著者
門田 光司
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.15-20, 1992-11-30
被引用文献数
1

9歳6ヵ月の自閉症男児にビデオ教材を用いて質問訓練を実施し、言語レパートリーの拡大と共に、その効果を調べた。ビデオ教材を用いた理由としては、写真よりも社会的事象の文脈が理解されやすいと考えたこと、見慣れた活動や人物を訓練刺激として用いるため、獲得された返答技能が訓練以外の自由な遊び場面でも使用される可能性が高いと考えたことによる。訓練効果の分析としては、獲得された返答技能が自由な遊び場面でも使用されるかどうか、未訓練刺激への般化状況や自由遊び場面における言語相互交渉への本訓練の効果などを調べた。結果は、言語レパートリーの拡大と新奇なビデオ教材への般化が見られたが、自由遊び場面への般化は見られなかった。しかし、これは本児が質問を無視する態度と関係しているように思われた。
著者
服巻 繁 野口 幸弘
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.131-138, 2005-07-31
被引用文献数
2

本研究では、施設内にある作業所で作業中に逸脱行動を繰り返す1名の自閉症青年に対して衝動的行動を改善するために、先行刺激操作による介入と結果操作による介入について検討を行った。先行刺激操作による介入として、作業や余暇など活動ごとに場所を設定し、注意散漫を予防する物理的環境整理、作業の後に好きな活動ができることを示したスケジュール表を用意した。作業中に逸脱した場合は、スケジュール表や文字カードを見せて「仕事に戻ってください」と活動に戻るよう教示する視覚的な手がかりによるルールの呈示を行った。しかし、それだけでは逸脱行動の減少にあまり効果がなかった。続いて、視覚的な手がかりによるルールにトークンシステムとレスポンスコストによる介入を加えた。逸脱なしに仕事を遂行した場合は100円を与え、逸脱した場合には半額の50円に減らした。貯金したお金で、本人の好きな洗剤や雑誌を購入することができ、作業中の逸脱行動が減少し作業の集中度が高まった。結果は、先行刺激操作と結果操作に関して、応用行動分析的考察を行った。
著者
布山 清保
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.41-47, 1992

ここに報告する事例は、精神発達遅滞と低緊張を伴う脳性まひの子ども(2歳)である。行動観察では受け身的な行動が目立つ子どもであったが、周囲の状況や係わり方によっては能動的な行動を示した。そこで、選択的な状況、動きのある物に手を伸ばし操作する状況など、係わり手が子どもの現す行動に応じて状況設定を随時工夫していくことによって、より活動的で調整された外界とのやりとりを引き出そうと試みた。そして、係わり合いの経過から、学校教育現場で係わり手が教材などを用いて状況を設定する際に留意すべき点をまとめてみた。子どもが理解できる状況であること、行動の発現・展開・終止が明確になる状況であること、行動体制を強化・分化・高次化できる状況であること、子どもと係わり手が交信関係によって支え合うことのできる状況であること、子どもが自ら選択できる状況であることについて整理した。
著者
大木 文子 池田 由紀江
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.26-35, 1985-06-30
被引用文献数
1

2語発話初期の精神発達遅滞児の統辞的2語発話を統辞意味論的に分析することによりその初期文法の解明を試みた。2語発話初期の精神発達遅滞児8名,及び同様の表出言語年齢の普通児3名について、4ヶ月間その発話を分析した。収集された発話のうち2語発話動詞述語文のみについて、統辞意味論的構造分析を施した。その結果、普通児は、"だれだれがどうする"の意味関係を示す2語発話を早期から獲得し、その使用も集中していたのに対し、精神発達遅滞児は、このような傾向があらわれず、"-がある"や"-をどうする"などの発話が比較的一定して使用されていることが示された。これより、普通児は、人の行為を早期から集中して表現するのに対し、精神発達遅滞児は、人以外のものについての表現が多く、行為や、人そのものに対する抽象化に困難を示すことが推察された。これより、普通児の言語発達との質的な差異が示唆された。
著者
武居 渡 鳥越 隆士 四日市 章
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.33-41, 1997-11-30
被引用文献数
1

本研究では、離島に住む就学経験のない聾者が自発的に発展させた身振りについて記述し、その特徴を検討した。調査者と対象の聾者との自由会話をビデオに収録し、すべての身振りを単語を単位として書き起こした。その結果、全体の約3割が指さしによって構成されており、指さしが聾者の身振りの中で重要な機能を担っていた。具体物に対する指さしだけでなく、その場にないものまで指さしを使って表し、指さしが語彙として定着した例も見られた。また、指さし以外の身振りでは、現実世界のものの扱い方や対象物をパントマイム的に再現しているわけではなく、手型自体があるカテゴリーを持ち、聾者は現実世界にあわせて手型を選択的に使用していた。このような特徴は、日本手話やアメリカ手話などの体系的な手話言語にも見られ、体系的な手話言語が、身振りの特徴を基にして発展していることが示唆された。
著者
リー グレッグ
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.427-441, 2010-03-31

Recent developments in fields such as newborn hearing screening and cochlear implantation have served to ensure that special educational programmes required to meet the needs of children who are deaf or hard of hearing are increasingly diverse and complex. Consequently, a broader range of professional knowledge and skills is required of these children's teachers than at any point in the history of this field. The present article reviews the current situation in education for children who are deaf, and argues that preparation of teachers so that they are able to work across the full range of potential professional roles is neither logical nor possible in this context. A model for initial and continuing teacher education based on a combination of core and specific elective studies is proposed as an alternative to attempting comprehensive education for teachers of children who are deaf or hard of hearing.
著者
徳永 英明 田中 道治
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-11, 2004-05-30

本研究の目的は、知的障害児および健常児の自己意識について、自己の変容に対するイメージと理想の自己イメージに着目しながら、その様相を明らかにし、両イメージの関係を発達的に検討することにあった。語彙年齢をもとに区分された3段階の発達レベルの知的障害児および健常児にインタビューし、変容の自己イメージについては、内容領域、程度、重要度の観点から検討した。また、理想の自己イメージについては、内容領域、願望度の点から検討を加えた。その結果、知的障害児が『社会性』の面で、健常児が『能力・身体』の面で自己の変容および理想を認めやすいという特徴がみられた。また、健常児において、変容の程度-変容の重要度-理想の願望度が密接に関連し合っているのに対し、知的障害児においては、特に、変容の程度-理想の願望度で正の相関の傾向が示された。さらに、発達が進むにつれ、知的障害児の場合、『社会性』のもつ意味がより重要になってくることが示唆された。
著者
中司 利一
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.29-42, 1988-02-20

SD法を使用して、日本と韓国の大学生が肢体不自由児に対してどのようなイメージを持っているか研究した。対象とされた言葉は「肢体不自由児」と比較のための「健常児」、「老人」、「孤児」、「精神薄弱児」、「盲児」の6概念であった。調査対象は日本は2か所の大学生317名と韓国は3か所の大学生105名である。その結果、日本では肢体不自由児はやや遅いが強く陽気な存在であるというイメージが持たれていた。しかし、昔からの誤ったイメージが他の障害児に対してまだ一部残されていることも明らかにされた。また、韓国の大学生との比較では韓国の大学生が主としてマイナスの方向の形容詞でイメージをつくっているのに対し、日本の大学生はプラスマイナス両方向の形容詞でイメージをつくっている点に違いがあった。さらに、イメージの変化を調べるために前研究と比較したところ、肢体不自由児は幾分変化しているが盲児のイメージは変化していないことがわかった。
著者
李 尚禧 吉野 公喜 蘆原 郁
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.1-9, 1998-11-30
被引用文献数
1

聴覚障害者の語音識別能力における個人差の原因を解明することは、聴覚障害児・者の言語訓練・聴能訓練プログラムの開発において重要である。本研究では、聴覚障害者の母音ホルマント周波数の弁別能力と語音識別能力との関係を明らかにすることを目的とした。感音聴覚障害者12名を被験者として、自然音声の日本語母音の第2ホルマント周波数を人工的に変化させた加工音声を作製し、実際の音声知覚により近い状態におけるホルマント周波数の弁別閾値の測定を行った。その結果、ホルマント周波数の弁別能力と語音識別能力の間には高い相関関係が見られ、語音識別におけるホルマント周波数の弁別能力の重要性が示唆された。また、平均聴力レベルとホルマント周波数の弁別閾値の間には必ずしも一致が見られないことが示された。
著者
岡 茂
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.23-29, 1988-06-10

身体虚弱児の自己諸側面に関する認知を把握することは、虚弱児教育に際しての基礎条件である。本研究では、以下の視点から問題を設定した。健康の自己認知は固定したものではなく、他の自己認知や今後の人生をどう生きたいかという生活目標などと関連し合うものである。そこで、健康状態、体力、運動能力、性格の自己認知が生活目標に及ぼす影響を捉えた。同時に、虚弱児と健康児の比較から、虚弱児の自己認知および生活目標の特徴を明らかにした。一般校の児童を対象とし、質問紙調査を実施した。生活目標に影響を及ぼす自己認知の重要性の順位は、1.性格、運動能力、2.体格・体力、3.健康、であった。また、虚弱児の特徴として、体格・体力、運動能力の自己認知が低く、性格が内向的であることが健康児との比較から明らかになった。
著者
三沢 義一 小畑 文也
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.1-9, 1987-09-14
被引用文献数
1

精神薄弱者の職場適応の実態と、それに影響を及ぼすと思われる個人的、環境的要因との関連を検討することを目的として、三沢ら(1983)による評定尺度を用い調査研究を実施した。分析対象となったのは現に企業に雇用されている198名の精神薄弱者の資料である。職場適応評定尺度の因子分析の結果、5つの因子(作業適応、勤務態度、人間関係、身辺処理、耐性)を抽出した。このうち作業適応の因子は説明率も極めて高く、精神薄弱者に対しても企業側は作業の能率や質の高さを求めていることがうかがわれた。さらに、個人的、環境的要因と各因子の推定因子得点の間で数量化1類による分析を行った。各因子と個人的、環境的要因の関連はさまざまであり、これらの結果を知的水準、パーソナリティ特性、勤務態度要因、人間関係要因、身辺処理の各視点から考察した。