著者
村上 由則 諸冨 隆 村井 憲男
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.35-42, 1993-01-30

2名の血友病児において、血友病性関節内出血と気象変動との関連を検討した。関節内出血の度数を月ごとに加算したところ、他の月と比較して4〜6月に出血が集中することが明らかになった。また、対象児の出血動態と気象要素との関連を分析したところ、平均気温の日間較差が、出血となんらかの関連をもつことが確認された。出血が特定の関節領域に集中しその度数が増大する悪化期には、出血の始発日前後1〜2日に気温の低下が観察された。この気温の低下傾向は、特定関節の出血以前に先行する出血がある場合に顕著であることも併せて明らかとなった。出血の少ない安定期や逆に出血が多発する頻発期には、気温の変動と出血との関連は明確ではなかった。これらの結果から、気温の変動は血友病性関節内出血に対し影響を及ぼすが、その影響は関節の破壊状況により異なることが示唆された。
著者
鈴村 金彌
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.28-33, 1984-09-30
被引用文献数
1

〔目的・方法〕MA5歳の自閉男児の幼稚園における午前中の諸活動について当日午後対話形式でかれに質問し、その反応を同方法で調べた同MAの健常児の反応と比較分析した事例報告である。〔結果〕自閉児の反応は健常児のそれに較べて次の諸特徴をもつ。(1)言語応答率、とくに正答率が低いが、共に微増傾向を示す。(2)正答、誤答、無答、独語等の諸反応の日内変動が大きい。(3)正答発話の約8割には無関係な語・句・文が付随していた。(4)言語応答はまず文章形態が整い、次に応答内容と事実との整合性が増し、その次に正答連続率が徐々に向上する。(5)正答可能になる質問形式の発達は、まずYes-Noで回答できる質問とWhat'型質問の段階、次にWhere型、How型、Why型、Which型質問の段階、さらにWho型、When型質問の段階の3段階となる。(6)擬音語・擬態語、同一語・句等の繰り返し傾向など、短期間では変化し難い若干の側面を有する。その他。
著者
高橋 潔
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.47-53, 1994-03-31

中度遅滞を示す17歳の知的障害児が入所施設内のクラス異動を契機に、盗み、拒食、無断外出などの不適応行動を示した。これらの行動改善を目的に、カウンセリングアプローチによる関わりを行った。各々の不適応行動は、依存、顕示、反抗、拒否、自暴自棄という内面変化を背景に変容していったと解釈された。また、知的障害児に対するカウンセリングアプローチの効果は、ケースの言語能力・情緒発達と関連して限界が論じられ、生活療法的な環境調整との併用が有効であることが示唆された。
著者
齋藤 一雄 星名 信昭
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.49-54, 1992-03-30
被引用文献数
1

MA3歳代のダウン症児に対して、手拍子によるリズムパターンへの同期の学習効果をみた。その結果、等間隔の〓への同期は2回の学習で50%以上に達した。そして、4/4〓〓〓〓というリズムパターンへの同期は、4回以上繰り返す中で50%以上できるようになったが、80%以上にはならなかった。リズムパターンへの同期は、等間隔の〓への同期→休符の予期→パターンの把握→細かい動きによる調整をして同期するという過程をたどることも示唆された。さらに、示範やテンポ、同期反応のさせ方は、リズムパターンへの同期の学習に影響を与え、テンポの設定や学習のさせ方、課題提示の仕方、指導方法等を子どもに合わせて工夫する必要がある。また、学校全体が休みになったり、長い間学習が中断したりすると、同期の成績が落ちる傾向がみられた。
著者
小山 充道
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.34-43, 1984-12-30

重度失語症と情動障害を伴う後天性脳障害児1症例(初診時13歳5ヵ月、女子)をとりあげ、言語訓練過程のみならず、患児の情動反応についても検討した。その結果、次のような知見を得た。(1)言語機能の改善には、情動安定が計られることが重要であり、失語症が重度であればあるほど、言語訓練そのものよりも、心理療法的接近が必要となってくると考えられた。(2)病理的人格反応図式(小山:1982)に従えば、患児の情動は当初通過症状群の範畴にあり、言語訓練を通して治療者との関係が深まるにつれて、再適応症状群へと移行していったと考えられた。(3)情動安定を計るために、次のような心理療法的接近が考えられた。家族(特に母親)にも、リハビリテーションチームの一員としての自覚をもたせ、共に言語訓練に参加させた。患児の悲痛な訴えを無条件に聞き入れる一方、患児は思春期前期にあることを考慮して、可能な限り一人前の人格者として接するように努めた。言語訓練は患児の精神生活にリズムを与え、患児にとって、単なる言語機能の改善以上の意味をもっているように思えた。
著者
武蔵 博文 高畑 庄蔵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.493-503, 2003-01-30
被引用文献数
2

対象生徒は重度知的障害であり、日常生活で乱暴な言葉・大声等の問題行動を頻発していた。そこで、positive behavioral supportモデルによりアセスメントを行い、問題行動に代替するより望ましい行動に注目する支援目標を設定した。支援ツール「ほめたよ日記」による他者記録・自己確認手続きを学校と家庭で実行した。そのうえで、状況に合わせた支援手続きを段階的に導入・移行した。支援計画は4期にわたった。保護者の記録、学校・家庭での問題行動の観察、保護者の主観的評価を指標とした。対象生徒の問題行動は低減し、記録行動は学校卒業後も1年にわたり継続した。家庭で受け入れ可能な支援手続きのあり方、家庭での問題行動を低減するまでの支援について論じた。
著者
谷口 明子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.283-291, 2004-11-30
被引用文献数
2

入院児への学校教育導入の推進に伴い、入院児の心理理解の必要性が高まっている。本研究の目的は、病弱教育における子ども理解の一環として、入院児の不安の構造と類型を明らかにすることである。入院という状況下の不安を測定する42項目から成る質問紙を作成し、小学校4年生から高校3年生までの157名の入院児を対象に調査を施行した。その結果、入院児の不安が「将来への不安」「孤独感」「治療恐怖」「入院生活不適応感」「とり残される焦り」の5つの下位構造を有し、さらに入院児が3つの不安の類型に分かれることが明らかになった。性差、入院回数、入院期間、罹病期間、発達段階の子どもの属性と不安の構造との関連を検討した結果、女子のほうがより強い「不安」と「孤独感」をもち、発達段階が高いほうが「将来への不安」「入院生活不適応感」をより多く抱いていることが示され、指導にあたって留意すべき点も示唆された。
著者
長南 浩人 齋藤 佐和
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.283-290, 2007-01-30
被引用文献数
2

本研究は、人工内耳を装用した聴覚障害児38名を対象として音節分解(実験1)と音節抽出(実験2)課題を行うことにより、人工内耳装用児の音韻意識の発達的変化を明らかにすることを目的とした。実験1の結果、人工内耳装用児のほとんどの者が直音節の分解を正しくすること、実験2の結果、人工内耳装用児は音節分解の正反応率が音節抽出よりも高いことがわかった。これらの結果は健聴児の反応に近いもので、人工内耳装用児の音韻意識の発達は、全体的には健聴児に類似した発達をしており、人工内耳装用児の音韻表象は音のイメージによって形成されていると考えられた。
著者
三宅 進
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.35-42, 1967-03-31

1.精薄児への単純条件反射実験を行ない、興奮性と制止性の両極性の存在を考究することを目的とする。2.実験群17名、対照群13名からなり、実験群の平均IQは51である。3.手続としては、GSRによる単純陽性条件反射でCSは25psの光刺激、UCSは、500psの強音により、15回の強化試行が行なわれ、その間3回のテスト試行が挿入される。そして実験手順として、順応期、無条件刺激強度判定期、再順応期、強化期、消去期の5期を踏む。4.結果は反応波型、順応過程の定位反射、条件反射形成の成績、消去回数からみられた。5.反応波型の特性は何もうかがえない。6.順応過程の定位反射は傾向としては普通児の方が消失しにくかったが、統計的に有意差はない。7.条件反射形成の成績は先ずテスト試行における反応生起者率でみると精薄児より、普通児の方がより成績が良く、条件反射が形成せられ易いと思える。また、消去期の5回以上消去生起者率も普通児に高い成績がみられた。一方、反応量(テスト試行での)は、精薄児に高く、条件反射形成様相としては、かなりよい過程をたどっているといえる。8.論議は(1)精薄児の条件反射特性と(2)知能と極性についてなされた。(1)反応生起者率、消去生起者率が普通児に高く、テスト期の反応量様相が精薄児にすぐれているという矛盾は興奮一制止の両極性にかたよる三つの分布を想定させる。すなわち、条件反射を形成しえない興奮一制止の両極性により接近した二つの分布と条件反射を形成しうる興奮の極性に近い分布とがある。また、反応量の点から、両群の条件反射様相が論及された。(2)両極性にまたがる三つの分布の要因として、IQからの検討がなされたが、皮質病態が非常に深い場合は別として、とくに関係がないといえる。9.将来の問題としては、"神経の型"への探求がのぞまれるところである。
著者
島田 博祐 高橋 亮 渡辺 勧持 谷口 幸一
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.375-387, 2002-11-30

本研究の目的は、加齢および居住環境要因(入所施設とグループホーム)の適応行動に対する影響を障害程度別に検討することである。対象者は40歳以上の中高齢知的障害者188名であり、適応行動尺度(ABS)および高齢化に関する調査票を材料に用いた。結果として、(1)障害程度にかかわらず「自立機能」に50歳以降における適応得点の低下と不適応者の増加が認められ、中軽度群では「身体的機能」「経済的活動」および「責任感」に、重度群では「掃除洗濯」「仕事」および「心理的障害」の領域に同様の低下が認められた、(2)居住環境要因に関しては「経済的活動」「移動」「一般的自立機能」「台所仕事」の領域で、障害程度に関係なく入所生活者の適応能力がグループホーム生活者より低く、中軽度群での「数と時間」「言語」および「計画性」、重度群での「自己志向性」と「社会性」でも同様の差が認められた。
著者
渋沢 久 渋江 孝夫
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.30-38, 1969-09

PURPOSE: The purpose of this study is to investigate some characteristics of intelligence of cerebral palsied children. MATERIALS: The data of Tanaka-Binet Intelligence Scale(1954)were used. Tests have been administrated to 144 cerebral palsied children and 135 other kinds of physically handicapped children(non-CP)for last 5 years at Kirigaoka School for Crippled Children and Youth. No modifications were made in each items such as allowing for length of time or number. The age range of the subjects was from 6-13 years and the I.Q. range was from 70-129. METHOD: These data were divided into four big groups according to age, each of which has three groups according to I. Q. Here are examples of grouping in case of C.A.6-7., group I C.A.6-7 I.Q.70-89., group II C. A.6-7 1. Q.90-109., group III C. A.6-7 1. Q.110-129., and the like. The group of C.A.12-13 I.Q.110-129 was not made because the number of cases was very few. In each group, there were two sub-groups, CP group and NON-CP group. Then, The percentages of success were calculated for each items of the scale on each sub-groups. RESULTS: The following are the items on which statistically significant difference (P<0.05) was seen in their percentages of success between CP group and NON-CP group. the items on which CP group showed lower percentages of success stringing beads, copying a bead chain, copying a diamond, counting blocks, memory for disigns, reading and report, word naming, sentence building, words with same intial letter, problem of fact, minkus completion. the items on which CP group showed higher percentages of success difference, memory for sentence, picture absurdities, response to picture, similality, comprehension. CONCLUSION: From the above result, we can say that cerebral palsied children are inferior to noncerebral palsied children in such psychological abilities as discrimination of visual stimulus, perception of spacial relationships, visuo-motor coordination, memory for designs, attention span, fluency of word naming and/or vocabulary and they are superior in following abilities, adjustment, thinking, and rote memory for sentence.
著者
石川 由美子 岡崎 慎治 前川 久男
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.71-78, 1999-01-30

ウエルドニッヒ-ホフマン病は、進行性筋委縮性疾患で、筋力の低下からADL(日常生活動作)の全介助および人工換気管理が施されるケースが多い。そのため、言語的および非言語的コミュニケーション手段のほとんどを生後すぐから剥奪されてしまう。このような疾患をもつ患児の在宅での人工換気管理が進められている現状では、最小制約環境(LRE)の保証だけではなく、早期からのコミュニケーション手段の開発と指導が重要となろう。そこで本研究では、弁別学習の適用がコミュニケーション能力の基盤となる音声(単語)、絵、文字の関係性の獲得と理解に有効となるかについて検討した。その結果、指導の有効性と患児の多様な意志の表出の可能性が示唆された。
著者
野田 裕子 田中 道治
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.37-43, 1993-11-30
被引用文献数
5

本研究の目的は、統合保育場面での介入者による場面設定、健常幼児をtutor精神遅滞幼児をtuteeとして関わらせる意図的介入が両者の相互作用にどのような影響を与えるか。又、その結果からどのような働きかけが望ましいかを検討するものである。被験児は、統合保育を行っている保育所に在籍する精神遅滞幼児と健常幼児のペア8組であり、前自由場面、設定場面、介入場面、後自由場面の4場面で実験を行った。以下の結果が得られた。(1)場面を設定し、意図的介入を行うと相互作用の総数は増加する。(2)相互作用の長さは場面設定、意図的介入によっても変化はみられない。(3)意図的介入により、両者の関係が対等に近づいた。(4)場面設定、意図的介入によって相互作用の内容は否定的なものから肯定的なものへ変化した。結果より、健常幼児をtutor精神遅滞幼児をtuteeとして関わらせる意図的介入は効果的であると示唆された。
著者
長尾 秀夫
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.21-28, 1995-01-31
被引用文献数
4

てんかん患者が安全で且つ活発な生活をするために配慮すべき点を明らかにする目的で、0歳から31歳までのてんかん患者204例について事故調査を行った。その中で予防対策上示唆にとむ6事例を抽出し、各事例の発作と事故との関連性及び予防対策について検討した。その結果、発作型では意識障害ゆえに状況に応じた身体の調節ができないもの、急に倒れるものが危険であった。発作頻度は1ヵ月に1回以上の発作が要注意であった。発作時の姿勢では立位、歩行時、自転車乗車時が危険であった。そして、発作が生じた環境は事故との関連性が高く、外傷に対してはヘルメットや車椅子等の補装具を使用する、入浴時や水泳時の溺水、高所よりの落下、湯による熱傷、包丁による切創等には一対一での十分な注意が必要であると思われた。以上の結果と今日までの文献にもとづき、事故予防対策案を提起した。
著者
若松 昭彦
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.19-30, 1989-12-28
被引用文献数
4

自閉症の社会性障害のメカニズム解明の一端として,12歳から18歳までの年長自閉症児22名を対象に表情図及び表情写真の認知能力や基本的な表情の表出能力について実験的検討を行ったところ,自閉症児群には次のような結果が認められた。1)対照群であるMAをマッチングしたダウン症児群よりも基本的な表情の認知・表出能力が全般的に低かった。2)怒りの表情を喜びに分類するエラーが多く認められ,部分的な顔面特徴に基いて反応していることが示唆された。また,このエラーは自閉症的行動特徴を多く示す群に多発していた。3)"泣いた"顔の判断の好成績とは対照的に,"悲しみ"の表情の認知や同一感情カテゴリーに属するものとしての"悲しみ"と"泣く"の意味的関連性の理解などに問題を有する可能性が示された。4)視覚的手がかりによる表情模倣が困難な一群が認められた。5)表情認知・表出能力と言語能力及び社会生活能力の対応関係が示された。
著者
大谷 博俊
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.235-242, 2002-07-31

本研究では知的障害養護学校の高等部の生徒を対象として行われたボランティア体験学習の授業について、授業批評・生徒の学習活動に対する批評・批評者の学習活動に対する社会的妥当性の評価の3点(以下、3つの視点)から分析を試みた。その結果、ボランティアセンターでのテレホンカードの整理は、本研究の対象生徒の活動内容・活動場所として適切であることが3つの視点から明らかにされた。さらに分析対象の授業の改善に3つの視点が影響を与えたことが明らかにされた。