著者
塚本 増久 中島 康雄 荘 和憲
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.381-390, 1988
被引用文献数
1

人畜の日本住血吸虫症を媒介するミャイリガイOncomelania nosophora(日本), およびその近縁種0.fornosana(台湾), O.quadrasi(フィリピン)の分類については, 互に独立種またはO.hupensis(中国大陸)の亜種とみなされている. しかしこれらの3種類は形態的にもO.hupensisとはかなり異なっているので, 16種類の酵素について電気泳動像を比較した. そのうち, エステラーゼ(Est), リンゴ酸脱水素酵素(MDH), グルコース燐酸イソメラーゼ(GPI)は極めて高い酵素活性を示した. 一方, 乳酸脱水素酵素(LDH), リンゴ酸酵素(ME), キサンチン脱水素酵素(XDH), ヘキソキナーゼ(HK), アルカリ性フォスファターゼ(AIP), アスパラギン酸アミノ転移酵素(GOT)などの活性は極めて低く, 長時間インキユベートしなければ発色バンドとして検出することは困難であった. また, バンドの泳動速度はロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)が最も速く, アルコール脱水素酵素(ADH), フォスフォグルコムターゼ(PGM), 酸性フォスファターゼ(AcP), イソクエン酸脱水素酵素(IDH), GOT, HK, グルコース6燐酸脱水素酵素(G6PD), LDH, アルデヒド酸化酵素(Aldox), GPI, XDH, MDH, MEの順に遅く泳動された. なお, LDH, ME, AcP, AIP, LAP, GPIなどは1本のバンドを示したが, ADH, MDH, IDH, Aldox, HK, PGM, G6PDなどでは2・3本のバンドが, Estでは10本以上のバンドが検出された. これらのバンドの泳動像は酵素と貝の種類によってやや異なるものもあったが, 全体としては極めてよく似ており, 生化学的にも互に類縁関係が密接であることをうかがわせた.
著者
大西 晃生 一井 貞明 大森 久光 永木 譲治
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.377-381, 1984-12-01

健康人(volunteers)8例の8腓腹神経の有髄および無髄神経線維の径と密度の定量的解析を, TGA-10 particle analyzer(Carl Zeiss社, West Germany)を用いて行った. 総有髄線維密度は, (7.4±1.3)×10^3/mm^2(平均値士標準偏差)であった. 小径有髄線維群と大径有髄線維群のborder diameterは5.4±0.5μmで, 小径有髄線維密度は(4.5±0.9)×10^3/mm^2, 大径有髄線維密度は(2.9±0.7)×10^3/mm^2であった.無髄線維密度は(27.9±5.8)×10^3/mm^2であった. 無髄線維直径分布のpeak diameterは0.88±0.15μmで, 線維直径の中間値は0.86±0.12μmであった. また8例の有髄線維および無髄線維の直径分布の平均直径分布ヒストグラムを明らかにした. これらの定量的解析所見は今後の末梢神経障害例の腓腹神経の組織定量的研究における比較対照所見として不可欠である.(1984年8月2日 受付)
著者
海道 昌宣 小出 紀 小畑 秀登 加治木 章 宮崎 信義
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.361-367, 1990-09-01

77才の男性, 8日間の極めて急性の経過(呼吸器症状出現後4出で死亡した急性間質性肺炎Acute Interstitial IPneumonia(AIP)を経験し, 肺胞隔壁の肥厚および気腔内変化を中心にその組織発生および線維化の分布, 程度について検討した. 肺胞隔壁の肥厚は, septal cellの増殖, 浮腫の他, 特に硝子膜の取り込みが強く関与していた. また, 肺胞から肺胞道内を中心に線維性肉芽組織の形成が見られ, 一部, 呼吸細気管支内にも及んでいた. 線維化は, その程度および状態がどの肺野でも比較的そろっており, さらに肺胞内にMasson体の形成も見られたことから, 短期間の彌慢性高度肺傷害への反応であることがうかがわれる. 本例は, 既往として1年半前にBronchiolitis Obliterans Organizing Pneumonia(BOOP)を発症したが, X線上完全に回復したという経過を持っている. AIPとBOOPの関連性およびその病態を考える上で興味深い症例と思われる.(1990年5月14日 受付,1990年6月18日 受理)
著者
牧 孝 中野 正博
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.283-295, 1979-06-01

最近, 1f7/2^-領域の原子核(原子番号40以上で中重核)の約5MeV以下での低い励起状態についての情報や, 実験事実が集積しつつある。本論では(1)この領域の原子核のうち, 奇数質量核から原子核の構造についての情報が得られること(2)奇数質量核の励起状態には, 大別して3種類の運動形態があること(3)各々の運動形態が出現する領域には, 著しい特徴が存在することの3点について議論する。更に, 3種類の運動形態を表現する励起状態の角運動量の順序が, どのような効果によって理解されるか, 微視的観点から論及し, 現象論的模型を導出する。(1979年6月9日 受付)
著者
井上 仁郎
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.285-294, 1991-12-01

産業医学領域の従事者, 特に産業医が業務に必要な文献検索を行う場合, コンピュータ通信による文献検索が重要となる. 本研究では, この場合に発生する検索に係わる問題点を明確にするために, DIALOG On Disc ^TM MEDLINE^<【○!R】> の使用を通じて, 産業医学領域従事者にとって望ましい文献検索システムをアンケート調査で検討した. さらに, そのようなシステムを構築するにはどのような問題点があるが調査するために, 実際にプロトタイプ文献検索システムを構築し, 直面するハードウエア, ソフトウェアの現時点での問題点を明らかにした. 最後に, それらの問題点の解決策を検討した. その結果, 文献検索システムの構築に際しては, 1)ハードウエア面では, マイクロ・メインフレーム・リンク(MML)の考え方が必要であり, 2)ソフトウェア面では, 各国語が同時に使用できる国際統一フォントを導入し, 統一された優れたユーザインターフェイスを持つことが必要で, 3)システム活用面では, 講習会や情報教育を行い, 検索されたデータの活用等の幅広い個人の情報処理に対する支援を実施できる体制が必要であると結論付けられた.(1991年6月4日 受付,1991年10月7日 受理)
著者
松浦 孝行
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.127-132, 1981-06-01

海上における船の航行について考える. 陸上交通における道路と交差点に対応するものとして, 海上交通にも航路と交差部がある. 航路交差部においては, 立体交差は不可能であり, また信号機も設置されていない. そのかわり安全確保のため, 航路における船と船との安全間隔, 交差部通過の際の優先順位等さまざまな規定が設けられている. 従って, 海上においても交通が輻輳してくると, 道路におけると同じように渋滞が生じ, 特に航路交差部においては, 道路交差点におけると同様, 待ち行列が生じることがある. 待ち行列があまり長くなると, 海上交通に混乱をきたすことになる. そこで, 航路交差部における待ち時間が通行隻数によってどのような値になるか, 大型計算機によるシミュレーションを行い, 海上における交通の混雑度を推測, その結果を安全確保に役立たせる. (1981年2月2日受付)
著者
真喜屋 清 塚本 増久 真鍋 英夫 岩田 康
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.325-330, 1988-09-01

最近大糸状虫人体寄生例の報告が増加の傾向を示しているが, 昨年報告した北九州市で最初の肺大糸状虫症に引き続いて同市内で再び大糸状虫の肺寄生例を経験した. 患者は市内八幡西区に住む56才の女性. 昭和62年6月に胸部の異常陰影を指摘され, 重症筋無力症を伴う縦隔腫瘍の診断で胸腺摘出術を受けた際, 偶然左肺下葉に小結節を発見・切除されたが, 肺組織の懐死層を含むこの肉芽腫瘤内に寄生虫の断端像を認めた. 断端の径は400×310μmで, 角皮最外層には縦走隆起がなく最内層内側に隆起がある. 側索は狭小で筋層の高さに達し, 筋細胞はpolymyarian typeである. 以上の形態的特徴から, 大糸状虫Diofilaria immitis未成熟虫と同定された. 本症例は開胸手術中に偶然発見されたもので, 無症状の大糸状虫症は報告された例数よりも実際にはさらに多いということをうかがわせる(1988年5月16日 受付)
著者
森 晃爾 藤代 一也 井上 尚英
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.343-347, 1990-09-01

雄および雌ラットに対し, 250ppmの濃度の酸化エチレンを1日6時間, 週5日, 17週間吸入曝露し, 酸化エチレンによる貧血の性差を調べた. その結果, 酸化エチレン曝露群では, 雄ではヘモグロビン濃度で12,7%, 雌では17.8%と, それぞれ対照群と比較して有意な減少が認められたが, その程度は雌で著しかった. また酸化エチレン曝露群では, 牌臓の絶対重量は雌のみで, また体重との相対重量では雌雄で, 有意な増加を認めた. これまで我々は,赤血球中のグルタチオンレダクターゼ活性の低下が, 酸化エチレンの貧血の発症に強く関与していることを認め報告してきたが, 今回グルタチオンレダクターゼ活性の低下は, flavin adenine dinucleotide非存在下でも, 存在下でも, 雌雄同程度で, 性差は認められなかった. 以上, 酸化エチレンによる貧血の発症には性差がみられることがわかった.(1990年5月14日 受付, 1990年6月25日 受理)
著者
大西 晃生 山本 辰紀 村井 由之 池田 正人
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.235-240, 1992-09-01

末梢神経障害のない134(年齢11-87歳;男66,女68)名における四肢遠位部の冷覚および温覚弁別閾値を, Thermal Threshold Testerを用いて評価し, 患者の感覚障害の病態および重症度の把握に有用な基礎データを得ることを目的とした. 基礎データとして, 各年代毎に, 前腕遠位部(上肢)と足背部(下肢)における各弁別閾値の平均値およびその予測95%信頼限界の上限値を得た. 上・下肢のいずれの閾値も, 加齢とともに明らがな上昇を示した(P<0.0001). 感覚障害を呈する患者の感覚機能の評価には, 年齢に応じた正常対照値との比較検討が重要であると判断された. 6名の志願者(21-66歳)において, 各弁別闇値の評価を約3週間の間に6回繰り返し, 各人毎に繰り返し閾値評価のreliabilityが高い(級内相関係数0.78-0.96)ことを明らかにした.(1992年5月6日 受付,1992年6月15日 受理)
著者
牧 孝 中野 正博 長 哲二 吉村 厚 吉永 春馬 上原 周三 星 正治 名越 千恵子 鬼塚 昌彦 小西 圭介 豊福 不可依 高木 望 豊島 耕一
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.221-233, 1983-06-01

体内深部の癌の放射線治療に負パイ(π^-)中間子を使用する利点は, 体表面から患部までの正常組織には低LET放射線で且つ付与する線量は少なく, π^-中間子のrest energy領域での患部にはBragg peak効果とスター形成による高LET放射線で且つ付与する線量は大きく従って治療効果比が大きいと理論的に高く評価される事である. 我国内では物理学的・医学的に治療応用の為の具体的な実験研究は未だ行われていない. 我々は特にπ中間子が正常組織を飛行中のプラトー領域での高LET粒子の発生に注目しその影響を調べた. この論文は第1報として, 国立高エネルギー物理学研究所の12GeV陽子シンクロトロン加速器を用いて発生させた運動量150, 173MeV/cのπ中間子を人体模疑物質ルサイトに照射し, 正・負パイ(π^±)中間子の飛程と捕捉・吸収の後の残存曲線の実験結果を示す. 飛程は理論値とよく一致した. 残存曲線にはπ^+とπ^-中間子では差異が認められた. またピーク・プラトー比は約10対1と予想値よりはるかによい結果を得たことを報告する.(1983年3月7日 受付)
著者
加藤 貴彦 東 監
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.205-209, 1992
被引用文献数
1

チトクロームP-450は, 生理的な物質や, 環境中の化学物質の代謝に関与している重要な薬物酸化酵素である. この中で, チトクロームP-4502D6デブリソキン-4-ハイドロキシラーゼは, 常染色体劣性に遺伝する遺伝的多型性の存在が報告されており, 代謝活性が低いpoor metabolizer(以下,PM)は, 各種薬物の代謝障害に関与していることが明らかとなっている[Goughetal(1990)Nature347:773-776]. PMの頻度には,人種差が存在することが報告されているが, 日本ではデブリソキンが薬剤として認可されていないため, これまで日本人のPMに関しては全く検索されていなかった. 今回, 我々はデブリソキンを投与せず, 白血球DNAを用いたGoughらの方法により, 東洋人(日本人25人, 中国人20人)で, チトクロームP-4502D6の遺伝子レベルの検索を行い, 白人の頻度と比較検討した. Goughらの方法を用いれば白人においては, すべての正常者と79%のPMを同定できるはずだが, 我々は東洋人のPMを同定できなかった. これらの結果は, 東洋人のPMの遺伝子レベルのメカニズムが, 白人のそれとは異なっていることを意味している.
著者
田岡 賢雄 遠藤 高由
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.75-83, 1980-03-01

マウスのウイルス肝炎を実験モデルとして抗胸腺リンバ球作清(ATS)とそのγ-グロプリン分両および抗プラズマ細胞血清の投与により, 実験的免疫不全状態を作成し, この場合の肝炎の推移と細胞性免疫の関与について検討したところ, ATS投与により肝炎は軽減化するが遷延する. 組織学的にもKupffer細胞の動員, 門脈域や小葉内の細胞浸潤, 線維増生が対照に比して強かった.(1979年11月22日 受付)
著者
正野 逸子 川本 利恵子 村瀬 千春
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, 2002-03-01

【研究目的】在宅ケアチームで訪問看護婦と最も協働場面の多い,ホームヘルパーの業務内容の基礎データを得るために実態調査を行った.【研究方法】調査対象:北九州市Kヘルパーステーションに従事するホームヘルパー4名であり,訪問調査数4例(サンプル)である.ホームヘルパーおよび訪問相手先がともに本調査に同意した者のみが対象となっている.調査方法:タイムスタディによる30秒スナップリーディング法を用いて1名のホームヘルパーに1名の観察者が追随し,休憩時間を除く9〜12時までの作業動作内容をすべて観察記録した.看護業務の分類:越河氏の看護業務分類(大分類項目(以下大項目と略)20項目,小分類項目(以下小項目と略)342項目に,研究者が訪問介護の特有の業務と予測した内容を項目として大頃日に7項目,小項目に109項目追加した.【結果及び考察】1.作業場所:最も多い作業場所は利用者宅,次に屋外であった,2,関わる相手:ホームヘルパーが関わる相手で最も多いのは相手なしで,次に利用者・家族であった.相手なしが多いのは,利用者・家族への直接援助が少なく,家事援助が大部分を占めるホームヘルプサービスの特徴を示していると考える.3.大項目別業務量構成:大項目別業務量構成のスナップトータル数が100を越えるのは「補助者業務」「訪問に関する移動」「コミュニケーション」の3項目であった.サンプル別に比較すると,「補助者業務」以外はサンプルによって差が認められた.4,小項目別業務量構成:大項目別業務量の中で出現数の多かった頃日は,ホームヘルパーに特有な業務である「補助者業務」であり,その中でスナップ出現数が多かったのは"病室の掃除・整頓""病室以外の掃除"・整頓"調理""買い物"であった.この結果は家事援助の業務がホームヘルパーの業務の特徴であるが,その特徴を示していた.また,「コミュニケーション」で日常会話のスナップ出現数が多いのは,日常会話から関係作りやその日の業務の要望把握が行われること,日常会話そのものが精神的慰安にもなり、結果として業務の一環として行われることによるものではないかと考える.
著者
吉村 寿人
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.357-377, 1982-09-01

この総説は昭和54年7月11日に産業医大において行った講演の記録に若干加筆したものであって, 日本において行われた国際生物学事業IBPの「ヒトの適応能」部門の内の気候適応研究班の行った研究の成果に著者が京都府立医大在任中に季節生理総合研究班の中で行った研究成果を織りまぜてまとめたものである. その内容は先ず適応とは何かと言う問題を解説して, これに自然的適応と文化的適応のあること, また自然適応の中にも生理的適応と適応分化(遺伝的適応)の区別のあることを明らかにした. そして人間のもつ気候適応を中心としてその「しくみ」について解説し, 生理的適応にもその生まれ育った土地の気候や職業などによって適応には色々のパターンの差を生ずること, 殊に長期に渉る適応と短期の気候適応とはそのパターンがまるで違ってくることを明らかにした. そしてCoon et al.(1950)の説をもとにして人類の気候適応の結果生じたモンゴロイドの人種的特性について述べ, 彼らが寒さに強い適応能をもち, アジア人陸より, アメリカ大陸に渡ってその全土に分布して, 独特の文化を建設したことを述べた. そして最後にアメリカ大陸のモンゴロイドがコロンブスのアメリカ大陸発見によって西欧民族によって亡ぼされた中で, 同じモンゴロイドに属する日本民族のみがよく独立国家として発展し世界の先進工業国家として独自の文化を保つに到ったかの理由についてJohn Hallの歴史観を論評しつつ, 日本人の精神文化的適応性と日本の国土の立地条件等の特性を指摘して解説した.(1982年5月13日 受付)
著者
平川 晴久 原口 桂 林田 嘉朗
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, 2002-03-01

【背景】作業関連疾患の一つである高血圧性疾患の発症には、個人の生活習慣や感受性が大きく関与する。この高血圧の病態にはレニン-アンギオテンシン系及び一酸化窒素(NO)が、交感神経系と共に重要な因子と考えられてきた。近年、アンギオテンシンII(ANG II)とNOは相互作用を持ち、交感神経活動を調節している可能性が示唆された。【目的】塩分制限が交感神経活動に対するANG IIとNOの相互作用をどのように変化させるかを検討した。【方法】実験は、意識下のラビットを用い、3週間の塩分制限を行った群及び行わなかった群の2群について行った。NO合成阻害剤(L-NAME)とそれに続くANG II受容体拮抗剤(losartan)の投与を行い、腎交感神経活動を観察した。いづれの投与後も圧受容器反射の影響を除くため血圧は、コントロール・レベルに維持した。【結果および考察】塩分制限を行った群では、L-NAME投与によるNO合成阻害により、交感神経活動は増加した。この増加は、losartanの投与によるANG II受容体の抑制により消失した。これより、NO合成限害後の交感神経活動の増加は、ANG II増加によると考えられた。一方、塩分制限を行わなかった群では、NO合成阻害、およびNO合成阻害後のANG II受容体抑制のいづれでも交感神経活動は変化しなかった。【結語】塩分制限は、ANG IIを増加による交感神経活動促進、それと同時にNO合成の促進による交感神経活動抑制を引き起こす。この2つが相互干渉することにより、交感神経活動、血圧は維持されることが示唆された。
著者
中野 信子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.311-321, 1993-12-01

戦争詩人であり,オックスフォード詩学教授であったR.Gravesも,今では白い女神に取り憑かれた気難しい蒼古的な詩人として,女神神話の文脈でのみ,時折振り返られるだけとなった。しかし,筆者には,それ以前に彼を女神信仰へと駆り立てていった何か前駆的な力があったように思える。その力とは,キリスト教であり,キリストその人であった。そして,この力への強烈なアンタゴニズムと,歪曲されたイメージに駆り立てられ,詩人は長い労苦の末,ようやく自身の自己証明に行き着いた。私見ではこの過程には3つの側面があり,1)彼は,他者を否定することで自己の確立を図る詩人であったこと,2)この自己確立のドラマでの主役は,「思い上がり」という名の堕落天使であったこと,3)この思い上がりの罪は,人間の内部に棲む不吉な概念としてではなく,むしろ人を悲劇の袋小路へ追い詰めて行く美学的死刑執行人として捉えられていることである。聖書と歴史の書き換え作品を通して,この過程を追ってみた。
著者
児玉 泰 吉村 健清
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.469-480, 1983-12-01

我が国においては, 産業医学卒後教育に関する系統的なシステムは今日まで何等確立されていない. しかし, 産業医科大学設立の時点で, 特色ある産業医学の教育・研究は卒後教育において充実させるよう示されており, したがって本学卒業生や産業医に対して産業医学教育を行うことは本学の重要な使命の1つであると言える. 昭和59年春第1回の卒業生を世に送り出すに当り, 本学の産業医学卒後教育基本講座のカリキュラムや生涯教育を含めた我が国の産業医学教育のあり方を, 日本の現状を踏まえて考えることが必要であろう. その参考資料として, 産業医学に関する歴史的背景と経験を有する英米両国の現状を紹介する.(1983年8月15日 受付)