著者
真喜屋 清 堀尾 政博 塚本 増久
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.43-52, 1990-03-01

皮下末梢血における糸状虫ミクロフイラリア(Mf)の分布様式を明らかにし, 吸血蚊への取り込み数を検討するために, ネッタイシマカに大糸状虫感染大を吸血させる実験を行った. 体表の約50カ所を剃毛した感染大を麻酔して吸血させ, 吸血前後の蚊の体重を正確に秤量することによって, 蚊1匹当りのMf取り込み数と, 単位吸血量1mg当りのMf取り込み密度とを調べた. Mf取り込み密度は吸血部位によって著しいばらつきを示し, 負の二項分布に適合する集中型の分布をするものと推定された. 吸血場所によってはMf取り込み密度に有意差が認められたが, 繰り返し実験では再現性のある結果が得られないことから, 吸血場所間のこの差異は一貫性のあるものではないと推察された. 蚊の吸血量が増加すると, 蚊1匹当りのMf取り込み数が増えるだけでなく, Mf取り込み密度も高くなるのが観察された. 同一の部位で別の蚊に取り替えて吸血させた実験でも, Mf取り込み密度は蚊の吸血量が多い時に高くなるのが認められた.(1989年8月15日 受付, 1989年12月14日 受理)
著者
勝目 康裕 吉塚 光明 今山 裕康 宮崎 道雄 藤本 淳
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.441-448, 1983-12-01
被引用文献数
4

今回われわれは鈍的打撃後のサル水晶体の後嚢下水晶体線維に生じた限局性混濁が, ヒトの打撲白内障水晶体にみられる混濁のパターンに一致することを臨床的に確認し, 電子顕微鏡により混濁部の観察を行った. 観察の結果, 混濁部に一致する後嚢下水晶体線維の細胞間隙が開大し, いわゆる, "hydropic cell"へと変性していく水晶体線維が認められる一方, 細胞内に糸粒体を始めとする細胞小器官を増加させた水晶体線維もみられた. 以上の結果から, 打撃による鈍的外傷の結果, 水晶体後嚢下の水晶体線維に水分の貯溜が惹起され, 初期の間は水晶体線維が防御的に水分の細胞外移動を行うものの, いずれは "hydropic cell"へと変性していくものと考えられ, 各種自白障同様, 打撲白内障においても,"hydropic cell"の出現が発症に重要な役割を果たすことを確認した.(1983年8月12日 受付)
著者
堀江 昭夫 石井 惟友 栗田 幸男 田中 教英 細迫 有昌
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.529-540, 1980-12-01

長期間に血栓が多発し, 門脈圧亢進症状を示し, 心不全で死亡した54歳男の剖検症例の報告である. 臨床経過は11年にわたり, 上腸間脈動脈血栓, 食道静脈瘤や牌腫が認められた. 末梢血の全血球成分は平均して多く, 血小板数は通常40万以上であった. 剖検時, 骨髄は細胞成分に富み, 3系統の造血亢進像が認められた. 肝硬変を含め, 肝に線維化像はみられなかった. 門脈に合流する静脈には多発性血栓形成像があり, 新旧の梗塞を示す粗大結節状の牌腫, 食道脈瘤なども認められた. 冠状動脈血栓の器質化にともなう左心室心筋の線維化と心尖部に動脈瘤がみられた. 典型的な血管内凝固症候群では血小板数の減少がみられ, 特発性門脈圧亢進症や非硬変性門脈線維症には肝線維化巣が認められることによって, 本症と鑑別される. 本症は臨床検査所見ならびに剖検所見を. 綜合してhemopoietic dysplasiaの範疇に入ると考えられる.(1980年8月6日受付)
著者
田中 正一 緒方 甫 蜂須賀 研二
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.369-372, 1990-09-01
被引用文献数
3

北九州市における地域リハビリテーション・システムを検討する目的で, 北九州市立障害福祉センターが行っている巡回機能訓練の実態調査を行った. 対象は巡回機能訓練に参加している52名(男性30名,女性22名)で平均年齢は61.2歳であった. 調査として, 面接による参加者のプロフィール, ADL評価(Barthel Index), QOL評価を行った. 訓練には満足している人が多く, その理由として, 同病の仲間の存在や外出の機会となる点をあげている反面, 訓練回数が少ないという不満があった. ADL評価は高得点でほぼ自立していたが, QOL評価は中等度の得点であった. 今回の調査から, 匡療との適切な業務分担と連携, 医療とは異なった観点からの訓練プログラムの作成, 訓練参加メンバーの長期固定化という検討課題が明らかとなった.(1990年5月15日 受付,1990年6月12日 受理)
著者
鵜木 秀明
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.305-316, 1988-09-01

種々の肝疾患を有するヒト生検肝組織74例に対し, モノクローナル抗休48-1を用いた光顕レベルでの酵素抗体間接法を施行し, その非A非B型肝炎特異性を臨床病理学的に検討した. ベルオキシダーゼ陽性反応は74例中13例に認められ, その内訳は, 非A非B型急性肝炎10例中8例(80%)・慢性肝炎15例中2例(13.3%), B型急性肝炎6例中2例(33.3%)・慢性肝炎18例中1例(5.6%)であった. また陽性細胞の小葉内分布パターンについては明らかな特徴像は認められなかった. さらに非A非B型急性肝炎における組織学的特徴像について検討した結果, Acidophilic condensation像の目立つ症例と比較的よく相関してベルオキシダーゼ陽性反応がみられた. また, 各種臨床免疫血清反応についての検討では, 特異的関連性は認められなかった. 今回の検討により, 本酵素抗体法は非A非B型急性肝炎の診断において特異性はないが, その有用性が認められた.(1988年5月14日 受付)
著者
新発田 杏子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.259-272, 1998-09-01

第17回産業医科大学国際シンポジウムは,"産業看護の専門性"をテーマに平成9年10月20-22日の3日間17カ国とILOから計352名の参加者を迎えて本学ラマツィーニホールにおいて開催された。小泉明会長の会長講演とILOのDr.G.H.コッペによるILOのメッセージに続き,シンポジウムテーマと同じテーマで米国産業看護協会(AAOHN)会長Dr,B.ロジャース,そして,産業保健のパートナーシップについて米国NIOSHのDr.M.フィンガーハットの基調講演があり,セッションテーマとして1)産業保健のパートナーシップ,2)産業看護職の教育,3)産業看護技術,4)産業看護情報,5)産業看護の経済性についてそれぞれ基調講演,一般口頭発表と討論があり,さらに,ポスター展示による発表において熱心な討議が行われた。この種の会合としては本邦第一回ということもあり,またこの分野での国際的会合も希有であったことから各国参加者の関心も高く,産業看護の専門性および位置づけ,教育の問題,また産業保健の現場における他職種との協働について特に多くの関心が寄せられ予想外の成果を上げることが出来た。
著者
中西 こずえ 北沢 右二
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.425-434, 1982-12-01

北九州市の人為による生態系の破壊と再生の系列に沿って6種の生態系型を調査地に選び蘇苔類の種類組成, 常在度, 被度を調べて比較研究した. 種数は産業医科大学構内のコンクリート舗装路の割れ目(2種), 低木の植込み(4種), 平坦地の芝生(7種), 斜面の芝生(12種), 構内の二次林(18種), 遠賀町のシイ自然林(23種)の順に増加した. 苔類は二次林(3種)と自然林(10種)のみに出現した. 舗装路の割れ目にはギンゴケ, ホソウリゴケが進入し, 植込みと芝生にはそれ以外にハリガネゴケ, ヤノウエノアカゴケ, ツチノウエノコゴケ, ネジクチゴケなどがみられる. これらは群落遷移における先駆的な種類であると共に, 大気汚染などの人為影響にもよく耐えうる. 芝生では平坦地よりも, 特に北向きの斜面に種数, 量とも多い. シイ自然林の蘇苔類はその大部分が山地など人為影響の最も少ない地域に出現する種類である. 産業医大構内では, 残存二次林の内に自然林との共通種が6種あったが, それ以外の地域には, シイ自然林との共通種は全く出現していない.
著者
蒲地 正幸 内田 荘平 撫中 正博
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.443-450, 2001-12-01

タイで自動車事故により頸髄損傷をきたした患者を人工呼吸管理を行いながら日本まで搬送した.患者は55歳, 男性.タイへ出向中の自動車会社の社員.交通事故により頸髄損傷をきたし, 救急病院に搬送された.牽引整復後, 頸椎固定術が施行された.受傷後約1ヵ月が経過した時点で状態が安定し, 日本へ搬送することになった.神経学的には第5頸髄レベル以下の完全麻痺であり, 自発呼吸はみとめられるが十分な1回換気量が得られないため搬送中も人工呼吸管理が必要と判断された.人口呼吸器, 酸素ボンベ, 吸引器, モニター等を現地の搬送アシスタント会社に手配してもらい, 日本から持ち込んだ医療器具を併用して無事, 日本まで搬送することができた.飛行時間約6時間, 現地の病院を出発してから約11時間の医療搬送であった.重症患者の国際搬送, 航空搬送に必要とされる知識, 技術, 問題点について学ぶことができた.
著者
佐藤 忠嗣 三砂 將裕 塚田 順一 菊池 亮 織田 進 千葉 省三 江藤 澄哉
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.289-296, 1988-09-01

PWM-SCMを造血刺激因子(CSF)とした軟寒天一層法により, 血清をBSA, コレステロールおよびトランスフェリンで置き換えた無血清培養法のCFU-Cコロニー形成に関する基礎的検討と純化GM-CSFの効果につき, マウス骨髄を用いて検討した. 1)CFU-Cコロニーは培養後4日目をピークとして出現した. 2)CFU-Cコロニー数と培養細胞数との間には直線的な相関関係が認められた. 3)無血清培地はFCS20%を含む血清培地と同等のCFU-Cコロニー形成能を有していた. 4)BSAおよびコレステロールは無血清培地におけるCFU-Cコロニー形成において, 必須であると考えられた. 5)CFU-Cコロニー数は,純化GM-CSF濃度に依存して増加し, 25U/ml濃度添加以上でプラトーに達した. また, 形成されたコロニーの半数以上がGMコロニーであった. 以上の成績から, 無血清培養法は, 血清中に含まれる造血刺激因子に影響されることなく, in vitroにおけるgranulopoiesisを研究する上で有用であると考えられた.(1988年5月10日 受付)
著者
岡田 和将 山下 優毅 辻 貞俊
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.265-275, 2006-09-01

てんかん患者や種々のてんかんモデル動物において脳内のサイトカインやcyclooxygenase (COX)-2が増加していることが報告されている.本研究では,テレピン油投与で誘導した炎症反応がおよぼす遺伝性てんかん(E1)マウスのてんかん現象に対する影響を検討した.てんかん発作のパラメーターとして発作誘発閾値(痙攣誘発に必要な抛り上げ回数),痙攣持続時間,痙攣後意識混濁時間(痙攣終了から完全に回復するまでの時間)を解析した.また脳内のinterleukin (IL)-1β, IL-6, COX-2のmRNAをRT-PCR法で解析した.IL-1β, IL-6, COX-2のmRNA発現はてんかん発作前と発作24時間後で変化はなかったが,テレピン油投与24時間後には全て増加した.テレピン油投与24時間後に発作を誘発した場合,痙攣後意識混濁時間は投与前と比較して有意に延長した.発作誘発閾値と痙攣持続時間には有意差はなかった.痙攣後意識混濁時間の延長はインドメタシンの前投与により抑制されたが,インドメタシン投与はIL-1β, IL-6, COX-2のmRNA発現には影響しなかった.これらの結果からE1マウスのてんかん現象において,COX-2によって誘導されるプロスタグランデインは痙攣後意識混濁時間の維持に重要であることが推測される.
著者
小川 みどり 高田 真一朗 高橋 正雄 安田 悦子 渡瀬 真梨子 谷口 初美
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.401-410, 2006-12-01

手洗いおよび手指消毒は最も基本的な感染防止策である.現在,速乾性擦式消毒剤による手指衛生が国際的なゴールドスタンダードとなっている.しかし,我々の調査では,2004年に10.4%(48人中5人),2005年に34.3%(35人中12人)と多くの無効例が認められた.2005年の検体について,コロニーの形態より円形,不整形,拡散性コロニーに大別し,残存菌の性状を調べた.円形コロニーはブドウ球菌属の菌であり,不整形・拡散性のコロニーはグラム陽性有芽胞桿菌であると考えられた.消毒後の菌数が消毒前と同数以上あるいは300個以上の無効例の中で,ブドウ球菌属の菌が残存したと考えられる場合が3例,セレウス菌を含むグラム陽性有芽胞桿菌が残存したと考えられる場合が9例であった.医療現場では,速乾性擦式消毒剤による手指消毒を過信することなく,必要に応じて滅菌手袋の着用などの対策を講じるべきである.
著者
三宅 晋司 神代 雅晴
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.391-404, 1986-12-01

本研究では, 交通機関内などの騒音状況下でのヘッドホンによる音楽聴取が聴覚に及ぼす影響について検討した. 札幌市内の4つの交通機関内(国鉄, 地下鉄, 路面電車, バス)および街頭と地下街を歩行中の騒音を録音し, これらを防音室内にて再生した. その中で聴力正常な女子大学生に音楽をヘッドホンにて聴取させ, その際の聴取音圧(Most Comfortable Loudness)を測定した. 被験者は7名であり, そのうち2名(A群)は, あらかじめ用意した3種類の音楽(ロック, ポピュラー, ニューミュージック)を各2曲ずつ, 他の5名(B群)は各自が自由に選んだ2曲を聴取した. また, A群については, 各音楽種類毎に, 最も大きい聴取音圧の得られた騒音条件を選び, 同一条件で30分の音楽聴取を行い, 2分後の一過性難聴(TTS2)を測定した. さらに, 騒音および音楽の1/3オクターブバンドでの周波数特性, 音圧変動(変異係数)およびうるささ(noy)を求め, 聴取音圧との関連について検討した. 聴取音圧は街頭騒音下で最も大きいことが示された. 音楽種類間では, 聴取音圧に有意差は認められなかったが, 最も大きい聴取音圧はロックに対して見られた. TTSでは20dB近い値が一耳に認められ,騒音状況下でのヘッドホンの使用の危険性が示唆された.