著者
欅田 尚樹 中島 民治 菊田 彰夫 川本 俊弘 嵐谷 奎一
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.337-348, 2004-09-01
被引用文献数
10

医学教育における系統解剖実習においては,ホルムアルデヒドに高濃度で曝露される可能性がある.解剖学実習における学生および教職員の安全性評価のために,系統解剖学実習時に環境中濃度測定と自覚症状についてのアンケート調査を実施し,解剖学実習の環境改善および防備体制などの充実に繋げる基礎データを蓄積することを目的とした.濃度評価は作業環境測定に準じ, 2,4-dinitrophenylhydrazine (DNPH)含浸シリカゲルカラムに気中ホルムアルデヒドを捕集し,アセトニトリルで溶出後,高速液体クロマトグラフ(HPLC)にて分離・定量を行った.解剖実習開始前のホルムアルデヒド濃度の平均値は20〜93ppbであったが,実習開始後は実習の進展に伴い気中濃度は増加し最高時には1012〜1380ppbを示した.自覚症状調査においては,「喉が乾燥する」,「目がチカチカする」,「目がかゆい」,「気分が悪い」,「疲れている」などにおいて,普段に比べ解剖学実習室内において有意に高い訴えを認めた.
著者
岡崎 龍史
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.27-31, 2014-03-01
被引用文献数
1

1895年にレントゲンがX線を発見した翌年には,手の皮膚炎が約60件,また脱毛の報告がされている.慢性放射線皮膚炎はX線管の製作者や医師・技師などX線を職業として扱う人に現れ,これが最初の職業被曝である.その後皮膚がんを含めた晩発障害の発生は医師・技師の深刻な職業病と捉えられている.1910年代に放射線を扱っている人の血液障害,特に白血病の発生が目を引くようになった.1914年頃からダイヤルペインターが夜光時計文字盤にラジウムを混ぜて塗布したことによる骨髄炎が生じている.その他放射線による障害は,1986年チェルノブイリ原子力発電所事故における放射線死や発がん,1999年東海村JCO臨界事故における放射線死などがある.2011年東京電力福島第一原子力発電所事故における放射線障害はまだみられていないが,今後のフォローは必要である.
著者
真喜屋 清 石黒 虎男 高橋 美和子 大橋 昭任 竹下 三喜男 彭城 郁子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.39-46, 1986-03-01

水田皮膚炎の原因となる烏類住血吸虫セルカリアの中間宿主ヒメモノアラガイについて, 乾燥した水田の稲株で越冬する集団, 初夏の水田で越冬貝がら発育した大型貝集団および産卵後に生じた新生貝集団の水田内における分布様式を明らがにすると同時に, 越冬集団の分布を左右する土壌水分量および土壌粒子の組成との関連について解明した. 越冬貝, 大型貝および新生貝の各集団とも水田内では均一に分布せず負の二項型に適合する集中性の不均一な分布をし, 集中度は新生貝>越冬貝>大型貝個体群の順に強かった. 分布様式と集中度から考えると, 翌春水が張られた後稲株から出た越冬貝集団がこの水田の中央部寄りで成熟, 産卵後に分散して行き, 水田周縁部に集まったものと考えられた. 秋の繁殖期に産出された稚貝は, 土壌水分のより多い場所を選び稲株の地下茎に潜入することによって, 乾燥した冬の水田で生きのびるものと考えられ, また,水分の多い場所の土壌はそうでない場所に比べて細砂の割合が高く, 粗砂の少ない組成をしていた.(1985年11月5日 受付)
著者
後藤 智恵 染谷 孝 茅原 四郎 水口 康雄 福長 将仁
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.257-263, 1984-09-01
被引用文献数
1

アクリジン化合物の変異原性と化学構造の関係について細菌と酵母を用いて検討した. 用いた15種の誘導体のうち, ほとんどの化合物がサルモネラ菌にフレームシフトタイプの変異を起こした. 特に9位にアミン基を持つ化合物は活性が高く, 10位のメチル基は活性を強める作用を示した. 一方酵母ミトコンドリアに対する変異活性の誘起には, 3位, 6位のアミノ基, 10位のメチル基が必要であり, 細菌の場合と異なった結果が示された. また簡便法として行われるスポット法では変異活性を検出できない場合もあることが明らかになった.(1984年5月7日 受付)
著者
星 正治 中野 正博 牧 孝 鬼塚 昌彦 長 哲二 上原 周三 小西 圭介 豊原 不可依 名越 智恵子 高本 望 豊島 耕一 吉村 厚 吉永 春馬
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.67-73, 1984-03-01

π-中間子を用いて癌の放射線治療を行う場合に必要な, 照射中に患者の体外がらπ-中間子の停止領域(付与線量のピーク領域)を観測する方法(モニターの方法)を議論した. π-中間子が停止したスターを生成する領域からπ原子X線やχ線,中性子が放出されこれらの放射線は照身中の患者の体外で検出できる. 実験では正常の生体等価物質としての水ファントムを用い, π-中間子の到達深度を変えて照射した. π-中間子による核反応に伴うγ線はNaI検出器と同時計数回路を用いて測定した. こうしたy線測走法は深部線量分布のピークと照射すべき患部が一致していることを確めるのに有効であることが分った. 更に正確に患者の体内での深部線量分布のピークの位置ぎめにこの方法を用いる為には, 多孔コリメーターの付いたシンチレーションカメラなど用いることが有効であることが示唆される.(1983年11月15日受付)
著者
山田 誠二 馬場 快彦
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.77-82, 1990-03-01
被引用文献数
7

日常の身体活動による消費エネルギー量の容易な測定・推定法の確立を目的として, 加速度計を内蔵したカロリーカウンター(Kenz Calorie Counter)を用いて, 男女20名の大学生をトレッドミルにて運動負荷した際の消費エネルギー量測定を行い, 呼気ガス分析法と比較検討した. カロリーカウンターに内蔵されている加速度計は, トレ・ンドミルの速度変化に伴い加速度指示強度が変化するが, 8km/h以上では指示強度が飽和する傾向が認められた. 4-5km/hのトレッドミル速度における運動の消費エネルギー量はカロリーカウンター法ではガス分析法に比べて, 有意に高い値となった. 安静時から9km/hまでのトレッドミル速度の運動では, 呼気ガス分析法とカロリーカウンター法による消費エネルギー量の両者にはよい相関がみられた. 以上より, カロリーカウンターによって歩行・走行を中心とした日常身体活動の消費エネルギー量の推定力可能であることが示唆された.(1989年11月15日 受付, 1989年12月28日 受理)
著者
鈴本 尊志 塚本 浩二 阿部 和彦
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.221-230, 1990-06-01
被引用文献数
3

抑うつ状態は種々の精神的ストレスや疲労の影響を現わすものと思われてきた. そこでこれらの関連を知るため職場におけるストレスがどのような精神症状と関連が深いかを職場問題・精神症状・疲労自覚症状の3種の質問表について冗長性分析(Redundancy Analysis)を試みた. 精神症状質問表に含まれる項目には抑うつ・不安・対人過敏・離人・その他の各項目群計40項目が含まれている. このうち職場問題32項目と関連して最も負荷の大きかったのは抑うつ項目であった. 疲労自覚症状30項目については疲労一般症状(項目1-10)と疲労精神症状(項目11-20)の項目の部分に負荷がみられた. この精神症状の抑うつと先の疲労自覚症状, 特に精神症状の項目は相互の関連からみて同じ抑うつ的内容を表わしていると考えられた. 従って職場におけるストレスと抑うつ状態とは関連の深いものといえる.(1989年11月21日 受付,1990年3月24日 受理)
著者
瓜生 康平 海津 嘉蔵 阿部 理一郎 織田 進 千葉 省三 江藤 澄哉 鈴木 秀郎
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.391-396, 1984-12-01

症例54歳の女性, 昭和54年2月腰痛で発症. 同年11月, 尿蛋白を指摘されて入院. Bence-Jones K type多発性骨髄腫に伴う腎不全と診断された. 骨髄腫に対してcyclophos phamide, Vincristin, prednisoloneの併用療法(Intermittent COP療法)を施行し, 腎不全に対して, 昭和54年12月より腹膜透析を開始した. これ以降肺炎で死亡するまでの26か月間, 腹膜透析による腎不全の治療を十分に継続しえた. 多発性骨髄腫に伴う腎不全は予後不良である. 本症に対する腹膜透析は, 原病による易感染性や近年の血液透析の進歩により施行されることは少なく, 長期生存例の報告はほとんどない. 本症例の長期生存は, 腹膜透析による腎不全のコントロールおよび骨髄腫に対する適切な化学療法によると考えられる. 骨髄腫は高齢者に多く, 血液透析が困難な場合があるが, 腹膜透析は高齢者でも施行しやすく, 今後積極的に応用しうると考えられる.(1984年9月14日 受付)
著者
山村 譲
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.495-504, 1989-12-01

芳香族アミン類に曝露した労働者に発生する膀胱癌が最初に報告されてから一世紀になる. この間に主要先進国では発癌性アミン類の製造禁止等の対策がとられ, 日本でも昭和47年に労働安全衛生法が施行され発癌性アミン類の製造と使用がともに禁止された. 最近の報告では, 過去に発癌性アミンに曝露した作業者の膀胱癌発症のリスクは数倍がら数十倍で, 量反応関係の認められる報告が多い. 今後の問題として, benzidineや2-naphthyl-amine以外の芳香族アミンの発癌性, 染料曝露により体内で代謝されて生じる発癌性アミン, 発展途上国からの輸入製品に含まれる発癌性アミン等がある. また, 膀胱癌発生のリスクが高いと報告された職業は, 化学, 染料工業以外では皮革工業, ゴム工業, 印刷, 織物, 美容, トラック運転等がある. これらの問題を解決するには, 疫学や中毒学と臨床医学その他の分野との協力が不可欠である.(1989年8月15日 受付, 1989年9月11日 受理)
著者
寶珠山 務 堀江 正知 筒井 隆夫 藤野 善久 田中 弥生 永野 千景 高橋 謙
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.367-376, 2005-12-01
被引用文献数
1

2002年にわが国で過重労働による健康障害防止対策の行政指針が示されてから3年が経過し, その成果が期待されている.本研究では, 長時間労働と心血管系疾患との関連について体系的文献レビューを実施し, 過重労働による健康障害の科学的根拠の最新の知見をまとめた.医学文献情報データベースPub Medを用いて, 関連キーワードによる検索および所定の条件による文献の取捨選択を行い, 原著論文12編を採択した.今回の結果から長時間労働と心血管系疾患の関連を強く支持する新たな科学的根拠は得られなかったが, 活力疲弊(Vital exhaustion)など心理社会的要因を扱ったものや交互作用項などを含む統計解析モデルを用いたものが認められ, これらの手法はわが国における今後の研究に応用できる可能性が考えられた.
著者
西阪 眞一 宇戸口 和子 溝上 哲也 徳井 教孝 荻本 逸郎 池田 正人 吉村 健清
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.119-131, 1996-06-01
被引用文献数
3

健康度自己評価が,死亡に関わる様々な要因の影響を除いてもなお,独自に将来の死亡に関係するか否かを明らかにするために本研究を行った。対象は福岡県Y市の30-79歳の地域住民4,046名である。調査開始時に健康度自己評価と生活習慣に関する健康調査を行い,7年間の追跡調査を実施した。全解析集団を用い,性,年齢,喫煙,治療状況,肥満度,日常生活動作能力を調整して,自己評価が「健康でない」集団の,「健康である」集団に対する死因別の相対危険度を比例ハザードモデルを用いて算出すると,全死因,がん,循環系疾患,他死因の相対危険度はそれぞれ2.95 (95%CI; 1.93-4.50),2.96 (1.53-5.73),2.32 (0.86-6.26), 4.09 (2.12-7.89)であった。集団選択による偏りを除くために,追跡開始時に疾患をもっている者また追跡開始後最初の3年間の死亡者を除いて解析しても,前述の相対危険度のほとんどが若干低くなるが,実質的に大きな差はみられなかった。さらに前述の有病者,早期死亡者を同時に除いた解析でも,全死因の相対危険度は1.89 (0.91-3.94)と,自己評価による健康度と死亡リスクの関連がうかがえた。このことから健康度自己評価それ自体が死亡リスクに独自に影響する健康指標となり得ることが示唆された。
著者
森田 恵美子 海津 嘉蔵 瓜生 康平 江藤 澄哉
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.197-205, 1990-06-01

糖尿病における尿細管障害の有無を臨床的に検討するために, 外来患者102例(A群)の空腹時来院時尿および入院患者23例(B群)の24時間蓄尿の尿中酵素(NAG, ALP, LAP, γ-GTP)を測定し, 各種検査項目との関連性を検討した. その結果, 1)A群の尿中酵素では, NAG高値例が42.2%と最も多かった. 重回帰分析の結果, NAGはHbAlc, 年齢, 尿蛋白と, 他の3酵素は尿中β2-microglobulinとの関連が認められた. 2)B群では, 87%がNAG高値であるのに比し, 他の3酵素の上昇例は少なく, ほとんどが腎症合併例であった. また, ALP, LAP, γ-GTPには互いに相関が認められたが, NAGと他の3酵素間には相関がなかった. 糖尿病におけるNAG上昇は, その局在性より糸球体上皮細胞と近位尿細管上皮細胞のlysosomal dysfunctionを反映し, ALP, LAP, γ-GTP上昇は腎症による尿細管障害, 即ちbrushborderdamageを反映していると推察された.(1990年2月15日 受付, 1990年3月9日 受理)
著者
土屋 武彦 法村 俊之 須藤 清二 橋本 哲明
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.213-220, 1985-06-01

原子力関連華葉所は一般的に市街地と遠く離れた場所に立地しており, また施設的にも放射線防護の関係から他と隔絶された作業環境となっている. そこでこのような特殊な環境で作業している原子力関連事業所の放射線作業従事者がどのような健康意識をもっているかについて, CMI健康調査表を用いて調査した. その結果, 原子力関連事業所の放射線作業従事者は他の一般工場勤務者あるいは医学関係研究者ならぴに診療放射線技師の放射線作業従事者と比較して, 特に問題となる事象を示すようなものは認められなかった.(1985年2月27日 受付)
著者
真喜屋 清 塚本 増久 真鍋 英夫 浅野 茂利 岩田 康
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.227-232, 1987-06-01
被引用文献数
1

北九州市に住む50才の男性が集団検診で胸部の異常陰影を指摘され, 気管支鏡・x線などによる精査の結果肺癌の疑いで入院した. 開胸手術により摘出ざれた病巣は10.6×95mmの楕円形で境界が鮮明な肺組織の壊死と異物による肉芽腫であっで, 血管腔内に虫体の断面が確認された. 2個の線虫断端の径は216-240×296μmで角皮は少なくとも3層から成り, 角皮の外側には縦走隆起がなく, 内側に縦走隆起の横断像が認められた. 側索は筋層の高さに達し, 多数の筋細胞(1 quadrant 当り30個以上)が見られた. このような虫体断端の大きさと形態的特徴から大糸状虫Dirofilaria immitisの未成熟虫と判走され, 0uchterlony法と免疫電気泳動法を用いた免疫学的診断でもこの結果と一致したため, 本症は大糸状虫による肺肉芽腫と診断された. 患者の自宅周辺で媒介蚊の調査を行ったところヒトスジシマカが多く, この蚊の大糸状虫媒介の可能性について考察した.(1987年2月16日 受付)
著者
石倉 透 鈴木 仁士 松浦 孝紀 大西 英生 中村 利孝 上田 陽一
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.315-321, 2012-12-01

生体にとって疼痛に対する生理的防御反応は極めて重要である.我々はアルギニンバゾプレッシン(arginine vasopressin: AVP)を緑色蛍光タンパク(enhanced green fluorescent protein: eGFP)で標識したAVP-eGFPトランスジェニックラットおよび神経活動の指標として汎用されているc-fos遺伝子産物であるFosタンパクを赤色蛍光タンパク(monomeric red fluorescent protein 1 : mRFP1)で標識したc-fos-mRFP1トランスジェニックラットを作出し,侵害受容反応を可視化することに成功した.これらを用いて疼痛ストレス負荷時におけるAVP系の生理的役割を解明することを手がかりに,作業関連疼痛の新たな病態解明を目指している.これまでの遺伝子改変動物を用いた侵害受容反応に関する知見を述べる.
著者
有働 武三 遠竹 恭子 市川 洋一
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.493-501, 1980-12-01

黄色ブドウ球菌が高塩濃度下においても発育しうるという, いわゆる耐塩機構を有していることはよく知られている. しかしこの特性は, 例えばそのあらゆる細胞機能が高塩環境下に依存しているような,好塩菌(halophilic bacteria)とよばれるー群の細菌類が示す属性とは明らかに異なっている. その機構の本質は今日, 本菌の細胞膜を構築する脂質成分の変動にもとづく, いわゆるバリアーとしての膜機能の変化にあるものとされている. 本研究は黄色ブドウ球菌の菌体外酵素および毒素の合成・分泌と,本菌の耐塩機構との関係を解析することを目的として進められた. 膜機能として最もー般的な呼吸およびエネルギー転換系が, 本菌の菌体外ヌクレアーゼおよびα-溶血毒素産生におよぼす影響を, 各種阻害剤に対する動態から追求し, 既に知られた本菌の耐塩機構に関係した事実とともに解析を試みた. その結果, これらの菌体外タンパクの産生は, とくにその分泌の過程において本菌の呼吸機能と密接な関係にあること, またその合成はいずれもATP産生糸に依存しているが, それぞれの合成が構成的(ヌクレアーゼ)か誘導的(α一毒素)かという特徴によってエネルギー産生過程に対する依作性を異にしているように思われた. このことは耐塩性のみならず, 通性嫌気性菌(facultative anaerobe)としての本菌の生理機能を論ずる上に極めて與味深い現象といえる.
著者
劔 陽子 山本 美江子 松田 晋哉
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.257-269, 2002-09-01
被引用文献数
1

中学・高校生に対し効果的な性教育を行うこと,継続的にピア・エデュケーションを実施することとともに,医学生がヘルスプロモーションに関する実践能力を修得することを目的として,毎年産業医科大学医学部で行われる公衆衛生学の学外実習の機会を利用した,ピア・エデュケーションによる性教育を実施した.事前アンケート結果に基づいて,中学・高校においてピア・エデュケーションを計画・実施した.事後アンケートでは高校生,中学生の90%以上が大学生のカウンセラーと話すことに「興味が持てた」「まあまあ興味が持てた」と肯定的に答えていた.大学生からは,ヘルスプロモーションの技法の修得や自己効力感の増大を示唆するような感想が寄せられた.今後は毎年行われる学外実習の機会を利用することで,継続的にピア・エデュケーションによる性教育を行っていき,行動変容につながるかどうかなど,長期的な効果を見ていく必要がある.
著者
香山 不二雄
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.77-82, 1989-03-01

今回本学の産業医学卒後教育に資する目的で, 米国の産業医学生涯教育の実状を視察し, また一受講生として, 体験学習する機会を与えられた. 昭和63年2月から2カ月間にわたり米国各地において米国人を対象にした産業医学生涯教育セミナーに参加してきた. 受講生の大部分がindustrial hygienist (0H)である点や, 教育方法の違いはあったが, 教育内容は本学の産業医学基本講座に非常に類似していた. NIOSHの生涯教育プログラムの中でのMDの受けるコースはミニ・レジデンシーなど少数のコースに限られていた. 参考のために, そのカリキュラムを紹介する. また産業医学の専門医のトレーニングとして, 3年間のレジデンシー・プログラムの状況も簡略に述べた. 米国では, 専門的にトレーニングを受けた有能なIHが, かなり決定権を与えられており, 職場の衛生管理, 環境管理を行っている. IHは現在の米国の産業衛生に大きな貢献をしているという印象を得た. 専門医制度の発達している米国では, 私の知り得た限りでは, 産業医学専門医は, 臨床専門医のイメージの強い産業医であった.(1988年11月15日 受付,1988年12月16日 受理)