著者
河津 隆三 田島 文博 牧野 健一郎 大川 裕行 梅津 祐一 赤津 嘉樹 緒方 甫
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.13-21, 1999-03-01

これまで,車いすフルマラソンでは,選手の握力などの上肢筋力がレースタイムに影響することが報告されている。しかし,車いすハーフマラソンでは上肢筋力とレースタイムの関係を調査した報告はない。今回我々は大分国際車いすハーフマラソン部門に参加した4人の選手を対象にして,肘伸展筋力の等運動性筋力測定を,毎秒60°,120°,240°の角速度で行った。選手は全員完走し,そのレースタイムとピークトルク値を比較した。我々の測定では肘伸展筋力と車いすマラソンレースタイムとの間には全ての角速度において有意な相関を認めたが,肘屈曲筋力については相関はみられなかった。この結果より,車いすハーフマラソンにおいて幅広い角速度での筋力強化がレースタイムの改善に有用であることが考えられた。
著者
黒田 佳子 井出 玲子 北野 由佳 山本 良子 東 敏昭
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.197-202, 2007-06-01
被引用文献数
1

地域住民を対象としたライフスタイルと自覚症状の関連を包括的に検討した先行研究はいくつか報告されているが,職域を対象としたものはあまり多くない.某食品会社の20-69歳の従業員4540名を対象としライフスタイルと自覚症状との関連についてとくに性差に着目し,男女いずれかでその該当割合が10%以上の自覚症状:「とくに疲れやすい」,「手足がむくむ」,「肩・首がこる」,「腰が痛む」,「視力が低下した」,「立ちくらみ」,「下痢しやすい」,「便秘しやすい」について検討した.男女別に各自覚症状の有無を目的変数とし,年齢・職種をモデルに入れ調整し,各ライフスタイル非良好者と比較したライフスタイル良好者のオッズ比(OR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した.ライフスタイルに関する項目は,運動,睡眠,労働時間,朝食,栄養バランス,喫煙,飲酒の7項目である.男女とも喫煙および飲酒習慣について自覚症状の項目との関連が認められ,加えて女性では睡眠と筋骨格系症状との関連が示唆された.
著者
平本 嘉助
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.55-60, 1983-03-01

運動器において骨の計量化はMartin(1928)によって体系化され, その手法による骨の形態に関しての解析が進展している. 同じ運動器に属する軟部組織のなかでは, 筋に関する計量化のみが広く研究されているが, その他では殆ど行われていない. 運動機能上重要な役割をもつヒトの足底鍵膜に着目し, その経側腓膜の計量化を試みた. 8項目からなる計測を行い, 左右差をt検定法によって行ったが, 有意差を示したものは前腱側鍵膜厚で, 右側が左側より有意に厚かった. 8項目中6項目は有意差を検出できなかったが, 右側は左側より大きな値をとる傾向が見られた.(1982年11月15日 受付)
著者
松岡 雅人 井上 尚英 伊規須 英輝
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.77-81, 1992-03-01

ウィスター系雄性ラットに塩化メチル水銀を10mg/kg body weight/day, 7日間連続皮下投与し, 全てのラットで後肢の交叉現象を認めた投与開始後15日目に脳内酵素活性について検討した. creatine kinase(CK)活性は大脳皮質では, 前部, 中部, 後部とも軽度抑制された. aspartate aminotransferaseとlactate dehydrogenase活性もCK活性の抑制とほぼ同程度に大脳皮質で抑制された. 線条体と小脳では, 明らかな酵素活性の抑制は認めなかった. 塩化メチル水銀は, 明らかな脳内CK活性の抑制をきたす酸化エチレンやアクリルアミドとは, 中枢神経障害の発現機序において異なると考えられた.(1991年11月15日 受付,1991年12月20日 受理)
著者
西尾 右
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.43-48, 1989-03-01

「古事記」は上・中・下3巻より成り, 上巻「神代」は日本のさまざまな神話群を一大集成したものである. しかしその成立事情から見れば, 「古事記」は官撰の筆録史書であり, 政治的意図が濃厚で, この意図に合わせて原資料は整理・統合・潤色されている. 従って「古事記」を真の神話とみなすには異論が生じるかもしれない. しかし動機はともあれ, 作中に姿を現わす神々には古代日本人の神話的な思考態度が強く反映されている. 本論では「神代」における「穢」の観念を基に古代日本人の生死観・罪穢観を考察する.(1988年11月15日 受付,1988年12月15日 受理)
著者
柳井 圭子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.23-35, 2009-03-01

最近社会的に問題となっている院内暴力に対し,医療専門職者はいかなる対抗手段を講じうるかという今日的課題について,イギリスの院内暴力対策を紹介しながら我が国における法の役割について考察する.対策として,暴力対抗手段である「言葉による防衛」,「折衝」手段においては,事後のトラブル回避のため法的素養が必要であり,「身体や物を使っての防御」手段においても,その防御が法的に許容される範囲に止めなければならない.また行為者の行動が病気あるいは抑うつされた状態や環境から引き起こされたものである場合に,医療専門職者の反撃,通報や告訴が法的,道義的に許容されるかが問題である.暴力に対抗する手段(言葉による防衛,通報,反撃,拘束,診療拒否など)は,医療専門職者の道義的,法的責任にかかわることでもあり,患者の健康管理と医療の場における安全・秩序維持という極めて重要な問題である.
著者
マクドナルド コーペット
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.209-219, 1984-06-01

産業医科大学に10-15年後に再び, 訪問教授(Visiting Professor)として戻ってきた時に私は, 当大学がその名前にふさわしい大学として完全にできあがっていることを望むものである. 医学部は, 他の学部のうちの一学部になっているであろうし, 特に,産業・環境保健科学の卒後教育施設(postgraduate school)が充実しているのを見るのが楽しみである. その時には, 当大学は産業保健における一連の専門家養成のための, アジア地域における先導的なセンターとして完成しているであろうし, 産業保健実務者のための生涯教育について最善のシステムを創り, それは世界の模範となっているであろう. 更に, 当大学では日本における職場の安全衛生の重要な問題解決に貢献すべく, 長期の研究計画に従事する学際的且つ調和のある系統的なチームができあがっていることであろう. また, 重要な産業領域における大・小企業のための産業保健の, 最初の総合的なシステムを組織し, 且つ具現化していることであろう. 当大学の研究を基本として, 産業社会が発展途上国に輸出する機械や物質を, 安全に使用できるよう責任をもって確約するための方策を提示しているであろう. これらのことが達成されている10-15年後こそ, 私の次の講演にとって良い機会であると信ずる.
著者
中島 民治
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.405-410, 1986-12-01

中部九州人男性の大孔を局所解剖学的に, 観察および計測にもとづく研究を行った. 中部九州人男性の大孔形態のうち二重半円形の頻度が最も高く, この結果はドイツ人成人の頻度と差がなかった. 中部九州人男性の大孔の幅と指数は, 他人種と有意の差はないが, 長さは他の集団に比べて統計的に有意に短かった. 喜界島民の大孔長の平均値は, 日本人集団の中で最も長かった.
著者
保利 一 三浦 義正 小嶋 暁美
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.481-486, 1989-12-01

酸化エチレンガス滅菌に使用されているガスは, 二酸化炭素やフロンなどとの混合ガスである. これらのガスは高圧容器(ボンベ)に充填され, 液化ガスとして供給される. このガスの使用条件および滅菌機内のガス濃度を把握することは確実な滅菌を行う上で重要である. そこで, ガス滅菌に広く使用されている酸化エチレン20%, 二酸化炭素80%の混合ガスについて, 滅菌時に使用するガスの量をボンベの重量変化から計測するとともに, 滅菌機内のガスの濃度を経時的に調べた. 滅菌機内の酸化エチレンの濃度は使用量とともに高くなり, ボンベ内のガスの組成が変化することが認められた. また, ボンベ内に充填されているガスのうち,最後の約12%は酸化エチレンの濃度が極端に低くなるため, 滅菌には使用できないことがわかった. この使用不能なガスの量は, 液がすべて気化した場合のボンベ内のガスの量に一致し, 気液平衡関係から, 使用回数, 使用量などボンベ内のガスの使用可能な条件を予測できることが示された.(1989年5月15日 受付, 1989年8月3日 受理)
著者
清水 隆司 森田 汐生 竹沢 昌子 赤築 綾子 久保田 進也 三島 徳雄 永田 頌史
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.35-42, 2003-03-01
被引用文献数
3

職場のメンタルヘルスと自己表現スキルの関係を調べる準備調査として,自己表現スキルの1つであるアサーティブネスを測定するRathus Assertiveness Schedule (RAS)の日本語版を作成し信頼性・妥当性を検討した.対象は,某製造業A社の従業員364名とアサーティブネストレーニング(AT)を受講した社会人73名とした.方法は,AT受講者が受講前に回答した結果とATのトレーナーが客観的に受講者の自己表現を評価した結果を比較し,日本語版RASの妥当性を検討した.また,A社従業員の回答結果から内部一貫信頼性を調べた.次に,同意を得られたA社社員98名に対して再度調査を行い,再テストの信頼性を調査した.調査結果から,30項目全てよりも3-7,9,13,19,20,25,28を除く19項日の日本語版RASの方が,トレーナーの客観的評価と相関が高く,妥当性が高いと思われた.また,クロンバッハのα係数や,初回と2回目の結果の相関も共に0.80以上と高く,30項日及び19項日の日本語版RASの内部一貫信頼性と再テストの信頼性は高いと考えられた.今回の結果から,日本人のアサーティブネスを測定するには30項日全てよりも19項日の日本語版RASの方が好ましいと考えられた.
著者
太田 一昭
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.213-224, 1989-06-01

新歴史主義批評の基本的な前提と視点についてまとめてみた. 新歴史主義は, 文化あるいはテクストの統一を否定する. 新歴史主義は文学と歴史の二項対立的区分を拒否し, 歴史を, 安定した背景として文学テクストと対置しない. 文学も歴史の一部を構成し, 非文学テクストあるいは他の文化的実践と相互に浸透し, それらのコンテクストになりうると考える. 新歴史主義批評は, テクストを権力関係との係わりという点から分析することに深い関心をもつ. 文学研究の新しい歴史化とは, 新しい政治批評であるとも言える. この批評の政治性は, 特にイギリスのマルクス主義的唯物論派の人々に顕著である, アメリカの新歴史主義者は, 自己の批評活動の政治性を抑圧する傾向がある. 新歴史主義の批評方法にはさまざまの困難や問題点が見出されるけれども, それが最も刺激的で大きな可能性をもった現代の批評方法の一つであることは確かである.(1989年2月14日 受付,1989年3月8日 受理)
著者
田岡 賢雄 尾関 恒雄 阿南 郷一郎 森田 翼 三浦 良史
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.441-457, 1981-12-01

福岡県における肝硬変死亡率は人口10万当りおよそ20人で全国平均の約1.5倍である. 一方, 原発性肝癌はおよそ15人でこれも全国平均の約1.5倍である. アルコールの成人1人当り年間消費量は7.5-8.Olで全国的に第17-19位であり, 最高(10l)と最低(5l)の中間よりやや上位という所である. またHBs抗原については福岡県血液センターでの献血希望者からみたところ, その陽性率は2.6-3.1%で, これも全国平均1.9%のおよそ1.5倍である. 福岡県下の飲料水の原水となっている遠賀川流域ならびに筑後川流域の水質には総鉄量が多いことを除いては. とくに異常はみられなかった. 福岡県で肝硬変・肝癌死亡率がとくに高いのは筑豊の数か町村でありこの一帯は被生活保護率もとくに高い. 以上, 福岡県に肝硬変・肝癌患者が多くその死亡率も高いのは, 多因子に由来するものと思われ, 単一の因子でこれを説明することは困難である. 今後の問題としては福岡県下住民の免疫遺伝学的考察も必要であると考える.(1981年5月25日 受付)
著者
中村 弘
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.383-392, 1980-09-01

免疫応答は脊椎動物のもつ高度に体系化された恒常性維持のための生理機能であり, その多様な応答性は, 動物種族の系統発生と密接に関連している. 現在, こうした免疫応答の仕組みは, 個体の遺伝的性質によって厳しく制御されたリンパ系細胞群の主要な機能として理解されている. 莫大な種類におよぶ抗原のそれぞれに対する免疫反応の特異性は, リンパ系細胞上に存在する細胞自身の遺伝子産物であるリセプター抗体の活性基との反応によって生ずるものであり, この活性構造であるV-部位は, イデオタイプと呼ばれている一群の抗原決定基をもっている. こうした分野における最近の研究を理解する基礎として, 免疫応答の特異性決定のための, また自己制御のための因子である免疫グロブリン分子の主な性状についてまとめた.(1980年5月2日 受付)
著者
伊藤 敬 高橋 謙 大久保 利晃
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.7-18, 1996-03-01

クロムメッキ作業従事者の健康影響についての調査はまだ十分になされていない。我々はクロムメッキ作業者の死因パターンの特徴を調べるために,東京都にあるメッキ工場の従業員1,193名を対象に16年間の追跡調査を行った。同集団をクロムメッキ作業者群(623名)と非クロムメッキ作業者群(567名)に分け,1976年10月から1992年12月まで追跡した。標準化死亡比(SMR)およびその95%信頼限界(95%CI)を統計学的評価に用いた。クロムメッキ作業従事者における慢性肝炎および肝硬変の死亡リスクについて統計学的に有意な上昇(SMR 2.34; 95%CI 1.17-4.19)と,肺がんのリスクの上昇傾向(SMR 1.18; 95%CI 0.99-3.04)が示された。非クロムメッキ作業従事者においては,死亡リスクに関する有意なリスクの上昇を認めたものは無かった。我々は,各疾患における死亡数が少ないことから,今後もさらなる追跡調査が必要であると結論した。