著者
河内 清彦 佐藤 泰正 黒川 哲宇
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-13, 1985-06-30

本研究では、特教学生・盲学校教師(関係群)と一般学生、普通校教師(無関係群)に視覚障害者に対する態度質問紙を自己の意見と社会的望ましさの規準で評定させた。正準相関分析の結果からは、自己の意見と社会的望ましさの下位次元間に対応関係のある5次元的関係性が見い出された。しかし、冗長度分析によると、互いに予測できるのは自己の意見分散の20.2%、社会的望ましさ分散の23.6%で、両者の線形独立の可能性が示唆された。また、因子得点によるグループの比較では、特殊能力は関係群が自己の意見で否定し、統合教育は普通校教師が自己の意見で否定、関係群が社会的望ましさで肯定し、当惑的拒否では、自己の意見、社会的望ましさ共、関係群が否定、無関係群が肯定し、相互理解では、それと全く逆の態度が見られた。このことから、予測の問題に焦点を当てた研究と態度改善での社会的望ましさの役割を顧慮した活動の必要性が提言されている。
著者
井澤 信三 霜田 浩信 氏森 英亜
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.33-42, 2001-11-30

本研究は、自閉症生徒間の社会的非言語行動連鎖において、「相手の行動遂行の中断状況を設定する(以下、中断操作と記す)」という行動連鎖中断法によって、仲間の行動を促す要求言語行動(「○○君、どうぞ!」)を成立させること、他の社会的行動連鎖においても中断操作が要求言語行動を生起させるかを検討すること、を目的とした。初めに自閉症3生徒間における社会的非言語行動連鎖(ボーリング)を形成し、その後、連鎖の途中での中断操作を行った。般化プローブでは他の社会的行動連鎖(黒ひげ・ダーツ)において中断操作の有無を変数とした。結果は、行動連鎖中断法により社会的非言語行動連鎖に要求言語行動を組み込むことができたこと、中断操作が標的行動の生起を制御する変数であること、を示した。中断操作は条件性確立化操作として機能したことが示唆され、行動連鎖の文脈としての意義と要求言語行動の機能化という観点から考察が加えられた。
著者
無藤 賢治 中村 征義 吉田 豊
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.26-32, 1983-12-29
被引用文献数
3

ダウン症児の構音障害の特徴について、より具体的に把握するために、100の単音節を発音材料として検査を行い、その結果をもとに検討をした。対象児は小学部から高等部に至る60名であった。発音は文字の呈示による自発法と聴覚的刺激による模唱法を併用して誘導した。それをテープレコーダーに録音し、個々の発音についての評価を3名で行った。その結果次のような知見を得た。ダウン症児の単音節での構音障害の出現率は極めて高く、その要因には知能の低さに伴うものの他、構音器官の異常さや巧緻性の劣弱さ及び聴覚の障害等も考えられる。単音節別明瞭度の平均は50.8と低く全体の半分程である。範囲は13-80と幅広く、単音節間に明瞭度の差が大である。高明瞭度の単音節は直音かつ清音であり、低明瞭度のものは拗音が大半の中でザ行音も含まれている。直音かつ清音ではラ行音が特に悪い。拗音の平均明瞭度は直音に比べて明らかに低い。子音による明瞭度ではw、t、k、m、j、n、p、b等が高い。低明瞭度の子音は大半が拗音を構成するものであるがdzやrも含まれている。拗音については獲得される時期において正常児との相違が見られる。息のさえぎられ方では破擦音や弾音の明瞭度の低さが目立ち、息のさえぎられる場所では歯音が特に低い。これは正常児や精神薄弱児を対象とした先行研究とは若干異なる。
著者
小柳 恭治 志村 洋 山県 浩 永田 三郎
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.55-70, 1980-03-15

本稿は、わが国におけるオプタコン研究の現状を展望したものであり、これまでに明らかにされてきたオプタコン触読における文字パターン認識のメカニズムや、今後さらに研究を要する諸問題について論議を展開した。1.オプタコン触読訓練プログラムにおいても、「文字→単語→語句→文→文章」の順に学習のステップを組むことが、その読み取りの能力を高めるうえに効果的である。2.最初にカタカナおよびひらがなを学習し、そのあとで漢字を学習したほうが、文字パターンの構成要素についての学習効果の転移その他の面で、より有効である。3.アルファベットやカタカタナ、ひらがなおよび字形が比較的簡単な漢字の場合には、いわゆる<決定的特徴・I型>の把握によって、文字パターン識別が可能である。4.しかし、比較的字形の複雑な漢字の場合にはそれだけでは不十分であり、そこに文字パターンの「分解=合成提示」と、文字の"似顔絵"ともいうべき<決定的特徴・II型>の導入により、字形の全体一部分関係の把握を強める手だてが必要である。5.その文字パターンの<決定的特徴・II型>の導入は、それぞれの文字の触覚的な入力パターンと、記憶の中に定着しているそれぞれの文字の標準パターン(原型)との比較照合過程についての情報処理論とゲシュタルト理論とを統合した考え方によるものである。6.オプタコン触読における誤読傾向の分析は、触知覚による文字パターン認識のメカニズムを知るうえに有力な手がかりとなる。とくに漢字の場合の読み誤りの傾向は、盲人の触覚パターン認識と弱視者の視覚パターン認識との間である共通した原理が働くことを示唆するものとして興味深い。7.漢字辞典でいうところのいわゆる伝統的な部首を考慮しながら、オプタコン触読のための新しい部首の設定を行い、それによって文字パターン識別をより効率化するための漢字のグループ分けの研究が今後必要である。8.学年配当教育漢字の画数の平均値をみると、1年生から2年生にかけてかなり増加し、さらに、3、4年生でも若干増えているが、それ以降はほとんど変わりがない。したがって、高学年になると字形が複雑になり、オプタコン触読が困難になるという心配はない。9.目が見えない子どもたちにも、適切な指導をすれば、表意文字としての漢字の成り立ちやその使い方のおもしろさが理解できる。もちろん、そこには個人差がある。10.文字や数字、記号のみならず、図や表、グラフなども、あまり複雑なものでなければ、オプタコンで読み取ることが可能である。11.教育漢字996字を習得すれば、漢字出現頻度数からいって、一般の漢字かなまじり文をかなりの程度読み取ることができる。12.英文タイプやカナタイプだけではなく、「日本語ワードプロセッサ」などとの併用により、盲人用読書器としてのオプタコンの利用価値は、今後さらに高まっていくであろう。
著者
那須野 三津子
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.247-259, 2011

本研究の目的は、日本人学校へ日本政府から派遣される教員数の算出基準の高かった時期に着目し、障害児教育担当教員の派遣を実現させた要因を解明することとした。当該教員の派遣がおおやけに検討されていなかった1979~1987年度間と、その派遣が検討され実施された1988~2002年度間の教員派遣制度を比較した結果、次の4つの要因が積み重なった段階で当該教員の派遣が実現されたことが明らかになった。第1の段階は、教員派遣制度に対する公的補助が憲法第26条の精神に沿うものであると、国会で表明されたことである。第2の段階は、障害者の権利擁護を促す国際的な動向があり、障害のある子どもの教育機会確保の問題が認識されやすい状況になったことである。第3の段階は、教員派遣制度に対する公的補助が拡充する一方で、障害児教育担当教員派遣要請への対応がなされない場合に、予算配分の問題が顕在化しやすい状況になったことである。第4の段階は、予算の問題とからめて、日本人学校での障害のある子どもの教育機会の確保が日本政府に求められたことである。
著者
那須野 三津子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.247-259, 2011 (Released:2013-08-20)
参考文献数
46

本研究の目的は、日本人学校へ日本政府から派遣される教員数の算出基準の高かった時期に着目し、障害児教育担当教員の派遣を実現させた要因を解明することとした。当該教員の派遣がおおやけに検討されていなかった1979~1987年度間と、その派遣が検討され実施された1988~2002年度間の教員派遣制度を比較した結果、次の4つの要因が積み重なった段階で当該教員の派遣が実現されたことが明らかになった。第1の段階は、教員派遣制度に対する公的補助が憲法第26条の精神に沿うものであると、国会で表明されたことである。第2の段階は、障害者の権利擁護を促す国際的な動向があり、障害のある子どもの教育機会確保の問題が認識されやすい状況になったことである。第3の段階は、教員派遣制度に対する公的補助が拡充する一方で、障害児教育担当教員派遣要請への対応がなされない場合に、予算配分の問題が顕在化しやすい状況になったことである。第4の段階は、予算の問題とからめて、日本人学校での障害のある子どもの教育機会の確保が日本政府に求められたことである。
著者
平澤 紀子 小笠原 恵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.157-166, 2010
被引用文献数
3

本研究は、行動問題を示す人々への支援アプローチである積極的行動支援の進展と課題について、生活の向上という観点から検討した。Journal of Positive Behavior Interventionsの1999年から2008年までに掲載された支援研究65件について、積極的行動支援の目指す10のテーマをもとに分析した。その結果、発達障害のある個人だけでなく、児童生徒集団も含み、生活場面において適応行動を支援することで、行動問題の解決や予防をねらう研究が多く取り組まれ、その効果評価は適応行動が中心であった。一方、こうした支援はおもに行動問題の行動随伴性に基づいており、生活場面の文脈に基づく支援の開発や支援がもたらす生活の向上および環境の改善に関する評価は少なかった。結果から、支援対象となる新たな適応行動の行動随伴性への焦点が不足していることを指摘した。今後の研究として、新たな適応行動の行動随伴性が生じるための環境条件や環境構築の分析に基づいた支援の開発、生活場面を構成する人々に関する行動随伴性の開発、循環的な環境の拡大に関する検討を挙げた。
著者
井上 雅彦 小川 倫央 藤田 継道
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.11-21, 1999
被引用文献数
1

本研究は、自閉症児において、写真刺激を用いた「何」「誰」「どこ」の疑問詞音声質問に対する適切な応答言語行動の訓練について視覚プロンプトの有効性を検討した。また、未訓練の写真刺激、実際場面(自己行為、他者行為)、文章刺激、音声刺激の各情報刺激への般化、質問刺激の語順変化の影響についての検討がなされた。結果、4名中3名は正答を音声でフィードバックしただけでは適切な応答言語行動の獲得が困難であり、獲得段階での視覚プロンプトを必要とした。また、すべての自閉症児が、写真刺激に対する疑問詞質問に対して適切な応答行動を獲得し、未訓練の写真刺激、実際場面(自己行為、他者行為)、文章刺激、音声刺激の各情報刺激に般化することが示された。自閉症児の言語指導における視覚プロンプトの有効性、訓練への効果的な応用性について考察された。
著者
高畑 庄蔵 武蔵 博文
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.13-23, 2000-01-30
被引用文献数
2

本研究は、なわとび運動を新たに習得した重度の知的障害を伴う自閉症児・ダウン症児各々1名と、既に習得している重度知的障害児1名の3名について、(1)なわとび運動の家庭・学校での長期的な経過を報告すること、(2)その自発・維持について検討を試み、家庭への支援のあり方を探ること、(3)地域での運動・スポーツとして適切であるか等の社会的妥当性の検討を行うことを目的とした。なわとび運動の習得と自発・維持を促進するために、生活技能支援ツール(武蔵・高畑,1997)として「フープとびなわ」「がんばりファイル」を家庭へ提供した。その結果、自閉症児・ダウン症児はなわとび運動を習得し、3名とも家庭・学校場面で2年から6年間にわたっての継続が確認された。また、家庭場面で自発的なお手伝い行動等が報告された。さらに社会的妥当性の評定では、なわとび運動や生活技能支援ツールに対して肯定的な評価が得られた。
著者
藤野 博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.173-182, 2009-09-30

PECS(絵カード交換式コミュニケーション・システム)に焦点を当て、AACとしての有効性と音声言語表出の促進に与える効果について諸研究の知見を概観し考察した。PECSの指導が絵カードによる自発的なコミュニケーション行動の獲得に有効であることに関しては、これまでの研究から十分なエビデンスが蓄積されていると考えられた。PECSの音声言語表出促進効果については肯定的な結果が報告されている一方、否定的な結果もあり、一様に効果があるとはいえなかった。そして、PECSで音声言語表出が増加したケースでは指導前からエコラリアや音声模倣などがみられる傾向があり、その観点からの検討の必要性が示唆された。また、使用に伴って音声言語表出の促進が報告されている身振りサインやVOCAなどの他のAACシステムに比較してのPECSの効果については、十分な検討がなされておらず、今後の課題になると考えられた。
著者
江尻 桂子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.431-440, 2013 (Released:2015-03-21)
参考文献数
39

本稿では、障害児の母親の就労について検討した国内外の研究を総覧し、これまでの知見をまとめた。国外の研究からは、(1) 障害児の母親において、就労の困難や労働時間の短縮といったワーク・ロス(労働損失)が生じていること、(2) ワーク・ロスの生起には、障害児本人および家族に関わる要因(障害の重さや世帯構成など)のほか、地域を基盤とした医療体制や支援サービスの充実が関与していること、また、(3) 母親の就労の有無は、母親の精神的健康や収入に影響していることが示されている。国内の研究からも、(1) 障害児の母親において就労困難がみられること、(2) その背景には、子どものケアに関わる社会的資源の不足をはじめとしてさまざまな要因が存在していることが指摘されている。以上の結果をもとに、今後、わが国において障害児の母親の就労問題を検討するにあたって、どのような研究が必要であるかを議論した。
著者
加藤 哲文
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.17-28, 1988-08-27
被引用文献数
2

3名の無発語自閉症児に音声による要求行動を形成した。訓練プログラムは、非音声的反応型(指さし)を形成した後に音声的反応型(分化発声)に移行する、場面般化、訓練効果の維持のチェックという内容からなっている。また、反応型の移行には「修正版時間遅延法」を用いた。訓練設定は、被験児の手の届かない位置に4種類の菓子を並べ、側にいる実験者が被験児の要求行動の自発に対して要求物を充足するというものであった。訓練の結果、非音声的反応型による要求行動自発の機会を十分に保証する手続き(即時対応)によって、後の時間遅延法による要求充足の留保手続きが嫌悪事態にならず、分化発声による要求行動を形成することができた。さらに、般化及び維持も2名は良好であったが、他の1名は不十分であった。このような3名の被験児の反応パタンは、各々の被験児の現在及び過去の要求行動に対する強化史の観点から考察された。