著者
平澤 一 大橋 佳子 萩原 佐地子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.39-46, 1982-02-27

吃音が聞き手にどのように受け取られどのような扱いを受けるかを知ることは、吃音問題への洞察を深めることにもなり、臨床的意義は大きい。われわれはまず「吃」という言葉が古くは何を意味したかを知るために、インド、中国、および明治以前の日本の古文献を渉猟し、吃音に関する記述を検索した。盲や聾唖にくらべるとその資料は極めて乏しく、いずれも吃音の外面的特徴だけに目が向けられていて、吃音に対する深い理解や洞察に欠けている。ついで、金鶴泳の作品集から吃音の体験記を引用し、吃音に対する聞き手の反応や態度について考察した。この文献例をとおして確実に言えることは、聞き手の吃音に対する無知、無理解、否定的態度が吃音者の社会への適応を一層困難にし、生き方に決定的な影響を与えているということである。
著者
遠藤 信一
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.21-25, 1992-03-30

本研究は、重症心身障害児施設に入所している一人の重度・重複障害幼児との具体的な取り組みを通して、子どもの意思の表出を促す際に、関わり手側に求められる視点を明らかにすることを目的とした。子どもに対して一方的な関わりにならないようにあらゆる場面で子どもの意向を問いかける工夫を続けていくと、指導開始当初は一人遊びをしていることが多かった対象児が、ものに働きかける動きがより明確になり、さらに人に近付いて要求を伝えようとするなどの動きがみられるようになった。重度・重複障害児の意思の表出を促すためには、あらゆる場面でコミュニケーションを図っていくことが大切であり、その際子どもにみられた何らかの動きをある意思の現れと"仮に"受け止めていくことや子どもが意思を発現しやすくするために活動の開始や終了を明確にすることなどが大切であるといえる。
著者
裴 虹 園山 繁樹
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.505-516, 2012 (Released:2013-09-14)
参考文献数
16

本研究では、選択行動を一連の行動連鎖ととらえた「選択行動アセスメントマニュアル」を作成し、中国の知的障害特別支援学校1校で実際に適用し、その社会的妥当性を検討した。教師22名に本アセスメントマニュアルを、学校の多くの日常場面において、担当する知的障害生徒22名に適用してもらい、適用後に、教師に対して、「記録表の内容」「記録表の記入」「アセスメントの実施」「アセスメントの効果」「アセスメントマニュアルの合理性」の5項目に関する社会的妥当性評価のアンケート調査を実施した。その結果、選択行動アセスメントマニュアルはおおむね妥当であったと評価されたが、記録表の記入が難しかった教師も少数あり、記録の仕方やアセスメントの実施により、時間がかからないような工夫が求められた。今後は、本アセスメントマニュアルを適用した指導事例の検討を行い、その具体的な有用性と使用方法を検討する必要がある。
著者
国分 充 葉石 光一 奥住 秀之
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.27-35, 1994-01-31
被引用文献数
7

バランス運動に関し、片足立ちの成績に比して平均台歩きの成績が低いという群(S群)の障害様相が、行動調整能力の問題と関連しているかどうかを確かめるため、重度から軽度までの知能障害者6歳から51歳129名を対象に、平均台歩きと片足立ち、行動調整能力についてはGarfieldのmotor impersistence testのうちの行動の持続に関する3課題の測定を行った。その結果、片足立ちは行動調整能力との関連がきわめて明瞭であるのに対し、平均台歩きは行動調整能力と無関係ではないにしても関連は弱いことがわかり、S群の障害様相が行動調整能力の問題と結びついていることが明らかとなった。また、知能障害者7歳から51歳92名を対象として行った台上片足立ちの測定から、行動調整能力の低い者の場合には、直観的に行動を方向づけ、調整する物が存在する状況の中でバランス能力を改善していくという指導法が示唆された。
著者
藤田 知美
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.321-328, 2013

本稿は、少年院で提供される教科教育の研究動向について、近年の施策を踏まえつつ概観することを目的とする。少年院において、在院者は、中学校教育・高等学校教育のほか、社会生活に必要な学力を身につけるための補習教育も受けている。この教科教育に関わる伝統的な課題で、現在も引き続き検討されていることには、学校教育機関との交流の活発化、矯正教育としての独自の授業理念をもつこと、および学習理論を現場に生かす研究や工夫を進めることの3点が挙げられる。今後、少年院法改正への動きを受けて、教科教育の指導内容や方法、体制についての研究が進むことが予想されるが、教科教育(特に義務教育)に関する問題はこうした実務的な範囲にとどまらず、少年院において教科教育を実施することの意義と、少年院において教科教育を受ける在院者の法律上の位置づけについて検討されるべきである。
著者
赤塚 正一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.311-319, 2013
被引用文献数
3

本研究では、アスぺルガー症候群と診断されたある男児を対象に、保育所から小学校の通常学級への移行支援を実践した。その移行支援では、(1) チームを組織し、(2) 情報の共有のためにツールを整え、ミーティングを継続し、(3) 移行支援全体のマネジメント役を明確に位置づけることが重要と考えた。入学前の移行支援会議は、保育所・小学校双方の関係者に連携・協働の実感をもたらし、小学校で「個別の指導計画」に基づく支援が展開された。さらに、入学後の移行支援会議の継続により、学校体制での移行支援が展開された。そして、支援対象児の学校生活全般の適応状態は、学校生活が進むにつれて良好となり、保護者の不安が軽減された。以上の結果から、引き継ぎ段階での情報共有の工夫、入学前後の継続的な移行支援会議の開催、および巡回相談チームによる移行支援全体のマネジメントの効果が認められたと考察した。
著者
黒木 康代 納富 恵子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.21-30, 2005-05-31

本研究の目的は、服濡らし・放尿の行動障害を8年間にわたり示していた、知的障害者入所更生施設の利用者に対し行った包括的アプローチにより、改善がみられた取り組みの過程を分析し、施設において実施可能な支援を検討することである。本事例では、最初は服を濡らす行動に対し行動自体の制止、放尿については、誘導と後片付けという対応を行った。しかし、それらの減少はみられなかった。その後、保護者との情報交換をもとに、介入の標的行動を「服を濡らす」ことから、その結果生じる「服を着替える」という行動に転換し、服を濡らさず居室で着替えることを形成した。また、並行して、スケジュールの調整、好み・特性を生かした療育の導入という環境に対するアプローチを行った。その結果、それらの行動障害は改善し、1年6か月の間維持された。本事例の行動障害の改善には、行動の機能の推定に加え、保護者からの情報をもとに、服を着替えるという適切な行動の形成と、環境の調整を行う包括的なアプローチが有効であったと考えられる。
著者
保坂 真理 須藤 貢明
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.8-17, 1979-06-15

本研究は、ろう児と普通児に語句の組み合わせ実験と文の再生実験を行うことによって、彼らの文の生成能力と認知能力を測定し、言語発達の様相を明らかにすることを試みた報告である。語句の組み合わせ実験は一枚の絵と語句リストを提示し、提示語句を組み合わせて絵に合う文を作るという手続きで行い、再生実験は文を文字提示し、音読後すぐに文字でその文を再生するという手続きで行った。そして、ろう児は小学部高学年と中学部の児童・生徒を被験者としたが、小学部と中学部の間で両実験のスコアに有意差はなかった。また、ろう児は小学校2年生の普通児に比べ両実験共に低いスコアであった。さらに、普通児は再生実験のスコアが組み合わせ実験のスコアより高い値を示したのに対し、ろう児はその逆の傾向を示した。これらの結果から、小学部高学年と中学部のろう児は小学校2年生の普通児よりも構文力が低く、また、その発達は停滞していると考えられた。
著者
飯村 敦子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.7-13, 1994-03-31

我々は、ダウン症児の早期教育において、乳幼児期から豊かな感覚運動刺激を与え、子供にとっては、遊び的要素を含んだムーブメント活動の中で、その発達を援助することが可能であると考えている。そこで本研究は、乳児期からのムーブメント教育による指導を10年間にわたり継続してきたダウン症児(S.H児,男,昭和56年9月9日生)の発達の分析と、その指導経過について検討することを目的に取り組んだ。1982年11月から1992年12月までの指導期間は、対象児の発達課題とプログラム内容から5期に分けられ、各期についてプログラムターゲットおよび内容について記した。対象児の発達を分析した結果、運動・感覚、言語、社会性スキルの全面的な発達変化が確認された。また、対象児の運動スキルは、乳幼児期(7歳頃まで)を通して達成されたが、言語・社会性スキルの発達は、学童期(11歳頃)にかけて運動スキルの発達に追いつくという様相を示した。このことから、言語、社会性スキルの発達は、運動スキルの発達をベースとして促進されることが示唆された。
著者
小田 浩伸 藤田 継道 井上 雅彦
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.21-31, 1998-09-30

本研究では、音声表出言語が全くなく、かつ、音声理解言語が殆どない重度知的障害青年4名を対象に、2つのコミュニケーション機能(マンドvsタクト)と2つのコミュニケーションモード(受容vs表出)および2つのシンボル(写真vs身振り)から成る8課題について、獲得の早さと般化・維持の容易さが条件交替デザインによって比較された。その結果、4名全員が写真と身振りを用いたマンドの受容の2課題を除く6課題を獲得した。また、6課題の中では4名全員に共通して「写真によるタクトの受容」課題の獲得・般化・維持が最も容易であり、「身振りによるタクトの表出」課題の獲得・般化・維持が最も困難であった。シンボルが写真・身振りのいずれの場合でも、全対象児にとってマンドはタクトよりも表出モードでは獲得・般化・維持が容易であった。どちらのシンボルの場合でも、全対象児にとって、タクトでは受容モードの方が表出モードよりも獲得・般化・維持が容易であった。またシンボルは、全対象児にとって写真の方が身振りよりも獲得・般化・維持が容易であった。これらの結果から、音声理解言語も表出言語も乏しい重度知的障害児にとっては、実物と類縁性の高い写真や写像性の高い身振りをコミュニケーションの媒体とし、その産出が簡単なポインティングや身振りの獲得を目指した指導の有効性が示唆された。
著者
阿部 芳久
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.49-55, 1989-09-30
被引用文献数
1

本事例では、自閉児を対象にして、生活場面で機会利用型指導法を適用し、書字による要求言語を形成した。その後、指導成果の般化の状態から、要求言語形成、及び般化を促進するための先行要件について検討した。その結果、次のことが指摘された。要求実現のために大人を意図的に利用することが学習されていない自閉児に対しては、般化促進技術について論議する以前に、まず、要求充足者との依存関係を成立させることが必要であり、その後に、要求実現のための、充足者への働きかけの手段を豊富にしてやることが不可欠である。さらに、反応般化を促進させるためには、要求言語行動の一部となる語をできるだけ多く、あらかじめ形成しておくことが重要である。
著者
山根 律子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.15-25, 1983-09-01

自閉症児の認知過程における特性を明らかにするために、本研究では自閉症児における短期記憶能力を視覚からのインプット刺激について検討した。実験は遅延弁別反応を継時提示、10秒遅延て30秒遅延の3条件で行なった。刺激は、処理コードに視覚手がかりが有効なものと、聴覚手がかりが有効なものの2組を使用して比較検討した。第1実験では対照群として一般3歳児が、第2実験では自閉症児群とMAマッチングした精神遅滞児群、MA5歳代の普通児群が設定された。その結果、自閉症児は刺激が視覚的にインプットされた場合でも、普通児と同様にコードとしては聴覚的なコードを使用可能であることが明らかにされた。一方て視覚的なコードに関しては、普通児に比べて把持が劣る傾向がみられたが、これは精神遅滞児と類似した傾向であった。従ってて自閉症児の示す特有な認知障害は、さらに長期記憶も含めたレベルの障害に起因するものと考えられた。
著者
冨安 芳和 小塩 允護 小宮 三彌
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.60-69, 1973-03-01

本研究は、食事中にさまざまな不適切な行動を示す重度精神薄弱児にオペラント技法を適用し、そうした不適切な行動を修正し、適切な食事行動を形成するために試みられた。訓練に際しては、不適切な行動に対して負の強化を、適切な行動に正の強化を与えるという手続をとった。修正すべき不適切な行動としてまずとりあげられたのは、a)食器をひっくりかえす、b)スプーンを使わずに食べる行動であり、27セッションからは、これらに、c)食器をたたきつける行動が、80セッションからは、d)食べ物をこぼす行動が追加された。食事中にこのような不適切な行動が起こるたびに、言語的叱責と同時にお盆をとりあげ15秒間の食事からのタイムアウトを行なう。また、スプーンを口まで2回連続して運ぶごとに、言語的容認と同時に身体的接触を与えるというものである。施設での観察、訓練前の観察(第1基底水準期)、訓練(第1、第2訓練期)、訓練の効果をみるための観察(第2基底水準期)、訓練(第3〜6訓練期)というスケジュールをたて、その間の食事行動をVTRによって記録した。全体で99セッションであったが、訓練のためには84セッションを当て、残りの15セッションは訓練なしの観察に当てられた。こうした記録の分析の結果、およそ次のようなことがらが明らかになった。(1)ここでとりあげられた4つの不適切な行動は、強化手続が与えられると、まず急激に減少し、その後着実な減少をつづけ、ほとんど消失する。(2)第2基底水準期では、各々の不適切な行動は、前後の訓練期間にくらべ、有意な増加を示している。(3)訓練期間中に食器をスプーンで小きざみにたたくという行動が一時的に高まったが、適切な食事行動が増大するにつれ消失している。(4)食事行動のみではなく、その他の社会的行動においても望ましい傾向が増大し、この訓練がパーソナリティの安定化にも作用したと思われる。
著者
清水 一美
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.25-33, 2001-03-31

姿勢の悪さ、構音の一部における置換そして落ち着きを欠くという状態の認められる一幼稚園児に対し、夏休みなどの期間は休止したが、およそ1年間の期間の中で、毎週1回(約1時間)の訓練を実施し、保護者ならびに幼稚園の教師、クラスメイトそして筆者が特に問題を感じない程度に、全3課題を改善できた。これは、他の方法を併用せずに、複数の課題をもつ子どもを支援できる点で、動作法の利便性が示されたものである。また、動作法は直接的には身体動作へ働きかける方法なので、特に構音修正に及ぼす効果について検討する資料を得る試みとして、訓練過程における音声波形および声道断面図の変化が求められた。詳細については今後の研究に待つとしても、全体として、発語器官の使い方のコントロールを改善する効果を生じさせるという示唆を得た。
著者
小島 道生
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-11, 2010-05-31
被引用文献数
1

本研究の目的は、知的障害児の自己概念の特徴を自己叙述と選択式の2つの方法により明らかにするとともに、生活年齢および精神年齢、重要な他者からの賞賛・叱責の認知、他者意識の程度と自己概念との関係について明らかにすることである。対象児は、知的障害児32名(ダウン症児13名、原因不明の知的障害児19名)で、平均生活年齢は185か月(標準偏差27.6)、平均精神年齢は89か月(標準偏差18.1)であった。自己叙述と選択式の関係について分析したところ、自己概念の回答量と選択式による自己概念の高低には、関係がないことが示唆された。対象児を原因不明の知的障害児とダウン症児で2群に分けて検討したところ、自己概念の回答量と選択式の得点に違いはなかった。生活年齢および精神年齢との関係を検討したところ、自己叙述の結果では、発達的変化は明らかにはならなかった。選択式の結果では、学業領域と運動領域において、精神年齢が高くなるほど得点が低くなるという従来の先行研究とも一致した結果が導かれた。さらに、自己概念と重要な他者からの賞賛・叱責および他者意識の程度との関係について検討したところ、より賞賛が多く、叱責の少ない対象児ほど学業と運動領域の自己概念を高めることや、他者のことをより強く意識している対象児ほど自己についてより語ることができるものの、社会的受容感が低いことなどが明らかとなった。
著者
小川 義博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.85-93, 1974-03-29

肢体不自由児の教育を考える時、普通学校で教育されるべきか、養護学校で教育されるべきかの決定は非常に難しく、そして児童の将来にとって重要な問題であると考えられる。特に脳性まひ児は合併障害のため、その決定は一層複雑で、困難な問題である。そこで、普通学校で教育を受けている脳性まひ児の実態とその問題点を調査し、今後の脳性まひ児の教育を考える一助としたい。調査方法は普通学校に通学している脳性まひ児61名の父兄に入学期の問題、家庭生活、日常生活動作能力、学校生活についての調査用紙を現在の担任教師に学校生活全般についての調査用紙を配布して行なった。調査は昭和48年7月から9月の期間であった。主な調査結果は以下のとおりであった。1.回答率は父兄77%、担任教師62%であった。2.児童の病型はSpastic型75%で、Athetotic型25%であった。入学時の能力は平均IQ99.6、下肢運動能力年令35.2ヵ月であり、障害は非常に軽度であった。3.多くの父兄は障害が軽度であることを理由に、普通学校入学を希望したが、学校側は障害程度に関係なく53%に拒否的で、58%に入学を認めるための条件を求めた。4.日常生活動作能力は歩行・書字が劣っているが、他の面はほとんど自立していた。しかし70%の児童が通学、校外行事等に父兄の附添いを必要としていた。5.健康状態に問題なく、89%の父兄が児童の精神面での成長を評価し、普通学校の生活に満足していたが、機能訓練、障害の診察を受けていない児童がほとんどであった。6.教師の95%が危険の防止を理由にかなり負担を感じており、そして機能障害だけでなく精神発達遅滞を教師の34%が問題であると判断していた。7.学習成績は知的能力と関係があったが、下肢障害の程度とは関係なかった。学習場面では下肢の障害より、上肢障害と随伴障害が問題となっていた。8.教師は脳性まひ児の存在を学級経営上で悪い影響より、他人への態度、障害者への関心での良い影響の方が多いと判断していた。9.ほとんどの児童は今後も普通学校で教育を受けた方が良いと判断されていたが、IQ90以下の児童は養護学校、特殊学級の方が望ましいと判断されていた。このように障害が軽度の脳性まひ児であったにもかかわらず、その学校生活には多くの問題をもっていた。今後より多くの脳性まひ児が普通学校で教育されるために、身体の機能障害の面には当然のこと精神発達の面に充分な配慮がなされなければならないと考えられる。
著者
新井 良保 小林 芳文
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.53-60, 2000-03-30
被引用文献数
1

近年、重度重複障害児(以下,重障児と略す)の感覚運動指導が、大型遊具など動的環境の中でさかんに行われるようになってきた。本研究は、首の不安定な低緊張の重度脳性まひ児が、ムーブメント法を中心とした約8年間の指導経過の中で、支持歩行まで可能になった事例を通し、重障児のための感覚運動発達アセスメントの意義や遊具活用の教育効果、さらには感覚運動指導のあり方について検討したものである。方法は、本研究対象児の定期的参加による「ムーブメント教室」での遊具活用を中心とした感覚運動プログラムの関わりの中でMEPA-IIを軸とした発達の変化を捉えることであった。結果として重障児O.Yの姿勢・移動面では、介助立位・支持歩行が確認でき、また操作面では両手動作が、そしてコミュニケーション面では自発的要求行動の発達が把握できた。このことより、重障児の感覚運動指導に連携した感覚運動プログラムの必要性、また子どもの成長・発達、教育効果の向上にとって魅力的な遊具環境を設定することの重要性、そして楽しさと喜びの中に発達があるとする療育の意義が示唆された。