著者
岡村 仁
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.3-8, 2011 (Released:2016-04-15)
参考文献数
34

近年,自殺者の増加などを背景に,うつ病への関心が高まっている.しかし,うつ病という言葉は周知されてきているものの,その診断や病態についてはあまり知られていないのが現状である.このため,依然としてうつ病が適切に評価されていなかったり,十分に治療導入されていないケースも多くみられる.本稿ではうつ病の理解を助けるために,まずうつ病の診断基準について説明を行った.次いでうつ病の発症メカニズムに関して,「脆弱性-ストレスモデル」を基本に,状況要因あるいは心理・社会的要因と脳の神経科学的変化について,これまでの報告を中心に概説した.最後に,最近注目されてきているうつ病の脳機能画像研究や脳血流研究を取り上げた.
著者
勝田 茂 神林 勲
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.111-120, 1989-08-01 (Released:2016-10-31)
被引用文献数
1
著者
上田 宏
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.123-129, 2007 (Released:2008-08-31)
参考文献数
20

サケがどのように生まれた川(母川)を覚えて回帰するかは,生物学上の大きな謎の一つである.北洋から北海道の母川に回帰するシロザケ,および湖に生息するヒメマスとサクラマスを用いて,外洋におけるナビゲーションのメカニズム,ホルモンによる回遊行動の制御メカニズム,および母川のニオイを識別するメカニズムなどを多角的に解析した.動物行動学的には視覚機能を用いて直線的に回帰する母川回帰行動,生殖生理学的には脳から分泌されるサケ型生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(sGnRH)が母川回帰行動を主導的に調節すること,神経生理学的には嗅覚機能を用いて各河川水に溶解している河川固有なアミノ酸組成をサケが識別していることなどが明らかになってきた.
著者
村井 正
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.5-9, 2001

1961年人類初の宇宙飛行が実現してから40年が経過した.SF映画「2001年宇宙の旅」が公開されたのは1968年のことであり,映画の中で描かれた宇宙での活動は,2001年を迎えた現在,大半は未だ実現していない.しかし過去40年間の有人宇宙開発の進歩は着実なものであり,現在日本も参加して国際宇宙ステーションが建設中である.数年以内に日本人宇宙飛行士による宇宙ステーション常駐が開始される見込みとなっている.本稿では,過去40年間の有人宇宙開発の歴史を概観し,今後の方向性について論じた.
著者
鮫島 和行 銅谷 賢治
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.167-171, 2001-11-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

大脳基底核は大脳皮質と脳幹の間に位置する一連の神経核の集まりの総称である.大脳基底核はその障害によって運動機能の異常が生じることから運動の実行や計画にかかわり,また報酬に依存する神経活動から,目的指向行動を形成するための重要な役割を担うと考えられている.しかし,複雑に絡み合った核群の機能的役割はまだ謎のままである.本解説では,まず報酬をもとにした学習の枠組みである「強化学習」について解説し,次にこれまで調べられてきた大脳基底核にかかわる電気生理学,解剖学からの知見を紹介する.さらにこれらをもとに,我々が提案している大脳基底核の強化学習モデルについて解説する.
著者
久保田 富夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.185-188, 2005 (Released:2007-10-23)
参考文献数
22

健康なわたしたちも,昼間に耐えがたい眠気を体験することはよくある.ヒトの昼間の覚醒レベルの変動については様々な研究が行われているが,60分から3~4時間周期で眠気が出現するウルトラディアンリズムの報告があり,いくつかの要素が関連していると考えられている.さらに,約半日リズムとして,昼食後の午後1時から4時頃に眠気を感じることが多い.昼間の眠気には,生体リズムが関係していることは広く知られている.また,外的環境への適応機能として,サーカディアンリズムの補助機能としての役割などがあげられる.今回,以前われわれが大学生におこなったアンケート調査から昼間の眠気の原因と,その対応についても考えてみた.
著者
吉川 政夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.215-220, 2013 (Released:2016-04-15)
参考文献数
17
被引用文献数
2

オノマトペとは擬音語・擬態語を意味するフランス語である.擬音語・擬態語は五感による感覚印象を言葉で表現する言語活動である.筆者らは運動・スポーツ領域で活用されている擬音語・擬態語をスポーツオノマトペと名付けた.運動・スポーツ領域でオノマトペが使用される場合,運動の「コツ」を表現する際の言葉として使用されることが多い.具体的には,動きのパワー,スピード,持続性,タイミング,リズムを表現する言葉として使われていることが筆者らの調査結果の分析から明らかになった.本稿では,アスリートを対象とした調査から得られた運動・スポーツ領域で使用されているスポーツオノマトペの特性,発声されたスポーツオノマトペの音響分析結果から得られた特性,アスリートと指導者に対する意識調査結果と実験結果に基づくスポーツオノマトペの導入効果,運動のコツを伝えるスポーツオノマトペの可能性について言及した.
著者
伊関 洋 村垣 善浩 丸山 隆志 田村 学 鈴木 孝司 吉光 喜太郎 生田 聡子 岡本 淳
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.17-21, 2012 (Released:2016-04-15)
参考文献数
8

21 世紀の医療は,リスクを評価し,それに基づくリスクを予防しながら実行する先行予測制御型の医療である必要が ある.リスクを評価し,リスク管理された先行予測型制御で予測したロードマップと現状データとの差分を最適化し,予定された結果へ安全確実に誘導するためには,MR 画像を含む医療画像情報を基に,手術を正確に且つ安全にコントロールする戦略デスクで構成されたシステムが必須である.医療情報を統合管理し,戦略を決定する戦略デスクが,外科手術を精密手術として工程管理し,運用されるのである.
著者
坂入 洋右
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.181-185, 2011 (Released:2016-04-15)
参考文献数
19

一般に“ あがり” と呼ばれる心身の過緊張によるパフォーマンスの低下現象に関して,そのメカニズムと対処に有効な心理的スキル,及びそれを習得するためのカウンセリング技法について解説する.まず,過緊張の状態を調整しようとする能動的努力が緊張増大の悪循環を生むメカニズムを,精神交互作用の概念と心身相関の心理生理的モデルに基づいて説明する.次に,過緊張の悪循環から脱するために必要な心理的スキルについて,“ 体(行動・筋)から心へ” と“ 受動的注意(mindfulness)” の観点から論じる.最後に,これらのスキルを習得するために有効な自己訓練タイプのカウンセリング技法として,自律訓練法を紹介する.
著者
山本 敬三 坪倉 誠
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.159-164, 2018 (Released:2019-08-01)
参考文献数
18

スキージャンプ(以下,ジャンプ)の一連の動作の中で,空気力学的に重要な局面は飛行と踏切局面であり,これらの局面で選手に作用する空気力は,競技パフォーマンスに大きく影響を及ぼす.この解説論文では,飛行機の飛翔メカニズムについて概説した後,ジャンプの飛行と踏切局面について,その力学的メカニズムと先行研究によって明らかになった知見について解説する.飛行局面では,揚力獲得のメカニズムと姿勢の安定性について述べる.助走局面では,動作の力学的目的を流体力学の視点から考察する.ジャンプの気流解析では,手法として風洞実験と数値流体解析が用いられることが多い.空気力(揚力や抗力)の導出や気流状態の可視化には,計測対象の固定方法や力覚センサの配置,精度検証など,クリアしなければらない課題が多い.しかし,ジャンプが飛翔能力を競うスポーツであることから,空気力学的な観点は競技力向上に必要不可欠である.
著者
鮫島 和行
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.173-178, 2019 (Released:2020-08-01)
参考文献数
21

ヒトが他者を認知し,他者と協力や協調する能力の高さは他の動物にくらべて特異的に発達した社会的知性を持ってい ることを示している.これまで,ヒト同士の社会的行動は社会心理学や社会神経科学などの分野で研究されてきた.一方で, ヒトと協力しながら生き残っている動物もいる.イヌやウマなどの動物は,ヒトとともにヒトに役に立つ使役動物として利用 されてきたばかりではなく,ヒトと絆を形成する伴侶動物として家畜化されてきた.本稿では,相互にかわされる非言語での コミュニケーションに用いられる社会的シグナルの役割を,ヒトと動物との間において検討した研究を紹介し,社会的シグナ ルによって他者に影響し,他者から影響をうける自己との関係性の計算論的モデルに関して考察する.
著者
田中 由浩 佐野 明人
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.47-52, 2014 (Released:2016-04-16)
参考文献数
38
被引用文献数
1

触覚は,体表全体に備わっているが,特に手が果たす役割は大きい.人は触れることで,対象の形状や質感を知覚することができる.また,滑りの予知など巧みな操作に不可欠な知覚もある.触知覚は,対象と皮膚との力学的相互作用による皮膚の変形や熱の移動を機械受容器が取得することで行われている.皮膚は,機械受容器にとって一種の力学的フィルタであり,人の手や指,皮膚の構造には,触知覚のための巧妙な力学的メカニズムが仕組まれている.多くの触知覚メカニズムがまだ未解明で断片的ではあるが,本稿では,機械受容器に有益な触覚増強をもたらす皮膚構造や知覚対象に適切な指や手の構造について概観し,触覚の観点から人工の手を考察する.
著者
田中 由浩
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.21-26, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
34

振動は触覚において様々な感覚に関わり極めて重要な情報である.我々の触覚は,対象と皮膚との力学的相互作用により皮膚で発生した変形や振動,熱の変化に基づく.また,触覚の受容と運動の間には双方向の関係がある.したがって,触覚には皮膚の力学的特性や運動特性が大きく関与する.本稿では,これらの観点のもと,振動と触覚との関係を,皮膚特性,触知覚,運動特性から,概観したい.皮膚特性では皮膚で生じる振動の周波数特性や,指紋や皮下組織の構造と振動との関係を,触知覚では粗さの感覚と振動との関係を,運動特性では個人差や粗さ知覚における運動調整を主に紹介する.
著者
関 喜一
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.71-74, 2001-05-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

本稿では,視覚障害者のためのVR技術について,晴眼着用VRとの違いについて述べ,次に聴覚と触覚に情報を提示する形式にわけてその原理と応用例を紹介した.聴覚VRについては,頭部伝達関数を用いた音響VRの原理と,視覚障害児教育への応用例,及び視覚障害者歩行補助への応用例を紹介し,続いて視覚障害者の障害物知覚について説明し,その訓練を行うための音響VR技術の例を紹介した.また,過去に行われた歩行補助装置の研究についても概説した.触覚VRについては,数少ない研究事例の中から,ピンディスプレイを用いた視覚障害者用3次元触覚情報提示装置の研究を紹介した.
著者
伊藤 慎一郎
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.203-206, 2010 (Released:2016-04-15)
参考文献数
1

水棲生物を系統樹から形態学的に分類すると彼らの遊泳運動メカニズムが大まかに分類できてくる.さらに生活形態を見ると運動形態が自ずと定まってくる.彼らの運動メカニズムは大きく揚力推進メカニズムと抗力推進メカニズムとに二分できる.前者は恒常的に遊泳するもの,後者は逆に常日頃は不活発であるが,非常時には瞬発力を発揮できるものである.生活形態が中心となって,自然淘汰によって生活に関わるエネルギーが最小になるように運動モードが決定しているようである.本解説ではそれぞれのメカニズムを述べると共に,さらに分類できるものは具体例を挙げて詳細な運動メカニズムを述べている.
著者
住谷 昌彦
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.93-100, 2015 (Released:2016-04-15)
参考文献数
49

四肢切断後に現れる幻肢痛をはじめとする神経障害性疼痛の発症には末梢神経系と脊髄での神経系の異常興奮とその可塑性に加え,大脳を中心とした中枢神経系の可塑性が関与していることが最近の脳機能画像研究から確立しつつある.幻肢の随意運動の中枢神経系における制御機構をもとに,我々が行っている鏡を用いて幻肢の随意運動を獲得させることによる臨床治療(鏡療法)についてその有効性と限界,そして今後の幻肢痛および神経障害性疼痛に対する新規神経リハビリテーション治療の可能性について概説する.
著者
谷島 一嘉
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.10-13, 2001

建設中の国際宇宙ステーションから2014年ごろの火星有人飛行において,長期無重力暴露に起因する循環や骨筋肉系の退化,カルシウム喪失が大きな問題になる.現在の対策ではなお十分でなく,人工重力のみがこれらを網羅できる対策であると,19世紀から考えられているものの,地上での実験と有効性の検証が遅れている.人工重力研究の国際的WGは1990年頃始まったが,我々は将来の重要性を見越して当初から独自の小型短腕遠心機を開発して研究を続けていた.無重力暴露のの地上模擬実験である6度ヘッドダウン臥床を4日間行い,世界で研究者が抑えきれなかったヘマトクリット値の上昇を,毎日+2Gz-60分の遠心負荷をかけて,初めて抑えることが出来た.遠心負荷の有効性を改めて示し,宇宙で試されるべき人工重力の一つの有力なパラメータを提供した.
著者
田村 博
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.112-116, 2004-08-01
被引用文献数
6

キーボードは書字下手な人々の悩みを解消した.そしてケータイは,移動中でも,ベットの中でも時や場所を選ばずに使える入力法を約束している.機械に合わせて人を訓練するのでなく,人に合わせた入力法の開発が格段の普及を促進するものと期待される.書字動作,キー入力,ケータイ入力に共通する人の特性についてのべ,最近の実験結果を含めて解説する.
著者
前川 喜平
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.74-82, 2008 (Released:2010-12-06)
参考文献数
41
被引用文献数
2

人間の高次脳機能は知能だけではないので,総称して知性と呼ぶ.認知心理学によると知性は1つではなく多数の並列した多重構造,機能的単位構造(モジュール)より構成されている.モジュールは階層性で,これらを統合する中枢処理系の存在が予想されている.さらに認知脳科学の進歩により認知心理学で想定されていたモジュールが,生物学的実態(脳構造)として実際に存在することが,これらの知性をスーパーバイズする前頭連合野の機能と共に解明されている.発達神経学,認知心理学,認知脳科学の知識を基にして高次機能の発達についてまとめた.