著者
計良 由香
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.11-18, 2008
被引用文献数
3

本稿は、軽度発達障害児の通級による指導と特別支援教育推進の方向性について検討することを目的とした。従来から軽度発達障害児とかかわってきた言語難聴担当者を対象としたアンケート調査を実施し、新潟県と福島県の69名から回答を得た。担当者の約9割が指導対象ではない軽度発達障害児を指導し、そのうち約5割が指導上の課題として目標設定の難しさと通級による指導の評価の難しさを挙げた。また、回答者の4分の1が校内の特別支援教育コーディネーターを兼務していた。言語難聴担当者が軽度発達障害児の指導および校内の特別支援教育推進にあたることは必要であり、そのためには軽度発達障害児の支援に携わる関係者の連携促進と通級指導教室の増設が急務であることが示唆された。
著者
高野 美由紀 有働 眞理子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.75-84, 2010-07-31

養護学校においてオノマトペ(擬音語・擬態語)を含む教師発話がどのような教育的効果をもたらす行為(教育的行為)として機能するのかを明らかにし、教育的行為とオノマトペの意味的および音韻的特徴との関連について考察した。オノマトペを含む教師発話57発話、その発話に含まれるオノマトペ43タイプを分析対象とした。オノマトペを含む教師発話の教育的行為を抽出したところ、指示(個人向け)、応援、説明(解説)の順に頻度が多かった。指示(個人向け)の発話には、動きを表現する1モーラ語基のオノマトペを含み、応援の発話は、繰り返しのオノマトペが児童の身体動作に沿って使用されているものが多く、教師発話の教育的行為と、その発話に含まれるオノマトペの表現形式との関連性が示唆された。オノマトペの使用状況や効果をより客観的な方法により把握し、分析することで、特別支援教育におけるオノマトペの効果的な活用を普遍化しうるであろう。
著者
野口 晃菜 米田 宏樹
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.445-455, 2012

米国では、学力向上と格差の縮小を目的とした「スタンダード・ベース改革」が行われている。連邦法において、障害のある児童生徒に対しても、スタンダード・ベース・カリキュラムの適用と試験への参加が義務づけられた。その一方で、知的障害のある児童生徒については、障害特性に応じた機能的生活カリキュラムが適用されてきた。本稿では、スタンダード・ベース改革の法的枠組みを明らかにし、知的障害のある児童生徒へのスタンダード・ベース・カリキュラムの適用に関する議論を整理した。その結果、(1)教育改革の一環として、障害のある児童生徒が試験へ参加することにより学校の指導・支援状況が評価されること、(2)知的障害のある児童生徒については、教育内容・方法に大幅に変更が加えられるが、代替スタンダードに基づいて評価をしなければならないこと、が明らかになった。今後、代替スタンダードの内容設定と、評価方法の実践的検討を進める必要がある。
著者
浜 孝明
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.63-67, 1989-03-17
著者
小山 充道
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.9-18, 1979-10-15

本研究は、準備電位の臨床的応用を目標とした基礎研究と位置づけられ、その第1段階として準備電位の準備性について健常成人を用いて検索したものである。実験手続きとしては、従来用いられてきた拇指による随意運動、すなわちスイッチ押し行動が用いられた。随意運動開始までの準備時間として、自由反応条件、0秒後反応条件、2秒後反応条件、4秒後反応条件が与えられた。0秒後反応条件は、周波数125c/sec、音圧約75Bd、持続時間約200msecの連続音を手がかりに受動的に反応することが求められ、2,4秒後反応条件では、運動の開始時は自己プログラミングスケジュールに従い、被験者の意志に委ねられたが運動行動は、頭の中で1から数え始め、"2,4"のところでスイッチを押すことを求められた。その結果、振幅については、自由条件、2秒条件、0秒および4秒条件の順に有意に増大し、緩電位変動の持続時間については、自由条件、0秒条件および2秒条件、4秒条件の順に有意に増大し、自由条件よりも4秒条件の準備電位が有意に大きいことから、自発的な心理的準備時間が長いと、それに対応して準備電位は増大し、つまり電位差が大となり、かつ準備電位の陰性方向への立上りが早くなるということは、準備電位は準備行動の生理学的反映であるとする仮説を支持しているものと解釈された。また準備電位の出現は、大脳賦活水準と賦活閾値に関係し、緩電位の基線変動水準が覚醒水準(arousal level)に対応し、賦活は筋電図発射までの陰性化の持続時間に、また努力(effort)は準備電位の振幅に対応していることが示唆された。本研究では加算回数が少ないことから、準備電位の各成分の生理学的意味づけについては討論されなかった。
著者
齋藤 一雄
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.193-201, 2005-09-30

齋藤(1996)の記録に基づき、知的障害児11名を対象に、手拍子による4種のリズムパターンへの同期課題を設定し、同期に対する誤反応パターンを再分析した。その結果、四分音による誤反応のみが認められた児童が1人、四分音による誤反応と八分音を数多く含む誤反応の両方が認められた児童が4人、八分音を数多く含む誤反応が多かった児童が5人、反応しない割合が小さくなり同期した割合が多くなった児童が1人であった。それぞれの対応の仕方は、休符と休符の前の音だけで反応する独自な対応、八分音を四分音に置き換えてしまう対応、八分音を4つ、3つ、2つと打って合わせようとした対応、さらに、手拍子せずにリズムの聞き取りを行いながら同期していったという対応であった。さらに、速いテンポで手拍子する課題や同期しやすいリズムパターンを含んだ歌唱教材を使った課題など、指導法の工夫が望まれる。
著者
小笠原 昭彦 甲村 和三 宮崎 光弘 牛田 洋一 山内 慎吾
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.45-54, 1989-12-28
被引用文献数
3

筋ジストロフィーおよび気管支喘息患児を対象に,自己意識についての質問紙調査を実施した。質問紙は,自己意識・心理的ストレスに関する42項目と病気・入院生活についての8項目を加えた50項目から成る自己評定形式のものである。比較対照群は,健常な中学生・高校生・大学生である。健常大学生群の結果の因子分析から,「情緒性」「共感性」「対人関係」「自己信頼感」「目標志向性」の5因子が抽出できた。健常群に比べ,筋ジストロフィー群では感情の統制面での困難さ,対人関係での消極さなどが目立った。喘息群では,感情の不安定さ,感情統制の困難,過剰な共感性,投げやりな傾向,病気に対する「罪悪感」といった傾向が強かった。筋ジストロフィー群よりも喘息群で,自己意識の形成の上での問題点があることが示された。
著者
小柳 恭治 小坂 敬子 本間 和子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.11-26, 1971-06-01

この研究は、わが国の盲学校において70年来使用されている点字板と比較して、点字タイプがいかに効率的なものであるか、さらには盲教育の近代化をはかるうえに点字タイプがいかに重要な役割をはたすかを実験的に明らかにしようとしたものである。そこで、点字板と点字タイプの作業能率をいろいろな角度から徹底的に比較検討するために、被験者を盲学校小学部3年の全盲児1名にしぼり、4ヵ月間にわたって訓練(1日平均1時間)をおこなった。その訓練過程の中で各種のテストをこころみ、点字タイピングの進歩の度合いをしらべるとともに、点字板との比較・分析をおこなった。その結果、点字タイプはつぎのような点で点字板よりもすぐれていることが実証された。1)書速度がはやい。-点字板と比べて約3倍の能率があがる-2)正確度が高い。3)確認や修正がしやすい。4)作業の継続が容易である。5)疲労度がより少ない。-したがって、比較的長い時間、作業をさせても、点がきれいにでる-また、この実験で使用した点字タイプの中では、Parkins Braillerが最も性能がよいことも明らかにされた。盲学校では、毎日の授業の中で、点字用具を使用しない日はまずないといってもよい。したがって、いつまでも非効率的な点字板のみでノートなどを書かせていてはとても盲児の学習指導の近代化はのぞめない。そのうえこういった教材教具の不備が、盲児たちの学力のみならず、性格・行動面にも、マイナスの影響をあたえることも考えねばならない。もちろん、点字板がまったく不要だというのではない。ときと場所に応じて、点字タイプと点字板(卓上用および携帯用)を使いわけることがのぞましい。
著者
高橋 智 平田 勝政 茂木 俊彦
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.33-46, 1990-03-10

近年、国内外で障害の概念構造についての理論的研究が深化しつつあるが、個々の障害に即した概念整理は不十分であり、「精神薄弱」概念についてはそれが特に著しい。そこで本研究ではその一環として、戦前の精神医学分野の「精神薄弱」概念の形成・展開過程及び到達点の歴史的解明を行った。検討素材に、主要な精神医学雑誌である『精神神経学雑誌』と『精神衛生』を用いた。得られた結果は次の様である。(1)「精神薄弱」を病理・臨床の面からは疾病・欠陥と規定し、精神衛生では断種等の社会問題対策的視点から規定しており、精神医学でも「精神薄弱」概念の定義に大きな相違がみられる。(2)クレペリンの「白痴・痴愚・魯鈍」の3分類を基本としつつも、「精神薄弱」概念論争にみられる様に、知能指数等の心理学的概念の採用が現実的要請から承認された。(3)戦前の「精神薄弱」概念の到達点と「特殊児童判別基準」等の戦後の概念には連続性が確認された。
著者
横山 泰行
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.27-36, 1983-07-01
被引用文献数
1

本研究は、養護学校12校に在籍する9歳から16歳までの精神薄弱児男子443名と女子250名の肥満度を、Rohrer指数方式、文部省の肥満傾向児方式、長嶺の皮脂厚方式といった3種類の代表的な肥満判定法によって定量的に解析し、その結果を健常児の肥満度の数値と比較考察したものである。1)Rohrer指数によって準肥満・肥満と判定された精神薄弱児は男子では10%、女子では20%に達している。2)年齢を一括して、精神薄弱児と健常児との男子の肥満傾向児の出現頻度を比較すると、両群問のX^2の値は有意差のない結果である。女子の肥満傾向児数は対照群や全国の数値を圧倒的に凌駕している。精神薄弱児女子の肥満傾向児は9歳から12歳にかけて漸増し、12歳から15歳にかけて漸減している。3)皮脂厚からの判定法によれば、男子の精神薄弱児は約4名に1名、女子では約3名に1名が肥満と判定されている。
著者
園山 繁樹 秋元 久美江 伊藤 ミサイ
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.107-115, 1989-12-28
被引用文献数
1

幼稚園において2年6ヵ月にわたりメインストリーミングの保育を受けた1名の自閉性障害男児について、特に発話の出現過程と社会的相互作用の変化を検討した。入園当初はほとんど無発話であったが徐々に模倣的な発話が増え、卒園時には3〜4語連語の発話が可能となった。社会的相互作用においても、当初は身体的な接触を拒否していたが徐々にかかわりが増え、卒園時にはことばによる自発的なかかわりが可能となった。これらの変化をもたらした要因として、教師や健常児との人間関係の形成と拡大を図ることが考えられた。発話は社会的なものであり、その出現と発展のためにはまず第一に幼稚園における様々な場面と活動を通して教師との人間関係を確立し、その後に発話を引き出すための手法を適用すべきであることを指摘した。
著者
渡部 匡隆 上松 武 小林 重雄
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.27-35, 1993-11-30
被引用文献数
4

養護学校高等部と中学校特殊学級に在籍する2名の自閉症生徒に、バス乗車スキルの指導を行った。まず、現実場面のバス乗車スキルの課題分析を行った。そして、現実場面をシミュレートした場面を訓練室に構成し、バス乗車に必要な基本的な行動連鎖の形成を行った。現実場面では、訓練室場面での指導の効果を評価するとともに、バス乗車に必要な訓練を行った。2名の生徒はいずれも、(1)訓練室での基本的な行動連鎖の形成、(2)現実場面での直後プロンプト手続きによる訓練、(3)訓練室で目的の停留所をボタンを押して知らせるための自己記録手続きの訓練、並びに現実場面での自己記録の継続的使用によって、単独のバス乗車が可能になった。これらの結果から、訓練室場面と現実場面での指導を組み合わせて訓練することが効果的であるとともに、標的行動が適切な場面で生起するために自己記録法を用いることの有効性が示唆された。
著者
安部 博志
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.117-123, 1997-03-31
被引用文献数
1

本研究は、小学校心身障害学級に在籍する2名の自閉症児に対して、路線バスを利用して一人通学するための訓練プログラムについて検討した。訓練プログラムの計画と実施にあたっては、応用行動分析の手法を用いた。対象児Aは、訓練開始から9ヵ月後に、またBは2年後に、それぞれ単独での登下校が可能となった。しかし、現実場面の訓練の進行に伴って、予期せぬ様々な問題行動が出現したために特別な訓練を実施する必要があった。さらに、安全な登下校を可能にするためには、対象児への訓練ばかりでなく、横断歩道への足型の設置など、社会環境への介入を実施する必要があった。2年半に及ぶ訓練の結果から、シミュレーション場面と現実場面とを組み合わせて訓練することが、移動スキルの形成と般化にとって有効なことが示された。対象児の変容に合わせて、訓練プログラムを柔軟に修正することの重要性が示唆された。
著者
柳澤 亜希子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.13-23, 2007-05-30
被引用文献数
2

本研究は、障害児・者と暮らす兄弟姉妹(以後、「きょうだい」と記す)が直面する諸問題とそれに対する支援の動向について概観し、今後のきょうだいに対する支援のあり方について提言することを目的とした。従来、障害児・者のきょうだいへの支援は、同じ立場にあるきょうだいが交流する場を設け、彼らの不安や悩みを緩和することを目的とした心理社会的な支援がおもに実施されてきた。一方、障害児・者の障害特性や対応方法について学ぶことを目的とした教育的な支援は、実施の際の指針となる知見が不十分であるために、国内外ともに体系的な活動までには至っていないことが明らかとなった。今後、障害児・者のきょうだいに対する支援においては、どの時期に、どのような情報を提示していくべきか、教育的支援の内容を体系的に構築していく必要性が示唆された。
著者
高良 秀昭 今塩屋 隼男
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.25-35, 2003-05-30

自己教示が知的障害者のメタ認知に対してどのように影響するかを検討する目的で、実験研究を行った。その結果、メタ認知の実行機能については、実験群(自己教示群)の実行機能が、統制群に比較して有意に高まった。さらに、実験群の実行機能の得点は、コバート・リハーサル段階で有意に高まった。この効果は、実行機能の得点が低いグループで、特に顕著にみられた。一方、メタ認知的知識に関しては、実験群のみに特有な変化は認められなかった。このような点から、自己教示は、知的障害者のメタ認知の実行機能を活性化するが、メタ認知的知識には大きな影響を及ぼさないことが示唆された。さらに、自己教示により活性化された知的障害者のメタ認知、特に実行機能は、1年後においても活性化が維持されることが明らかになった。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.95-102, 1994-03-31

質問に対してエコラリアで応じる14歳の自閉症男児に対して、明確な順序性をもち、動機づけの高い共同行為ルーティンを設定し、その文脈を用いて対象児の認知的発達水準を考慮しながら、適切な応答的発話の習得を目的とした指導を約3か月間行った。その結果、4セッションめでエコラリアが消失し、18セッションめで指導目標とした4つの質問すべてに正答できた。また、日常場面においても応答的発話に変化がみられた。以上のことから、場面文脈を対象児の認知的発達水準に近接させていくことによって文脈の理解がされ、このことがエコラリアの消失を促進したと考えられること、また場面文脈および質問の意味の理解を促進するためには最小限必要な要素から構成される、単純化された場面を設定し、しかもスクリプトの主要な要素から指導を開始することの重要性が検討された。