著者
楠本 朗 梶木 繁之 阿南 伴美 永田 智久 永田 昌子 藤野 善久 森 晃爾
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.385-395, 2021

<p>This study examines how psychological distress (measured by the K10 screening test) and presenteeism (measured by the quality and quantity method) change in the six months after returning to work from having taken a sick leave because of a mental illness. In a manufacturing company with approximately 2,600 employees, 23 employees returned to work after experiencing mental illness between April 2015 and March 2016, and all 23 agreed to participate in the study. We analyzed 18 cases for which we had sufficient data. Two of the employees were absent from work in the sixth month. We performed multilevel analysis for K10 and presenteeism over time on the 16 without recurrence. A significant decreasing trend was observed for both K10 and presenteeism. Eleven of the 16 employees were consistently below the K10 cutoff value of 10 for six months, and 5 had zero presenteeism in the sixth month, whereas 6 employees showed improvement in presenteeism that stopped midway through the study. An occupational physician judged that the employees could work normally with presenteeism of zero. After returning to work, it is important to monitor not only psychiatric symptoms but also presenteeism.</p>
著者
リザード ソーダ
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.91-95, 1994
被引用文献数
3

カーボンブラックは補強剤や色素として広く用いられている. しばしば, 「すす」と同じものと誤解されるが, 物理化学的性質は煤煙の「すす」と, カーボンブラックは全く異なっている. ポーランドにおける疫学的調査では, カーボンブラックの曝露を受けている作業者の呼吸器系の障害が起こる可能性を示唆する結果が得られているが, さらに調査が進められている. 西欧諸国での調査ではそのような可能性を支持する結果は得られていないが, 結論が出るまでにあと6年間の調査が必要である. 一方, 米国の調査では, カーボンブラックの作業現場での曝露で, 循環器系, 呼吸器系の疾患, あるいは悪性腫瘍のリスクは増加しないと報告されている. カーボンブラックのヒトの健康に対する影響の評価はさらに継続する必要がある.
著者
今村 昌平 大西 晃生 山本 辰紀 辻 貞俊 村井 由之
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.179-183, 1994-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2 2

症例は35歳男. 明らかな先行症状はなく, 四肢遠位部優位の運動・感覚性末梢神経障害で発症し, 寛解と増悪を示す慢性の臨床経過を呈した. 増悪時期に, 急激な視力低下を伴う両側視神経炎が発症し, 同時に髄液の蛋白細胞解離, 末梢神経伝導検査異常および腓腹神経有髄線維の軸索変性および節性脱髄所見が認められた. 図形反転視覚誘発電位検査でP100潜時の延長は認められなかった. ステロイド投与により, 中心暗点の消失と視力の改善ならびに感覚障害, 深部反射異常, 末梢神経伝導検査異常および髄液蛋白高値の明らかな改善を認めた. それ故, 本例の視神経障害を慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の一症状であると判断した. 本例は中枢神経系と末梢神経系の両方が障害された文献上比較的稀な1例である.
著者
塚本 増久 正野 俊夫 堀尾 政博
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.235-252, 1980-06-01

イエバエの性決定様式には通常のXX-XY型の性染色体によるもののほかに, 常染色体上に優性の雄性決定因子が乗ったA^M型や超優性の雌性決定因子Fなどの存在が知られている. そのうちII^M型とIII^M型が最も多く報告されている。これに対しI^M型は, 極く最近フイージー島のイエバエ集団から発見されたことが学会で報告されたのみである. 北九州市で1979年秋に野外から採集された2つの集団を用い, その性決定様式の遺伝について研究を行った結果, 多数のII^M型やIII^M型の固体に混ってI^MおよびV^M型の雄も含まれていることが判明した. 従って, これは日本最初のI^M型イエバエの発見であるばかりでなく, 世界でも2番目の珍らしい記録である. また,幼虫の神経節の染色体分析の結果,そのほとんどがXX型の核型を示す個体ばかりで,時たまXO型やXXX型の個体が検出されることもあった。このことは,北九州市の野外で採集された2つのイエバエ集団の性決定様式が主として常染色体上の雄性決定因子により支配されていることを示した交配実験の結果を,細胞学的研究からも支持するものである.なお,採集後間もなく,成虫の体が褐色を示すミュータントが分離固定したが,遺伝学的研究の結果,第3染色体上の劣性遺伝子brown-bodyの新らしい対立遺伝子であることが判明したので,bwb^79kと命名された
著者
矢田 浩紀 安部 博史 大森 久光 石田 康 加藤 貴彦
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.293-303, 2009
被引用文献数
1 8

精神科の看護者のストレス要因を明らかにし, 精神科急性期病棟と精神療養病棟の看護者のストレスの質と量の違いを比較することを目的とした. 調査には, 職業性ストレス簡易調査票と精神科看護師の特有のストレス項目およびストレスに暴露される時間量に関する質問票について精神科の看護師・准看護師36名(A病院精神科急性期病棟11名とB病院精神科療養病棟25名)から回答を得た. 各下位尺度で因子分析を行い, 因子得点と項目得点にて2要因分散分析を行った結果, 職業性ストレス簡易調査票における「仕事のストレス要因」の下位尺度「雰囲気」の因子得点と「精神科におけるストレス要因」における全因子「看護における知識と技術」「実際のケア」「暴力への恐れ」「仕事の方向性」の因子得点は, 急性期病棟より療養病棟の看護者の方が有意に高くストレスが高かった.
著者
阿南 あゆみ 山口 雅子
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.183-195, 2007-06-01 (Released:2017-04-11)

我が子の障害を受容する過程には, 子供の障害の内容や親の要因, さらに社会的要因など様々な因子が複雑に絡み合い, その受容過程は決して単純なものではない. 障害受容に関連する様々な要因の中で, 子供の障害の種類と程度は親の受容過程にもっとも大きな影響をおよぼすと考えられるが, 先行研究では様々な疾患を「障害」という一つの枠組みに捉えたものが多い. また子供と親が今後障害と共に生きて行く言わば出発点となる障害告知は, 障害の種類により時期や内容が異なり, 我が子の障害受容過程に多大な影響をおよぼすと考えられる. さらに母親と父親の受容過程は異なると考えられるが, 先行研究の多くは「母親」を対象としており, 「父親」を対象としたものが少ない. 今後の研究課題として障害の種類と程度を勘案した詳細な分析や告知の在り方に関する研究の集積が必要である. また母親だけではなく父親の受容過程やその家族・社会に関する研究を行う必要がある.
著者
中谷 淳子 池田 智子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.73-78, 2011

2010年8月産業医科大学産業保健学部は, 東京都内において「第3回国際産業看護・第2回アジア産業看護ジョイント学術集会」の特別企画として, シンポジウム-仕事とポジティブ・メンタルヘルス-を開催した. 基調講演として, オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・シャウフェリ教授が「ワーク・エンゲイジメント」の概念について説明された. その理論は, 仕事に対する活力・熱意・没頭の3要素が高い労働者は, 心身ともに健康状態が良好で, 組織の活性化や生産性向上にも貢献するというものである. 続いて, 心理学者, 産業医, 企業の人事担当者および内閣府審議官によるパネルディスカッションを行った. その結果, 深刻なうつ病の予防対策は職場におけるメンタルヘルス対策において必要であるが, それだけでは不十分であり, 同時に健康な労働者のさらなる健康を目指す対策も取り入れて, 職場全体の健康を増進して行くことが, 今後の課題であるという共通認識に至った.
著者
松岡 朱理 立石 清一郎 五十嵐 侑 井手 宏 宮本 俊明 原 達彦 小橋 正樹 井上 愛 川島 恵美 岡田 岳大 森 晃爾
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.263-271, 2015-12-01 (Released:2015-12-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

自然災害や工場事故などの危機事象が発生した企業においては,労働者はさまざまな対応を余儀なくされ,直接的に傷病を負う労働者だけでなく,緊急対応や復旧作業に従事する労働者も多様な健康障害リスクに曝される.そのような健康障害リスクに対して,産業保健専門職の予防的介入に役立つ危機対応マニュアルの開発を行った.危機対応マニュアルの開発は,先行研究において8つの危機事象を分析して作成した危機事象における産業保健ニーズリストを用い,危機事象後の時間軸(フェーズ)ごとに発生しうるニーズについて,具体的な解説を施すことを基本とした上で,各ニーズの発生の可能性を表現するため,8事象での発生頻度で記述方法を変えるなどの工夫を施した.作成過程においては,危機対応マニュアルβ版を実際の危機事象で利用に供するとともに,危機管理分野の専門家の意見聴取を行って妥当性の検討を行い,危機対応マニュアルβ版に一部改善を施した上で完成版とした.完成した危機対応マニュアルには,全フェーズ合計で99のニーズに対して解説が加えられており,網羅性は高く,多くの危機事象において利用可能と考えられる.新たな危機事象において,異なるニーズが発生する可能性があるため,汎用性を高めるために今後も継続的に情報を収集して,改善を施していく必要があると考えられる.また,危機事象が発生した際に危機対応マニュアルを入手できるように,ウェブ上でダウンロード可能とするとともに,危機対応マニュアルの存在を広く周知していくことが今後の課題である.
著者
ナ スクヒ チョン ミンクン ソン ヨンウン
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-10, 2011

立位姿勢(直立ないし歩行)での長時間の作業は, 就業時や日常の活動においても普通にあり, 腰痛や下肢障害の危険因子の一つである. 本研究では異なる4種類の床面状態(3種類のフロアマットとフロアマットなし)で歩行時の床反力の比較を行った. 床反力は靴内装着型および固定型足底圧計測システムの両者によって測定した. 6名の男性被験者(平均体重=72.4±7.5kg)は4種類の状態の床を裸足で歩行し, 2種の測定システムで足底圧を同時に記録した. 平均床反力, 2つの極大値(踵接地および足趾離床), および靴内装着型足底圧計測システムにより測定された最大床反力は床表面状態により有意に異なる測定値を示し(<i>P</i><0.05), 床材がない場合が828.9±114.2Nで最大の床反力であった. しかしながら, 固定型足底圧計測システムによる測定では有意な差は得られなかった. フロアマットがない場合と比較すると3種のフロアマットすべてが床反力を減少させたが平均床反力および最大床反力(最大値と2つの極大値)はマットの厚さと材質の違いにより違いがあった. 以上のことから, バイオメカニカルな特性に従った適切なフロアマットの選択を行うことが作業時での疲労と不快感の減少に有効であると考えられる.
著者
アミット リトー ソン ヨンウン
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.19-32, 2018
被引用文献数
3

体表面積 (BSA) は,人体曝露研究の実施および小児科の臨床において重要なパラメータである.この論文の目的は,7つのBSA算出式を比較し,これらの算出式のどれが韓国の子供に適応性があるかを調べることであった.体表面積は,国民健康栄養調査 (2012-2014) の1歳から18歳までの韓国の子供 (n=4899) の身長と体重のデータを用いて,年齢,年齢群,BMI群別に算出した.このために,Banerjee and Bhattacharya (1961),Fujimoto and Watanabe (1969),US EPA (1985),Gehan and George (1970),Boyd (1935),Haycock (1978) およびMosteller (1987) の算出式が用いられた.7つの算出式の算出値の平均値を計算し,比較のためのノルム値として使用した.すべての推定は,全体の平均BSA値と強い正の相関を示した.Gehan and George (1970),US EPA (1985),Boyd (1935) 式の計算では,過大評価が観察された.Banerjee and Bhattacharya (1961年) とFujimoto and Watanabe (1969年) の値は過小評価を示し,すべての年齢層で0.027 m<sup>2</sup>の最大誤差を示した.Mosteller (1987) およびHaycock (1978) のBSA推定値は,全体平均BSA値に近いことが判明した (最小誤差0.004 m<sup>2</sup>).人体曝露研究の実施および韓国の小児科の臨床においてはMosteller (1987) の算出式を使用することが推奨される.1歳から2歳の子供にはHaycock式も適している.
著者
矢吹 慶 原武 譲二 久岡 正典
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.387-395, 2019
被引用文献数
2

炭酸ランタンは,末期腎不全(ESRD)の透析患者に発症する高リン血症治療薬として広く使用されている.炭酸ランタンは,消化管内で食物中のリン酸と難溶性化合物を形成するため,消化管粘膜からはほとんど吸収されないとされていた.しかし,近年炭酸ランタン服用患者の胃十二指腸粘膜にランタンが沈着することが報告されている.ランタン沈着は,内視鏡的に様々な大きさや形の白色病変として認識できる.病理学的には,胃十二指腸粘膜内に異物肉芽腫と貪食された沈着物を多数認め,一部の所属リンパ節にも沈着が及ぶ.また,炭酸ランタンの内服量や内服期間が長いほど,胃十二指腸粘膜内のランタン沈着量は多いとされている.詳細なランタン沈着機序は不明な点があるが,胃内のpH,腸上皮化生などの様々な要因が関与すると推察される.本総説では,炭酸ランタン内服患者における胃十二指腸粘膜内のランタン蓄積症について臨床病理学的所見に焦点をあてて解説する.
著者
松浦 志保 冨岡 慎一 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.367-376, 2021-09-01 (Released:2021-09-06)
参考文献数
25

近年,医師の地域偏在対策として様々な取り組みがなされているが,その中で地域の教育水準が医師の地理的分布に与える影響に着目したものはない.本研究では,地域の教育水準と医師の地域偏在との関連を検証するために,政府等の公開データを用いて分析を行った.分析方法として多重線形回帰を用い,二次医療圏毎の人口10万人あたり医師数を被説明変数,偏差値60以上高等学校(以下 高校と省略)数,人口10万人あたり診療所数,人口10万人あたり病床数,高齢化率,外来受療率,人口密度,医学部の有無を説明変数とした.その結果,各二次医療圏において偏差値60以上の高校が1校でもあれば人口10万人あたりの医師数を有意に増加させ,さらに2校以上になると医師数はより増加することがわかった(P<0.05).加えて,私立高校を除き国公立高校のみを用いて分析した場合も,また二次医療圏における偏差値60以上の高校数ではなく,偏差値65以上の高校数を用いた場合も同様の結果が得られており,地域における入試偏差値の高い高校の存在が医師の分布に及ぼす影響は十分に確かであると考えられる.このことから,医師の地域偏在対策として,地域の教育環境を充実させることも検討すべきである.
著者
森 博子 岡田 洋右 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.323-329, 2012-12-01 (Released:2013-02-28)
参考文献数
25

ビタミンD欠乏症は骨粗鬆症,骨折の原因のみならず,近年では2型糖尿病や心血管疾患,高血圧,癌,感染,自己免疫疾患などの発症リスクを上昇させると報告されている.日光曝露不足や食事からのビタミンD摂取不足が,ビタミンD欠乏症に繋がっており,特に女性においてビタミンD欠乏症は,よくみられる病態と考えられる.女性が長く健康で働きつづけるためには,様々な疾患との関連が報告されているそれらの病態の上流に位置するビタミンDは極めて重要な因子である.
著者
奥田 真也 松岡 成明 毛利 元彦
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.247-261, 1988
被引用文献数
7

大陸棚海域の開発に必要な水深300mの海中作業技術の確立と安全潜水技術の確立を目的として行われた横須賀の海洋科学技術センターの潜水シミュレーション実験に過去5年間参加した. 我々は二次元脳電図法を用いて, 1)高圧神経症候群(HPNS)に特有な脳波変化があるか, 2)脳波の変化と潜水時のHe-O<SUB>2</SUB>環境下での加圧・減圧速度との関係, 3)脳波の変化と特徴ある神経症状との相関の有無を検討した. 対象として,300m飽和潜水には17名(加圧速度25m/hr), 180mに6名(12m/min), 130mに6名(12m/min), 60mに13名(12m/min)の健康な飽和潜水経験者を採用した. 加圧時の環境制御は, 酸素分圧0.79bar, ヘリウム分圧29.91bar. 特徴ある脳波所見とし, 前頭正中部にθ波, およびdiffuse α波を, ときに痙撃波を認めた. 臨床的には全例にHPNSを認め, 上記脳波出現時に, 笑い発作, 多幸感が特徴的であった. これは高圧下のヘリウム麻酔効果による影響と推察されるが, ダイバーにより個人差がみられた. 従ってダイバーの選択並びに生理学的反応を知るには脳波学的検査は重要なモニターとなりうる.
著者
明星 敏彦 李 秉雨 橋場 昌義 神原 辰徳 大藪 貴子 大神 明 森本 泰夫 西 賢一郎 角谷 力 山本 誠 轟木 基 水口 要平
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.163-171, 2011
被引用文献数
1

ナノマテリアルを取り扱う作業では, 防じんマスクを着用する必要がある. しかし, 防じんマスクで気中に浮遊しているナノ粒子(1〜100nm)を確かに捕集除去できるか, 取り扱っている衛生管理者や作業者は不安に思っている. 本研究では, 15〜220nmの粒径範囲の二酸化チタンナノ粒子を試験粒子に用いるフィルタ捕集効率測定システムを作成した. DS1防じんマスク2種類とDS2防じんマスク4種類をこのシステムに設置して, 粒子捕集効率を計測した. ここで試験した防じんマスクは日本の国家検定に合格したものである. 試験した中では, 検定合格に相応する捕集効率(DS1では80%, DS2では95%)以下の性能を示す防じんマスクはなかった.
著者
堀江 正知
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.481-505, 2004-12-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
5 5

日本の産業保健制度では, 事業者に法定健康診断結果の保存義務を課し, 労働者の健康状態を把握した上で職場や作業を改善するよう求めていることから, 実際には人事担当者が労働者の健康情報を直接取り扱っている. 一方, プライバシーは19世紀後半からその概念が発展し, 近年は個人情報の自己コントロールが重要とされ, 中でも健康情報は特に機微な情報として本人の承諾なしに取扱うべきではないとされている. したがって, 日本の産業保健活動においてはプライバシーが侵害されるリスクは高い. 健康増進法と個人情報保護法も相次いで公布され, 訴訟に発展した事例もある. しかし, 職場の実態調査によれば, 現行制度への問題意識は高くなく, 健康情報の種類によってプライバシー保護の要求度に相違もある. 産業保健専門職は, 学会の倫理指針などを参考に労働者の健康情報の活用と保護の両立に努めることが求められている.
著者
上野 晋
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.91-96, 2013

わが国でもかつては金属や有機溶剤による産業中毒の事例が多発していた時代があり,このことが機縁の一つとなって1972年(昭和47年)に労働安全衛生法が制定された.現在,化学物質はその危険有害性の程度に応じていくつかの規則によって管理されているが,その対象物質は産業現場で使用される化学物質の一部に過ぎず,毒性が明らかでないまま使用されている化学物質も少なくないのが現状である.労働安全衛生法が改正され,全業種の事業者に化学物質に係るリスクアセスメントが求められるようになっている中で,産業医は毒性が明らかでない化学物質を含めてこれからどのように対応していくべきであろうか.本稿では化学物質の中でも金属と有機溶剤の毒性学に焦点を当てて考察する.
著者
上野 晋
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.91-96, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
17

わが国でもかつては金属や有機溶剤による産業中毒の事例が多発していた時代があり,このことが機縁の一つとなって1972年(昭和47年)に労働安全衛生法が制定された.現在,化学物質はその危険有害性の程度に応じていくつかの規則によって管理されているが,その対象物質は産業現場で使用される化学物質の一部に過ぎず,毒性が明らかでないまま使用されている化学物質も少なくないのが現状である.労働安全衛生法が改正され,全業種の事業者に化学物質に係るリスクアセスメントが求められるようになっている中で,産業医は毒性が明らかでない化学物質を含めてこれからどのように対応していくべきであろうか.本稿では化学物質の中でも金属と有機溶剤の毒性学に焦点を当てて考察する.