著者
佐藤 郁哉 川嶋 太津夫 遠藤 貴宏
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01 (Released:2015-04-16)

平成27年度は、予備調査で収集した文献や資料を通して、日英両国における研究評価およびそれにもとづく選択的資源配分の実態を把握するとともに、資料調査や海外での聞き取りを通して新たに入手した情報の検討を加味した上で、平成28年度以降におこなう本格的な国際比較研究のための分析枠組みの構築につとめた。特に注目したのは、英国の研究評価事業においては、回を重ねる毎に、評価対象として提出される研究業績の刊行種別の構成に大きな変化が見られる、という事実である。また、資料調査の結果、その変化のパターンには、学問分野別に顕著な違いが観察される場合が少なくないことが明らかになった。すなわち、英国においては、1986年以来ほぼ5~6年の周期で通算7回にわたって全国レベルでの研究評価がおこなわれてきたが、回を追う毎に提出業績の中でジャーナル論文の占める比率が高くなっているのである。実際、1996年の研究評価事業では、論文の割合は6割程度に過ぎなかった。これに対し、直近の評価事業である2014年におこなわれたResearch Excellence Framework(REF)の場合にはそれが8割以上にのぼっている。また、たとえば、経営学系の分野においては、6割以下であったものが約96%にまで達している。このような現象は、選択的資源配分と不可分に結びついた研究評価のあり方が、競争原理の強化を通して研究の質を高める、という当初の目的とは別に、研究の内容に対して甚大な影響を与え、ひいては質の低下という意図せざる結果をもたらす可能性を示唆するものである。平成27年度の研究においては、特にこの点に焦点をあてて、研究評価のパネルメンバーであった英国人研究者および研究資金管理団体の関係者等への聞き取りを通して、研究評価の政策効果と意図せざる結果に関する分析枠組みの構築につとめた。
著者
佐藤 郁哉
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.346-359,481, 1991-03-31

本論文は、もっぱらトマスとズナニエツキのテクストに沿って、状況の定義概念の初期の定式化とその後の変遷をあとづけ、この概念が、行為主体と「構造」の関連を明らかにする上でもつ「感受概念」としての潜在力を明らかにする。<BR>社会学におけるスタンダードな用語の一つである「状況の定義」は、これまで主に社会的行為の主意主義的な側面を表現する代表的な概念として取り扱われてきた。しかしながら、この概念の初期の定式化の歴史をたどってみると、「状況の定義」は、行為に対する社会文化的な構造の規定性を示す際にも使われていることがわかる。とりわけトマスは「状況の定義」を多義的に使用しているが、これは、様々な行為主体と多様な状況との関連を実証研究を通して明らかにしていく上で彼が用いた効果的な戦略の一つであると考えられる.この「状況の定義」の一見相矛盾する多義的な用法の解明は、現在さまざまな形で試みられているマイクロ社会学とマクロ社会学の統合を進める上で、一つの有力な手がかりを与えてくれる。
著者
佐藤 郁哉
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.456-475, 2008-03-31 (Released:2010-04-01)
参考文献数
17

1990年代いらいの急激な量的拡大にともなって,日本における大学院教育は,大幅な質的変容を余儀なくされてきた.「戦略なき大衆化」とも形容できるその動向にともなって頻繁に取り上げられてきたのは,米国における大学院教育のプログラムとカリキュラムであった.しかしながら,その「アメリカン・モデル」の導入は,多くの場合きわめて不正確な情報と安易な発想にもとづいており,それがひいては,現在日本の高等教育システム全般を空中分解の危機にさらしているとさえ言える.本稿では,最初に大学院教育の量的拡大の実態とそれをめぐる比較的よく知られた事実と問題点について改めて確認する.ついで,著者がかつて共同研究者とともにおこなった社会学の分野における大学院教育に関する日米比較研究から得られた知見にもとづいて,大学院における教育プログラムとカリキュラムを改革していく際にアメリカン・モデルを安直に適用することによってもたらされるさまざまな問題について検討していく.
著者
佐藤 郁哉
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.164-170, 2017-04-01 (Released:2017-04-03)

本稿では,公的研究資金の選択的配分の前提としておこなわれる研究評価事業によってもたらされる意図せざる結果について検討する。英国の研究評価事業を事例として取り上げ,同事業が研究活動テーマや方法論の均質化に結びついていく可能性について見ていく。焦点をあてて検討するのは,商学・経営学の領域における論文化の傾向である。この領域では,研究評価事業に際して提出される研究成果においてジャーナル論文の占める比率が急速に増加していった。これは,同領域が偏狭な業績主義によって席捲され,「ジャーナル駆動型リサーチ」が優勢になってしまう可能性を示唆するものである。