著者
橋立 博幸 島田 裕之 潮見 泰藏 笹本 憲男
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.159-166, 2012-06-20 (Released:2018-08-25)
被引用文献数
5

【目的】本研究は生活機能低下の危険のある高齢者において筋力増強運動を含む機能的トレーニングが生活機能に及ぼす影響を検証することを目的とした。【方法】二次予防対象者に選定された地域在住高齢者68人(平均年齢77.4歳)を,下肢粗大筋群の重錘負荷運動およびマシンを用いたトレーニングを行う筋力増強運動群(n = 40)と,下肢粗大筋群の重錘負荷運動とともに姿勢バランス練習,歩行練習を行う機能的トレーニング群(n = 28)に群別し,運動介入を3ヵ月間行った。介入前後には,下肢筋力,姿勢バランス能力,歩行機能(timed up & go test(TUG),最大歩行速度(MWS)),活動能力,主観的健康観を評価した。【結果】介入前後において機能的トレーニング群は筋力増強運動群に比べてTUG,MWS,主観的健康観の成績の有意な改善を示した。【結論】二次予防対象者における3ヵ月間の筋力増強運動を含む機能的トレーニングは,筋力増強運動のみの実施に比べて,歩行機能,主観的健康観の向上が得られる有用な介入である可能性が示唆された。
著者
遠藤 尚志
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.258-260, 1991-05-10

1. 訪問活動の中から 私は日頃, 「体は病院にあっても心は地域にある」と宣言している。と言うのは, 病院に来られる方は, まがりなりにも必要なケアが受けられるからである。それならば, 在宅患者はどんどん病院に連れてくればよいかというと, そうもいかない。何故なら, 私の中心的な対象者である高齢で重症で痴呆も伴っていて, 発病から5年・10年あるいはそれ以上経過している, という人たちは, ただ病院に連れていったのでは, 「この人は言語訓練の対象にはなりませんね」と宣告されるだけに決まっているからである。病院で行われる言語訓練は, 障害の過程を分析した上で障害の構造を明らかにし, その中で外からの働きかけによって変化しうる部分に治療的介入を行なう, という原理に立脚している。この方法を, 一応「因果論的発想にもとづく治療原理」と呼ぶこととするが, これは言語療法に限らず, 理学療法においても作業療法においても, あるいは他の医学的な治療法においても共通した考え方となっている。そしてその淵源は, 近代科学の思考法にあるといってよいであろう。この因果論的な治療原理においては, 働きかけに対する患者の直接的な応答性を高めるということだけが, 専門職の関心事である。したがって, 治療の結果回復した能力をどのように使うか, ということについては専門職はタッチせず, 本人や家族たちに任されることになる。このような方法論が老人のリハビリテーションの分野でどのような結果を生んでいるか, ということを一人のケースを通じて示したい。
著者
角 奈那子 片浦 聡司 田川 武弘
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.387-395, 2021 (Released:2021-08-20)
参考文献数
12

【目的】腰痛既往を有する一流男子競泳選手の蹴伸び姿勢における体幹アライメントの特徴を明らかにすること。【方法】男子選手の腰痛群9 名,非腰痛群15 名を対象とし,立位と陸上で再現した蹴伸びの2 条件で,体幹アライメントを評価し,柔軟性の指標と併せて比較した。【結果】蹴伸び条件において,腰痛群は非腰痛群と比較し,腰椎前彎角,骨盤前傾角,上胴後傾角,上胴伸展角が有意に大きいことが示された。一方,立位条件で2 群間の差は認められなかった。また,蹴伸び姿勢における下位胸郭の柔軟性は腰痛群で有意に低く,股関節や肩甲帯の柔軟性には差が認められなかった。【結論】腰痛群は,蹴伸び姿勢において過度な腰椎前彎を呈しやすく,その原因として下位胸郭の柔軟性低下が関係していることが示唆された。また競技レベルの高い一流選手であっても,特に腰痛既往のある者では, 蹴伸び姿勢において腰椎前彎を制御しにくくなる実態が示された。
著者
吉川 昌太 木下 篤 船間 汐莉 松木 明好
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.12018, (Released:2021-06-29)
参考文献数
34

【目的】小脳性運動失調を伴う脳卒中患者2症例に対して,体重免荷トレッドミル歩行練習(以下,BWSTT)を実施し,その効果を検討した。【方法】対象は小脳性運動失調を伴う亜急性期脳卒中患者の50 歳代の女性と60 歳代の男性とした。ABA 型のシングルケースデザインを用い,それぞれ期間を10 日間ずつ設定した。A 期には四肢と体幹の協調性練習,立位でのバランス練習や平地での歩行練習を受けた。B 期にはA 期の理学療法に加えBWSTT を実施した。評価項目は最大歩行速度,歩幅,歩行率,TUG,SARA,BBS,FACT,FAC とした。【結果】2 症例ともに最大歩行速度はA1 期と比べ,B 期において有意な向上を認めた。しかし,2 症例ともにB 期ではA1 期に比べSARA(歩行,立位,踵すね試験)やBBS の変化は乏しかった。【結論】小脳性運動失調を伴う脳卒中患者におけるBWSTT は歩行能力の向上に影響を及ぼす可能性が示された。
著者
中山 裕子 大西 秀明 中林 美代子 大山 峰生 石川 知志
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.292-298, 2008-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
17

本研究の目的は,肩甲下筋の機能的な違いを明らかにすることである。対象は健常成人6名とし,運動課題は5秒間の肩関節最大等尺性内旋運動で,筋力測定器(BIODEX)を使用した。計測肢位は肩甲上腕関節回旋中間位,内旋45度位,外旋45度位で,上肢下垂位,屈曲60度・120度,肩甲骨面挙上60度・120度,外転60度・120度の計21肢位であり,肩甲下筋上部・中部・下部の筋活動をワイヤー電極にて導出した。筋電図積分値は内外旋中間位上肢下垂位の値を基に正規化した(%IEMG)。最大トルク値と%IEMG値は挙上角度による比較を行った。肩内外旋中間位・肩甲骨面挙上および外転位での内旋運動において,最大トルク値は,120度の値が下垂位および60度の値より有意に低く,運動肢位により内旋トルクの変化が見られた。また,%IEMGについては,内外旋中間位・外転において,肩甲下筋上部は,下垂位が60度および120度に比べ高い傾向が見られた。また,内外旋中間位・肩甲骨面挙上において,肩甲下筋中部は,60度の値が,下垂位および120度の値に比べ高い傾向が見られた。下部においては,120度の値は下垂位,60度に比べ高い傾向が見られた。以上より,肩甲下筋は肩内外旋中間位における挙上角度の変更により上腕骨長軸に対し垂直に近い線維が最も強く肩関節内旋運動に作用することが示唆された。
著者
本宮 丈嗣 山本 澄子
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.11-18, 2016 (Released:2017-02-20)
参考文献数
18

【目的】初心者・高齢者向けのディフェンシブ・スタイルのノルディック・ウォーキング(以下,NW)が高齢者の歩行に与える影響について検討する。【方法】杖なしで自立歩行可能な高齢者28 名を対象とし,通常歩行とディフェンシブ・スタイルのNW を三次元動作分析装置・床反力計を用いて計測した。【結果】通常歩行とNW を比較した結果,荷重応答期の床反力鉛直方向成分は,有意差を認めなかった。歩隔・体幹側屈振幅・身体重心左右移動振幅は,NW で有意に減少した。歩隔と身体重心左右移動振幅との間に,正の有意な相関が認められた。【結論】ディフェンシブ・スタイルのNW は,前額面上において安定性の高い歩行であることが示唆された。
著者
多田 周平 木村 佳記 向井 公一 里田 由美子 中江 徳彦 近藤 さや花 小柳 磨毅
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.233-241, 2019

<p>【目的】前後に開脚して片側の殿部を着座したHalf sitting にて,体幹を前傾する運動(以下,HSE)の運動力学的特性を,スクワット(以下,SQ)との比較から明らかにすることを目的とした。【方法】健常成人10 名を対象に,右下肢を前方に接地して体重の1/2 を負荷するHSE とSQ を実施した。三次元動作解析装置と床反力計,表面筋電計を用いて運動計測を行い,右下肢の関節角度,床反力,関節モーメント,筋活動電位(%MVC)を算出し,両課題間で比較した。【結果】HSE はSQ に比較して股関節の屈曲角度と伸展モーメント,床反力後方成分,内側広筋と半腱様筋の筋活動が有意に高値を示した。一方,膝関節の伸展モーメントと外部内反モーメント,床反力内方成分は有意に低値を示した。【結論】HSE は膝関節運動がなく,SQ に比較して外部内反モーメントも有意に小さく安全である一方,膝伸展モーメントは小さいながらも,内側広筋と半腱様筋の活動が有意に高まる。</p>
著者
阿部 千恵 村上 賢一 藤澤 宏幸
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.136-142, 2016 (Released:2016-04-20)
参考文献数
20
被引用文献数
4

【目的】急性期脳卒中患者の筋厚を測定し,その経時的変化について検討した。【方法】発症後24時間以内の初発脳卒中患者の麻痺側,非麻痺側の筋厚(外側広筋(以下,VL),前脛骨筋(以下,TA)),周径(大腿周径5 cm,大腿周径10 cm,下腿最大周径)を1病日から連続して7病日,その後14,21,28病日に測定した。【結果】VL,TA の筋厚減少は両側で2病日から生じ, 28病日まで減少が継続した。二元配置分散分析の結果,病日と測定肢の間に交互作用は認められなかったが,VL,TA は病日において主効果が認められた。周径では,病日と測定肢の間に交互作用は認められなかった。大腿周径はともに病日と測定肢において主効果が認められ,下腿周径は病日に主効果が認められた。【結語】急性期脳卒中患者では,廃用症候群が非常に早期から生じ,麻痺側・非麻痺側両方に筋萎縮をもたらしている可能性が示唆された。
著者
赤羽根 良和 永田 敏貢 齊藤 正佳 篠田 光俊
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11080, (Released:2016-12-22)
参考文献数
12

【目的】肩関節周囲炎に続発する夜間痛の臨床的特徴を明らかにするため,非夜間痛群,夜間炎症群,夜間拘縮群で比較検討した。【対象】対象は肩関節周囲炎100 例であった。対象の肩関節X 線正面像からAHI,HHD,AHI/HHD 比,GHA を測定し,肩関節可動域は屈曲,外旋,内旋角度を測定し,それぞれで比較した。【結果】AHI,HHD,肩関節屈曲可動域は3 群間で有意差を認めなかった。非夜間痛群と比較して夜間拘縮群は外・内旋域が減少し,GHA が増大していた。また,非夜間痛群と比較して夜間炎症群はAHI/HHD 比が減少し,GHA が増大していた。夜間炎症群と比較して夜間拘縮群はGHA が増大していた。【結論】夜間炎症群および夜間拘縮群は肩甲骨が下方回旋位となっていた。また,夜間痛の発症が炎症を起因とした場合は,肩関節可動域の回旋域が比較的保たれていた。しかし,拘縮を起因とした場合は,肩関節の回旋可動域が減少することがわかった。
著者
牧迫 飛雄馬 阿部 勉 大沼 剛 島田 裕之
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.382-388, 2009
参考文献数
12
被引用文献数
1

【目的】在宅訪問サービスの継続要因および訪問リハビリテーションが要介護高齢者に与える影響について検証することを目的とした。【方法】対象者は,訪問リハビリテーションを利用する要介護高齢者33名(訪問リハ群),および訪問看護または訪問介護を利用しており訪問リハビリテーションを利用していない要介護高齢者13名(非訪問リハ群)とし,3か月間のサービス継続前後で運動機能,生活機能,活動状況の変化を比較した。【結果】30%以上の対象者が3か月後には訪問サービスを中止または終了しており,訪問リハ群では脱落者のvitality indexが継続者よりも有意に低かった。訪問リハ群では運動習慣を有する者が多く,離床時間の増大に対して良好な結果を示した。運動機能や生活機能は,有意な変化を認めなかった。【結論】訪問リハビリテーションの継続には,意欲が関与することが示され,訪問リハビリテーションは運動習慣の確立や離床時間の増大へ良好な影響を与える可能性が示唆された。
著者
加藤 浩 神宮司 誠也 高杉 紳一郎 岩本 幸英 吉村 理 新小田 幸一
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.178-184, 2002 (Released:2018-09-25)
参考文献数
24
被引用文献数
4

本研究の目的は,股関節疾患患者の中殿筋を対象に,従来の静的表面筋電図周波数解析に加え,新たに歩行時の動的表面筋電図周波数解析を行い,その結果を筋組織学的レベルから検証することである。当院で手術を受けた股関節疾患患者11症例を対象とした。手術直前に100・50%MVCにおける等尺性股関節外転運動を行わせ,中殿筋筋腹部を電極部位とした静的な表面筋電図測定を行った。又,10m自由歩行を行わせ,動的な表面筋電図測定を行った。そして,wavelet変換を用いた静的・動的表面筋電図周波数解析を行った。手術中に中殿筋筋生検を行いATPase染色による筋線維のタイプ分類(typeI及びtypeII)を行った。さらに画像解析ソフトによる筋線維横断面の形態計測を行った。50%MVC時のパワースペクトルとtypeII線維数の間には,正の相関が認められた。また,歩行時の立脚期初期のパワースペクトル変化は,typeII線維の線維径とtypeII線維横断面の総面積比率が関与していた。wavelet変換を用いた静的・動的周波数解析は,筋線維組成比やtypeII線維の萎縮といった組織学特徴を推測する有効な手段になりうるものと思われた。
著者
武田 廉 五十嵐 達也 大熊 彩 小山 智寛 星野 雄哉 宮田 一弘
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11785, (Released:2020-08-11)
参考文献数
32

【目的】急性期脳卒中患者におけるMini-Balance Evaluation Systems Test(以下,Mini-BESTest)の妥当性,信頼性,反応性,解釈可能性を検討した。【方法】対象は脳卒中患者 42 名とした。Mini-BESTest と他の評価尺度の相関関係,内的一貫性,既存のバランス評価尺度との変化量の相関関係,および歩行自立度の判別精度を検討した。【結果】バランスおよび他の類似概念の評価尺度と有意な相関(r=0.36 ~0.83)を示し,内的一貫性も良好(α=0.88)であった。Mini-BESTest と既存のバランス評価尺度の変化量は有意な相関(r=0.84)を認めたが,歩行自立の判別精度は低かった。【結論】Mini-BESTest は妥当性,信頼性,反応性,解釈反応性を示し,急性期脳卒中患者に対するバランス評価尺度として妥当な尺度であることが示唆された。