著者
黒木 宣夫
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.165-173, 2003-03-01
被引用文献数
1

PTSD報道は1995年から報道されるようになり,2000年度はその報道は急増している.阪神・淡路大震災のときの心の危機介入から,最近では損害賠償,労災,民事訴訟,刑事訴訟の報道の増加が特徴的である.大学・総合病院・精神保健福祉センター・精神病院精神科診療所に勤務する精神科医3,528人に対するアンケート調査を実施したが,全体の回収数は764であり,全対象者の21.7%の回収率であった.過去3年間に日常臨床の中でPTSD診断を下したことのある精神科医は53%(389)であった.一番多いのは交通事故後のPTSDである.日本におけるPTSD診断は,個人のパーソナリティ傾向やストレス脆弱性が考慮されずに安易に診断されているのが現状である.PTSDの診断を巡り,精神科医の間で混乱が生じている現状を明らかにしたが,忘れてならないのは,凄まじい強烈な体験=PTSDの心的外傷体験に,どのような精神症状が形成されていったのか,ということであり臨床医としてその対応を迫られているといえよう.
著者
中井 義勝 久保木 富房 野添 新一 藤田 利治 久保 千春 吉政 康直 稲葉 裕 中尾 一和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.729-737, 2002-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
8
被引用文献数
6

1999年の1年間に全国23施設を受診した摂食障害女性患者975人について,臨床背景,身体症状,精神症状と食行動異常,本人の状態と家族の状態,誘発因子につき調査し,神経性食欲不振症制限型(AN-R),同むちゃ食い/排出型(AN-BP),神経性大食症排出型(BN-P),同非排出型,特定不能の摂食障害の5群で比較した.各病型に持徴的な身体症状(AN-Rのうぶ毛密生,柑皮症,AN-BPとBN-Pの唾液腺腫脹や歯牙侵食等)があった.精神症状は各群に共通して出現率が多い項目(過剰適応,強迫傾向)と群間で有意差のある項目(肥満恐怖,対人関係不良,抑うつ等)があった.誘発因子はストレスとダイエットが2大因子であった.この資料は,摂食障害を専門としない人にもその診断に役立つと思われる.
著者
河野 博臣
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.115-123, 1979-04-01 (Released:2017-08-01)

The Sandplay Technique is carried out by having the patients do the sandplay. It was created by M. Lowenfeld, as a method of psychological treatment for children. D. Kalffe, started using it for adults by combining it with the analytical psychology of C. G. Jung. Kawai received training and supervison from her and started introducing the Sandplay Technique in Japan. The author learned it from Kawai and found that the sandplay technique was effective as a psychotherapeutic approach to psychosomatic diseases. Main characteristics can be summarized as follows. 1. You can not proceed it without the patient trust in the therapist. Not everybody can get better, just because he does the sandplay. 2. By touching the sand, the patient regresses into infancy. This can provide him with favorable treatment condition. 3. In case of neurosis, as emotional expression is facilitated readily and abundantly, this approach can be a good indication. 4. Even for the psychosomatic patients with alexithymic tendencies, good therapeutic result can be expected as it appeals to the patient's emotion directly with the use of the sand and no words. 5. It can cover a variety of patients ranging from children to old people. By now, we have found it useful for neuroses, peptic and duodenal ulcers and the irritable colon syndrome. 6. As the indispensable factor, it requires the trust between therapist and patient which is, needless to say, basic for every psychotherapy. Also, good results can be expected when it is combined with other approaches, such as A. T. and T. A. 7. If the patient gets to unconscious contents and can not integrate his mind and body, as might happen in schizophrenia or compulsive neurosis, caution must be taken by the therapist. 8. The most important point is that the therapist selects a right kind of objects for treatment.
著者
西藤 奈菜子 川端 康雄 若林 暁子 吉川 真衣 金沢 徹文 寺嶋 繁典 米田 博
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.64-74, 2021 (Released:2021-01-01)
参考文献数
23

本研究では, P-Fスタディを用いて, 併存疾患の背景に存在する診断閾下の自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder : ASD) のアセスメント可能性について検討した. P-Fスタディの量的分析の結果, 閾下ASD群は非ASD臨床群に比して評定不能のU反応が多く認められた. 質的分析では, 閾下ASD群のU反応において, 「対処困難」 「状況承認」 「自己本位」 「状況誤認」 の4つの特徴が, 全24場面に対する回答内容において, 「過度な他責」 「共感に乏しい自己主張」 「状況に不適当な発言」 「違和感のある語用」 の4つの特徴が認められた. また, 閾下ASD群は非ASD臨床群に比して, U反応の 「状況誤認」, 回答内容の 「状況に不適当な発言」 「違和感のある語用」 が多く認められた. P-Fスタディには, 診断閾下のASD者が有する一見しただけでは表面化しにくい対人交流の課題が反映されやすい可能性があり, 二次的な症状の背景にある診断閾下のASDの把握に有用であると考えられる.
著者
原島 沙季 吉内 一浩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.144-151, 2017 (Released:2017-02-01)
参考文献数
14

がん患者は病状進行や治療に関連してしばしば消化器症状による苦痛を経験し, 治療や患者の生活の質に影響を及ぼす. がん患者の代表的な消化器症状としては, 嘔気・嘔吐, 便秘, 腹水がある. 各症状のマネジメントにおいては, 原因・病態の評価を適切に行い, 薬物療法, 非薬物療法を組み合わせた対応が重要である.
著者
久住 一郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.707-712, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
16

双極性障害は, うつ症状で発症することが多く, 初発時に単極性うつ病と鑑別することは容易ではない. しかし, その治療は後者では抗うつ薬が使われるのに対し, 前者では気分安定薬が用いられ, 抗うつ薬の併用は無効なばかりか, 気分変動を不安定化する. 双極性うつ病と単極性うつ病を鑑別する際に, Ghaemiが提唱した双極スペクトラム障害の概念は有用である. 特に双極性障害の家族歴や抗うつ薬によって惹起される軽躁・躁症状がある場合には, 発揚性パーソナリティ, 若年発症, 反復性の大うつ病エピソード, 短い大うつ病エピソード, 非定型うつ症状, 精神病性うつ病, 産後うつ病, 抗うつ薬の効果減弱, 抗うつ薬治療への非反応などの双極性障害を示唆する徴候 (bipolarity) を注意深くとらえることで, 潜在する双極性障害を見つけ出すことが可能になる.
著者
河西 ひとみ 船場 美佐子 富田 吉敏 藤井 靖 関口 敦 安藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.488-497, 2018 (Released:2018-09-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1

過敏性腸症候群 (IBS) と自己診断して医療機関を受療する患者の中には, 腸管ガスに困難感をもつ一群が存在する. 本稿では腸管ガスに関連する症状を主訴とする多様な病態の診断と鑑別について述べた後, それらの病態をIBS・機能性腹部膨満を中心とした機能性消化管障害・呑気症・自己臭症のカテゴリに整理し, 治療についてまとめた. 中でも治療に難渋することが多い自己臭症は, 同様の病態がolfactory reference syndrome (ORS) として海外でも報告されている. 筆者らが自己臭症について国内外の治療法の効果研究報告を調査したところ, 現時点でRCTを含む比較研究は存在しなかった. そこで, システマティック・レビューと症例報告を紹介した. それらの文献では, 薬物療法では抗うつ薬を有効とする報告が, 心理療法では行動的介入の有効性の報告が多かった. 行動的介入の有効性の報告からは, わが国で自己臭症患者に適用されてきた森田療法や, 第三世代の認知行動療法のacceptance and commitment therapy (ACT) と治療構成要素の共通性が見出される. 腸管ガスに関連する症状には, 多様な病態が関与しうる. 病態理解と効果的な治療のために, さらなる研究とエビデンスの蓄積が期待される.
著者
村松 公美子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.544-553, 2019 (Released:2019-09-01)
参考文献数
22

DSM-5に新たなカテゴリーとして再構成された身体症状症および関連症群の特徴や歴史的変遷について述べた. 身体的愁訴 (機能性身体症状・心気症状) をもつ患者は一般科を受診し, 治療的介入が難しい. Biopsychosocial modelにおいて, Barskyが提唱した身体感覚増幅は, 表出される身体的愁訴 (機能性身体症状・心気症状) の認知的要因の一つとして俯瞰される. 身体感覚増幅をターゲットにして, 機能性身体症状・心気症状を自己管理するためのアプローチとして, Barskyが開発し, 筆者らが翻訳をした認知行動療法プログラムについて紹介した. 身体症状症の 「身体化症状」 に悩まされる患者群の治療は, 国内外で医療経済的観点からも, 今後も大きな課題となっていくものと思われる. 心身医学領域においてこそ, 「身体化症状」 への心身両面からの探求が可能であり, 多職種連携による包括的なアプローチの開発が可能である.
著者
中山 和彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.217-228, 2014-03-01 (Released:2017-08-01)

キュブラー・ロスの示した「死に向かう人の心理過程」は,モーツァルトのレクイエムの曲構成そのものである.この心理反応は死に向かうときばかりでなく,ごく普通の臨床場面でも遭遇する.神経症者の葛藤,パーソナリティ障害や適応障害の症状形成,摂食障害の強迫性,現代型うつ病にみる他罰的反応,軽症化した統合失調症など,その視点で焼き直すと,5段階の心理反応のどこかのステージに位置していることがわかる.本稿では「女性の心身相関」において,この変化する心理反応がどのように心身の症状形成にかかわっているか検証した.特に急性精神病,なかでも女性に多い非定型精神病に焦点を当てた.そして「女性・性」のもつ周期性,それが機動力になっていると思われる,自己治癒力に注目した.隣接するカタトニアの世界から「分け隔てる力」を「女性・性」がもっている.症状形成を極性と周期性でみてとると,振動性と波動性に支配されている.「女性・性」はその波長を調整する力をもっているのではないかと考えた.
著者
町田 英世 工藤 卓 吉川 悟 中井 吉英
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.135-141, 2000-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
14

心療内科で扱う慢性疼痛症では, 症状に対して器質的病因が特定し得なかったり, 病因に相関しない疼痛が持続することが多い.こうした場合, 治療者側の疼痛の評価はより主観的となり, 病態に対する患者との認知の差が大きくなりやすい.そのため治療にあたっては, 患者が家族や治療者と行うコミュニケーションや相互作用に配慮することが重要になってくる.こうした視点で慢性疼痛を捉えることは, 治療的な相互作用の構成を課題とする短期療法の適応が考慮されるべき点である.今回は, 短期療法の一つといえる「問題の外在化」を用いて治療した慢性疼痛症例をあげながら, 心療内科における心理療法の応用について述べたい.
著者
松田 能宣
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.520-524, 2023 (Released:2023-11-01)
参考文献数
18

呼吸器疾患患者において抑うつ,不安の頻度は高い.しかし,呼吸器疾患患者の抑うつ,不安に対する薬物療法は未確立である.また,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対する高用量のベンゾジアゼピン系薬の使用は死亡との関連が報告されている.そのため非薬物療法が優先される.特に,COPDに対する標準治療である呼吸リハビリテーションは抑うつに対する効果も認められている.また,認知行動療法がCOPD患者の心理的苦痛を軽減させることが報告されており,日常臨床ではリハビリテーション部門,看護師,心理職と連携して多職種でアプローチすることでCOPD患者の悪循環認知モデルを改善しうる.このように,今後呼吸器疾患患者の緩和ケアにおける心理職の役割が期待される.呼吸器内科医を対象にアンケート調査を行ったところ,呼吸器内科医は心理職に「患者・家族の苦痛を早期に引き出し,心理的サポートを行うことで,心理的苦痛を軽減すること」を期待していることが明らかになった.
著者
牛田 享宏
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.507-511, 2023 (Released:2023-11-01)
参考文献数
7

痛みは誰しもが経験するものであるが,病気やけがが治っても痛みが残るなどすると非常に苦しい経験が続いてしまうことになる.国際疼痛学会(IASP)は3~6カ月続く痛みを慢性疼痛と定義しているが,長引いているケースにおいては器質的な要因だけでなく心理社会的な要因も関与して持続することも多い.そのため世界保健機関(WHO)とIASPでは国際疾病分類(ICD-11)の中でその分類を定めており,骨関節あるいは神経系の問題に直接的に起因するタイプを慢性二次性疼痛症候群とし,器質的な要因があってもそれだけで説明が困難なものを慢性一次性疼痛と分類している.慢性二次性疼痛症候群のメカニズムについては神経障害性疼痛や侵害受容性疼痛などのモデル動物実験などを通じて明らかにされてきている.一方で慢性一次性疼痛は臨床的には線維筋痛症,慢性腰痛,過敏性腸症候群,舌痛症などがカテゴリされるが,これらについては多彩な養育経験や環境因子などが関与しており少なからず器質的な要因もかかわって,神経系の感作が引き起こされる痛覚変調性疼痛の病態を形成していることも多い.現在,痛覚変調性疼痛についても基礎医学的なメカニズムの解明が進んできているところであり,それらを包括した形での治療の方向性の模索が必要と考えられる.