著者
一瀬 豊日 中村 早人 蜂須賀 研二
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.47-52, 2013-10-01
被引用文献数
1

平成25(2013)年6月1日現在で産業医科大学医学部は2,875名の卒業生を輩出している.うち産業医として就業している人が526名,修学資金返還免除対象職務となる本学教員252名,労災病院219名,健診中心の労働衛生機関84名となっている.義務年限中の職種として多い臨床研修医を含めた卒後の修練医等は473名である.卒業生産業医は全国に分布している.その多くは日本の大規模事業所の分布にほぼ一致する太平洋ベルト地帯を中心とした都市圏である.この10年程度の卒業生産業医数の増加は義務年限を修了しても産業医を継続する者が多くなった結果,従事者数が増加したことが大きく影響しており,要因として卒後修練課程の充実や修学資金が考えられるが,多くの要因が含まれているので単純単一の要因として導くことは難しい.企業の産業医を経験した教員,労災病院医師や開業医等による産業医育成能力向上や産業保健体制充実の影響もあると考えられ,今後これらの分析も進める必要がある.
著者
山田 英津子 有吉 浩美 堀川 淳子 石原 逸子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.41-62, 2005-03-01
被引用文献数
3

男女雇用機会均等法施行(1985)以降, 女性の職域は広がり女性の労働力人口は今後も増えることが予想される.一方, 旧来の性別役割の意識の存在や不十分な支援制度や保障では, 職業生活と子育ての両立が難しく出産を機に退職する女性も多い.育児期にある母親の心身の負担を軽減する為には, ソーシャル・サポート・ネットワークの存在の必要性が指摘されている.しかし, 働く母親を支えるソーシャル・サポートの詳細は不明である.本研究では, 働く母親の意識とそれを取り巻くソーシャル・サポート・ネットワークの実態を明らかにし, 仕事と家事・育児の負担軽減の支援について検討することを目的とした.18名の対象者に, 自記入式質問紙と半構成的面接法を実施した.その結果, 半数以上の母親が, やりがいや自己成長, 気分転換を働く目的とし, 仕事の継続を望んでいた.仕事と家事・育児の両立に必要なソーシャル・サポートは, 夫, 夫以外の家族, 会社や職場の理解であった.夫のサポート内容は, 物理的サポートが主であり, むしろ, 祖母の協力の方が物理的・情緒的・経験的サポートとして家事・育児に役立っていた.また, 保育所への不満や要望は強かった.これらの結果より, 男性が育児に参加できるよう職場の意識改革や労働時間の見直し, さらに, 育児支援の為の保育所や学童保育の充実の必要性が示された.
著者
岡村 靖 北島 正大 荒川 公秀 立山 浩道 永川 正敏 後藤 哲也 倉野 彰比古 中村 正彦 丸木 陽子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.91-102, 1979-03-01

人間の寿命は70年±10年であり, 無限の空間と久遠の宇宙実存において思惟するならば, 人間の一生は瞬時の生命に過ぎない。しかし, その間, 先天的な素因, および, 環境要因に加えて, 感情や意志, すなわち, 人間の大脳皮質, とくに, 新皮質の神経細胞の機能が, 側体のhomeostasisを司る内分泌一自律神経系に種々の影響を及ぼして疾病が発生し, また, 多様な予後を示すので, 心身相関の問題は, 疾病の発生, 経過, および, 治癒の上に極めて重要である。したがって, 疾患の発生機序について, 心理学, 内分泌学, ならびに, 自律神経学の3方面から, 系統的な研究, ならびに, 考察を行い, 疾患のとらえ方に新しい概念を導入した。そして, この概念に基づいて疾患の診断と治療を行なう意義の重要性を提起した。その具体例として, 内分泌疾患, 自律神経失調症, および, 分娩における, 心身の環境因子と精神-自律神経-内分泌系との関連について研究を行った成績を述べた。(1979年1月16日 受付)
著者
阿南 あゆみ 山口 雅子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.73-85, 2007-03-01

親が子供の障害を受容して行く過程に関する文献的検討を行った結果,障害の診断を受けてから,親の心の軌跡に焦点を当てた段階説と慢性的悲哀説の2説が報告されている.段階説の概略は,親が子供の障害を受容して行く過程は長期に渡り紆余曲折があるが,いずれは必ず障害のある我が子を受容するに至るとする説である.一方慢性的悲哀説は,親の悲しみは子供が生きている限り永遠に続き,子供の成長に伴う転換期において繰り返し経験され続け,悲しみに終わりはないとする説である.さらにわが国においては,2説を包括する形の障害受容モデルもあり,研究者による分析方法や解釈の仕方に違いが見られる.障害を持つ子供の支援に携わる医療者は,主たる養育者である親が子供の障害を受容して行く過程を理解し,さらに2説の枠組みだけではなく親の養育体験全体を捉えることが必要であり,今後さらなる体系的研究が望まれる.
著者
Ejeatuluchukwu OBI Orish Ebere ORISAKWE Charles OKAFOR Anthony IGWEBE Joy EBENEBE Onyenmechi Johnson AFONNE Francis IFEDIATA Basu NILS Jerome NRIAGU
出版者
産業医科大学学会
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.159-170, 2014
被引用文献数
15

この研究は,ナイジェリアにおいて,母体および臍帯血の血中鉛濃度(BLL)を測定し,他の地域と比較することを目的とする.我々は,母親の血液および臍帯血のBLLと,新生児の人類学的計測値との関連性の調査を行った.ナイジェリア南東部ンネウィの別の3病院で出産した119人の女性から採取した,臍帯血および母親の血液サンプルを用いてBLLを測定した(誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を使用).新生児の人類学的計測(頭囲・腹囲・出生体重・出生身長・頭臀長)を行った.母親の血液サンプルの10.9%,臍帯血サンプルの3.4%から,10 μg/<i>l</i>より多い鉛が検出された.母体のBLLは6.19±2.77 μg/d<i>l</i> (平均±標準偏差),臍帯血BLLは4.75±2.59 μg/d<i>l</i> (平均±標準偏差)であった.臍帯血BLLと頭臀長の明確な関連性(R = 0.204,<i>P</i> = 0.026)を除けば,子どもたちの人類学的計測値と,母親の血液および臍帯血BLLには有意な関連性は見られなかった.
著者
大和 浩
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.133-140, 2013-10-01

「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」に沿って,諸外国では包括的な喫煙対策が進められている.一方,わが国では職場の受動喫煙防止対策さえ十分には達成されていない.労働安全衛生法の一部を改正し安全配慮義務という観点から受動喫煙防止対策を義務化する法律の改正案は,2012年11月16日の衆議院の解散により廃案となったことから見送られた状況となっており,一刻も早い国会への再提案が望まれる.本稿では,企業が自主的に判断して取り組むべき職域の喫煙対策について解説する.
著者
デレック スミス ピーター レガット
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.137-150, 2005
被引用文献数
1 2

オーストラリアの産業医学は前世紀の後半に, 種々の社会的, 政治的, 経済的変化により整備されて来た. 1970年代前半における製造業の全体的な減少と賃銀の増加の抑制が労働組合に, 職場環境のようなより広い社会的問題に注意を向けさせることとなった. オーストラリア社会の変化は, 反戦行動, 環境保護団体, 女性団体のようなこの時期におけるより広い社会的圧力に影響を受けた. 産業医学に対する関心は1970年代に開始された正式な教育とともに次第に高まり, 第3次のコースの数は1980年代を通して急速に増加した. 産業医学と労働者の補償制度は, 20世紀の後半期に同じように発展した. オーストラリアにおける職場環境と安全は, 自己管理の理論に基づいており, 雇用者, 労働組合, 政府機関からなる3部門モデルにより調整されている. 我々の産業医学のレビューパート1において, 我々は1788年から1970年のオーストラリアの産業医学の発展の歴史について概説した. この論文パート2において, 我々は1970年から2000年のオーストラリアの産業医学の発展の歴史について述べた.
著者
岡崎 龍史
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.85-89, 2013-10-01

日本における放射線障害防止の法律は,昭和3O年に施行された「原子力基本法」が元となる.原子力の研究,開発及び利用の促進のために制定されたが,海外からの放射線同位元素の輸入の増加に伴い,昭和32年に科学技術庁所管で「放射性同位元素による放射線障害の防止に関する法律」,つまり「放射線障害防止法(障防法)」が制定され,昭和33年に施行された.平成24年原子力規制委員会が環境省の外局として発足し,管轄している.労働基準表の面からもさらに充実した規制が生じたため,昭和34年に労働省令第11号として「電離放射線障害防止規則(電離則)」が制定された.これまでにも何度も改正が行われたが,平成23年福島原子力発電所(福島原発)事故に伴い,新たに改正されている.障防法及び電離則を解説し,労災認定について述べる.
著者
北條 暉幸
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.433-436, 1984
被引用文献数
1

筆者は, 解剖学教育の立場から, 若干の日本解剖学用語の検討を行った. 日本解剖学用語は杉田玄白以来200年を超える伝統をもち, 現在では漢字が用いられるだけでなく, カタカナも用いられ, さらに近年は簡略化した漢字も使われるようになっている. 〓骨の〓, 鼡径管の鼡がその例で, 鼡径管はラテン語解剖学名の翻訳ではなく含蓄の深い学名であると考えられる. 解剖学用語の下腿にスネをあてることは誤りで, 下腿前部に脛(〓), スネをあて, ハギも追加するようにし, さらに下腿後部に腓腹, フクラハギをあて, これにコムラを追加することを提唱した. さらに, 日本解剖学用語として, 鼠蹊管の場合, 鼠の代りに鼡, 蹊の代りに径などの新しい字体を採用していることを一般に周知徹底し, さらに辞書類の改訂を求めることを提唱した. なお, 日本解剖学用語としては, 脛に〓, 鼠に鼡の字体を用いることを強制してはいない.<br>(〓=つきへん+又+土)
著者
大石 真一
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.493-502, 1983-12-01

1810年代から1920年代にかけて, 約三千万のヨーロッパ人がアメリカへ移住した. この夥しい移動の最大原因としては, 急激な人口の増加, 封建的土地制度による圧迫, 経済の近代化の3つが挙げられる. ここでは, これらの三大原因を考察し, さらに, さまざまな個人的理由や宗教的, 人種的差別, さらに少数派に対する差別をも論じた. また, 当時の二大発明であった汽船と鉄道について, その移民に及ぼした功罪に言及した. 移民は本来, 歴史的事象であるが, この小論では, むしろヨーロッパの貧しい人々が, 如何にして移住せざるを得なかったか, その原因について人文学的に考察した.
著者
松浦 孝行
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.381-390, 1982-09-01

素数および整数に関する研究の一資料として, 25億までの素数の分布について調べ, その結果を一部まとめて若干のTableを作成した. Tableは全部で5つあり, それぞれ1千万までの10万区間ごと, 1億までの100万区間ごと, 10億までの1千万区間ごと, 25億までの1億区間ごと, 特定のいくつかの10万区間に関するものである. 表の内容には, 素数の個数, 双子素数の組の個数, 最大の双子素数の組, 120m+1型素数の個数, 最大の120m+1型素数およびTablel・Table2ではその原始根, 連続する2つの素数が切取る最大区間, 10万区間における素数の個数の最大・最小値,10万区間における双子素数の組の個数の最大・最小値, Table5では三つ子素数の組の個数などが含まれている.
著者
佐川 寿栄子 YOUSEF Mohamed K.
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.85-92, 1986-03-01

砂漠は暑熱乾燥の最も厳しい環境である. このような環境で人間が住み働きうる能力は, 体温調節と水分代謝をいかに円滑に行うかに依存しているといえる. ここでは, 自然の砂漠環境で行われた実験に限定して, 人間の汗腺活動と水分代謝に関する知見を概説した. 砂漠では発汗疲労は観察されていない. 総発汗量は脱水または水分および塩分補給による影響は受けず, 年令や人種による差も認められていないが, 男は女より明らかに大量に発汗することが知られている. 口渇を癒す為に飲む水の量は汗の電解質濃度とよく相関している. 砂漠での歩行では, 体氷分の1時間当りの損失が体重の1.5%以下であれば, 発汗によって失われた水分および塩分に相当する量を定期的に補給することにより, 脱水を防ぐことが可能である. しかし体重の3%を越えるような場合には, たとえ水分および塩分を補給しても失われた体水分の50%程度しか回復しない.
著者
賓珠山 務 佐伯 覚 高橋 謙 大久保 利晃
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.219-225, 1992-09-01
被引用文献数
2

全国の専属産業医に質問票を送付し, 過去5年間の従業員の突然死について調査したところ, 241人(回答率61.5%)より回答を得た. 本調査では, このうち, さらに詳細な調査に同意した53名の産業医から報告された143例(男性141例, 女性2例)の突然死症例について, その特徴を記述疫学的に検討した. 発症場所・発症状況では, 自宅または独身寮, 夜間睡眠中がそれぞれ最多であり, 職場, 通勤行程内などの報告例は少なかったが, それが, 重篤な疾病の発症数そのものの差によるのか, あるいはその発症直後に死亡にいたった数の差によるものなのかは, 不明であった. 発症時刻・発症時期では, 月曜の早朝および木・金・土曜,4・11・12月への集中傾向がみられた. 特に, 発症月が職場の繁忙期にほぼ一致しており, 環境要因が発症に関与している可能性が示唆された. 死因は, 心血管系疾患が多かったが, 剖検診断は少数しか実施されておらず, 診断の信頼性は不十分であった.(1992年2月15日 受付,1992年4月27日 受理)
著者
梁 美姫 山村 香織 晏 穎 深町 幸代 平野 雄 川本 俊弘 東 監
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.277-286, 1997-12-01
被引用文献数
1

3'-メチル-4-ジメチルアミノアゾベンゼン(3'-Me-DAB)長期投与により,化学発癌耐性ラット(DRH)および感受性ラット(呑竜)の肝ミクロソームにおけるシトクロームP450の経時的変化を検討した。呑竜ラットにおいては,投与中肝シトクロームP450含量は,減少の傾向を示したが,DRHラットの肝では殆ど変動を示さなかった。次にシトクロームP450のアイソザイムであるCYP1A1,CYP1A2,およびCYP2E1夫々の活性を測定した。その結果,特にシトクロームP450の活性の動向のみで化学発癌に対する感受性を説明し得るほどの顕著な差異は両者の間で観察されなかった。長期投与中における呑竜ラットの肝シトクロームP450含量の減少は,3'-Me-DABによる肝傷害のためと考えられる。
著者
前田 義郎
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.369-380, 2001-12-01

西欧近代とはどのような時代だったか.この問題は近代科学の意味と本質的に関係している.近代科学の成立時には科学革命が起こったが, この革命においていかなる物の見方の変革が行われたのか.そしてこの問いに対する答えは同時に近代哲学の基本性格を決定するものでもあった.アリストテレスの天動説, 運動学を検討すると, 彼の自然学の欠点は, 目に見える感覚像をそのまま実在の反映であると速断したことであることが分かる.この点から, 「対応説」と呼ばれる伝統的な真理観は不十分なものであることを示す.そこで, 私は本稿で「現象の中で実在をどのように観るか」という方法論的, 哲学的問いが重要であることを示す.この問いはプラトンが取り組んだ問いであり, カントを導いた問いでもある.この問いは, 実在の理論としての新たな形而上学的基礎の模索であると言うことのできる.
著者
北條 暉幸 中島 民治 平尾 登美
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.355-357, 1984-12-01

北九州市在住の17才の女子高生, 318名の身長,座高および比座高(身長に対する座高の百分率)を対象に研究した, 計測は, Martin-Saller法に基づいて行われた. 計測値は1973年, 1980年および1984年に計測された3群に分けられ, これら3群間に身長, 座高および比座高の各値に統計的に有意な差がなかった. 比座高は約54%で, この値は3群に共通であるばかりでなく, 若干の中国人, エスキモー人, アメリカ・インディアンおよび北海道アイヌ人に共通である.
著者
BR00KS Chandler McC.
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.469-480, 1981-12-01

人間は一種の動物であり, かつ理性をもった存在である. 生命の倫理はこの二つの側面をもっている. 生物の目的は生存であり, 生存のための条件を満たすことが生物学的な善である. 種の生存のための共同生活の総和として生物界は生態学的なパランスを保っているが, これを破壊する人間の行動は悪である. 生物学的倫理をコントロールするのは理性的倫理である. 常に未来に理想をもつ人間は, 神と人間理性の両者をよりどころとして書悪の観念を発展させてきたが, 現代ではその基準が混乱し, 様々な矛眉を生んでいる. 科学者はもはや常に其理の探究に止まらず, 科学の倫理を追求しなくてはならない. 医師の戒律は古来からいろいろあるが, 現代は昔の理想を忘れて医の倫理を法制化して事足れりとする傾向がある. 人類の最大幸福につながる生命の倫理を確立するためには, その前提として, 個人の責任にもとづいた思想・研究の自由が保障されるべきである.
著者
廣 尚典
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.151-156, 2013-10-01

我が国の産業精神保健活動の歴史を,行政の動向と併せて簡潔に振り返り,今後産業医がそれに対していかなる関わりを持つべきかをまとめた.産業医は,労働安全衛生法規からみても,職場の精神保健活動に関して,幅広い取り組みが求められている.それは精神障害の疾病管理だけに留まらない.精神保健活動のみを担当する産業医を認めることは,現時点では様々な副作用を招きうる.導入の可否に関する慎重な議論が必要である.
著者
青山 雄一 木下 良正 横田 晃 戸上 英憲
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.37-44, 2002-03-01

正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus;NPH)の3主徴のうち歩行障害は,治療効果を推測する上で重要な症状である.しかし,これまで歩行障害の客観的評価やシャント術後の歩行障害の改善度の定量的評価法はなかった.今回我々は,3次元動作解析システムおよびforce plateシステムを用いて特発性NPH患者のシャント術前後において歩行解析を行った.術前,下肢3関節角度パターンは小さく不規則であった.床反力パターンは足底接地によるつま先の踏み込み部分のベクトルピークがない1峰性であった.術後には歩行障害が改善するとともに下肢3関節角度パターンが正常化していた.床反力パターンも足底接地が改善し,踏み出しのピークを持つ2峰性となり,正常パターンに近づいていた.歩行解析を応用することによりシャント術前後の歩行を客観的に評価することが可能であったNPH患者の1症例を報告した.