著者
戸塚 武美 中村 秀明 宮崎 康宜 中村 哲久 鈴木 宏昌
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.248-252, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
5

目的 : 機械的CPR装置 (MCD) が救急救命士の特定行為や予後に与える影響について検証した。方法 : 救急隊が積極的CPRを行った524症例を後方視的に調査し (A) 平均活動時間, (B1) 静脈路確保 (IVA) 試行率と (B2) 成功率, さらにアドレナリン適応123症例の (C) 投与率, (D) 病院前心拍再開率, (E) 予後について, 用手的CPR群 (HCC群) と機械的CPR群 (MCD群) に分け比較検討した。結果 : (A) HCC群13.2分, MCD群13.1分。 (B1) HCC群85.1%, MCD群92.5%。 (B2) HCC群59.6%, MCD群73.8%。 (C) HCC群32.2%, MCD群63.6%。 (D) HCC群13.3%, MCD群30.3%。 (E) 生存退院率はHCC群7.8%, MCD群12.1%。MCD群で有意にIVA試行率 (p<0.05) と成功率 (p<0.01), アドレナリン投与率 (p<0.01), 病院前心拍再開率 (p<0.05) が高かった。生命予後に有意差は認めなかったが, 脳機能良好で退院した7例はすべて病院前心拍再開例であった。まとめ : 現場活動におけるMCDの使用は, 活動時間を延長することなく効率的な蘇生処置を可能にし, 病院前心拍再開率を高めることから, 神経学的機能予後を改善することも期待される。
著者
古元 謙悟 小森 大輝 入山 大希 日浦 とき雄 戒能 多佳子 阿部 智一
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.127-131, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
7

救急救命士は主に病院前救急医療を担っているが, 近年は病院に勤務する救急救命士が注目されている。2021年度から, 茨城県つくば市にある二次救急医療機関で新たに救急救命士の運用を開始した。現在の業務には, 救急外来での患者対応と自施設の救急車を用いた転院搬送がある。救急外来での患者対応には, 救急車到着前の受け入れ準備, 到着後の初期評価, 患者の移送, 静脈路確保を含む医療行為, 医師の処置介助が含まれる。緊急度や重症度の把握に長けた救急救命士は, スムーズな診療と外来ベッドコントロールの回転率上昇に貢献しているほか, 蘇生処置において気道管理や胸骨圧迫で診療に参加している。また, 転院搬送の際は自施設の救急車を用いることで迅速な対応が可能になり, 公的救急車の負担軽減にも寄与している。今後は, 救急外来で気管挿管を行う体制の確立や, 転院元へ転送患者を救急車で迎えに行くなどして, 地域医療へのさらなる貢献を目指していく。
著者
木村 龍太郎 竹本 正明 杉村 真美子 金澤 将史 今村 友典 中野 貴明 伊藤 敏孝
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.262-264, 2018-12-31 (Released:2018-12-28)
参考文献数
1

【症例】14歳, 女性【主訴】左示指刺創【現病歴】家庭科の授業中にミシンを用いて裁縫中に誤って左示指の末節にミシン針が刺さり救急要請となった。救急隊はミシンを破壊し本体の一部をつけたまま搬送した。【来院後経過】救急外来にて針に付着した布押さえの部分を工事用ペンチで破壊した。針と糸が共に指を手背側から手掌側へ貫通している状態であった。左示指に局所麻酔し, 針の末端部分の一部を切断し, 手掌側の針の先端をペンチで把持して引き抜くように糸と共に除去した。除去後, 止血を確認し, 帰宅とした。【考察】ミシンの縫い目は2本の糸が絡み合うことによって作られる。その構造上ミシン針の糸通しは針の先端についているためミシン作業中の刺創では針と共に糸が必ず体内を通過する。その構造を把握しないで針だけを抜去すると糸が皮膚の中に残存することがある。ミシン針の貫通創の処置では抜去時にミシンの仕組みを知る必要があると考えた。
著者
中村 元保 加藤 晶人 井上 元 鈴木 恵輔 中島 靖浩 前田 敦雄 森川 健太郎 八木 正晴 土肥 謙二
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.407-410, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
7

症例は89歳の女性。身長147cm, 体重43kgと小柄で慢性閉塞性肺疾患 (Chronic Obstructive Pulmonary Disease : COPD) の既往歴がある。1カ月前から呼吸困難を自覚していた。朝に呼吸困難が増強したためにツロブテロールテープ2mgを1枚胸部に貼付したが, 症状改善ないために夕方に2枚目を胸部に追加貼付した。追加貼付2時間後から動悸, 嘔気を自覚したために救急要請した。救急隊到着時は意識レベルJCS1であったが, 嘔吐が出現し意識レベルJCS100まで低下し当院へ救急搬送された。搬送時意識障害は改善傾向であり, 胸部に貼付されていたツロブテロールテープ2枚を剝離したところ動悸と嘔気が消失した。臨床症状よりツロブテロールテープによる中毒症状が疑われた。貼付薬は容易に自己調整できるが, 高齢者や乳幼児など管理能力に問題がある場合や, 低体重の症例では使用方法に注意が必要となる。また, 救急対応の際には全身観察での貼付薬の有無の確認も必要となってくる。
著者
宇佐美 諒 村田 健介 岡本 健 田中 裕
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.253-256, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
4

近年, 救急救命士の新たな活動の場として病院の救急外来が注目されているが, 現行の法的制限から, その資格を十分に活用できるか疑問視されている。今回, 当院救命救急センターに常駐する救急救命士によるサポートが, 医師と看護師の業務負担の軽減にどの程度寄与しているかをアンケート調査により評価した。対象は, 救急外来に勤務する医師20名および看護師19名である。調査の結果, すべての医師は, 救急救命士による「救急隊との応答業務」が, 医師の業務負担を軽減すると考えていた。また, すべての看護師は, 救急救命士による「院内トリアージのサポート」が, 看護師の業務負担を軽減すると考えていた。救急救命士の専門知識による救急外来スタッフへのサポートが救命救急センターの質の向上に寄与する可能性が示唆された。現在許容されている範囲内の業務活動でも, 救急外来に常駐する救急救命士は有用である。
著者
戸塚 武美 藤田 桂史 吉田 光汰 橋本 和賢 飯田 幸英
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.403-406, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
3

われわれは先行研究において雷鳴頭痛の概念を踏まえた情報聴取教育が, 神経学的所見に乏しい出血性脳卒中に対する救急隊の病院選定的確率を改善させる可能性を報告した。救急隊に広く普及しているシンシナティ病院前脳卒中スケール (Cincinnati Prehospital Stroke Scale ; CPSS) は, 脳局所症状を判断するものであり, 脳卒中で最も危険といわれるくも膜下出血では該当しない症例がある。また, くも膜下出血の典型的な症状である「突然の激しい頭痛」は客観性に乏しく, 救急隊が判断に迷う一因となっている。この対策として, 吐気, 意識消失, めまいなどの症例では必ず頭痛の有無を確認し, 頭痛を訴えた場合には雷鳴頭痛の概念を踏まえた情報聴取を行うよう教育に取り組んだところ, 頭痛情報聴取率は統計学的に有意に改善し, 病院選定的確率は改善傾向を認めた。雷鳴頭痛の概念を踏まえた情報聴取教育は, 神経学的所見に乏しい出血性脳卒中に対し, 的確な病院選定を行う一助となり得る。
著者
中澤 真弓 鈴木 健介 小川 理郎
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.14-18, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
6

はじめに : 救急救命士による気管挿管は現場での実施頻度も少なく, 技術維持のため訓練が必要である。目的 : 救急救命士養成課程の学生が雪山において, 屋内の床上で習得した気管挿管と同様の基本手技を施行できるかを検証した。方法 : 日本体育大学救急医療学科2年生72名を対象に, 気道管理トレーナを用い, 雪上において(1)傷病者頭部谷側斜面(2)傷病者頭部山側斜面(3)傷病者立位(4)傷病者埋没の4想定で気管挿管基本手技訓練を行い, 屋内で実施した結果と比較した (対応のあるT検定・有意水準P<0.05) 。結果 : 胸骨圧迫の評価が雪山で有意に低かった。環境に関係なく目視で確認できる項目は雪山で有意に高得点であった。アクシデントは「滑落」「資器材の凍結」「歯牙損傷」が発生した。考察と結論 : 雪山での気管挿管は, 基本手技の習得が現場での応用を可能にしていると思われた。
著者
大谷 圭 山本(矢田) 恵麗奈 卯津羅 雅彦 武田 聡
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.95-99, 2021-12-28 (Released:2021-12-28)
参考文献数
5

2型糖尿病でipragliflozinなどを経口内服治療中の51歳の男性。受診の7日前から嘔吐と下痢が始まり, 症状が改善せずに救急受診となった。初診時は高血糖やケトーシスを認めず急性胃腸炎と診断され帰宅となったが, すぐに症状が再燃し, 嘔吐に加え脱力の症状も出現したため翌日に再度救急受診となった。このときに患者が過度の食事制限を行い, 3週間で17kgと著明な体重減少をきたしていたことが判明した。検査所見と上記情報から本症例は正常血糖ケトアシドーシスと診断し, 緊急入院で輸液・カリウム補充・インスリン投与を行い, 第15病日に軽快退院した。Sodium glucose co-transporter (SGLT) 2阻害薬内服患者が体調不良などで救急診療をする際には正常血糖ケトアシドーシスを発症している可能性もあるが, 本症例のように初診で急性胃腸炎や脱水症などと診断される恐れもあり, 救急医にとってこの疾患を想起することは重要であると考えられた。
著者
深野 賢太朗 萩原 章嘉 松田 航 植村 樹 木村 昭夫
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.351-354, 2019-01-31 (Released:2019-01-31)
参考文献数
10

レプトスピラ症は, スピロヘータ目レプトスピラ科に属するグラム陰性桿菌レプトスピラが引き起こす人獣共通感染症で, 疑わないと診断が難しく適切な抗菌薬治療を行わないと悪化する可能性がある。症例 : 74歳, 男性。全身倦怠感と全身が黄色いとのことで救急要請。来院時vital signsはGlasgow Coma Scale 14 (E3V5M6), 血圧65/45 mmHg, 心拍数68/分, 体温36.9℃, 呼吸数24/分, 経皮的酸素飽和度 99% (O2 4L/分フェイスマスク) で敗血症が疑われた。身体所見は頭頸部では眼球結膜の黄染があった。また, 四肢において両大腿と下腿の把握痛があり, レプトスピラ感染症による敗血症が疑われた。救急外来にていったん循環は安定したが, 抗菌薬投与後に血圧が下がり昇圧薬を使用した。しかし, 14時間ですぐに離脱できた。レプトスピラ感染症によるヤーリッシュヘルクスハイマー反応の症例報告は少なく, また今後国際化に伴って東京での報告例も一層増えると考えられ, 重症化する前に病歴から疑う必要があり報告した。
著者
藤井 裕人 古谷 良輔 宮崎 弘志
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.411-414, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
11

洗濯用パック型液体洗剤 (以下LDP), いわゆるジェルボールは2014年に日本で発売が開始された。われわれはLDPを誤飲した認知症を有する高齢患者の症例を経験した。86歳の男性。自宅で嘔吐と下痢をしていたため医療機関に搬送された。胃管を挿入すると泡立つ排液が吸引され, 洗剤の香りを認めたため洗剤誤飲と診断された。加療目的で当救命センターへ搬送された。家族の話から自宅にあったLDPを誤飲したことが判明した。来院時は肺炎, 急性腎障害, 脱水を認めた。酸素投与, 補液, 肺炎に対して抗菌薬の投与を行った。27日間の入院加療後に自宅へ退院となった。海外においては認知症患者のLDP誤飲による死亡事故が発生しているが, 日本では認知症患者のLDP誤飲に対する危険性の認識は乏しい。医療従事者はその危険性を認識するべきである。また, 認知症患者の介護者に対しての情報提供が必要である。
著者
土屋 大介 加藤 聡一郎 清水 裕介 田中 佑也 西沢 良平 吉川 慧 落合 剛二 持田 勇希 宮国 泰彦 海田 賢彦 山口 芳裕
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.397-400, 2023-12-28 (Released:2023-12-28)
参考文献数
16

症例は80歳代の男性。公共施設で腹部を押さえながら倒れたところを目撃され, 救急要請された。救急隊接触時, 傷病者はショック状態であり, 救命対応と判断した救急隊はランデブーポイントへ急行し東京都ドクターヘリと合流した。覚知からドクターヘリフライトスタッフと接触するまでに要した時間は34分だった。フライトスタッフが実施した超音波検査で破裂性腹部大動脈瘤が強く疑われ, この情報から搬送先医療機関では血管内治療に備えた受入体制が整えられた。ドクターヘリ搬送後, 緊急でステントグラフト内挿術が施行された。その後の経過は良好であり, 入院19日目に, 独歩で自宅退院した。破裂性大動脈瘤の救命には, 地域の救急診療体制および搬送中の傷病者管理が大きく影響するとされている。本事案は, 都市部で運用されるドクターヘリと救急隊の連携が, 早期収容と初期蘇生, 専門医療機関への迅速かつ安寧な搬送, および速やかな血管内治療の実施につながったことで, 良好な転帰を得たものと考えられた。
著者
今村 友典 小松 祐美 清川 隆 山形 梨里子 金井 尚之
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.275-277, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
12

【症例】生来健康な20歳男性が, 観賞目的にアマゾン産淡水エイ (Potamotrygon leopoldi, 年齢不詳, 雌) をインターネットオークションで購入した。水槽清掃時に右手背部を刺され受傷した。刺傷後から右手背部の疼痛と腫脹が出現したために当院を受診した。海水エイの治療に準じて創部の洗浄と40℃の湯に60分浸漬したところ, 疼痛が軽減した。腫脹は持続していたが, 経過観察後も全身状態は良好なため帰宅した。受傷翌日および1週間後ならびに約1カ月後も症状は増悪なく経過した。【考察】インターネットの普及で淡水エイの購入・飼育は誰でもどこでも可能となっている。そのため, 淡水エイに精通していない一般市民に同様の刺傷例が発生する危険性がある。本邦での淡水エイによる刺傷の報告は自験例を含め4例で少なく, 臨床像も不明な点が多いのが現状である。
著者
緒方 友紀 持田 勇希 海田 賢彦 山口 芳裕
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.261-264, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
11

糖尿病の既往のない60歳代男性。入院1週間前より消化器症状が出現し, さらに構音障害と異常行動が出現したため家族が救急要請した。救急隊により脳梗塞を疑われ, 当院脳卒中科へ搬送された。来院直後にショックバイタルとなり, 精査結果から糖尿病性ケトアシドーシスを伴う劇症1型糖尿病と診断し, 集中治療室に入室した。血糖コントロールを含めた全身管理により状態が改善し, 第14病日には一般病棟へ転床となり良好な転帰を得た。劇症1型糖尿病の症状は多彩で急速な経過をたどることが特徴であり, 救急要請の段階で中枢神経症状を呈している可能性が高い。プレホスピタルで脳卒中が疑われた際には初期診療から専門診療科に振り分けられるため, 脳卒中選定患者に当該疾患が潜んでいる認識をもち, 遅滞なく糖尿病ケトアシドーシスに対する治療介入することが肝要である。
著者
曽我 太三 櫻井 馨士 安岡 尭之 松島 純也 坪内 陽平 金指 秀明 山本 理絵 秋枝 一基
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.458-461, 2020-12-28 (Released:2020-12-28)
参考文献数
5

われわれは, 致死的多発外傷に対しハイブリッド手術室を用いて治療し救命し得た1例を経験したので報告する。症例は54歳の男性。自転車走行中に2tトラックと衝突し受傷した。当院搬送時は血圧低下, 意識障害を呈しており, 大動脈内バルーン遮断後に全身CTで外傷性胸部大動脈損傷, 外傷性血気胸, 腹腔内出血を伴う脾損傷, 不安定型骨盤骨折などの損傷を認めた。ハイブリッド⼿術室で緊急開腹を行った後, 脾損傷に対する塞栓術で止血を得た。術後は合併症なく経過し第52病日に独歩での自宅退院となった。出血性ショック症例に対する脾温存に関しては慎重に適応を判断する必要があるが, ハイブリッド手術室での開腹術と血管内治療への迅速な移行により救命できたと考えられた。
著者
中島 功 大塚 洋幸 市村 篤 本多 ゆみえ 梅澤 和夫 関 知子 中川 儀英 猪口 貞樹
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.219-224, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
5

家禽や野鳥が保有する低病原性鳥インフルエンザウイルスであってもヒトが死に至る例が報告されており, これまで定説となっていた豚由来のウイルス感染とは違うルートが推測される。鳥からヒトへの感染に関する最近の文献調査, およびモンゴルへの調査視察を踏まえ鳥から直接感染するインフルエンザの動向を本稿では報告する。アザラシのインフルエンザ, 日本のイノシシのインフルエンザ, 豚便所, 北米大陸における豚のインフルエンザ, H7N9の動向, スペイン風邪, シアル酸レセプタなどを文献調査した。その結果, ヒト側の遺伝子の発現の仕方の違い (シアル酸レセプタ), ウイルス側遺伝子再集合, RNAポリメラーゼの読み違いなどにより, 鳥型インフルエンザが直接ヒトに感染し, 重篤な症状を引き起こす可能性がある。臨床医としてこれらの報告を鑑み, 患者の感染ルートには常に十分な注意を払うべきと考える。
著者
武田 道寛 西野 智哉 滝沢 志絵 櫻井 馨士 若井 慎二郎 守田 誠司 中川 儀英 猪口 貞樹
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.326-328, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
11

浸水性肺水腫 (immersion pulmonary edema, 以下IPE) は, 本邦での報告例はいまだ少ないため認知度が低い。症例は既往のない50歳代女性で, 潜水中に呼吸困難を自覚し救急要請された。救急隊接触時の動脈血酸素飽和度は80% (室内気) であり, 来院時は両側肺野に水泡音を聴取し, 重度の低酸素血症と肺水腫を呈していた。心電図, 心臓超音波検査では心原性を示唆する所見は認めなかった。意識清明であったため, 非侵襲的陽圧換気 (noninvasive positive pressure ventilation, 以下NPPV) による治療を開始したところ速やかに自覚症状と酸素化は改善した。チョークスや動脈空気塞栓症を疑う所見に乏しく, また海水誤嚥のエピソードもなかったため, IPEの可能性が高いと考えられた。
著者
磯川 修太郎 志波 大輝 赤穂 良晃 白崎 加純 岩崎 任 一二三 亨 大谷 典生
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.132-136, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
9

築地市場の魚屋に勤務する70歳代, 男性。来院4日前から悪寒と来院前日からの呼吸困難を主訴に聖路加国際病院救急外来を受診した。結膜充血や関節痛, 肝腎機能障害, 炎症反応やCK上昇, 血小板減少に加え, 築地市場内でネズミとの曝露歴があったことからレプトスピラ症が疑われ入院した。入院時に採取した血清および尿検体を使用したPCR検査でレプトスピラ鞭毛遺伝子flaBが検出され, レプトスピラ症と診断した。入院後は呼吸循環障害のため集中治療室に入室したが, 人工呼吸器や腎代替療法は要さず, 入院第14病日に自宅退院とした。来院当日と2週間後, 1カ月後, 3カ月後に実施した顕微鏡下凝集試験では, L. interrogans serovar Canicolaなどの複数の血清型で抗体価は陽転化していた。東京都内でのレプトスピラ症では, ネズミとの職業曝露歴を聴取することが, 診断やその後の管理に有用であった。
著者
多田野 康太 諸江 雄太 長嶺 圭祐 廣嶋 俊 戸塚 亮 乃美 証 鷺坂 彰吾 山下 智幸 林 宗博
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.151-153, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
9

症例は20代, 男性。都内駅構内で何者かに突然液体をかけられ受傷した。現場で脱衣, 少量の流水で洗浄し日本赤十字社医療センターへ搬送された。現場で活動中の消防隊により液体はオキシ硫酸バナジウムと判明した。硫酸による化学熱傷と診断し, 来院時に多量の流水で洗浄し外用薬剤治療を開始した。受傷後約1週間後に上記受傷部を計10%程度のSDB~DDB相当と診断し, その後も軟膏による保存的治療を行った。さらに両側の角膜損傷も認めたため, 生理食塩液で眼球洗浄を行った。角膜損傷は両側角膜上皮欠損と診断され, ステロイドの内服と羊膜移植の後に, 治療用ソフトコンタクトレンズを使用した。皮膚, 角膜ともに良好な上皮化を得て, 受傷後約1カ月で退院した。その後外来治療を継続し, DDB相当の受傷部位は一部ケロイド瘢痕化, その他の部位は色素沈着となった。アシッドアタックによる化学熱傷は初期の十分な洗浄が重要である。
著者
松田 隼 小島 直樹 野原 春菜 有野 聡 松吉 健夫 佐々木 庸郎 一瀨 麻紀 山口 和将 稲川 博司 岡田 保誠
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.341-343, 2019-01-31 (Released:2019-01-31)
参考文献数
3

当救命救急センターを受診する患者の中で, 発熱を主訴に受診する患者は比較的多いが, 初療の段階では確定診断が困難なことがある。【対象・方法】2016年9月~2017年8月に当院一次, 二次救急外来を受診された16歳以上の患者のうち, 発熱の原因を確定することができず, かつ入院を要した患者の特徴・臨床経過を後方視的に検討した。【結果】総受診者数16,282例のうち, 対象となったのは24例であった。男性は13例, 平均年齢は74.5歳 (16~98歳), 平均入院日数は18.4日 (3~57日) であった。最終診断として, 感染性13例, 痛風関節炎1例, 膠原病1例, 退院まで原因不明であったものは9例であった。血液培養は全例で採取され, 陽性率は37.5%であった。帰宅後に血液培養陽性となったため, 再受診させ入院となった例が3例あった。【考察】原因不明の発熱で入院となった症例を後方視的に検討した。原因不明の発熱患者では, 血液培養の採取が重要である。