌で皮膚浸潤を呈した症例では出血, 疼痛, 感染などを伴い, 著しくQOLを損なうが, 有効な治療手段がないのが現状である. 特に腫瘍の皮膚浸潤による自壊, 出血例では止血に難渋することが多く, 輸血を必要とすることもある.今回, われわれは皮膚科領域で使用されてきたMohs軟膏を使用した処置を頭頸部癌皮膚浸潤2症例に適応した. この治療法は病変を化学的に固定することで, 腫瘍出血, 疼痛, 感染, 滲出液を制御するとされる. 実際, いずれの症例においても出血と疼痛を制御し, QOLの改善に有効であった.Mohs軟膏による処置は頭頸部癌の皮膚浸潤および皮膚転移を伴う症例における局所合併症の制御目的に非常に有用な治療法と考えられる. 頭頸部癌進行例のQOLの改善目的にMohs軟膏を使用して局所合併症を制御し得た2症例を経験したので若干の考察とともに報告する.
著者
丹生 健一
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.7-14, 2011-01-20
参考文献数
6
被引用文献数
3 4

日本頭頸部外科学会が母体となり, 平成21年4月より耳鼻咽喉科専門医のサブスペシャルティーとして頭頸部がん専門医制度が発足した. 本制度の基本理念は, 耳鼻咽喉科・頭頸部外科に関する熟練した技能と高度の専門知識とともに, がん治療の共通基盤となる基本的知識と技術, 医療倫理を併せ持ち, 頭頸部がんの集学的治療を実践する能力を養成することにある. 頭頸部領域はQOLに大きく関わっており, 外科的治療, 薬物療法, 放射線治療などを組み合わせた治療が行われることが多い. 頭頸部がん専門医には, そのチームリーダーとしての役割が求められる. 診断から終末期まで, がん治療の全相における幅広い経験や知識, 患者とのコミュニケーション能力, そしてコーディネーターとしての調整能力が必要である. 一方, 外科的治療は依然として頭頸部がん治療の大きな柱であり, その治療を自ら担当する頭頸部がん専門医にとっては最も重要な能力である. 専門医の認定にあたっては, 頭頸部がんの入院治療100例以上, 頭頸部がんの手術経験50件以上 (術者として) に加え, 外科的治療の基本である頸部郭清術を特に重視し, 頸部郭清術を助手として20側以上・術者として20側以上と, 必要経験症例数を決定した. さらに, これらの技術を集中的に学べるように, 5年間の頭頸部がん診療研修中, 頭頸部がんの年間新患数100例以上の指定研修施設で2年間の研修を行うことを義務付けている. 本原稿執筆時点で, 257名が暫定指導医として, 127施設が指定研修施設として認定された. 昨年9月には第1回頭頸部がん専門医認定試験が行われ, 165名が受験した. 本制度の発足が, 頭頸部外科を目指す耳鼻咽喉科医の増加, 大学・施設横断的な頭頸部外科医育成システムの構築, 頭頸部癌診療施設の集約化など, 頭頸部がん診療の今後の発展につながることを大いに期待している.
著者
河野 淳 博久 詠司 舩坂 宗太郎
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.884-894, 1996-06-20
参考文献数
27
被引用文献数
3 2

今論文では, 聾仔猫の蝸牛神経核細胞の成熟が, 慢性電気刺激によりいかなる影響を受けるか調べた. 対象は生後10日目聾の仔猫4匹で, 電極挿入後1000時間以上慢性電気刺激を行い, 実験終了時2-deoxyglucose (以下2DG) を静注45分刺激後, 蝸牛神経核の連続切片を作製し, 蝸牛神経核細胞体の面積を測定した. その結果刺激側の2DGの取り込みが見られた部位の神経細胞体面積は2DGの取り込みが見られない部位に比べ, 前腹側核, 後腹側核, 背側核のいずれにおいても大きく, 多くに有意差が認められた. つまり蝸牛内の慢性電気刺激により, 蝸牛神経核内の特定の部位が機能的活動性が増し, その部位に限っては慢性電気刺激が成熟期の神経細胞の成熟に関与していることが示唆された.
著者
樋口 博行
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.1119-1128, 1971

(目的) ウサギの外眼筋の自己受容器に由来するインパルスを中脳被蓋部から誘導し, 視運動眼振解発機序解明の一端に資するため本実験を行った.<BR>(実験方法) 有色のウサギを用いて, 左側上丘経由で中脳被蓋部に色素充填微小電極を定位的に刺入, 単一神経活動を誘導した.<BR>ウサギの同側6外眼筋を剥離し, 刺激として20g~30gの張力を滑車を介してそれぞれの筋に与えた. 誘導部位は実験後誘導電極を通じて生体染色を行い組織学的に同定した.<BR>(結果) 562ユニットの外眼筋伸展に対する中脳被蓋部から誘導した単一神経活動中419ユニット (74%) は無反応で, 反応を認めたのは39ユニット (7%) に過ぎず, 104ユニット (19%) ではいずれとも断定できなかった. 反応を示した39ユニットのほとんどは, 傍水道中心灰白質外側縁から誘導された. 反応を示したユニットの各外眼筋伸展刺激に対する反応様式を個々に分類し, (i) 放電数増加型, (ii) 放電数減少型, (iii) 長潜時放電数増加型の3型とした. 反応を示した39ユニット中, 23ユニットは総ての外眼筋の伸展刺激に反応を示し, しかもそれぞれのユニットはいずれの外眼筋伸展刺激に対する反応も同一の反応型を示した. 10ユニットでは全眼筋の伸展刺激を行い, そのうち少くとも一筋に対する反応が確認されているが, 他の筋に対してはそれと異なる型の反応が認められているか, あるいはそれが疑われるものであった. 6ユニットでは6外眼筋中の一部の筋に対する試行しか観察できなかったが, 試みた刺激に対しては確実に反応していた.<BR>以上の結果から, 本実験で観察した外眼筋伸展刺激に反応を示すユニットは, いずれも外眼筋の自己受容器の刺激に対して反応したものと考えられたが, 自己受容器の求心性一次ネウロンから誘導されたものではないと考えられた.
著者
伊藤 健
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.7, pp.929-936, 2016-07-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
11

音響生理学的プロセスを解説した上で, 聴覚検査において観察している現象について述べた. 対象としては専門医資格取得前後の耳鼻咽喉科医師を想定した. 中耳は空気中から外リンパに音波を伝えるためのインピーダンス整合器の働きを持つ. 内耳 (蝸牛) は音響受容器であるとともに内部に増幅機能 (amplifier) を持ち, さらに周波数分解をも行う. 検査としては基本となるもののみ (インピーダンス・オージオメトリ, 耳音響放射, 脳電図, 音叉による検査, 純音聴力検査, 聴性定常反応) に限った. 実際の検査結果を評価するに当たっては, どのような音響生理学的現象を観察しているのかを常に考えるようにすると学習効果が高まる.
著者
牧島 和見
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.75, no.11, pp.1225-1228_2, 1972-11-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
12
被引用文献数
1

1. 目的: 一酸化炭素中毒による耳神経学的症状と全身症状との関連, およびその背景となる形態学的変化については, 未だ充分に把握されていない. 急性一酸化炭素中毒屍剖検例を中心として, これらの疑問点の解明を試みた.2. 方法: 54才, 男性の急性一酸化炭素中毒患者の死後, その内耳および中枢伝導路を病理組織学的に検索し, 本症例と同時被災の症例群の諸症状との関連について考察を加えた.3. 結果: 剖検例の病理組織学的所見.(1) 両淡蒼球の軟化巣のほか, 一般に大脳, 小脳, 脳幹部, 第8脳神経には著変がなかった.(2) 内耳では, ラセン神経節には萎縮が認められたが, 血管条, コルチ器などには著変がなかった. また前庭神経節, 球形のう, 卵形のう, 半規管にも著変がなかった.(3) 一酸化炭素中毒による耳神経学的症状は中枢伝導路における病変により惹起されるものと推察した.
著者
岸 澄子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.386-400, 1973-03-20 (Released:2008-12-16)
参考文献数
32
被引用文献数
4

[目的]メニエール病の臨床症状は多種多様で,かつその経過も長短まちまちである.そこでメニエール病の臨床的経過を明らかにすると共に,その臨床症状ならびに検査成績から予後に関係する因子を知る目的から研究を行なつた.[対象]昭和42年1月から45年12月までの4年間に当科を受診したメニエール病78例,および原因不明の耳性眩暈98例の内,外来観察ないしはアンケートによつて受診後少なくとも1年以上の経過を知ることのできたメニエール病67例,耳性眩暈78例をえらんだ.[結果]アンケートの結果,めまいが治癒あるいはほぼ治癒した例は約90%以上あつたが,その罹病期間はメニエール病では平均4年4ヵ月であつた.初発年令はメニエール病,耳性眩暈ともに20代から40代に多く,初発年令が高令化するにつれて罹病期間が短かくなる傾向がみられた.初回眩暈発作時に耳鳴,難聴を加えて3主徴をもつたものは42例(63%),さらに耳閉塞感を加えて4主徴を伴つたものは24例(36%)であった.まためまい発作がcluster groupingを示す傾向は耳性眩暈例には少なく,メニエール病に特徴的であつた.CMI (Cornell Medical Index)検査では,メニエール病が精神身体疾患の傾向をもつことが確かめられた.初診時の純音聴力検査では,平均聴力損失が40dB以内の軽度難聴者と40dB以上の難聴者の2つのグループに分けることができた.患側耳の聴力型は水平型が最も多く,次いで斜昇型,高音急墜および斜降型,山型,正常,聾の順であつた.このうち,水平型は発病よりの期間が長い例に多く認められ,一方斜昇型はその逆に経過の短い例に多かつた.温度刺激検査と発病から初診までの期間との関係はNo Response群が他群に比し,明らかに長い経過を示した.臨床症状のうち予後に関係すると思われた因子は,初発年令,めまい発作におけるcluster groupingの有無であり,若年者に初発した場合,発作にcluster groupingをみとめる場合,初回発作時にすでに難聴を自覚した場合に治癒までの期間が長くなる傾向があった.検査成績と予後との関係をみると,純音聴力検査で平均聴力損失が40dB以上か,あるいは患側耳の聴力型が高音急墜あるいは斜降型の場合に短い予後期間を示した.温度刺激検査成績では正常型か,あるいは著しい半規管機能の低下例に予後期間の短い例を多くみとめた.
著者
鈴木 幹男 小川 富美雄 北野 博也 矢澤 代四郎 北嶋 和智
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.8, pp.879-884, 2000-08-20
被引用文献数
2 4

音刺激の聴覚野への交叉性投射を調べる目的で単音節刺激時の聴覚野脳活動をfunctional MRIを用いて検討した.対象は聴力正常な成人6名(右利き)である.1秒間に1個の単音節(95dBSPL)を呈示し,OFF-ONパラダイム(OFF;音刺激なし,20秒,ON;音刺激あり,20秒)を4回繰り返した.機能画像は1.5テスラMRI装置(GE社製Signa Horizon)でグラジエントエコーエコープラナー画像(EPI)として得た.EPIはワークステーション上でSPM99bを使用し解析を行い,聴覚野賦活部位を測定した.<br>予備実験としてEPI撮像時の騒音を測定した.ERI撮像時の騒音は97dBSPLであったが,MR対応のヘッドホンを使用することにより80dBSPLまで減少させることが可能であった.片耳単音節刺激により主に反対側の1次聴覚野,両側の聴覚連合野に広い賦活部位が観察された.賦活は一次聴覚野より聴覚連合野に著明であった.右耳に単音節刺激を与えた際は左聴覚野に,左耳に与えた際は右聴覚野に有意に広い賦活部位がみられた.このパターンは被験者全員に観察された.この結果から単音節聴取時の音情報は両側の聴覚野に入力されるが,刺激対側の聴覚野に反応が強く交叉性投射が確認された.撮像時の騒音を減少させれば聴覚刺激による反応をfunctional MRIで測定することが可能であり今後臨床応用できると結論した.