著者
船曳 康子 北 徹 石井 賢二 日下 茂 袴田 康弘 若月 芳雄 村上 元庸 横出 正之 久米 典昭 堀内 久徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.274-278, 1999
被引用文献数
10

症例は83歳男性. 1996年12月末より徐々に喀痰, 咳嗽, 全身倦怠感, 食欲低下みられ当院受診. 肺炎と診断され1997年1月7日入院となった. 入院時血圧70/48mmHg, PaO2 55.5mmHg, CRP20mg/dl, ラ音聴取, 黄色膿性痰みられ, 抗生剤を開始した, 血清抗体価の上昇より (入院時4倍→2週後128倍), インフルエンザA感染症の合併と診断した. 発熱, 呼吸困難は抗生剤治療に抵抗性であった. 血中よりアスペルギルス抗原を検出し (2+), 抗真菌剤治療により抗原は (1+) と改善したが, 2月20日, 喀血をきたし永眠された, アスペルギルス症は免疫不全患者が罹るとされているが, 本例では入院後数日間白血球数が低下しており, インフルエンザによる一時的免疫力低下がアスペルギルス症の発症に関与したと考えられた. また高齢者のインフルエンザ感染症の合併症の重篤さが示唆された.
著者
飯島 勝矢
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.228-234, 2021-04-25 (Released:2021-05-27)
参考文献数
4
被引用文献数
3

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の問題は,確かに高齢者において重症化しやすく,結果的に残念ながら命を落とした方々も少なくない.しかし,新たな感染症の課題を新たに示しているだけではなく,流行前から持ち合わせていた様々な地域課題や社会課題をより早期に見える化したのであろう.ポストコロナ社会を見据え,個々の国民に何を伝え,さらに新たな地域社会づくりにどう反映させるのか,ここは大きな分岐点になるだろう.この課題は,ポストコロナ時代において,人のQOLのあり方はどう変わっていくべきかを意味している.ワクチンや治療薬の確立と同時に,真の人間中心社会に向けて,「我々の忘れてはならない原点」と「次世代の新しい地域コミュニティ像(新たなデジタル社会含む)」の両方を実現しながら,人と人との心を近づけ,絆を感じ,豊かな社会にむけた新たな価値を全世代に創造してくれることを期待したい.
著者
長谷川 嘉哉 久保田 進子 稲垣 俊明 品川 長夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.201-204, 2001-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10
被引用文献数
4 8

音楽療法は, 老年医学を含めた様々な領域で研究使用されている. しかし音楽療法の科学的メカニズムは, あまり検討されておらず, より客観的な指標が必要とされている. そこで, 音楽療法前後のNK細胞の活性および量, T細胞およびB細胞量, 内分泌学的検討を行った. これらは音楽療法前後1時間で検討した. 対象は特別養護老人ホームの入所者19名 (男性6名, 女性13名, 平均年齢78.6歳) とした. 対象者の基礎疾患は, アルツハイマー型老年痴呆9名, 脳血管障害後遺症7名, パーキンソン病3名であった.NK細胞活性は音楽療法の1時間後で統計学的に有意な上昇を認めた. 音楽療法1時間前後で総リンパ球数に有意な変化は認めなかったが, リンパ球のサブセットのNK細胞比率は, 統計学的に有意な上昇を認めた. T細胞およびB細胞量の比率に変化は認めなかった. 内分泌検査では音楽療法前後のアドレナリンの変化は統計学的に有意な上昇を示した. ノルアドレナリン, コルチゾール, ACTHは有意な変化を示さなかった.肉体的侵襲の低い音楽療法で, 運動と同様にNK細胞の活性および量のいずれも上昇したことは極めて有益なことであると考えられた. これらの変化が臨床的にいかなる影響があるか明らかではないが, 音楽療法のさらなる可能性を示唆するものであった.
著者
加藤 丈陽 川本 龍一 楠木 智
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.176-179, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
8
被引用文献数
2 3

Howship-Romberg徴候を坐骨神経痛として見過され,イレウスを発症し診断された右閉鎖孔ヘルニアの一例を報告する.症例は88歳女性で3年前より右大腿部痛があり,整形外科にて坐骨神経痛と診断されていた.2009年7月食欲不振を主訴に入院.翌日右大腿部痛の増強及び下腹部痛が出現したため腹部超音波検査を行ったところkey board signを認めた.イレウスと診断,イレウス管を挿入し減圧をしたところ改善した.イレウス管抜去後右大腿部痛が再出現.また,大腿径に左右差が見られたためヘルニアを疑い造影CTを行ったところ恥骨筋と閉鎖筋に挟まれた領域に腸管の嵌頓所見を認め手術適応と判断した.開腹してみると回腸末端から約15 cm口側の回腸が右閉鎖孔に嵌頓しており嵌頓腸管を切除した.術後イレウス症状,右大腿部痛は消失した.原因不明の右大腿部痛やイレウス症状が高齢者にみられた時は,閉鎖孔ヘルニアを念頭に置くべきである.
著者
高橋 孝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.72-75, 2013

災害時高齢者医療の初期対応と救急搬送基準に関するガイドライン作成に関する研究班が確立し,災害時高齢者医療マニュアルとして医療従事者用と一般救護者用が準備された.避難者&hArr;救護者&hArr;巡回医療従事者&hArr;医療避難所へと連携した対応を行うために,一般救護者用の重要性を想定した.同マニュアルは(1)避難所での高齢者の重要な疾患の特徴と予防法・(2)高齢者急性疾患の症候・(3)高齢者で注意を要する症状で構成され,救護者が理解できるよう記載されている.東日本大震災後,試作版の両マニュアルが日本老年医学会のサイトより得られるよう同研究班は手配した.一般救護者用マニュアルは冊子体としても作成し,同学会員や日本医師会より派遣された医師を通じて被災地へ配布された.この活動状況や一般救護者用マニュアルを英文論文として海外へ発信し,次なる災害へ向けた資料として国際的に活用して頂きたい.<br>
著者
佐方 信夫 浜田 将太 土屋 瑠見子 佐竹 昭介
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.164-166, 2021-01-25 (Released:2021-02-25)
参考文献数
5
被引用文献数
1

介護度が多様な施設入所者に対するフレイル評価として,FRAIL-NHが米国で開発され,その妥当性や予後予測の有用性が確認されている.我々は,原版の翻訳,逆翻訳,開発者への確認,試験的使用というプロセスを経て,言語的妥当性を検証したFRAIL-NH日本語版を作成した.今後,FRAIL-NH日本語版が施設入所者のフレイル評価に活用され,脆弱性の進行予防に寄与することを期待している.
著者
湧上 聖 末永 英文 江頭 有朋 平 敏裕 渡嘉敷 崇 山崎 富浩 前原 愛和 上地 和美
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.304-308, 2000
被引用文献数
5

長期経腸栄養患者に銅欠乏が出現することが時々報告され, 貧血及び好中球減少症を伴うことがある. ある種の経腸栄養剤の銅含量が少ないことが原因で, 治療は硫酸銅や銅含量が多い経腸栄養剤で行われている. 今回, 食品である銅含量の多いココアを用いて銅欠乏の治療を行い, 銅の必要量を検討してみた. 当院に平成10年に入院していた経腸栄養患者86人を対象とした. 男性40人, 女性46人, 平均年齢69歳であった. 基礎疾患は脳卒中71人, 神経疾患5人, その他10人であった. CBC, 電解質, 腎・肝機能, 総蛋白, コレステロール, 血清銅 (正常値78~136μg/d<i>l</i>) を全症例に検査した. まず, 血清銅が20μg/d<i>l</i>以下の8症例に対して, ココアを一日30~45g (銅1.14~1.71mg), 血清銅が77μg/d<i>l</i>以下の31症例に対してはココアを一日10g (銅0.38mg) 経腸栄養剤に混注して1~2カ月間投与した. ココアの量が30~459の8症例の内, 2例が嘔吐と下痢で中断した. 残り6症例は血清銅が平均8.7±6.2から99.0±25.4μg/d<i>l</i>と有意に改善した. ココアの量が10gの31症例は血清銅が平均50.5±19.3から89.0±12.9μg/d<i>l</i>と有意に改善した. 銅欠乏に伴う貧血及び好中球減少も改善傾向がみられた. その後ココア10gで改善した23例についてココアを5g (銅0.19mg) に減量したところ, 平均98±36日で血清銅は90.7±10.4から100.6±17.1μg/d<i>l</i>へ有意に上昇した. これまで成人の一日銅必要量は1.28~2.5mgとされていたが, 今回の結果から銅欠乏の治療に関してはココア一日10g, 銅として0.6mg (ココアの銅含量0.38mgと栄養剤の平均銅含量0.22mg), 維持についてはココア5g, 銅として0.37mg (ココアの銅含量0.19mgと栄養剤の平均銅含量0.18mg) で十分だと示唆され, 経腸栄養剤開発における銅含量の参考になると思われる.
著者
井田 諭 金児 竜太郎 今高 加奈子 藤原 僚子 勝田 真衣 白倉 由隆 大久保 薫 東 謙太郎 村田 和也
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.143-151, 2021

<p><b>目的:</b>サルコペニア合併高齢糖尿病患者に対する多面的治療プログラムの,筋力,身体機能,及び骨格筋量への影響を検証すること.<b>方法:</b>伊勢赤十字病院,糖尿病代謝内科に通院している65歳以上の糖尿病患者を対象とした.サルコペニアの診断はAsian Working Group for Sarcopenia 2019を元に行った.四肢骨格筋量の測定は多周波生体電気インピーダンス法,筋力は握力,身体機能は5回椅子立ち上がり検査でそれぞれ評価した.多面的治療プログラム(蛋白質摂取量の適正化,レジスタンストレーニング,及びサルコペニアに関する患者教育)開始前と12週後に,筋力,身体機能,四肢骨格筋指数,及びその他パラメーターを評価し,前後比較した.統計処理には対応のあるt検定を用いた.<b>結果:</b>14例(男性3人,女性11人)が本研究の解析対象となった.平均年齢は74.4±4.7歳であった.多面的治療プログラムにより,握力(男性:23.2±5.6 kgから25.6±5.5 kg,P=0.014,女性:15.5±5.0 kgから18.9±5.0 kg,P<0.001),及び5回椅子立ち上がりテスト(11.2±2.5秒から8.6±1.7秒,P=0.002)の有意な改善を認めた.また,HbA1c(8.1±0.7%から7.7±0.9%,P=0.004)の有意な低下も認められた.一方,四肢骨格筋指数の増加傾向はあったものの有意差は認めなかった.<b>結論:</b>サルコペニア合併高齢糖尿病患者に対する多面的治療プログラムにより,筋力及び身体機能の改善が認められた.</p>
著者
森田 秋子 小林 修二 濱中 康治 三吉 佐和子 飯島 節
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.708-711, 2005-11-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
6

脳血管障害発症後早期に半側空間無視 (unilateral spatial neglect 以下USN) を呈し, その後机上検査および行動観察において所見が認められなくなった患者の長期経過を追った. 症例1は61歳男性, 3年前の右被殻出血後に左USNが出現したが, その後机上検査および行動観察にてUSNは出現しなくなり自宅へ退院した. しかし, 百人一首遊びあるいは電動車椅子操作などのストレスのかかる場面で, 左USNが再び出現した. 症例2は62歳男性, 初回の右被殻出血後に左USNが出現したが, 退院時には机上検査, 行動所見ともに所見は認められなかった. 6年後あらたに右片麻痺をきたし, 大脳左半球の脳梗塞が疑われた. 再発作直後は両方向への注意低下を認めたが, 徐々に左USNが明らかに認められるようになった. 症例3は70歳男性, 64歳時に右被殻梗塞発症後早期に左USNが出現したが, その後机上検査でも行動所見でも認められなくなり自宅退院した. 6年後ADLと知的レベルの全般的な低下を来たし, 検査の結果左USNが再び検出された.3例では, 発症早期に机上検査と行動所見において明らかな左USNが認められたが, その後所見は出現しなくなった. しかし, 新規課題あるいは難易度の高い課題, 疲労時, 反対側に出現した脳梗塞などによりUSNが再び出現した.USNは, USNそのものの重症度, 患者の課題遂行能力および環境要因, の3つの要素の相対的な関係において出現様式が規定されるものと考えられた. 一度は検出できなくなったUSNが, 全般的注意機能の低下や環境変化などにともなって再び出現する場合があることは, 高齢者においてとくに注意すべきである.
著者
古見 嘉之 清水 聰一郎 小川 裕介 廣瀬 大輔 高田 祐輔 金高 秀和 櫻井 博文 前 彰 羽生 春夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.204-208, 2019-04-25 (Released:2019-05-16)
参考文献数
9
被引用文献数
2 7

一般的にN-methyl- tetrazolethiol(NMTT)基を持つ抗菌薬による凝固能異常や腸内細菌叢の菌交代に伴うVitamin K(VK)欠乏による凝固能異常がよく知られている.今回我々は,NMTT基を有さない抗菌薬で,絶食下で凝固能異常をきたした症例を経験したので,報告する.症例は91歳,男性.体動困難を主訴とし,気管支炎による慢性心不全急性増悪の診断にて入院.禁食,補液,抗菌薬に加え利尿剤にて加療.第3病日,左前頭葉出血を発症し,保存的加療,末梢静脈栄養を10日間投与後,中心静脈栄養を投与した.抗菌薬の投与は14日間の後,終了となった.経過中28病日,カテーテル関連血流感染を発症した為,中心静脈栄養から末梢静脈栄養に変更し,バンコマイシン(VCM),セファゾリン(CEZ)が投与された.投与初日のプロトロンビン時間-国際標準比(PT-INR)は1.2だったが,徐々に上昇し第35病日目に7.4と延長.対症療法としてメナテトレノン10 mg,新鮮凍結血漿(FFP)を投与した.血液培養にてメチシリン感受性コアグラーゼ非産生ブドウ球菌が検出され,VCMは中止とした.中止後第36病日目でPT-INRが1.1まで改善するも第42病日目では1.9まで上昇したため,CEZによるVK欠乏と考え,再度VK,FFPの投与を行い改善した.CEZが終了後,PT-INRは正常範囲内に改善した.Methyl-thiadiazole thiol(MTDT)基を持つCEZは稀ではあるが凝固因子の活性化を阻害すること,長期間の禁食下での抗菌薬投与は腸内細菌による内因性のVKの産生抑制により凝固能異常を招く可能性があり,この双方が本症例では関与する可能性が考えられた.凝固能の定期的検査によるモニタリングが必要である可能性が示唆された.
著者
武田 俊平 松沢 大樹 山田 健嗣
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.437-443, 1987-09-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

神経学的異常のない10歳から88歳までの男536人, 女529人に対し頭部CT検査を行ない頭蓋腔容積と脳脊髄液腔容積を測定し脳萎縮指数BAI (脳脊髄液腔容積/頭蓋腔容積×100%) を算出し脳萎縮の加齢性変化を調べた. BAIは男女共25-34歳群が最小でそれ以降加齢の進行と共に指数函数的に増加した: 男; logBAI=-0.260+0.0150×年齢, r=0.707, n=493, p<0.001; 女; logBAI=-0.434+0.0162×年齢, r=0.757, n=504, p<0.001. 従ってBAIは男では20.1年, 女では18.5年で倍加する事になる. 同様に神経学的に異常のない19歳から88歳までの男197人, 女238人に対しゼノン133吸入法を用いて局所脳血流量rISIを測定し加齢性変化を調べた. 女では60歳代から有意にrISIの低下が始まり80歳にいたるまで加齢の進行に伴い略々直線的に低下したのに対し, 男では50歳代からrISIが有意に低下し始め60歳代にいたるが, それ以降80歳代にいたるまでは有意の低下を示さなくなり一定の閾値の存在がうかがえた. そこで一定の閾値 (rISI) 以下の脳血流量を示す脳局所が脱落して萎縮すると仮定して, 各年代において萎縮した脳体積と一致するrISIの度数分布を計算して閾値となるrISIを算出した所, 50歳代から70歳代において男で約32, 女で約37と各々一定した値が得られた. 従ってrISIは全体として正規分布をしながら, 平均として加齢に伴い直線的に低下するとすると, 一定の閾値以下の脳血流量を示す脳組織は加齢に対し略々指数函数的に増加するので, 脳萎縮が指数函数的に進行する結果となる.
著者
川上 治 加藤 雄一郎 太田 壽城
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.7-18, 2006-01-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
84
被引用文献数
14 5

転倒・骨折は高齢者に好発する老年症候群の一つであり, 要介護の主要な要因となっている. 転倒・骨折の要因は, 国内外の調査研究により多くの危険因子が同定されており, そのうち改善可能なものに目標を定める介入研究が行われている. しかし, 高齢者の身体特性は千差万別であり, どのような身体特性を持った高齢者にどのような介入をしたら効果があるかに関して, 系統的な評価は少ない. 本総説では, 高齢者の転倒・骨折の発生率, 危険因子等のこれまでの観察研究と疫学研究に関してまとめた. 特に,介入研究に関しては, 無作為化対照比較試験といった科学的信頼性の高いものを中心にまとめ, 対象者の身体状況ごとの介入方法とその効果について整理した. 日常生活活動の効果については, 介入研究が少ないことから観察研究を中心にまとめた. 高齢者の転倒発生状況は, 転倒の定義によってもまちまちであるが, 欧米諸国での年間転倒率は65歳以上の高齢者で28~35%, 75歳以上では32~42%と特に後期高齢者で高くなる傾向が見られた. 本邦では, 約20%で欧米諸国より低い傾向であった. 脳卒中患者では, 特に自宅に戻った際に転倒する確率が極めて高く, その対策が問題となっている. 転倒の危険因子は内的因子と外的因子があり, 主な改善可能な因子としては, 筋力, バランス能力, 移動能力などの生理的機能と,内服薬や生活習慣の内的因子の他に住宅環境といった外的因子がある. 地域在住の高齢者に対する転倒予防介入では, 筋力向上トレーニングや太極拳といった運動訓練が有効とする報告がある. 施設入所中の虚弱高齢者には, 運動訓練単独ではなく, 個別に危険因子を同定して多角的に介入する方法が有効とあるが, その効果は小さく, より有効なプログラムの開発が必要とされている. また, 転倒予防が困難な例ではヒッププロテクター装着により股関節骨折が予防可能であるが, 定着率が低いのが課題である.
著者
竹越 国夫 山之内 博 東儀 英夫 村上 元孝 亀山 正邦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.13, no.6, pp.371-377, 1976-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
15

老年者の新鮮脳血管障害66例 (脳硬塞38例, 脳出血28例) 中, 41例にステロイドを使用し, 25例は対照群として, ステロイドの有効性を, 意識レベルの改善と生存を指標として検討した. 対象の年齢は, 平均76.2歳であった. 47剖検例については, 病巣部位, 病巣の大きさを確認した. ステロイドの使用方法について, 薬剤はプレドニゾロンが22例, デキサメサゾンが14例, その他5例であった. 薬剤の使用総量は, デキサメサゾン換算量で平均40.4mgであり, 一日最大使用量は, 平均10.0mgであった. ステロイドは, 発症後平均1.7日以内に使用開始し, 平均7.2日間使用した.結果は, 1) 脳硬塞において, 意識レベルの改善は, ステロイド使用群では23例中9例 (39%) にみられたのに対し, 対照群では15例中5例 (33%) にみられ, 両群間に有意の差は認められなかった. 4週生存率は, ステロイド使用群では70%であったのに対し, 対照群では80%であり, 両群間に有意の差は認められなかった. 入院時意識レベル別に検討した場合, 意識レベルの改善率と生存率において, ステロイド使用群と対照群の両群間に有意差は認められなかった.2) 脳出血において, 意識レベルの改善は, ステロイド使用群で18例中5例(27%)にみられたのに対し, 対照群では10例中1例 (10%) にみられ, 両群間に有意差は認められなかった. 4週生存率は, ステロイド使用群で56%であったのに対し, 対照群では10%であった. しかし, ステロイド使用群と対照群の間に, 意識レベルの条件が一致せず, 厳密に比較検討することはできなかった.3) ステロイドの副作用について, 消化管出血が, ステロイド使用群に3例, 対照群に1例みられ, 非ケトン性糖尿病性昏睡が, ステロイド使用群に1例みられた.
著者
下手 公一 朝長 正徳 葛原 茂樹 山之内 博 吉村 正博 小林 祥泰 木谷 光博 山下 一也 村田 昭博 藤原 茂芳 恒松 徳五郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.513-518, 1987-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10

小脳の加齢に伴う萎縮に関する報告はいくつかあり, すでに我々も, 20歳代から70歳代の正常人でCTにおける小脳の加齢性萎縮は, 大脳に比べて軽度認められることを報告している. 今回は, 臨床的及び病理学的に痴呆, 中枢神経系の病変を有さない60歳から102歳の正常老年者の剖検脳142例を対象として, 小脳の加齢性萎縮及び動脈硬化と小脳萎縮との関係について検討した.脳切時に小脳虫部, 小脳半球断面をコピーし, パーソナルコンピューターに接続した Digitizer で断面積を計測し, さらに, 小脳半球のプルキンエ細胞数や脳重量, 小脳重量も計測して, それぞれ年齢との関係を検討した. また, 椎骨脳底動脈系の動脈硬化を(-)から(2+)に分類して, 小脳萎縮との関係を検討した. 結果は, 脳重量, 小脳重量, 小脳虫部断面積, 小脳半球断面積のいずれにおいても年齢と有意の負の相関を示し, 特に80歳を越えてから小脳の萎縮が著明になった. プルキンエ細胞数は, 小脳萎縮よりも早期から加齢に伴い著明に減少した. また, 椎骨脳底動脈系の動脈硬化が強くなるにつれて, 小脳萎縮も強くなり, プルキンエ細胞数も著明に減少した.以上より, 老年者において加齢及び動脈硬化は, 小脳萎縮の重要な因子であることが示唆された.
著者
下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.209-211, 2007 (Released:2007-05-24)
参考文献数
10
被引用文献数
4 3

肥満はさまざまな生活習慣病の原因であり,最近はメタボリックシンドロームとしてその病態が注目されている.健康長寿には健全な食生活によって肥満を防止することが重要である.しかしやせているほど健康というわけではなく,人間には理想的な肥満度がある.この理想的な肥満度は年齢によって異なり,高齢者では生命予後を考えた場合,肥満の予防よりもむしろやせの予防の方が重要である.栄養摂取の不足は高齢者では寿命を短くすることが多い.高齢者の栄養のかかえるさまざまな栄養問題,栄養評価に関する考え方を述べるとともに,健康な長寿を目指すための理想的な肥満度,内臓脂肪や体脂肪分布と健康,そして急激な体重変動が健康障害をもたらす等の知見を示し,長寿と食生活,栄養との関連について幅広く紹介する.
著者
朝長 正徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.545-550, 1979-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
12
被引用文献数
6 8

青斑核は, 脳幹におけるメラニン含有神経細胞よりなる核であり, 呼吸調節, 排尿反射, 循環調節, 睡眠覚醒の調節, 情動, 記憶などと関連した機能が考えられている. 本報告では, 老人脳につき, 青斑核の加齢に伴う変化を検討し, 種々な老年期変性神経疾患の際の青斑核の病変とその意義について考察を加えた. 対象は東京都養育院附属病院連続剖検脳より抽出し, 光顕・電顕的に検索した.1) 神経細胞数の変化: 変性神経疾患を有しない60歳より105歳までの老人脳60例について, 青斑核のほぼ中心部での横断面でみられた神経細胞数を計測し, 60歳未満の12例のそれと比較した結果, 60歳以上, 神経細胞数は漸減し, 80歳以上では54%の減少を示した.2) 神経原線維変化および Lewy 小体: 神経原線維変化は, 60~90歳代では10~20%にみられ, 100歳以上では100%にみられた. 電顕的には, 大脳皮質にみられるものと同じ twisted tubule 構造を示した. Lewy 小体は, 90歳以上で33%にみとめられた. Lewy 小体出現例では, 神経細胞数の減少の著しいものが多かった.3) 変性神経疾患における変化: パーキンソン病, 多系統変性症 (OPCA, SND), 老年痴呆で著明な神経細胞数減少がみられた. 神経原線維変化の多発する進行性核上性麻痺の2例では減数はみられなかった.4) 高血圧, 脳出血との関係: 神経細胞数と高血圧, 脳出血の有無との間に関連はみとめられなかった. Lewy 小体出現例では, 高血圧, 脳出血のないものが多かった.以上より, 老年者では青斑核の変化は著しく, また, 老年期の変性疾患で障害されることが多い. これらの事実は, 老年者および老年期変性疾患における, 睡眠異常を含めて, 種々の自律神経症状に関連して来るものと考えられる.